遂にヴィムパパとの決戦開始! いよいよジェタークパレス編も佳境に入るよな32話、はーじまるよー!
「気合入れろよ、お前ら!」
床に着地すると共にスリングショットを構えたモルガナは、良く通る声で全員に呼び掛ける。
「これがジェタークとの決戦だ! 奴の鼻っ柱を
「もっちろん!!」
そう返答しつつ、手を床に着けて後退の勢いを殺したエリクトがビームライフルを構える様を横目に見たモルガナは、続けて、とりゃ、と引き絞っていたスリングショットのゴムから手を離した。
それに続き、引き金を引き絞られたビームライフルからも
銀と青、色違いの軌跡を残して二筋の
しかし――。
「そんな豆鉄砲が効くかァ!」
同じくしてシャドウヴィムが
その際のキィン、という金属音、あるいはバチッ、という電気が弾けるような音の
「奴め、銃撃に耐性があるな」
しかもそれだけじゃなく、耐性を考慮しない単純な防御力も恐らく相当に高い。
「アンタの言ってた通りって事ね、モナ!」
右手にクロスボウを握ったミオリネが隣に飛び込んで来る。
続けて、逆隣りにカービンを手にしたグエルも。
先程のモルガナとエリクトと同じように二人も各々の銃器を発射するが、やはりその攻撃はシャドウヴィムのボディの硬さに阻まれてしまう。
「今の父さんに攻撃しても、硬すぎてまともにダメージが入らないぞ! どうするっ!?」
「慌てんな!」
くっと歯噛むグエルに、モルガナは威勢良く返す。
「相手はパレスの主、これぐらいの力量は想定内だ! こういう強敵相手には――」
「――
最後に宙返りを挟みつつすぐ隣に降り立ったレンがモルガナの言葉を引き継ぎ、右手を仮面に掛ける。
そのまま、その通りだぜ、と肯定を返したモルガナが横目に見遣る中で、彼はその背にアルセーヌを
放たれる数枚の羽。
それが目にも止まらぬ弾丸
しかし、それだけだ。
真紅の車体に貼り付いた羽にシャドウヴィムが何がしかの痛苦を受けた様子は全く無く、叫びの激しさも
現実のモノレールと同等の質量を叩き付けて来る一撃だ。まともに受ければミンチよりも酷い事になるのは想像に容易い。
よってエリクトとミオリネ、グエルは再度回避行動を取るため、慌てて身構えようとする。
だが、モルガナとレンはそうしない。ただじっとシャドウヴィムを見据えているだけであった。
それで問題無かった。
何故ならば――。
「ぬぅっ? 何だ!? かっ、体がっ!?」
困惑を口にしつつも、シャドウヴィムが腕を尚も高く持ち上げようとしている。――先程までよりも
数十秒後には二度目の叩き付けが行われるだろう程度には、速度自体はまだある。だが、今すぐに飛び退かねばならない程ではない。タイミングを
その事に気づいて当惑するミオリネ達に、肩越しに彼女を見遣ったレンが何が起こったのかを説明をする。
「さっきアルセーヌに使わせたのは敵の素早さを下げる技だ。その技の効果で、今のジェタークは一時的に動きが遅くなってる」
「パレスの主みたいな極端に強力な奴を相手にする時は、まず相手の能力を下げたり、自分達の能力を上げたりする技を使うのが定石だ! っと――!」
レンの説明への補足もそこそこに、モルガナはその場から跳躍する。
それに続いてレン、そして他の三人が同じように大きく下がったところで、一拍置いて彼らのいた場所にシャドウヴィムの腕が振り下ろされ、轟音と
振り下ろす速さこそアルセーヌの
「お前らのペルソナも多分こういう技が使える筈だ! まずはそれを使って、能力差を縮めるぞ!」
「オッケー! こういう奴――ね!」
モルガナに応答を返しつつ、エリクトは自らの仮面に両手を
即座に蒼い炎を上げて仮面が焼失。入れ替わりに、彼女の背後に十一基のビットステイブを従えた妙齢の女性の像が浮かび上がる。
エリクトの意思を受けたエアリアルが華奢な右腕をシャドウヴィム向けて突き出し、周囲を滞空するビット達を一斉に向かわせる。
動きの鈍ったシャドウヴィムの手前に辿り着いたビット達はその周囲に展開、高速で
それ自体にはやはり攻撃力は無い。だが――。
「うおっ!?」
四基、もしくは三基一組で集まったビット達が光弾を三連射。
銃撃への耐性もあってその光弾がシャドウヴィムの体に目に見える傷を付ける事こそ無かったが、しかし衝撃に
「銃撃には強いんだよね? それじゃあ、他の技は!?」
シャドウヴィムが見せた隙を逃さず、エアリアルに追撃させる。
直後、ビットステイブから放たれ弾けるピンク色の閃光。
それがシャドウヴィムの口から痛苦の呻きを漏らさせ、轟音と白煙を上げたその身体を後方へたじろがせる。
念動に対する耐性は無い。防御力を下げた上からのその一撃は、予想通り先の銃撃以上の効果が見られた。
そこに続けて――。
「防御が下がったな! なら――アルセーヌ!」
レンが呼び出したアルセーヌが、掌から噴き出させた赤黒い呪怨の
「ここが攻め時ってなァ! ゾロォ!」
モルガナの背後に現れたゾロが空間に切ったZの字から、激しく渦巻く竜巻が飛び出す。
「ありったけ叩き込めって事ね! ――アタランテ!」
ミオリネの背後に顕現したアタランテが強く引き絞った矢を放つ。
そして最後に、
「覚悟してもらうぞ、父さん! ――チェーザレ!」
グエルの一声と共にロングソードを腰溜めに構えた姿で召喚されたチェーザレが、刀身から毒液を
一斉に放たれる四者四様の攻撃。それらが態勢を立て直し切っていないシャドウヴィム向けてまっすぐに空間を突き進む。
そして次の瞬間、
「ぐおおおおおおぉぉぉ!」
次々に突き刺さったそれらに列車の連なりで出来た巨体が
それと同時に猛烈な白煙が発生。あっという間に格納庫内の一画がシャドウヴィムごと覆い尽くされる。
そうして立ち込めた煙の
そんな何も見えない煙をじっと
「……出て来る気配無いわね。もしかして、倒せた?」
「いや」
即座に返されたモルガナの否定の声は、未だ途切れない緊張に満ちていた。
「相手はパレスの主だ。こんな程度で呆気無く終わるとは思えねぇ」
まだ気を抜くな、と目線だけを向けてミオリネに注意を
そして、その勘は当たっていた。
「! 全員、離れろ!」
レンから放たれる鋭い一声。
有無を言わさぬ勢いのそれに疑問を抱く間も無く全員が従った次の瞬間、立ち込める白煙を突き破って
巻き上がる大小の破片と猛烈な土埃。
その中央に突き立っていた
「
つい数舜まで自分達がいた地点に真紅の軌跡を引いて飛び込んで来た
すこしずつ晴れて来る土埃。その向こうに表れたその細長いシルエットが、それが見間違いでも何でも無い事を追い打ちの様に彼に示す。
先端に備えられたビーム発振器から伸びる水色のビーム刃で砕けた床に突き立っているそれらは、確かにグエルがレンとの二度目の決闘で搭乗していたダリルバルデに搭載されていた
「何であんな物が
大きさこそ全長3m程度と本来の物よりいくらか小ぶりであったが、それ以外に相違点は全く無い。
存在する筈の無い物体――まともに動かせなかったとはいえ自身が乗った事のあるMSの装備の出現に、グエルは
だが、すぐに彼はその理由に思い至る。
そこに程無くして、
「舐めるなよガキ共があああぁぁッ!!」
白煙の幕を引き裂く凄まじい怒声を上げて、再びシャドウヴィムが姿を現す。
その様がそのまま答えを示していた。
「やはり父さんか!」
そのグエルの答えが正解だと示す様に、眼前のイーシュヴァラがビーム刃を引っ込めて浮き上がり、そのままシャドウヴィムの傍へと自動で舞い戻っていく。
間違いない。あのドローンは父が生み出した物だ。
「伊達にあの時の新型と同じ顔じゃないって事か」
隣に降り立ったレンがシャドウヴィムの方から視線を切らさずに告げる。
「あのダリルバルデって新型、確か
「ああ。今のウチの技術が詰め込まれた最高傑作だと、スタッフの奴らや現実の父さんが言っていた」
「
そう得心したレンの言葉が何に対してのものかは、グエルには考えるまでも無かった。
グエルにとって――いや多くのMSパイロットにとって、MSとは操縦技術という力を表現するための武器、或いは力そのものだ。そういう認識は、ヴィムも恐らく変わらない。
だからこそ、自社の最新鋭技術を惜しみなく投入して作り上げた最新鋭機ダリルバルデは最も強力な武器であり、最も大きな力だ、と父は
それ故に、シャドウヴィムが従えるあのドローンの群れは、グエルが乗っていた時のダリルバルデに備わっていたそれらとは
「あのドローン共は
かつてのレンとの決闘において、ダリルバルデの操縦権は搭載されていた意志拡張AIに完全に乗っ取られており、ドローンは
だが、シャドウヴィムが呼び出した方のドローン達はあくまでシャドウヴィムの能力の延長であり、ヴィムの認知の産物だ。その父がグエルを勝たせるためと称して進んでAIを載せたのだから、そのAIがドローンの制御に支障を及ぼすとは今でも
「それは
「ちょっと気を付けた方が良いかもね」
レンと、彼の隣に立ったエリクトがドローンへの警戒に姿勢を低くして身構える。
先の決闘でAI制御下のドローンを相手取った二人故に、ちゃんとした制御の元に動くそれらの危険性にすぐに思い至ったのだろう。
だが、そうやってドローンにばかり意識を向けているワケにもいかなかった。
「レールの上に乗れんロクデナシ共が調子に乗りやがって!」
周囲に二基ずつのイーシュヴァラとアンビカーを従えたシャドウヴィムが吠える。
「そうまで分からんというなら見せてやろう! 俺が
シャドウヴィムが床に着けていた手を突き出す。モノレールの組み合わせて出来た五指と掌を。
すると、その掌の中心から何かが勢い良く飛び出す。
眩い黄金色に輝くI字型の断面。それがチューブから押し出されるマヨネーズの様に、或いは巣穴から
その様にグエル達が呆気に取られたり警戒を強めたりしている間に、シャドウヴィムが更に叫んだ。
「いけぃ、ラウダァ! 俺の敷くレールの正しさを、あの賊共に示してやれェ!!」
「分かりました、父さん!」
シャドウヴィムの放った号令に、それまで
そのままシャドウヴィムの掌から伸びる黄金のレールに着地したラウダが、ポッポー、と警笛染みた声を上げてレールの上を走り出す。
そのレールが伸びる先――。
「いくぞ賊共ォ!!」
――身構えるレン達向けて、猛然と。
「皆下がれ!」
他のメンバーに指示を飛ばしつつ、自らも鋭く後退するレン。
そこへ眩い輝きを放つレールが侵攻し、間を置かず緑の流線と化したラウダが奇声と共に過ぎ去っていく。
その様は正に目の前を通過する列車のそれだ。回避が間に合わず
だが、現実の列車とは決定的に違う点がある。
ラウダの認知存在が乗っているのはシャドウヴィムが作り出したレールであり、そのレールは特定の配置で固定されている現実のそれとは違って、蛇行する蛇の様に自在に曲がりくねりながら今も伸び続けているのだ。
だから、すぐにレールがUの字の描くように伸長し、I型の断面を再びレンの方へと向ける。獲物を見つけた蛇の様に、彼目掛けて突き進んで来る。
勢いの衰えない進行を続けるラウダの認知存在を、その先端のすぐ後ろに控えながら。
「ポッポーォ!! 堕ちろォ、アーシアン野郎ォ!!」
「その頼みには応じられないな」
絶叫染みた声を上げるラウダの血走った形相がすぐ間近に迫る。
その突進を右側へのサイドロールで回避したレンは、そこから流れる様に己の仮面に手を掛ける。
「スイキ!」
呼び出したるは、昨晩の夢の中で
それが手に持つ棍棒を振り下ろし、その先端の延長線上を走り続けるラウダ向けて鋭く尖った氷塊を撃ち込む。
放たれた氷塊は銃から発射された弾丸
だが、
「やらせはせんぞ!!」
命中する直前にシャドウヴィムの傍で待機していたアンビカーの一基が飛来。烈風を伴ってラウダと氷塊の間に滑り込み、その装甲で氷塊を受け止める。
侵攻を阻まれた氷塊が砕け、細かな破片となって焼失する様に舌を打つレン。
それと入れ替わりに、だったら、と彼の後方に立っていたミオリネがアタランテを呼び出し、複数の矢を一度に弓に
「一度に何発も撃ち込めばいいだけよ! アタラ――」
「やらせはせんと言ったァ!!」
アタランテが弓を引き絞り、
それに反応したミオリネが、舌打ちしつつアタランテを引っ込めてその場から飛び退く。
直後に二筋の光条が床に突き刺さり、爆風が発生。直撃を避けた彼女を
そのせいで足を止めたミオリネの隙を狙って、大きくUターンして来たラウダが、ポッポー、と突撃して来る。
「父さんがあんな恥を掻くハメになったのも、兄さんが水星男に負けた挙句賊なんかになってるのも、全部お前のせいだ!」
「ハァッ!? 何でそうなんのよ!? 変な言い掛かり付けんな、偽ラウダ!!」
「轢き殺してやるぞミオリネェ!!」
突然の理不尽な物言いにミオリネが怒鳴り返した反論も意に介さず、突進を
だが、あと1m程度というところで、彼を乗せた黄金のレールが不意に上を向く。
「そうは!」
「させん!!」
直前にエリクトとグエルが繰り出したピンクのビームと熱波から逃れんために。
「うわぁ!?」
二人が放った攻撃は、残念ながら悲鳴を上げながらもレールのまま真垂直に駆け上がったラウダには当たらず、先のレンの氷塊と同じようにレールのみを打ち据えるに終わる。
だが――。
「ぐぅおぉっ……!?」
「?」
不意に耳に伝わった呻き声。
それにレンが振り返ってみれば、何故かシャドウヴィムが僅かにとはいえ姿勢を崩していた。
まるで、何か思わぬ痛打を受けたような……だが、ラウダとドローンに全員の意識が向いていた今のタイミングで、当のシャドウヴィムに攻撃を仕掛けた者はいない。
これは一体……?
「ジョーカー!」
レンの内に
「どうする、ジョーカー? あのレーベの弟の認知存在とドローン、かなり厄介だぞ」
「ああ」
片やシャドウヴィムの敷くレールのままに
その上、どちらも本命ではない。本来叩くべきはシャドウヴィムのみであり、それらはあくまで付随物でしかない。だからいつまでも気を取られているワケにいかないのだが、されとて完全に無視してしまうのもそれはそれで危険だ。
正にモルガナも言った通り、厄介と評するしかない。
「おまけに、ジェタークもさっきの攻撃でそんなに傷を負ってるワケでも無さそうだ」
先の攻撃――エリクトのラクンダによって防御力が下がった上からの一斉攻撃は、特にシャドウヴィムの耐性で威力を減退される事も無く、またあの時点でアンビカーを呼び出してなかった事から防がれてもいないため、100%のダメージを叩き込めた筈だ。
にも関わらず、なおも列車で構成されたその巨体には目に見える傷は無い。
それ程までに素の防御力が高過ぎるのだ。多少減退させた程度では問題にならない程に。
「ここまでガチガチだと、弱点突いてもダウン取れるか怪しいぜ」
ラウダの認知存在やドローンの群れについては、タイミングを見て攻撃を当てれば一時的にせよ永続的にせよ、まだ無力化出来るかもしれない。
だが、シャドウヴィムそのものの高過ぎる防御力についてはただ攻撃するだけではダメだ。まともにやってはジリ貧になるのがオチだろう。
となれば――。
「――強力な一撃を叩き込む必要があるな」
高い防御力の上からでもなお有効打となり得る――何ならその防御自体を大きく崩し、それだけでほぼほぼ
だが、それほどに大きな損害を与える攻撃は他の面々にも、今のレンが所持しているペルソナにも無い。
よって、武器やペルソナの技を使った単純な攻撃とは別の、
その
「ポッポオオォォォッ!!」
「――おっと」
けたたましい声に、はっとモルガナと共に振り返るレン。
向けたその視線の先にあったのは、案の定というか、悪鬼のような形相で黄金のレールの先端と共に迫り来るラウダの認知存在であった。
「今度こそ堕ちろォ! 水星男ォ!!」
高笑いを上げながら飛び込んで来たラウダを、レンとモルガナは揃ってその場から跳び上がって難無く躱す。
だが、一度はラウダ諸共眼下を通り過ぎ去ったレールが鋭くUの字を描いて曲り、再びレン目掛けて伸びて来る。
当然、その上を走るラウダも。
「良いぞラウダ! そのまま跳ね飛ばしてしまえ!!」
「兄さんを脱線させようとした悪党め! これで終わりだァ!!」
シャドウヴィムの喜色ばんだ声と、狂気に血走ったラウダの咆哮が重なる。
そのまま、I型の断面が黒いロングコートに触れ――。
「いいや」
――るかと思われたそのタイミングでレンは左腕を鋭く振り上げ、袖の中に仕込んだワイヤーアンカーを射出。数舜の内に格納庫を構成するトラス材にそれが引っ掛かると共にワイヤーを引き戻し、その場から瞬時に離脱して見せた。
「何ぃっ!?」
身動きが取れない筈の空中でレンの体が素早く移動し、そのせいでラウダが何も跳ね飛ばす事無く通り過ぎたその事態に、シャドウヴィムが驚愕の声を上げる。
それを余所に着地したレンはもう一度後方へ跳び、後から駆けて来たモルガナと共にミオリネとグエル、エリクトがいる地点に合流する。
「皆!」
上空に浮く二基のイーシュヴァラと睨み合っていた三人に鋭い声で呼び掛けたレンは、同時に右手を懐に入れる。
その中を素早く
「仕切り直しだ! 一旦身を隠すぞ!」
それを力任せに床へと叩き付けた。
「何処だァ!? 何処にいったクソガキ共ォ!?」
シャドウヴィムの放った大音声が格納庫中に響き渡り、壁やトラス柱をガタガタ、と揺らす。
ゴォン、ゴォン、と巨体が列車の腕で床や壁を乱暴に叩き、ダリルバルデに似た頭部を忙しなく振り回しては辺りを探り続けている。
同時に、彼を中心として四基のドローンと、人型形態に戻ったラウダも辺りを探し回っている。
決まっている。
その様子を立ち並ぶディランザの一体の足下に身を隠しながら覗き込むグエル達を、だ。
「……よーし、良いぞ。連中、ワガハイらを完全に見失っているぜ」
「これで少しくらいは時間を稼げそうだな」
そのモルガナとレンの言葉に、ミオリネが安堵の息を吐き出す。
「いきなりで驚いたわよ。――何、あの煙は? アンタのペルソナ?」
ややうんざり気味の口調で問い掛けたミオリネに、これだよ、レンが懐に手を入れ、何かを取り出して見せる。
突き出された彼の掌の上にあったのは、直径3cm程の黒い球体であった。
「“煙幕”だ。強い衝撃を与えると、煙が噴き出すようになっている」
探索中に見つかった際などに追手を
あの時――ミオリネやエリクトと共にシャドウヴィム操るドローンを相手取っていたところにモルガナと共に駆け付けたレンがこの煙幕を使い、辺りに煙をばら撒いたのだ。それによってシャドウヴィムとラウダの視界を
「へー、そんなの持ってたんだ。――で、ここからどうする気?」
興味深げにレンの手の中の煙幕を見ていたエリクトが、視線を彼の顔へと移動させて問う。
今のグエルにとっても気に掛かっていた事を。
「隠れたは良いけど、それだけじゃあのオジサンは倒せないし、オタカラだって奪えないよ? いつまでもここにいるってワケにはいかないでしょ」
「エリィの言う通りだ」
エリクトの言い分に同調したグエルは、腕を組みながらレンの方を見据える。
「まさか、ここで見つかるまで延々身を潜めている、などと言うつもりは無いだろ。――あるんだよな、態々戦いを中断してまで父さんから身を隠した理由が?」
その問いに、レンが笑みを浮かべて返答をする。
「もちろん」
そうして、この場に身を潜めた理由を彼は語っていく。
今の異形と化したシャドウヴィムの度を越した防御力の前には、それを多少下げた程度ではまともなダメージが入らない事。
それに加えて、彼の操るドローンの群れやラウダの認知存在という厄介な存在も無視出来ない事。
よって、それらの無力化と、シャドウヴィムの防御力の上からでも大きなダメージを与えられる強力な一撃、及びそれを
「――で、その作戦を皆と共有するためと、ジェタークにそれを知られたくないから、仕切り直しも兼ねて一旦ここに逃げ込んだ、ってところさ」
「――その作戦とやらの内容はもう決まってるのか?」
重ねてそう尋ねるグエルであったが、レンの
それを示す様に、ああ、とレンの首が縦に振られる。
「詳しい内容と役割分担は今から話すけど、概要だけざっくり言うと――」
レンの視線が、彼の背後へと向けられる。
肩越しに黒い瞳を向ける
「――
その背に
「そんなところを
不意に背後から掛けられたその声に、手近なところに渡されていたキャットウォークを力任せに引き剥がしていたシャドウヴィムはその手を止めた。
「何故なら――」
言葉が続くその方向へと、列車の腕で床を激しく踏み鳴らしながら振り返るシャドウヴィム。
歪んだダリルバルデの頭部の中に収まった金と緑のバイザーの目がそこに立つ影を捉えた瞬間、
「――
「そこにいたかアーシアン野郎オオオォォ!!」
間欠泉の如き勢いで昇った怒りのままに彼は怒号を上げていた。
「土臭い採掘屋の雇われ如きが、この俺に小賢しいマネばかりしやがって! 今度こそ! 跡形も無く踏み潰してくれるゥ!!」
その怒声のままに、シャドウヴィムは片腕を高く持ち上げる。憎たらしいクソガキ目掛けて叩き付けるために。
だが次の瞬間、
微かな風切り音と共に何かが飛来。それが掲げていた列車の腕に接触すると共に、突如青い白い爆炎が弾けた。
ぬぅ、と呻くシャドウヴィム。
ダメージそのものは
すぐさま後方へとバイザーを向けるシャドウヴィム。
そこに立っていたのは、
「本当に人の話聞かないわね、アンタは」
「今のは貴様かァ!? デリングの娘ェ!」
背後に弓を構えたアタランテを控えさせたミオリネだった。
「ジョーカーは俺
腰に手を当てたミオリネが、フン、と小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
その舐めた態度に怒りを刺激されたシャドウヴィムは、
「黙れクソガキがァッ!!」
己の付近を浮遊していた二基のイーシュヴァラの先端から光刃を発生させ、その切っ先をミオリネへと向けて突撃させる。
串刺しにせんと迫る二基のドローン。
それに対して、
「そんなの当たってやるかっての!」
ミオリネの背で待機していた黒タキシードの麗人がその手に持つ弓を高く掲げる。
すると、弓から緑色の光が発生。淡く
何ぃ、とシャドウヴィムが己の目を疑うのと同じくして、飛び込んだイーシュヴァラのビーム刃が床を突き刺す。
だが、やはりそこにはもう誰も居ない。
どこへ行った、と慌てて周囲を見回すシャドウヴィム。
その横っ面が、
「ぐぉ!?」
再びの風切り音に続き発生した爆発によって大きく弾かれる。
「ホラホラ、どこ見てんの!? 私はこっちよ!」
間髪入れず飛んで来たその腹立たしい声を当てに、おのれェ、とシャドウヴィムは腕を振り上げ、叩き潰そうとする。
しかしそれも、
「隙ありだ」
ミオリネの声は別の方向から飛来して来た数発の氷塊に逆側の腕を打たれ、急速に進んだ凍結で床に手を貼り付けられてしまった事で上手くいかず、またも何も無い床をクレーターに変えるに終わってしまう。
ええぃ、と氷で覆われた腕を無理矢理持ち上げて床から引き剥がしたシャドウヴィムは、
槍の穂先の様に鋭い視線のその先で、棍棒を頭上で振り回すスイキを背後に控えたレンが小首を傾げた。
「感心しないな。二人以上相手にしているのに、一人にしか目がいかないなんて。――それとも、これくらいは貴方には何て事ないのかな?」
何かを含むものを感じさせる物言いだ。
それによって苛立ちを促進させられたシャドウヴィムは何か吐き出そうとしたが、それよりも前に彼の真下を素早く通り抜けた黒い影が、そうなんじゃないの、とレンに返す。
ミオリネだ。
「何て言ったって、
「……デリングだと?」
不意に言及された腹立たしい男の存在に、何が言いたい、と歯軋りをするシャドウヴィムに、あら、分かんない、とミオリネが挑発するような目を向けて来る。
「アンタは御三家のCEOで、クソ親父はグループの総裁。――立場上、アンタはクソ親父の
笑っちゃうわ、と手を振り払うジェスチャーと共に吐き捨てるミオリネ。
その言動から動作までの何もかもに、視界を真っ赤に染め上げる程に激しい怒りと熱に駆られたシャドウヴィムは、
「黙れエエエェェェェェッ!!」
その場で上半身を仰け反らせ、両腕を高く振り上げていた。
過たず両手を叩き付け、床を粉々にする。
しかし、その時には既にレンもミオリネもその場から飛び退いていた。
「この俺がデリングに負け続けているだとォ!? よくもそんな
「あら、気に入らなかった? なら、クソ親父を引き合いに出すのは止めて上げる。――アイツの事褒めてるみたいで気に入らなかったし」
「それに総裁の事が無くとも――」
ミオリネに続き、不敵な笑みを浮かべたレンが告げる。
怒りに満ち溢れている今のシャドウヴィムに決して聞き流せない、竜の逆鱗に触れる一言を。
「――後ほんの少しで貴方が
「ほざけエエェェェェェッ!!」
絶叫と共にシャドウヴィムはイーシュヴァラを傍に呼び寄せ、ミオリネとレンにそれぞれ一基ずつ先端を向けさせたそれらからビームを発射させる。
だが、放たれた青白い閃光が二人を射抜く事は無い。
先程
「最後のダメ押しといこうか!」
直前にアルセーヌを呼び出し、効力の切れ掛かっていたスクンダを再度掛け直してから悠々とその場を離れたレンにも。
再び動作の重くなった体に、ぬぅおおぉ、と苛立ちのままに唸るシャドウヴィムを後目に、二人がその左右二方向へと大きく移動する。
シャドウヴィム自身がどちらかを叩こうとすれば、逆の側への注意が疎かになってしまう――そういう位置関係だ。
だから、
「この俺を! 御三家ジェターク・ヘビー・マシナリーCEOのヴィム・ジェタークを、どこまでもコケにしやがって!」
怒りで頭を
これで攻撃にも防御にも隙は無くなった。
「誰にも俺のレールを塞がせなどさせん! 貴様らにも! デリングにも! 俺を否定して消えた
そう唾と共に宣言を飛ばすままに、二基のイーシュヴァラに攻撃を行わせようとする。シャドウヴィム自身はその場から動かず、隙を作らないように身構えながら。
状況を
但し、
「待たせたなお前らァ!!」
そんな声が辺りに響くまでは、であったが。
「っ! 何だ!?」
はっと声に反応するも、発せられた場所をすぐに特定出来なかったシャドウヴィムは慌てて頭を振り回す。
そこに続けて、先程と同じ声が言葉を続ける。
「こっちは準備完了だ! いつでもいけるぜ!」
「なら今が絶好の機会だ! 早速頼む!」
「そこかァ!!」
声そのものと、それに応答を返すレンの顔の向きを頼りに、シャドウヴィムは素早く背後へと視線を回す。
そこにいた。
シャドウヴィムの背後に佇むディランザの認知存在の内の一機の、その左右の膝の装甲の上に立っている二人分の影。――モルガナとエリクトが。
レンやミオリネ、それにグエルに比べればシャドウヴィムにとって大した印象の無いその二人の内、エリクトが、オッケー、とレンに了解を返す。
「それじゃあ今から
「言われずともそうするっての!」
そのミオリネの言葉のすぐ後に、彼女とレンが大きく後退。
急に自分から距離を取った二人をシャドウヴィムが怪訝に思う間も無く、続けてモルガナとエリクトがディランザから飛び離れる。
「仕上げだエリィ! 思いっきりぶち込め!」
「りょーかい! ――エアリアル!」
「ゾロォ!」
空中へ身を投げ出した二人はそれぞれのペルソナを呼び出し、ビットステイブから放つピンク色のビームの集中砲火を、あるいはその手に持つレイピアの刺突を、各々に近い側のディランザの膝関節に撃ち込む。
更に、
「撃ちまくりだぁ!!」
「ばんばんばん、ばぁーん!!」
スリングショットとビームライフルも取り出しての本体の射撃も加え、膝への攻撃を加速させていく。
そうして次の瞬間――。
「――なぁっ!?」
バキリ、と何かが破断したような音が響き、続けて鳴り出した重い振動音にシャドウヴィムは
そうなっても止むを得なかった。
自分の背後に佇んでいたディランザが、突如その場で
無論、本当にお辞儀をしたワケではない。――誰も乗っていないMSが、ましてや、あくまで現実のそれを再現しただけの認知存在が、独りでに動く筈が無いのだから。
にも
左右共に半ばから横一文字に裂けて真っ二つになっており、その上側から頭部までが支えを失ってシャドウヴィムへと
だが、一拍遅れて状況を悟ったシャドウヴィムにとって、その事態は決して看過出来るものでは無い。
何せ、ディランザ一機の全長は18.2m、総重量は85.3t。膝から下は切り離されているためその分の高さと重量は差し引かれるが、それでも14m程度、60t以上の超巨大物体が今まさに迫って来ているのだ。いくら巨大化したといっても高々9m程度の体躯では下敷きにならざるを得ないし、そうなってしまっては多少の攻撃では傷一つ付かない高い防御力も焼け石に水にしかならない。
だから、すぐにシャドウヴィムはその場から離れようとした。
だが、直前にレンに掛けられた技のせいで動作が鈍くなっている今の彼では倒れ込むディランザの上体からは逃げ切れない。
ならばと、ドローンを呼び戻したシャドウヴィムはそれらを自身と迫るディランザとの間に配置し、その接近を少しでも遅らせようとする。防御用のアンビカーは勿論、攻撃用であるイーシュヴァラをも総動員して。
しかし、それも無意味。
設置されたドローン達は扇風機の前に置かれた紙の様にディランザに
そうなってしまえば、最早シャドウヴィムに打つ手は無い。
「うっ、うおおおおぉぉぉぉ~~!!」
絶叫のままその場から逃れようと足掻くシャドウヴィム。
それも空しく、ほぼ水平の角度にまで倒れ込んだ巨大な緑の上半身が無慈悲にその上に覆い被さる。
そして――耳を
シャドウヴィムの注意は自分とミオリネ、グエルに特に向いているようだ。――戦闘中に気づいたというその敵の傾向を前提にレンが提示した作戦は、次の通りだった。
まず、彼とミオリネがシャドウヴィムの前に姿を現し、
そうやって二人が時間を
如何に防御力がずば抜けて高かろうと、MSの、それも重量級であるディランザの大質量に圧し潰されては流石に大ダメージは避けられないし、戦局も一気に傾けられる。――それを狙ったレンの作戦を、他の面々は驚き呆れはしても、否定自体はしなかった。
よって、その作戦を実行する事で一行の意見は纏まったのだが、一点だけグエルには気になった点があった。
「ところで、俺はどうすれば良いんだ?」
レンとミオリネは囮役、モルガナとエリクトは工作役で各人の役割分担が振られる中、彼だけはこれといった役割を振られていなかった。
自分も父に強く注意を向けられている。となれば、レンやミオリネと一緒に囮が妥当だろうか? ――そう思っていた彼に、レンはこう答えた。
「レーベには詰め役を頼みたい」
「詰め役?」
「ああ。――最後の
不敵な笑顔を浮かべていた彼のその言葉の意味を――作戦の成功を見届けた後、俯せに倒れ込んだディランザの上半身と床に挟まれたシャドウヴィムの前に立って、漸くグエルは知る事となった。
「ぐっ、ぐおぉっ……! この程度でぇっ……!」
重量級MSの大質量の下敷きになったシャドウヴィムは、真紅の列車が組み合わさって出来たその身体が
しかし、それでもなお父は戦意を失っていなかった。
まだ戦いは終わっていない。大きく追い込んだが、まだ続いている。――
「諦めが悪いね、オジサンも」
そんな呆れたような声と共に、エリクトがグエルの近くに降り立つ。
それに続けて、モルガナとミオリネ、レンも。
「ここいらで降参して、大人しくオタカラ渡したら? そしたら、ボク達も止めて上げるんだけど?」
「もちろん、ジョーカーとレーベの退学も無しにすると、ここで誓ってもらうけどな」
さぁ、どうする、と腕を組んで勝ち誇った笑みで問い掛けるモルガナ。
それに対するシャドウヴィムの返答は、絞り出したような声で発した、
「お、俺はっ、常に勝ち続けて来た男だ! 俺のレールは、正しいんだ! 貴様らのような行き当たりばったりのガキなんぞに、俺が負けるなど――」
「だったらこの状況は何よ?」
ハッ、とシャドウヴィムの言い分をミオリネが一蹴する。
ディランザの上半身に上から圧し掛かられて多大な傷を負った上にその場から抜け出せず、更には余力も十分なグエル達に追い詰められている、今の彼の状況。
それを一言で言い表すならば――。
「――
「ッ!? ぐ、うぅぅ……!」
鼻を鳴らして見下すミオリネのその発言に対してシャドウヴィムからの反論は無く、ただ憎々し気な呻きが上がるだけだった。
父も頭では理解しているのだ。この状況は正に彼女の言う通り、自分が負けている、と。
しかし、その事実をシャドウヴィムは認められない。
自分が、憎たらしい成り上がりのデリングの娘などに、高々ガンダムを持っているだけのアーシアンの小僧などに、そのおまけに等しいどうでもいいチビ二匹などに――何より、自分が
今の歪んだ嫉妬心に満ちた彼には、決して認められない。
故に――。
「――ラウダアアアァァッッ!!」
絶叫染みた声を上げつつシャドウヴィムは片腕をグエル達向けて突き出し、その掌の中央から黄金色に輝くレールを飛び出させる。
間髪入れず、呼び出されたラウダの認知存在が慌てた様子でシャドウヴィムの傍まで駆け込んで来る。
「あの忌々しいクソガキ共を一人残らず轢き殺せ! 俺が奴らになど負けていないという事を、俺の――親のレールの上を走る事こそが正しいという事を、お前が証明するんだ!!」
「はっ、はいっ! 父さん!」
煮え滾る怒りの叫びへの返答も僅かに、飛び上がったラウダが再びその身を列車形態へ変形させつつレールの上に乗り、急発進する。
そうしてレールの先端諸共に猛然と向かって来る弟の認知存在を前に、
「事前に伝えた通りだ。――任せたぞ、レーベ」
「ああ」
そうレンに頷いてから進み出たグエルはカービンを取り出し、腰溜めに構えたそれのトリガーを引き絞った。
「うおおおおおぉぉぉッ!!」
グエル自身が上げる雄叫びに重なるように激しいマズルフラッシュが連続し、弾丸が幾重にもばら撒かれる。
一発一発の威力は大したものでは無い。だが、重なり続ければそれもバカにはならない。
少なくとも、耐え兼ねたラウダが逃れようと上方へ針路を修正した程度には。
それによって、グエルのすぐ正面から上方へと伸びたレールが大写しになる。
――
「ペルソナッ!」
即座にグエルは自らに仮面に手を
現れた赤紫の甲冑の騎士の剣は、既にその刀身に炎を灯していた。
チェーザレがロングソードを振り下ろし、眼前のレールに燃え盛る炎の一閃を叩き込む。
すると、他の面々の攻撃をいくら与えても欠け一つ起こらなかったレールが、まるで温めたナイフでバターを切るが如く、あっさりと斜め一文字に断ち切られた。
途端、シャドウヴィムが上げた微かな呻きと共に、切断部から先のレールが黒い
「れ、レールがっ……!? う、うわあああぁあぁぁぁ~~!?」
そのまま重力に引かれて下へと落下し、激しい音を立てて床と激突した後、こちらも靄と化してその場から消滅した。
後に残ったのは落下の衝撃で床に出来た
「ぐっ、グエルっ!? お前、何を考えている!? 血の繋がった弟のレールを断ち切るなど、それが兄の――」
動揺混じりのシャドウヴィムの糾弾が飛ぶが、それをグエルは無視する。
それと共に、チェーザレが振り下ろした剣を切り上げようとする。
返されるその刃には、まだ炎が灯っている。
「突き崩せ、チェーザレッ!!」
切り上げと共に放たれる炎の斬撃。
それが瞬く間に空間を飛び、まだ何かを叫んでいたシャドウヴィムの体に触れたその直後、
「ぐおおおおおおおぉぉぉっ!?」
一瞬の間に炎が燃え広がり、列車で構成されたその巨体を覆い尽くした。
「ぐ、か、はぁ……」
炎自体は思いの外すぐに
シャドウヴィムの弱点は炎だった。
先程にも一度だけグエルの攻撃がレールに当たった瞬間があったが、その際に彼が苦痛を感じているような素振りをレンが目にしていた。その光景をヒントに彼が導き出した推論は、見事に的中していたのだ。
「ダウンしたぞ! 今だ囲めェ!!」
すかさず上がったモルガナの号令のまま、遠隔武器を手にしたグエル達は一斉にシャドウヴィムの周囲に広がり、それぞれの得物を突き付ける。
その中心で、ガタガタ、と身を震わせるシャドウヴィムが呻く。
「なっ、何故だ……!? 何故、俺が……こんな、ガキ共に、追い詰められて……っ!?」
未だ覆い被さるディランザの上半身の質量と、弱点を突いたチェーザレの炎。
その二つの大ダメージが重なって遂にダウンしたシャドウヴィムは最早息絶え絶えといった有様で、反撃して来る素振りは見られない。
だが一方で、複雑に罅が入ったバイザーアイは未だギラついた光を失っていない。
抵抗の意思そのものは、この期に及んで尚も失われていないのだ。
「……グエルぅ!」
そのバイザーアイから放たれる眼光が、鋭くグエルへと向けられる。
「俺は、お前やラウダが勝てるように、お前達が幸せになれるようにレールを敷いてやって来たんだぞ! どうして、それを
「何度も言った筈だよ、父さん。俺には、俺の目指したい夢が、守りたい誇りがある。父さんのレールはそれを否定する、受け入れられないと!」
「まだ言っているのか、ドミニコスのエースがどうのと!? 言った筈だぞ、あんなものはデリングの
「いいや」
大きく首を振ってグエルは否定を示す。
「俺はお袋達のようにはならない。ラウダだってそうだ。例え父さんのレールの上に乗らなかったとしても、俺達は、俺達の行くべき道を自分で決めて見せる! 決めた道の先で、俺達なりの幸福を掴んで見せるさ!!」
「何をバカな事を……! 子供は親の敷いたレールに従って走るのが、一番幸せ――」
「子供だからって、いつまでも何もか親に決められっぱなしじゃ無いんだ! 例え親に逆らってでも自分で決めたい事もあれば、自分で決めなきゃいけない事だってあるんだ! それが分からないって言うのなら――俺が俺の意思で決めた、俺だけの道を、今ここに示す!!」
――これで終わらせるぞ!!
響き渡ったグエルのその一声を合図に、その場からバックステップした全員が一斉にシャドウヴィムへと飛び掛かる。
黒い軌跡のみを残す嵐と化して、縦横無尽に目にも止まらぬ乱打をボロボロの巨体へと刻み付け、僅かに残っていたその体力を削り取っていく。
その嵐が過ぎ去り訪れた
「これが俺の進むべき道だ!!」
推奨BGM:Blooming Villain
これでも思いの丈は叩き込めた、か?
次回、オタカラ頂戴&パレス脱出!
こうご期待!