今回は戦闘終了後から。思いの丈をぶち込んだり、帰るまでが遠足だったりする33話、はーじまるよー!
「ぐぉおわあああぁぁぁぁっ!!」
格納庫内に断末魔が鳴り響く。
総攻撃によって限界に達した真紅の列車の化物が全身からどす黒い液体が噴き出し、見る見る内にその中へと沈んでいく。そうして、出た端から黒い
「ぐ、ぐぅ……くそぉ……」
薄緑色の制服姿で膝を着くシャドウヴィムの姿のみであった。
「……」
そんな見る影も無い父の姿に多少なりとも
「貴方の負けだ、ジェタークCEO」
シャドウヴィムの前に全員が並んだところで、開口一番にレンが告げる。
「もう貴方には俺達と戦う力は無い筈だ。――今度こそそのオタカラ、頂戴させてもらおう」
「でもって、お前には現実の自分に
文句無ぇよな、と腕を組んだモルガナが鋭い視線をシャドウヴィムへ突き付ける。
それに対し、傷付いた体をワナワナと震わせたシャドウヴィムは
「……畜生ッ!」
オタカラである黄金のホイッスルを固く握り込んだ拳を床に叩き付け、吐き捨てた。
「俺は、俺は御三家ジェターク社のCEOだぞ! 今年度もグループ内業績一位を収めた会社のトップ! 子供の為――いや、家族の為にレールを敷く義務を持った者の、頂点なんだぞ! その俺が、何でレールの上を走る側のお前らガキ共に負ける!? 何故、俺のレールがお前らなどに否定されねばならないんだ!?」
「そんなの決まってんじゃん」
憎々し気に歯を食い縛るヴィムの言い分に、呆れた面持ちのエリクトが肩を
「子供だろうが大人だろうが、人間だもの。列車とは違うんだよ」
己の意思を持ち、思考を持ち、それに従って行動する
「いくらオジサンが良いレール用意したからって、それに乗るかどうか決める権利があるのはレーベだよ。そのレーベが乗らないって言ってんのに、オジサン聞かないんだもの。仕方ないよね、
「それに何よ、
はぁ、と嘆息混じりにミオリネが続く。
「散々言った筈だけど? “アンタの上にウチのクソ親父がいる、負けてる”って。――ま、仮にアンタが本当に頂点だったとしても、それでも私達を排除しようするレールなんかを大人しく受け入れたりなんてしないけど」
これも当然の事だ。言われるがままの機械ではなく、人間なのだから。
つまり、“子供は親の敷いたレールに従って走るもの”というヴィムの論理は最初から
だが、ここまで来ても尚、シャドウヴィムはその事実を受け入れられない。
「黙れェッ!!」
「どいつもこいつも俺を否定しやがって……! 俺は愛する者達の幸せに導こうとしただけだ! 俺の敷くレールならば、それが出来るんだよ!」
「だから、それはアンタのエゴだって――」
「黙れと言っているゥ!!」
再度の嘆息の後にミオリネが紡ごうとした言葉を、
穴が開かん程にオタカラを見つめるその金の双眸は揺れており、
「これが、俺のレールの正しさを証明している! これが俺の手にある限り、俺の敷いたレールに間違いは無いんだ! デリングだろうと、
「命、ってねぇ……」
「そこまでする程ぉ……?」
困惑にミオリネとエリクトが首を傾げる。
生きるために欲望は必要不可欠なもので、オタカラはパレスの核だ。主にとってそれが何よりも大切なものであるのは間違い無いだろう。
だが、パレスも欲望そのものも、まず命という土台があって初めて成り立つもの。如何にオタカラを守り通そうと、命を失ってしまえば元も子もない。
にも拘らず、己が命よりもオタカラの方が大事であると、シャドウヴィムは言い切った。
そうまで彼に断言させたそのオタカラには、一体何があるというのか?
それはグエルには分からない事であったが、一つ確かな事があった。
今のシャドウヴィムの、グエル自身が知る厳格ながらも常に尊敬し続けて来た父と同一人物とは思えない哀れな姿は、
「――もう良いだろ、父さん」
「俺達は父さんを苦しめたいワケじゃない。ただ、俺とジョーカーの退学を取り消して欲しいだけなんだ。だから――頼む、この通りだ。オタカラを、渡してくれ」
そう己の気持ちを述べ、更には頭を下げて訴えるグエル。
そうまでして頼み込む彼の姿に他の面々が驚き息を呑んだ気配があったが、構わず彼は最敬礼の姿勢を維持する。
これ以上見続ければさしもの彼も幻滅してしまいそうなヴィムの姿をこれで終わりに出来るのであれば、安いものだったから。
そうしてその場に流れる、暫しの沈黙。
その後に開かれたシャドウヴィムの口から
「……お前も
苦々しさの籠った呟きであった。
「同じ?」
頭を上げて問い返すグエルに、ああ同じだよ、とシャドウヴィムが吐き捨てる。
「俺の手を振り払い、二人揃って消えちまったアイツらと!
「俺が……お袋達と?」
どういう事だ、と当惑するグエルを余所に、更にシャドウヴィムが
「俺が、お前やラウダのためにどれだけ尽くして来たと思っている!? どれだけ気を回して来たと思っている!? クソッタレのデリングや
「それは――」
ヴィムが自分の誇りを、夢を否定し、挙句に潰そうとしたから反旗を
だが一方で、そうするに至ったヴィムなりの論理や意思、そして何よりも自分やラウダへの愛情が――歪んでしまってこそいるが――ある事も知ったし、それを一部とはいえ否定している事も間違いない。
その負い目が、グエルに視線を
「同じだよ、お前らの母親と……! アイツらの同じように、お前まで俺のレールを否定して、俺の手を振り払いやがって! ――俺を、
「っ! 違う!」
咄嗟にグエルは否定の言葉を叫ぶ。
父が口にしたその言葉は、決して無視出来るものでは無かった。
「そうじゃないよ父さん! 俺は、何もそこまで――」
だが、その言葉はシャドウヴィムの耳には届かない。
「どうせお前も思っているんだろう!? 俺が何でも決めようとすると、
「誤解だよ父さん!」
尚も呼び掛けるグエルなど眼中にも無く、
「頼むから、俺の話を――」
「もうお前のためのレールなど敷かない! 必要無いんだろ、俺の施しなど!? ドミニコスでも何でも勝手にするがいい! 好きにどこでも行くが良いさ、アイツらと同じように!!」
「俺の、話を――」
それでもグエルは呼び掛け続けるが、その一切がシャドウヴィムを止めるに至らない。
そんな父の有様が、次第にグエルの中で苛立ちを募らせていく。
そうして遂に、
「もうお前の事など知らん! お前など、お前など……
「ッ!」
勢いのままにシャドウヴィムが口にしたその言葉が、彼の中の苛立ちを爆発させた。
「いい加減にしろォ!!」
そう叫ぶのが早いか否か、タクティカルグローブを嵌めた両手を伸ばしたグエルはシャドウヴィムの胸倉を掴み寄せていた。
「俺がお袋達と同じだとッ!? アイツらみたいに父さんを捨てるだとッ!? そんな事をすると、俺がいつ言ったァ!?」
「ぐ、グエル?」
唾を飛ばす勢いで叫び散らかすグエル。
その眼前でシャドウヴィムが困惑した面持ちを浮かべていたが、それは無視する。
今度は、そんな父の顔をキッと睨み付けた彼の方が
「父さんはいつもそうだ! 俺の言葉に耳を傾けようともしないで、何でもかんでも自分の中で解決させようとする!」
レールだ何だと言って人の人生の進め方も勝手に決めて、当人の意思を省みないのも。
二度目の決闘でグエルを信じずにAI操縦のダリルバルデを使わせた上、それで敗北したのを彼のせいにしていたのも。
果ては、子供は親の敷いたレールに従って走る者という論理も。そこから生じた、グエルを退学させて系列会社に入れようというレールも。
「そ、それはお前のためを思って……!」
「俺のためにやった事だから許されると!? 父さんが思う幸せに辿り着けるなら、夢も誇りも捨てられると!? そんな事だって、俺は一度も言っていない!」
それに、とグエルはシャドウヴィムの襟元を掴み直す。
突き付けなければいけない。父が決定的に間違っている点を。
「――お袋達が
「何だと?」
「父さんだって散々言っていたじゃないか。何でも勝手に決めるから、窮屈だからと、お袋達が言っていたと」
その言葉自体は母達がヴィムの元から去る間際の最後の言葉だったそうだが、だからこそ二人が父に――父の好意に対してどんな感情を抱いていたかが如実に表れていた。
「父さんは、お袋達の事も
「そ、そうだ! アイツらを愛する者として、いつだって俺はアイツらのためを思って厳しくしてきた! 全ては、アイツらの幸せのために――」
「それで良いって、お袋達は
そう問うた途端、何、と意表を突かれたようにシャドウヴィムが硬直する。
全く意識外の指摘を受けた、と言わんばかりに間の抜けたその顔が、
「――お袋達は、
「何を言う!?」
叫びと共にシャドウヴィムの手が伸び、グエルの首に巻かれたマフラーを掴み返す。
「アイツらが俺が与えようとした幸せを望んで無かっただと!? 何を根拠にそんな事をぉ!」
「なら父さんは訊いたのかよ!? “自分の敷いたレールに満足しているか”とか、“自分に不満は無いか”とか、お袋達に! 一度でも!!」
「っ! それは……」
シャドウヴィムが目を逸らし、言い
予想していたリアクションだった。
息子達が相手でも、ヴィムがそういった事を尋ねた事は一度も無かった。きっと母達相手でもそうだったのだと予想を付ける事は
寧ろ、彼自身の経験則に
「考えた事も無かったんだよな、お袋達が逃げた
ただ、“逃げた”、“自分から離れた”、という
――いや寧ろ、
考えれば
自分の行いが――二人の幸せを願ってレールを敷こうとした事が、
「――っ! お前に何が分かる!?」
その叫びと共に、片方の手に握り込まれたままのオタカラが揺れる。
チャリ、と二つのホイッスルと、それを繋ぐ鎖が微かな音を鳴らす。
「二人一度に
そう吐き出すシャドウヴィムの金の双眸は怒りに吊り上がっていた。突き刺すような鋭い眼光を放っていた。
しかし、その一方で微かに揺れてもいた。
彼の口を動かすその怒りは、グエルの指摘が正しい事を、自分が間違っていた事を認めたくない一心から来る虚勢であった。
そして、そんな偽りの憤怒も敢え無く引っ込む事になる。
「あの時の俺が、どれ程
他ならぬシャドウヴィム自身の言葉によって。
「……そうだ」
握り潰さんばかりに力が込められていたシャドウヴィムの両手が不意にグエルのマフラーから離れ、ダラリ、と力無く垂れ下がる。
呆けたようにぽかんと口を開けたその顔に、先程までの怒りの感情はもう無かった。
「あの時……アイツらが死んだと知った時、俺は……
父が
その様子を、グエルは黙って静かに見つめる。
「どうして引き留められなかったのか、自分でも分からなかったが……そうか、俺は……」
妻達の事を想い、その幸せを願うあまりに、彼女達の意思や気持ちを
それを本当は分かっていたが、受け入れるのを無意識に拒んでいた。二人と別れたあの日から、ずっと。
それに今ようやく気づけた事を、続けてシャドウヴィムの口から零れ出た言葉が示した。
「……
「――ああ」
肯定の頷きと共に、シャドウヴィムの襟首を掴んでいた手をグエルは離す。
それによって支えを失い、力無く床に座り込んだ父が、はは、と俯いたまま乾いた笑いを漏らす。
「……認めたくなかったんだ。ジェタークの血筋に生まれて、もう会社も引き継いでCEOになっていた俺の行いが、間違っていたなどと。だから、アイツらこそが間違っていたと、自分に言い聞かせた」
そして、それを証明するためにグエルとラウダを必ず幸せにすると誓った。二人の母達が否定した、ヴィム流のやり方で。
最初はたったそれだけの、チンケで個人的なプライドの話だった。
それだけであった筈なのに、かつてヴィムが認めなかった間違いは“子供は親の敷いたレールに従って走る者”という今の彼の持論へと姿を変える。ジェターク寮を己の
その嫉妬の矛先をかつての女達だけでなく、唯のグラスレー社の一社員から自分より上の存在に成り上がったデリングにも向け、暗殺を
「……暗愚なのは、俺の方だったんだな」
幸せを願っている
そんな事を続けていたら、逃げられても仕方ない。
そうごちて、再び自嘲の声を漏らしたシャドウヴィムは、
「……ほら」
グエル達へと手を突き出し、その中に握っていたオタカラを差し出した。
「これが欲しかったんだろ? ……やるよ」
「やっと渡す気になったの?」
判断が遅いよ、とエリクトが溜息を吐く。
それに対する返答か、はたまた単なる独白か判断が難しい曖昧な口調でシャドウヴィムが言葉を続ける。
「もう俺にこれは必要無い。……気づいちまったからには仕方ない、認めるよ。俺の間違いを、全部」
「なら、現実のお前が出したコイツらの退学申請も取り消すんだよな?」
腕を組んだモルガナが、グエルとレンに目を遣りながら確認を投げ掛ける。
二度目の決闘に勝利を収めたレンを排除しようとした事も、当人の意思を無視して一方的なレールの変更を決められたグエルへの仕打ちも、シャドウヴィムの言う間違いの一部だ。認めるのならば、相応に対処して貰わねばならない。
その対処を、分かってるよ、と力無い返答でシャドウヴィムが了承する。
「俺は、現実の俺の心に戻る。望み通り……退学申請は取り消す。それに、デリングを消そうとした事も――」
「クソ親父の事は黙ってなさい」
そう口を挟んだミオリネの言葉が予想外だったように、彼女の方へ顔を振り上げたシャドウヴィムが目を丸くする。
当然ながら、デリングの暗殺未遂も彼が認めるといった間違いだ。その件も併せて白状する気でいたのだろうが――それを押し留めるのも今回の目的の一つだ。
「どうせアイツの事だもの。殺されてたかもしれないって分かったところで、屁とも思いやしない。アンタの立場だって無駄に悪くなるだけだし、止めときなさい」
「いや、だが……」
「とんでもない事したとは思ってんでしょ? もう同じ事する気なんて無いでしょ? だったら、もうそれで良いわよ。――黙っときなさい、
改心の後に抱くだろう罪悪感に任せてヴィムが己の罪を白状すれば、彼だけでなくジェターク社も、グエルやラウダも破滅しかねない。それでは意味は無い。
それでもまだ承服し切れないのか、シャドウヴィムは何か言いたげだったが――暫しの間の後、分かった、と観念した様に顔を伏せた。
後は、遠慮無くオタカラを受け取るだけだ。
差し出されたままの父の掌の上で輝きを放つ、鎖で繋がれた二個1セットのホイッスルを。
それ向けて手を伸ばそうとしたグエルは、
「父さん」
しかしその手を一旦引っ込め、その場に膝を着いてシャドウヴィムと頭の高さを合わせる。
もう少しだけ、言っておきたい事があった。
「……何だ? ……まだ、させたい事でもあるのか?」
そう尋ね返して来た父は顔を伏せたままで、目線は合わない。
構わず、グエルは続ける。
「今回の事で俺は、お袋達の気持ちが分かったよ」
どうして母達はいなくなったのか?
幼少の、母が消えてすぐの頃は良く頭に浮かんでいた疑問の答えが、月日を重ねて気にも留めなくなった今になってようやく分かろうとは、思ってもみなかった。
その事を伝えると、そうか、とシャドウヴィムが消え入りそうな声で呟く。
「……俺は、アイツらが逃げて当然の事をしていた。それに気づかないで……お前や、ラウダにも……」
なら、仕方ない、と父の頭が小さく振られる。
母達に続いてグエルまでもがいなくなっても、仕方ないと。
だが、そうじゃない。
「違うよ」
グエルが言いたい事は、
「お袋達がいなくなった理由は理解したけど、だから
その真逆だ。
「グエル?」
伏せられていた父の顔が上がる。
驚きに見開かれたその双眸を、じっとグエルは見つめ返す。
「俺は父さんを捨てたりなんてしない。ラウダだってきっとそうさ。だって――俺達の親は、
どんな理由があろうと、自分達まで捨てた母達じゃない。
たった一人で自分達を育て、たった一人で会社を守り発展させてきた、この世にたった一人だけの、尊敬すべき男だけ。
「俺達の親は――
そんな父を見捨てるなど、有り得ない。
こうして抗った理由こそ母達が去ったのと似たものだったかもしれないが、だとしてもそれだけは、決して。
「俺はただ、分かって欲しかっただけだ。俺にも俺なりの考えがあって、譲れないものがあると。レールの上を走るだけの列車みたいに、何もかも父さんの言うがままにする事は出来ないと。――だから」
グエルは立ち上がる。
それに伴って自身を見上げる形になったシャドウヴィムを見下ろし、告げる。
「俺がもう父さんの息子じゃないなんて、そんな事――言わないでくれ」
「……」
父の眉間に皺が寄る。――怒りからではなく、悔恨から。
そうして目線を下げた父に、貰うよ、とだけグエルは断りを入れ、今度こそオタカラをその手から頂戴する。
それを横目に見届け、何も無くなった手を脱力した様に下ろしたシャドウヴィムが、ハァ、と一つ息を吐いた。
「分かって欲しかった、か。たったそれだけのために、自分に泥を付けた奴らと組んで、ここまでやったのか。……バカ息子め。その強情さ、一体誰に似たんだよ?」
呆れたようにそう尋ねるシャドウヴィムに、微笑みと共に、そんな決まってるじゃないか、とグエルは自信を持って返す。
「今まで俺が見て来た背中は、
「っ」
告げた途端、父の顔が
そして―― ほんの一瞬だけ、泣き出しそうな表情を浮かべた後――目を伏せて穏やかな微笑みを浮かべたシャドウヴィムは体から淡い光を放ち、その場から消え去った。
「父さん!?」
不意に光に包まれたシャドウヴィムにミオリネとエリクトは驚き、グエルが咄嗟に手を伸ばすが、その時にはもう彼の姿は何処にも無かった。
その現象に呆気に取られる三人に、大丈夫、とレンの声が掛かる。
「ジェタークのシャドウは現実の奴の心に還ったんだ。何も心配する事は無い」
「そ、そうなのか? ――なら、これで」
「ああ」
グエルの確認に、レンが頷く。
シャドウヴィムは、現実のヴィムの心に還った。必要な説得も済ませた。奴のオタカラも手に入れた。
――果たすべき目的が、今、全て終わったのだ。
「これで
告げられる終了宣言。
それがミオリネ達の耳に伝わり、彼女達の内から何かを急速に込み上げさせる。
歓喜だ。
通過点を無事通過出来た事。夢を守り切れた事。退学を回避し、学園に残れるようになった事。取引を続けられる事。その全てから来る突き上げるような喜びに、ミオリネは、グエルは、エリクトはその身を震わせる。
そして、誰からともなく、その喜びを声にして口から放とうとした、その瞬間。
「やった――うぇっ!?」
突然の揺れと地響きが彼女達を襲った。
不意の現象に直前まで口から出掛かっていたものも忘れ、何事かと慌てて周囲を見回すミオリネ達。
そこに、喜ぶのはまだ早いぞ、とモルガナの釘を刺すような声が。
「
「つ、つまりどういう事よっ!?」
「
そうモルガナが叫んだのとほぼ同タイミングで、凄まじい轟音と衝撃がミオリネの後方から発生する。
それに肩を跳ねさせた後に振り返ったミオリネが目にしたのは、
「ハァッ!?」
彼女の体などすっぽり覆えてしまえそうな、巨大な
つい先程まで存在しなかった筈のその瓦礫に仮面の下で目を剥くミオリネを余所に、続けて別の方向からも凄まじい破砕音が響く。
そちらに目を遣れば、今度は落下真っ最中の瓦礫が。
「おっ、おいっ!? どうなってるんだコレは一体!?」
「言ったろ、オタカラを奪えばパレスは
「
慌てふためくグエル向けて叫ばれたモルガナの返答に、驚愕の形相でエリクトが突っ込む。
そうしている間にも揺れや地響きは続き、格納庫内の天井が、壁が、キャットウォークが、立ち並ぶディランザが、次々に瓦礫と化して崩れていく。
もたもたしていては崩壊に巻き込まれるのは、火を見るよりも明らかだった。
「さぁ、逃げるぞ!」
こっちだ、と仮面を額まで上げ、一足先に駆け出すレンと、それに続くモルガナ。
そんな二人の背を、すぐ間近に落ちて来た瓦礫に背を押されるようにしながら、
「ま、待ちなさいよぉー!!」
一目散にミオリネ達は追い駆ける。
「おいっ! そっちはエレベーターじゃないぞ!?」
崩落して来る瓦礫の雨に追われるように走り続ける中で、ふとグエルが叫ぶ。
前方にはエレベーターが設置された壁が近づいて来ているが、肝心の出入り口は彼の指摘通り、レンが先頭を行く先には無い。
その代わり、ジグザグに曲がりくねった階段が天井まで伸びているが……。
「こんな状況でエレベーターなんか動いてるかよ!」
崩壊真っ只中の現状ではほぼほぼ停止。よしんば動いていたとしても、二階に辿り着く前に結局停止して立ち往生する可能性が高い。
振り返ってそう返すモルガナに、じゃあ、とミオリネは息も切れ切れに叫ぶ。
「あの階段上がるしかないって事!? あんな長いのを!?」
幾重にも折り
が、
「そうするしかないな!」
「うっそでしょぉ!?」
残念ながら、今はそれ以外に彼女達の道は無い。
振り返ってそう告げたレンから順に階段に飛び込んだ一行は、その間も変わらず続く崩落に悲鳴を上げながら、延々続く段の上を必死に走っていく。
そうして何とか階段を駆け抜けた先にあったのは、見覚えのある駅舎の二階の廊下だった。
「ここまで来れば! ――モナ!」
「あいよッ!」
レンの指示と共にモルガナが勢い良く前方へ飛び出し、中空で一回転。その身を黒い小型バス――モルガナカーへと変化させて着地する。
途端、その変化を初めて目にしたグエルの、おおっ、という仰天の声が上がる。
「何だ!? モナが車になった!?」
「言ってる場合じゃないでしょ!」
そんな彼を余所に、後部席のドアを開けたミオリネは一早くその中へ滑り込む。
それに続けてエリクトが右側から。遅れてグエルも左側から後部席に入り込んで来たところで、既に運転席でハンドルを握っていたレンが振り返る。
「全員乗ったか!?」
「乗ったよ!」
「良し!」
エリクトの返答に応じるや顔を正面に戻したレンがコンパネ上のスイッチを押し、モルガナのエンジンを掛ける。
「一気に駆け抜ける!」
「しっかり掴まってろよお前ら! いっくぜー!」
レンとモルガナがそう言うが早いか否かのタイミングで、モルガナが急発進。
それと共に掛かった強い慣性によって体を座席に押し付けられ呻くミオリネ達の視界の先で、崩壊し続ける廊下が前から後へと流れていく。
分かれ道を左に曲がり、その先に現れた改札機を跳ね飛ばして連絡通路へ。
あちらこちらから凄まじい勢いで
そうして躍り出る。――エントランスの、
『うわああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ~~っ!!』
襲い掛かる恐ろしい浮遊感。
それと反比例してモルガナが緩やかな放物線の描きながら落下し、そのまま強化ガラスが張り巡らされた正面玄関目掛けて突っ込む。
そして――。
※推奨BGM:Regret
次回、現実へ帰還!
こうご期待!