ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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長らくお待たせいたしました!

何かSNS規制が決まったとか何とかで、言論統制とか危ぶまれる今日この頃。何だか日本人が水星世界のアーシアンみたいな立場に追いやられてしまうんじゃないかと不安になりつつ、そんなの気にせず投稿するよな35話、はーじまるよー!


#35 Mementos is masses Palace.

「ええっ!? それじゃあCEO、本当に改心とかってのされちゃったんすか!?」

 

 整えられた木々や植え込みが両側に並ぶ学園屋外の道。緑色のアスティカシアの制服を(まと)った生徒達が行き交うその中で、驚きのままにフェルシーは声を上げた。

 すぐさま、声がデカい、と隣を歩いていたペトラから飛んで来た鋭い叱責に彼女は慌てて口を塞ぐ。

 だが時既に遅く、周囲にいた生徒達の大半が足を止めて彼女達を、そして先を行くラウダとグエルの方を見ていた。

 その注目と好機の視線にすぐに()(たま)れなくなってしまったフェルシーはどうすれば良いか分からず、グエルが鋭い視線で周囲の生徒達を見回し、その視線を強引に()らさせるまで、苦笑いを浮かべ続けるしかなかった。

 

「――父さんの事は他言無用で頼むぞ、()()な」

 

「す、すいません……」

 

 溜息を吐くグエルにフェルシーは頭を下げる。

 実のところ、ヴィムが改心したという話は既に学園内でもちらほらと噂されている。あくまで根も葉も無い噂話程度のレベルで、強いて言えば、彼に強制退学の宣言を受けた筈のレン・アマミヤ(憎きアーシアン野郎)が未だに学園に居座っている事が状況証拠になるかどうかといったくらいだ。

 なので、ヴィムに最も近しい存在であるグエルとラウダに事の真偽を確かめたフェルシーとペトラであったが、その結果が如何なものだったかは敢えて語るまい。

 

「正直言って、僕達も何が何だか未だに分かってないんだ」

 

 一旦足を止めていた四人は、再び歩き出しつつ話を続ける。

 

「ただ、この前急に父さんに呼び出されたと思ったら謝られて、兄さんがあの水星男に負けたのも自分のせいだって非を認めて……」

 

「CEOが、ですよね? その……個人的な印象なんですけど……CEOってそのぉ、何というか……人に謝ったり、自分の決定を変えたりってイメージが無い、っていうか……」

 

 髪を(いじ)りながらのラウダの説明に、ペトラが言葉を選びながらも率直な意見を告げる。

 言葉にこそしないが、彼女のその言葉にはフェルシーも同意するしかない。

 そしてグエル達もペトラの言葉に反感や怒りを見せる様子は無く、代わりに筆舌し難い複雑な面持ちがその顔に浮かび上がる。その表情が、息子である彼らから見ても以前までのヴィムの印象は彼女達のそれと大差無いという証明であった。

 だからこそ、そんなヴィムがそれまでの態度や決定を180度引っ繰り返すような言動を取ったというのは彼女達にとって全く信じられない話だった。

 それこそ――。

 

「……やっぱり、盗まれちゃったんですかね? 心」

 

 あの予告状に記載してあった一文。

 それを恐る恐るの体で思い出しながらフェルシーが口にするや、即座に、馬鹿馬鹿しい、とラウダの否定が返って来る。

 

「心を盗むなんて、そんなオカルト染みた真似出来る筈が無い。きっと何か、別の事を父さんはされたんだ」

 

「その何か、っていうのは?」

 

 何気無くペトラが返したその質問に、ラウダが言葉を詰まらせる。

 ぱっと思いつくのは脅迫の類だろうが、ヴィムには――少なくともフェルシーの印象では――そういうのが効くようには思えない。

 というか、思い返せば予告状を見つけた当日の時点から急にヴィムの様子が変わったような気が……?

 

「――兄さん!」

 

「ん?」

 

「兄さんはどう思う?」

 

 そんな風に自分に話が振られるとは思ってなかったのか、問われたグエルが一旦足を止め、そうだな、と頭を掻きながら思考する。

 

「――本当に心とやらを盗まれたのか、それとも別に何かされたのかは分からん。ただ、そうでもなければ考えられないような心変わりを父さんがしたのは事実で、怪盗団とやらが父さんに何かをしたのなら許すべきじゃないとは思う。――()()()()()()()()()()()()()()、な」

 

 そうグエルが語った言葉には、何か含みが感じられた。

 その含みの正体は、

 

「正直なところ、俺は父さんが改心して()()()()()()()()()()

 

続けて彼自身の口から語られる。

 

「えっ? そうなんですか? でもCEO、人が変わっちゃったって」

 

「ああ、変わった。――昔の、優しかった頃の父さんに戻ったみたいにな」

 

 ヴィムはもう、怪盗団なる連中から予告される前までのヴィムではない。卑怯卑劣な手段に訴える事を(いと)わず、子供だからと自分達を信用せずに勝手な振舞いばかりしていた少し前までの彼は、もういない。

 その点については、息子としては(むし)ろ嬉しくすら思っている。――そう語るグエルを、兄さん、とラウダが(いさ)めようとするが――。

 

「お前の方はどうだ、ラウダ?」

 

「え?」

 

「今の父さんの事、お前はどう思ってる? 今の父さんと、少し前までの父さんと、お前はどっちが良かった?」

 

「それは……」

 

 投げ掛けられた質問に、ラウダが言い(よど)む。

 その様子が、そのままヴィムの変化に対する彼の答えであるといえた。

 

「もちろん、こんなの表立って言えた事じゃない。それは分かってる。ただ、俺は俺達の事を信じていると言ってくれた今の父さんの方が良いし、父さんがそんな風に戻ったのが本当に怪盗団とやらの仕業だというなら、そいつらに感謝しても良いとさえ思っている」

 

 それが俺の率直な気持ちだ。

 そう締め括るグエルに、フェルシーは何と言えば良いのか分からなくなってしまう。

 はっきり言ってしまえば、(おおむ)ね彼に同意だった。グエルやラウダの言葉を聞く限り、改心したヴィムの方が以前までのヴィムよりも好感を持てそうだし、尊敬する先輩達である当の二人もそちらの方が良いと感じているならばそれを否定する気も無い。

 ただ、自身の父親がジェターク社に勤めている彼女の立場としては気軽に口に出せる話ではないし、そもそも怪盗団なる謎の集団の仕業でヴィムが変化した可能性が高い点についてはグエルのようにすんなりとは受け入れられなかった。

 そんなフェルシーの内心と同じようなものをペトラやラウダも抱いているようで、二人も複雑な表情で黙るしかないようだった。

 と、その時であった。

 

「ニャー」

 

 歩き続けていた四人の進路上に何かが入り込んで来たのは。

 他の面々と共に足を止めたフェルシーは、視線の先に認めたその何かに片眉を上げる。

 果たしてそれは、一匹の猫であった。

 

「あれ? あの猫って確か――」

 

 黒を基調に口周りと耳の中、四足と尾の先が白いその猫に、フェルシーは見覚えがあった。

 確か、グエルとレンとの一回目の決闘のすぐ後、グエルが壊した温室の修繕にペトラとラウダと共に向かった時にミオリネと一緒にいた筈だ。

 その猫が蒼い瞳でフェルシー達の方を見上げ、ニャーオ、と一鳴きとした思いや、すぐにその場から駆け去って行く。

 そうしてあっという間に姿が見えなくなってしまった猫に、何がしたかったのか、とフェルシーがペトラと顔を見合わせて首を傾げていると、

 

「――用事を思い出した」

 

唐突にグエルがそんな事を言い出した。

 

「悪いが少し離れる。お前らは先に戻っててくれ」

 

「え? ちょっ――兄さん!?」

 

「どこ行くんすか先輩!? グエルせんぱーい!?」

 

 咄嗟にラウダと共に呼び止めようとしたフェルシーであったが、その声が聞こえていないかのようにグエルは駆け出し、すぐに彼女達の視界からその姿を消してしまう。

 まるで、先程の猫の後を追うように。

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#35 Mementos is masses Palace.

 

 

 

「――で、どうして()()に集まる事になったんだ?」

 

 そう尋ねつつ、グエルは辺りを見回す。

 先程ラウダ達と共にいたところに現れたモルガナに来るように言われたため訪れた、学園前のモノレールの駅の中を。

 水色を基調とし、ヴィムのパレス内でも見られた物に近い薄緑色の制服姿の駅員や搭載したハロの制御によって動くロボットに、時折彼らの案内を受けたり複数人集まって談笑したりしている学園の生徒達が(まば)らに見られる駅構内。

 その隅に間隔を開けて設置された二台の自動販売機の間のスペースに身を隠すようにモルガナと共に入り込んでいたレンに、そうよ、と同じく身を収めていたミオリネがブーツの踵を強く踏み鳴らす。

 

「やっとクソ親父改心させてムカつく賞品(トロフィー)扱いから解放されると思ってたのに、()()()ってどういう事よ? おまけに、態々こんなトコまで連れて来て」

 

 ちゃんと納得出来る理由聞けるんでしょうね、と眉をピクピクひくつかせて問うミオリネの様子は、傍から見ても苛立っていると分かるものだった。

 そうも彼女の機嫌が悪い理由はモルガナ曰く、今はまだデリングを狙わないと伝えたから、だとか。

 それは当然だな、というのが答えを聞いた時のグエルの率直な感想だった。

 日頃からデリングを嫌い、事ある事に脱走を図っていたミオリネにとって、異世界を使った彼の改心という手段は正に天恵(てんけい)。今すぐにでも成し遂げたい解放と自由への近道だろうに、それが後回しにされると言われれば彼女としても黙ってはいられまいだろう。

 一方、そんなミオリネの突き刺すような視線を受けるレンはといえば、特にそれに(おく)した様子も無く、いつも通りのハーフパンツのポケットに両手を突っ込んだ姿で答える。

 もちろん、と自信の感じられる声で。

 

「但し、()()ではまだ話せない」

 

「ん?」

 

「ハァ~!?」

 

 瞬間、声を荒げたミオリネが腕組みを解き、レンに掴み掛ろうとする。

 それを、落ち着いて、と両の掌を突き出して押し留めるレンに、どういう事だ、とグエルは尋ねる。話すためにこの場に足を運んだのではないのか、と。

 その質問に対して、レンの足元にいるモルガナが代わりに返答する。

 

「確かにここに来たのは、お前らにワガハイらの目的を教えてやるためだ。だが、ここで話すためじゃない。話してやる場所へ()()()()だ」

 

「行くため、って事は――モノレールに乗るのか?」

 

 ここでしか乗れないモノレールで学園を離れ、人の寄り付かないエリアへと移動するためと考えれば、態々駅まで移動したのも納得がいく。

 そう思って訊き返したグエルの答えは、しかし、惜しい、とモルガナにチェーン部分を(くわ)えられたホッツさんのキーホルダー(エリクト)によって否定される。

 

「ここからじゃないと行けない場所なのは()()()()()んだけど、モノレールには寧ろ()()()()()()()()()()()

 

「? 何を言っている? モノレールに乗る以外に、別の場所に行く方法なんて――」

 

「あるでしょ? ほら、ボク達()()が行ける場所が」

 

「――まさか」

 

 意味深なエリクトの言葉に、一つだけグエルの中に想起される可能性があった。

 その可能性が正しいと示すように、レンがハーフパンツのポケットに手を入れ、中から何かを取り出す。

 そうして、取り出した何か――電子生徒手帳を顔の傍まで近づけた彼は、

 

()()()()()

 

恐らくはこれから向かうであろう行先の名前を手帳へと告げた。

 

 

 

<キーワードが入力されました。案内を開始致します>

 

 生徒手帳に――起動済みのイセカイナビにレンが予想外の行き先を告げ、それに反応したナビが電子ガイダンスを返す。

 その様に、なっ、とミオリネが銀の双眸(そうぼう)を見開いた時にはもう時遅く、打ち寄せる赤と黒の波紋に覆われた視界が再びクリアになったその時には、既に周囲は先程までの駅構内の情景から一変。金属板や機器の組み合わせで構成された壁で囲われ、赤黒い血管染みたパイプがそこかしこに渡された、()()()()()()()()へとすり替わっていた。

 その赤みを帯びた薄暗さに()()()()()()()()事を否応無く突き付けられたミオリネは、あ゛~、と両腕を垂らして項垂(うなだ)れるしかない。

 一方で、

 

「な、何だここはっ!?」

 

初めてこの場に訪れる事となったグエルは、衝撃と狼狽(ろうばい)のままに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ピンク色の前髪ごと首を振り回していた。

 

「さっきまで駅だった筈だろ!? 一体何が――いや、それより()()()()――!?」

 

「……()()()よ」

 

 変わったのが場所だけではない事に気づいたグエルに、項垂れたままのミオリネはうんざりしながら答える。

 そう、ここは初めて彼女が足を踏み入れた異世界――メメントスだ。だから、ミオリネもグエルも既にその身を覆う衣服が制服から怪盗服へと変化している。

 もちろん対面のレンもそうだし、彼の左右には二頭身のマスコット体形になったモルガナも、怪盗服姿の実体で現れたエリクトもいる。

 

「異世界だと? なら――この不気味な場所は、誰かのパレスって事か? 一体誰の?」

 

 改めて周囲を見回してからグエルが尋ねて来る。

 それに、あ゛ー、と気怠(けだる)さを覚えつつも返答しようとしたミオリネよりも一足早く、

 

()()()だ」

 

「ん?」

 

モルガナが答える。

 

「このメメントスはな、大衆(みんな)のパレスなんだ」

 

 (いささ)か引っ掛かる答えを。

 

「ちょっと待ちなさいよ。メメントス(ここ)って、パレスなの?」

 

 確か、メメントスは認知の異世界の内の一つで、入り込む際にはパレスとは違ってキーワードを必要としない、という話だった筈だ。

 そういう風に聞いていたから、てっきり別物だと考えていたのだが……。

 

「人の心はな、“集合的無意識”で繋がってるんだ」

 

「集合的無意識?」

 

 腕を組んだモルガナが告げたその言葉は、ミオリネにも聞き覚えのある言葉だった。

 

「それって、アレよね? “人間が生まれながらに持ってる共通の無意識”って奴」

 

 普遍的無意識や集団的無意識とも呼ばれる、国境や人種の垣根(かきね)を超えた精神の深層下に存在する構造領域を表した概念(がいねん)。遠く離れた地に住む人々が同じように雷や嵐のような超自然的な現象に神魔の存在を見出したのも、各々の裁量でそれらを(まつ)り生み出した神話や宗教が実体は良く似通ったものであったりするのも、この集合的無意識による繋がりの影響だとされている。

 

「おっ! 学園で教わる様な事じゃねぇのに良く知ってたな? どっかの()()()()()()()()なんて名前出す前から“私全く分かりません”って顔してたのに。ひょっとして、精神学とか興味あんのか?」

 

「――偶々(たまたま)よ」

 

 感心気に褒めるモルガナにミオリネは素っ気無く返す。

 本当に偶然知っていて、偶然それを思い出しただけだ。意図して調べたりした事も無ければ、いつどこで知ったのかも覚えていない。

 

「――まぁいいか。話を戻すが、さっきも言った通り人の心は集合的無意志で繋がっている。当然、()()もな」

 

 欲望は心から生まれるものなのだから、それもまた集合的無意識を介して繋がっていてもおかしくはない。

 そしてまた、その欲望から生じた()()も。

 

「ジェタークで分かったと思うが、個人(そいつだけ)のパレスがあるって事は、パレスが生まれる程強く歪んだ欲望をそいつが抱えているっていう事でもある。普通の奴じゃ考えられないような()()()()()()、な」

 

 逆に言えば、大抵の人間は個人のパレスを持てる程の強い欲望や歪みを抱えていないという事だ。

 だが、それは欲望そのものが無いという意味では無い。欲望そのものは生きるための原動力であり、それ自体は間違い無く誰しもが持っている。一人一人ではパレスの主に及ぶべくもない微々たるものだが、小さなその欲望や歪みは集合的無意識を通じて一つに寄り集まり、一つの大きな欲望へと変化するのだ。

 

「そうして出来上がった欲望から生まれたのが、このメメントスってワケだ」

 

「――だから()()()()()()

 

 不特定多数の人々の欲望の集まりから生み出されたこの世界は、確かにそう表するのが相応しかった。

 が、メメントスが如何なるものか、なんて事はどうでもいい。

 今ミオリネが知りたいのは、

 

「――で、結局()()って何なの?」

 

レンが話すと言った()()とやらであり、ひいてはデリングの改心を後に回すといった理由である。

 

「態々()()()()()()()に連れて来たのは、それを話すためでしょ?」

 

 腰に手を当てて、(とげ)を隠さない口調でミオリネは問い詰める。

 以前ちょっとした事故でメメントスに迷い込んだ彼女にとって、この世界は全く良い思い出が無いどころか、苦手意識すら抱えている。今すぐにでも現実へ戻りたい、というのが正直なところで、そうしていないのはまだ本題を確かめられていないからに過ぎないのだ。

 だからこそ、さっさと知るべき事を知りたい。

 

「言いなさいよ、いい加減に」

 

「――分かった」

 

 ミオリネが向けた鋭い視線に、レンが穏やかな笑みで応じる。

 

「まずは――そうだな。()()()()()()()()()()()()()は先に話しておこうか」

 

「!」

 

 レンの発言にミオリネは細めていた目を見開く。

 早々に本題が聞けるとは、彼女も思ってみなかった。

 それ故に聞き逃すまいと耳を傾ける彼女へと、レンがその答えを告げる。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「――ん?」

 

「今の段階で総裁を改心出来たとしても、心の怪盗団(ザ・ファントム)()()()には繋がらない。狙うにはまだ早すぎるんだ。――それが、総裁を後回しにする理由だよ」

 

「? どういう事?」

 

 デリングを狙うのはまだ時期尚早(じきしょうそう)である――という以外はさっぱり分からないレンの答えに、ミオリネは眉根を寄せる。

 それに対してレンは再度説明し直すでもなく、コートの(すそ)(ひるがえ)してその場で反転。

 

「詳しくは()に進んでから話すよ。――メメントス(ここ)の仕組みも関わって来るんだ、()()()()()()()の方が分かりやすい」

 

 もう少しだけついて来てくれ、とだけ告げて奥の方へ進み、後に続いたモルガナとエリクトと共にその先にある改札口を抜ける。

 そのまま、更に先にあるエスカレーターを降りて行く彼らの背を、お、おい待てっ、と慌てて駆け出したグエルに続く形で、疑念を拭い切れないままミオリネは追い駆けた。

 

 

 

 それから数十分後。

 エスカレーターを降りた先で既に車へと姿を変えていたモルガナへと乗り込んだミオリネ達は、運転席に乗ったレンの操縦のままに走るモルガナに揺られながら――時折現れるシャドウを倒したり撥ねたりしながら――メメントス内を駆け抜け、その先にあった下りのエスカレーターを徒歩で降りたところだった。

 

「――ここだ」

 

 先頭を進んでいたレンがそう告げたのは、降りた先にあった幅広の通路の、その先。左右に欄干が渡されたその通路を進み、一直線に伸びるその先に(そび)え立つ壁の傍まで辿り着いた時であった。

 正面に広がる、黒地に赤いラインが幾重にも走る見るからに頑強そうな黒い壁。

 その壁に近づいたレンが振り返り、後に続くミオリネ達に問う。

 

「この()、どう思う?」

 

「どうって――」

 

「――ビクともしなそうというか、そもそも扉なのか?」

 

 仮面越しでもそうと分かる程に怪訝な表情で返答したグエルには、ミオリネも同意しか無い。

 壁は遠目から見ても重厚な威圧感を放っており、スイッチや取っ手の類が無いのも相まって、扉の様に開いたり動いたりする様などまるで想像出来ない。

 そんなミオリネ達の印象には当のレンも同意だったのか、そうだね、と彼からは肯定が返って来る。

 

「見ての通り、この扉は固く閉ざされている。ぱっと見壁にしか見えないし、もちろん力ずくじゃ開けられない。――だけど、俺達はレーベの父親を改心させた」

 

 そう語りながら黒い壁のすぐ前まで足を進めたレンは、

 

()()()()()()()()()()()()を突き付けられ、ここ2,3日で噂程度とはいえ()()()()()()()()()()()()()()()()()()なら――」

 

右の掌をそっと壁に触れさせる。

 すると、黒い壁に走っていた赤い線が一瞬だけ眩い光を放ち、続けて線に沿って壁が分割。細かく分かれたそれらが外側の壁の中に引き込まれた事で穴が解放され、その奥に続くエスカレーターが(あら)わになった。

 その様に微かに驚くミオリネとグエルの前で、モルガナと共にレンのすぐ後ろに続いていたエリクトが、やったね、と声を上げた。

 

「これでボク達、もうここ通れるくらい皆に()()()()()って事だよね?」

 

 その問い掛けに、そうだぜ、と笑みを浮かべたモルガナが応じる。

 

「まだまだ多くはないが、怪盗団の名前が()()の奴らに知れ渡ったって証拠だ。先の扉はまだ開かねぇだろうけど、それもこうやって目ぼしい奴の改心を続けていけば――」

 

「“あの子”のところに行ける――だね!」

 

「ああ。――そして“奴”にも……」

 

「ちょ、ちょっとちょっと!」

 

 何やら勝手に話を進めて行くエリクトとモルガナに置いてけぼりにされそうな気配を感じたミオリネは咄嗟に声を上げ、慌てて彼らの方へと駆け込む。

 

「さっきからアンタ達だけで何話してんのよ? 話がまるで見えないんだけど?」

 

「予告状や認知がどうの言ってたが、それが壁が開いたのと何か関係あるのか?」

 

 後から来たグエルが、分かるように説明しろ、と訴える。

 それに、そうだな、と応じたレンがモルガナとエリクトを引き連れてミオリネ達の方に戻り、説明を始める。

 

「さっきモナが話していた通り、メメントス(ここ)大衆(みんな)()()()だ。言い換えれば、ここは主である()()()()()()()()()()()()って事だね」

 

「――そうなるわね」

 

 パレスは主の認知の影響を受ける。――その実例として分かりやすいのは、予告状を使ったオタカラの実体化だ。アレも、要はオタカラを奪われるという認知を引き出し、その影響によってオタカラの実体化という現象を起こしているのだ。

 

「ジェタークに予告した時、予告状を見たのは奴だけじゃない。ジェターク寮の寮生や、他の寮の奴らとかも集まって見ていた。――心の怪盗団(ワガハイら)の名前入りの予告状を、な」

 

「そして、実際にジェタークは改心した。あくまで真偽の分からない噂扱いだけど、その事はこうしている今も学園内でも話されている」

 

 そうして彼らは知った、心の怪盗団(ザ・ファントム)の名を。もしかしたら本当にいるのかもしれないと、()()()()

 

「――つまり、こういう事か? あそこが開いたのは、父さんの一件で怪盗団の事を知る奴が増えたから、と?」

 

 暫しの思案を挟んでから告げたグエルに、その通り、とレンが頷く。

 

「あの扉は大衆の認知を得られると開くんだ。あそこの先――奥には同じ扉があって、同じように大衆に認知される事でそれも開く」

 

 そしてその先にも、またその先にも――。

 大衆の認知を得られる程に開く扉は増え、更に奥深くへ進む事が出来る。――メメントスとは()()()()場所なのだ、とレンが語る。

 だとすれば――。

 

「――もしかして、それがアンタ達の言う目的?」

 

 より多くの大衆の認知を得て、よりメメントスの奥深くへ進む事が。

 ここまでの話から導いたミオリネのその推論に対して返って来た答えはこうだった。

 

()()正解」

 

「ほぼ?」

 

 つまり、完全な正解ではないという事か?

 その答えは、

 

「大勢の人に認知されてメメントスの奥へ進もうとしているっていうのは正しいんだけど、それはあくまで()()だ。そうする目的は()()()()。それは――」

 

「――“あの子”を()()()()()だよ」

 

レンの言葉を途中で(さえぎ)ったエリクトの口から語られる事となった。

 




次回、遂に“あの子”の事が明らかに……?

こうご期待!
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