ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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お久しぶりです! またもとびきり長くお待たせ致しまして、申し訳ありませんでした!

今回はアジト決定&打ち上げ会! ポ〇モンのス〇レンみたいな顔して中身ラン〇ーなハリキリ☆ママ魔女シイコさんに合唱しつつ、マチュ達はどうやったって逃げ出す事は出来ねぇコロニーの中から飛び出して満足するしかねぇ! な第37話、はーじまるよー!


#37 Why did you decide to create a group of Phantom Thieves of Hearts?

「――で、いつまで()()()()でいるんだお前は?」

 

 アスティカシア高等専門学園、3年生の教室。

 その日の授業を全て終え、教師がその場から去ったのを契機に各々の席から腰を上げた生徒達が帰り支度を始めたり集まって談笑し出したりする中、同じように席を()とうとしたレンは、矢庭(やにわ)に席の前に来たグエルからややぶっきらぼうな口調でそう尋ねられたため、首を傾げた。

 

「その恰好、っていうと?」

 

「制服だ、制服! いつまで()()()でいる気だ、お前は()()()()()()()()?」

 

 そう指摘されて、ようやくレンはグエルが言わんとしている事を察し、同時に覚えたばつの悪さから癖毛を()まんで(いじ)りつつ、逆に問い返す。

 

「――()()、着ないとダメかな?」

 

 アレ、とはすなわちホルダー専用の制服の事だ。

 総裁の娘ミオリネとの暫定婚約者にして、次期ベネリットグループ総裁候補である事を表すホルダーの称号は重い。それ故、新たなホルダーとなった者はその瞬間から専用の制服とパイロットスーツを身に着け、自らの存在を周囲に誇示(こじ)する事を義務付けられる。現在の総裁候補が自分である事を他の生徒達に。――その座を狙う他の者達に。

 だが、グエルとの二度目の決闘を終えて正式なホルダーとなった後も、レンはホルダー専用の制服を身に着けず、一般生徒用の緑色の制服のままだった。

 それが何故なのかといえば――。

 

「……好みじゃないんだけどなぁ、()()()()()は」

 

「好み、って……何だそれは……」

 

 レンが告げた理由に、グエルがガクリ、と肩を落として呆れ返る。

 

「てっきり父さんの事があったから自粛(じしゅく)してたもんだとばかり思ってたのに……お前なぁ……」

 

「――それも理由には違いないんだけどな」

 

 やはりホルダーの制服を着用しない理由として一番大きいのは、その色合いであった。

 それが何故なのかは――机の上に置いていた鞄の隙間から顔を覗かせたモルガナが、まぁ、分からないでもない、と代弁する事となった。

 

「あの服の色は確かにお前には似合わねぇだろうなぁ。――どっちかっていうと“アイツ”のイメージっぽいし」

 

「……」

 

 モルガナが口にした“アイツ”という一言が、レンの目元を微かに伏せさせる。

 他方で、そんな彼の小さな変化はグエルの目には入らなかったようで、

 

「――ともかく、だ!」

 

ガシガシ、と自らの頭を掻き(むし)りながら、彼は敢然(かんぜん)とした物言いで要求して来る。

 

「専用制服にするのはホルダーの義務だし、お前がそんなんじゃ俺も張り合いが無いんだよ!」

 

「――どっちかっていうと()()が本命だよね? レンに着せたい理由」

 

 モルガナと一緒に鞄に入れていたキーホルダーから飛んだエリクトの揶揄(やゆ)に、一つ鼻を鳴らしたグエルが、そうだよ、と堂々と返す。

 グエルは以前もレンとエリクトからホルダーの座を奪い返すと宣言していた。そんな彼にしてみれば、レンがいつまでも専用制服に切り替えないのは自分がいずれ取り返す称号を隠されているようで面白くないのかもしれない。

 であれば――。

 

「――分かったよ」

 

 どうせ個人的な好み以外で拒む理由も無い。

 肩を(すく)めて観念したというジェスチャーをして見せたレンは制服のポケットから電子生徒手帳を取り出し、具体的な手順をグエルに尋ねながらそれを操作していく。

 作業はほんの数十秒で完了。それに伴って服に変化が現れ、物の数秒で塗り替わるようにその色合いが変わる。

 元の緑を基調に赤と黒が配された一般生徒用の制服から、白を基調により深い黒と(きら)びやかな金が配されたホルダー専用の制服へと。

 かつて自身も身に着けていたその配色パターンの制服が現れた事に、良し、と満足げにグエルが頷く。

 その一方で当のレン自身は切り替わった自分の恰好を確認して、う~ん、と予想済みだった自分と専用制服とのミスマッチング具合に不満の声を漏らす。

 

「……やっぱり“アイツ”向きだよ、これ」

 

 一般生徒用の物には無い(つや)やかな刺繍(ししゅう)も加わったホルダー制服の様相はまるで童話の王子様の衣装か何かのようで、やはり自分よりも“彼”――かつて探偵王子の再来と呼ばれて一世を風靡(ふうび)した事もあった好敵手(ライバル)の方にでも着せた方が似合っていると思えた。

 まぁ、厳密には彼の表面(おもてづら)の方に、だが。

 と、その時であった。

 

「……ふざけやがって、アーシアンめ……」

 

 どこからか舌打ち混じりの呟きが聞こえてきたのは。

 

「……何が好みじゃないだ。薄汚い地球生まれが調子に乗りやがって……」

 

「……どうせホルダーだって卑怯な手で手にいれた癖に……」

 

「……お呼びじゃないのよ、貧乏人。さっさと学園(ここ)から消えてよ……」

 

 続けて耳に入って来る罵倒。

 いずれも違う声で吐かれているそれらに、レンは、やれやれ、と息を吐く。

 出元は現時点で彼とグエル以外に教室に残っている生徒達だという事は当に分かっているし、もっといえばこういう陰口は今初めて(ささや)かれ出したワケでもない。今朝教室に来てからも――いや、グエルとの二度目の決闘に勝利してすぐにヴィムからアーシアンだと吹聴(ふいちょう)された翌日から、ずっとこの有様だ。

 地球出身者(アーシアン)は大半の宇宙出身者(スペーシアン)から差別される、とは事前にエリクトから聞かされていたし、かつて傷害の濡れ衣を着せられていた時も周囲からの扱いは似たようなものだったのでレン自身は大して気にしてはいないが、だからといって愉快とは言えない状況ではある。

 とはいえ、今のところ周囲の生徒達からはやっかみを向けられる以上の事はされていない。

 (まが)いなりにも最強の証を得たから、というのもあるだろうが、恐らくはそれ以上に、

 

「……グエルもグエルだ。あのアーシアンに二度も負けてホルダー取られたのに、何尻尾振ってんだか。アレじゃあ御三家の恥さらし――」

 

「おい」

 

その証を奪い取るに至ったグエルの存在が大きい。

 

「さっきから鬱陶(うっとう)しいぞ。気に入らん事があるなら陰で(ささや)いてないで、面と向かって言いに来い」

 

 そうグエルが首を巡らせ、鋭い視線を辺りへ振り撒いた途端、延々続いていた周囲の囁き声はピタリと止み、同時にグループを作っていた生徒達の何人かが逃げるように教室から出て行く。

 その様に、フン、と鼻を鳴らすグエルに同調するように、なっさけな、とエリクトが続く。

 

「そんなに睨まれたくないんなら、最初から下らない陰口なんてしなきゃ良いのに。ホントしょーもないなぁ、この学園の奴ら」

 

 彼女のその言葉通り、生徒達が陰口を止めたのはグエルに睨まれるのを恐れたからだ。

 ホルダーで無くなり、更にはアーシアンに二度も負けたという汚名のせいで以前程ではなくなってしまったようだが、それでもグエルはベネリットグループ御三家の御曹司。その肩書の強力さと長い無敗記録を築き上げてきた彼自身のMS操縦の腕は未だ健在だ。

 そんなグエルと、()()()()()()()彼に二度も泥を付けた怨敵である筈のレンが仲良くしている。その有様に他の生徒達は疑惑と不満を抱きつつも、下手にレンにちょっかいを掛けた結果彼まで敵に回しては洒落にならないため大きく出られない、というのが現状であった。

 まぁ、彼と離れている場合は話も変わって来るが。

 

「決闘の一つも挑む度胸の無い連中なんかどうでもいい。――それより、()の件なんだが」

 

 陰口をしていた生徒達への侮蔑を吐き捨てたグエルが、一転して微妙な表情を浮かべて問うて来る。

 

「その――本当に行くのか? “あそこ”に?」

 

「ああ」

 

 彼が何について問うているのかは考えるまでも無かった。――“アジト”の事だ。

 昨日の放課後、レンは自分達の目的をミオリネとグエルに明かすと共に、今後の心の怪盗団(ザ・ファントム)活動拠点(アジト)として良い場所が無いか尋ねていた。その候補に当てがあるというミオリネからのメールが、正午過ぎに二人に送られていたのだ。

 さて、問題の候補たる場所だが、未だに踏み入った事も無いそこに対するレンの評価は、すでにしてかなり高いといえた。

 

「立地的にも()()()()()人が寄り付き難いし、ミオリネの目的的にも()()()()()()()()()()からね」

 

 実際に(おもむ)いて内部を確認する必要はあるが、その結果が余程問題あるもので無い限りはそこで決定するつもりですらある。

 一方でグエルの方はそうでもないようで、レンの返答を聞いてもなお微妙な表情は晴れない。

 奇妙そうにモルガナがその理由を問い質してみれば、神妙な面持ちで彼が返したのは――。

 

「――ミオリネの奴、確かに“あそこ”に()()()()()()()筈なんだが」

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#37 Why did you decide to create a group of Phantom Thieves of Hearts?

 

 

 

「やっと来たわね」

 

 待ち草臥(くたび)れたわ、と嘆息するミオリネの出迎えをグエル達が受けたのは、彼女がアジトの候補として提案した場所に到着して早々の事だった。

 そんな彼女に特に気分を害した様子も無く、待たせたね、と返したレンが、続けてその室内を見回しながら感心気に述べる。

 

「人目に付きにくい地下道っていうルートで、広さも中々――うん、君のメールに書いてあった通りだ。良いね、“理事長室”」

 

「でしょう?」

 

 レンが下した評価に、ふふん、とミオリネが気分良さげに鼻を鳴らしながら周囲を見回す。

 その場所――アスティカシア高等専門学園の“理事長室”の内装を。

 ベージュの壁に囲まれた室内は一部巨大な機械にスペースを占領されてこそいるが中々広く、怪盗団のメンバーが集まって話し合うには十分なスペースが確保されている。部屋の一画や壁際で葉を青々と生い茂らせている水耕植物も、部屋の無機質さを抑える良い中和剤として機能している。

 

「ここで君は生活しているって聞いたんだけど?」

 

「そうよ。元はクソ親父の部屋だけど、私が奪ってやったの」

 

 本来のこの部屋の所有者は学園の理事長も兼任しているデリングなのだが、当の彼が理事長室どころか学園に訪れる事は滅多に無い。そういうワケで年がら年中無人のこの部屋をミオリネが占拠し、自らの私室として遠慮無く使っている――というのは一部の生徒には良く知られている話だ。

 

「アジトにするって事は、当然ここで怪盗団の事を話し合ったりするって事ね?」

 

 つまりは、ミオリネにとっての最大の目的であるデリングの改心の事も。

 それが良い、と彼女の口角が吊り上がる。

 

「ここ使ってんの、ぶっちゃけアイツへの嫌がらせ半分なの」

 

 そういう理由で使っているこの理事長室で、本来の部屋の主であるデリングの改心を企む。――まさに彼への皮肉と嫌がらせの極致だ。

 それが気に入ったからこそ、自らの私室の一部を貸し与える事を良しとしたと、ミオリネは語る。

 そしていざ内見(ないけん)に来てみれば、レンからは事前に彼が言っていた通りの高評価が下された。――今後の怪盗団のアジトは理事長室という事で、ほぼ決定と見て良いだろう。

 ただ、

 

「……ちょっと良いか?」

 

いくつか気になる箇所もある。

 

「? 何よ、何か不満?」

 

「いや、部屋そのものに文句は無いんだが――」

 

 怪訝な視線を向けるミオリネへの返答を一旦止めたグエルは室内を見回し、その中の一ヶ所を見下ろす。

 右奥の隅を――。

 

「――何でこんなに()()()()、ここ?」

 

 ――そこに寄せ集められた()()()()を。

 否、そこだけではない。

 栄養サプリの空き袋にカップヌードルの容器。――理事長室という学園で最も高い地位の者の部屋にも、またその理事長の令嬢というミオリネの立場にも似付かわしくない廃棄物が、まるでブルドーザーで寄せ集めた土砂か何かのように積み上がって山を為し、部屋中に点々と散らばっている。

 その様につい顔を(しか)めるグエルに、は~ぁ、とミオリネの心外そうな声が上がる。

 

「失礼な奴ね! アンタら呼ぶ前に私がどんだけ苦労して片づけて綺麗にしたと思ってんのよ?」

 

「これでかよっ!?」

 

 やっつけ半分で適当に寄せ集めた、と言われてようやく頷けるかどうかの有様だ。それを綺麗にした、と堂々言い張れるミオリネのある種の豪胆(ごうたん)さには、思わずグエルを叫ばずにはいられない。

 そのグエルの意見に、部屋が汚ぇのもそうだけどよぉ、と同意を示しつつ、

 

「ワガハイさっきから気になってんだが……何なんだ、()()?」

 

訝し気な目のモルガナが周囲のゴミとは別の物を顎でしゃくって示す。

 その先――入口から見て左奥は一段高くなっており、その上に進むための階段と落下防止の欄干(らんかん)が設置してあるのだが、その欄干から先は水色のカーテンに一切を覆い隠されて見えず、階段の手前には仁王立ちして進路を阻む衝立(ついたて)まである。

 特に、デカデカと赤い“KEEP OUT(立ち入り禁止)”の文字が乱雑に書き殴られた衝立が目立つその光景に、ああ、と何て事無い様にミオリネが答える。

 

「あっちは私の生活スペースよ。――見ての通り、勝手に入ったら殺すから」

 

「……マジかよ」

 

 きっぱりとした口調で宣言された物騒な言葉にどん引くモルガナ。

 それを気にした風も無く、さてと、とミオリネがグエル達の横を抜け、そのまま出入口の方へと向かって行く。

 これまた当然の事のように、こんな事を告げながら。

 

「暫く温室に行ってるから。まだ片付け足りないって言うんなら、後はアンタ達で勝手にやって頂戴」

 

「おいおいおい!」

 

「お前、そんな勝手な――」

 

「私は場所を提供して上げたのよ? だったら、次はアンタ達が差し出す番でしょうが」

 

 それが取引ってもんよ。

 そう無情に言い切るのを最後に、開いた自動ドアの向こうへとミオリネの姿は消えてしまう。

 間髪入れずに閉じるドア。その内側に残されたグエルは、ぽかんと口を開けて固まるモルガナと共に、咄嗟に伸ばした手を所在無く宙に浮かせた姿勢のまま呆気に取られるしかない。

 その後ろで、どーする、とエリクトに問われたレンが、ふむ、と周囲を見渡しつつ思案を挟んでから、止む無しとばかりに苦笑しながら返答する。

 

「取り合えず片付けようか?」

 

 

 

「――あら」

 

 理事長室を立ち去ってから、かれこれ2時間程。

 温室で日課の植物の世話を終えて戻って来たミオリネは、自動ドアが開くや視界一面に広がった理事長室内の景観に思わず感嘆の声を漏らしていた。

 

「へぇ~、やるじゃない」

 

 辺りを見回しながら入った室内は、そこら中でいくつも山を作っていた大量のゴミが床から一つ残らず消えている。それに加え、壁も含めてカップヌードルの容器などから零れ出た液で出来た染みなんかも綺麗さっぱり無くなっており、本来あった筈の清潔に艶めく灰色を取り戻している。ついでに水耕栽培のプランターも念入りに磨き込まれており、覗き込めば鏡の様に顔が枠の上に映り込んだ。

 ほんの少し離れていた間に起きたその劇的な変化に素直に感心したミオリネは、水槽の一つを背に床に座り込んでいるグエルの方へ賞賛の言葉を送りつつ歩み寄り、続けて疑問を彼らに投げ掛ける。

 

「で、レン達は?」

 

 戻って来てからずっと気になっていた事だが、レンの姿が見当たらない。モルガナも、エリクトのキーホルダーも。

 それに対し、やや疲弊した面持ちで天井を見上げたままグエルが気の無い口調で答える。

 

「少し前に出てった。()()()()()とか何とか言って」

 

「準備? 何の?」

 

「知らん」

 

 そんな投げやりな彼の返事にミオリネが首を傾げつつも更に追究しようとした、丁度その時であった。

 

「おっ、戻ってたか」

 

 後方からそんな声が聞こえて来たのは。

 それに反応して振り返ってみれば、案の定出入口にはレンとモルガナの姿があった。

 見れば、レンの両手からは何かが詰められてパンパンになったビニール袋が下げられている。

 

「何処行ってたのよアンタ達? てか何、その袋?」

 

 つい数時間前までは影も形も無かったその袋が気になったミオリネは、彼らの行き先と共にその中身について問い掛ける。

 それに対し、彼女の方へと進み出たレンは両手の袋を床に下ろし、

 

「そろそろ準備をしようかと思ってね」

 

「それさっきグエルからも聞いたけど、一体何の準備よ?」

 

ウィンクと共にこう返した。

 

「“打ち上げ”さ」

 

 

 

 それから時を経て、早1時間超。

 理事長室の中央付近に集まったミオリネ達は、その中央にいるレンの方を思い思いの姿で見守っていた。

 正確には、彼がお玉でかき混ぜている鍋の中身を。

 

「しかし、()()()か」

 

 つい数分前に室内に持ち込んだパイプ椅子に腰を下ろしているグエルが呟く。

 床の上に机を置き、その更に上に置いたポータブルIHによって熱されている鍋から白い湯気と共にスパイシーな香りを辺りに放っているその中身は、彼が言った通り、紛う事無きカレーであった。

 先程持ち込んだ袋の中身――鍋やポータプルIHを含めた調理器具と共に運び込んだ食材を慣れた手付きで処理し、後は煮込んで仕上げるのみらしいそれへの言及に、嫌か、と小首を傾げるレンに、いいや、とグエルが首を左右に振る。

 

「ただ、俺もカレーはそれなりに作る方でな」

 

「あ、それキャンプの話でしょ?」

 

「? そうだが、何で分かった? 俺の趣味がキャンプだなんて、お前らに話した覚えは無いが」

 

「うーん……()かな?」

 

 途中挟まったエリクトとのそんな遣り取りで一時不可思議そうに首を傾げたグエルであったが、要は趣味で作る機会がある分だけ自分はカレーには五月蠅(うるさ)いと、そう言いたいらしい。

 そんな彼を同じようなパイプ椅子の上で頬杖を突きながら横目に眺めていたミオリネは、大袈裟ねぇ、と揶揄を(こぼ)す。

 

「カレーなんて、大体どれも同じような味でしょうが」

 

 最低限の味が保証される料理の代表――というのが自分で料理せずレトルトくらいでしかカレーを食べないミオリネの見解で、よっぽど変な作り方されていない限りは不味い事は無いだろう、と彼女は考えている。

 とはいえ、レンの料理が彼の仲間内では好評だったとは事前に聞いているため、そんな冷めた意見とは別に彼が作るカレーへの期待もあるのだが。

 そうしている内に仕上がったのか、少量を小皿に取って味見したレンが、良し、と頷くと共にポータブルIHのスイッチを切り、別に用意していた炊飯器で炊き上げておいた(ライス)と共に、カレーを手元に準備しておいた皿に盛り付けていく。

 

「どうぞ」

 

 盛り付けが終わった皿から順に差し出していくレン。

 それを受け取って中身を見下ろしたミオリネは、無意識に、へぇ、と感嘆の声を漏らす。

 独特のとろみが付いた深い茶色のルーからは同じ色に染まった肉の形だけが浮かび上がり、一緒に投入していた筈の人参や玉ねぎ、リンゴは溶け込んでしまっているのか、影も形も無い。

 レトルトカレーのがっつり具の形が残って凸凹した浅い茶色しか見た事の無い彼女にとっては、それだけで既に新鮮だった。

 が、それは所詮見た目の話。料理である以上、大事なのは味である。

 なので、添えられているスプーンを手に取ったミオリネは早速一口(すく)い、それを口の中へと含む。

 

「っ!」

 

 途端、口の中に広がる味の奔流。

 多種多様なスパイスと溶け込んだ材料が織り成す、複雑な辛味とコク。それでいて芳醇(ほうじゅん)な香りが強く食欲を刺激し、スプーンを持つ手を皿の中へ向かわせようとする。

 そうして二口め、三口めとカレーを口へ運ぶ手はどんどん速くなり、あっという間に空になってしまった皿をミオリネは、

 

『おかわり!』

 

同じように完食したグエルと共に、迷わずレンへと差し出していた。

 それに応じてレンがよそった二杯目も間を置かず空にし、流石に満腹となったところで、ふぅ、と一息吐いたミオリネは率直な感想を述べる。

 

「――正直舐めてたわ」

 

「――思ったよりは、まぁ……美味かった」

 

 続けてグエルも、如何にも一家言あると言わんばかりの言動を取ったところだったためか目を明後日の方向に逸らしながらで素直とは言い難い態度ではあったが、賞賛の言葉を述べる。

 カレーなんて普通に作っても美味い物を、と侮っていた。まさか、上手い人間が手を加えるだけでここまで劇的に変わるとは……。

 

「そーだろそーだろ! 何てったって“ゴシュジン”直伝のカレーだからなぁ」

 

「ゴシュジン?」

 

「俺にこのカレーの作り方を教えてくれた――まぁ、師匠みたいな人かな?」

 

 自慢げな声を上げるモルガナに反応して尋ねたミオリネに、レンが代わって答える。

 曰く、以前聞かされた冤罪の件で地元を追われた彼の身元を引き受けた後見人で、ぶっきら棒だが根は優しい人物らしく、何かと世話になったらしい。

 と、そこで、おいおい、とグエルが慌てた声を上げる。

 

「何だ傷害って? 初耳だぞ、そんな話?」

 

「あ、そっか」

 

 言われて、そういえばこの場で彼だけがかつてのレンの身に起こった出来事についてまだ知らない事をミオリネは思い出す。

 そのまま、流れでかつて自分の身に起こった出来事を今一度語り出すレン。

 その話が一通り終った時、グエルは複雑な表情で唸っていた。

 

「――その話、水星に行った後の話か? それとも――」

 

「地球にいた時の話だね」

 

「……随分な話だな」

 

 レンの理不尽な過去をそう評して神妙な顔になるグエルに、今じゃ良い思い出だよ、と特に気にした風もなく彼は笑い返す。

 

「失ったものは少なくなかったけど、代わりに色んなものも手に入った。このカレーもそうだし――」

 

 一旦言葉を区切ったレンが横を向き、その足元に控えていた物を机の上に並べていく。

 調理器具と共に彼が持って来たカップとソーサーを3セット、それに銀一色のシンプルな水筒だ。

 

「――このコーヒーもそうさ」

 

 水筒を開き、その中身――漆黒に染まったコーヒーをカップに注いでいき、その内2セットをミオリネ達に渡していく。

 それを受け取って口元に近づけてみれば、熱い湯気と共に香りが昇り立つ。

 コーヒー特有の、しかしインスタントや缶コーヒーなんかでは到底出せない独特の匂いだ。これだけで既に期待値が高かったが――。

 

「――こっちも美味い」

 

 いざ口に注ぎ込んでみたその味はやはり別格で、ブラックならでは苦みをベースに、豆が持つ風味や甘みがはっきり味わえる程に抽出されており、それでいて雑味は全く無い。何より、先に食べた事で口内に残っているカレーの味や香りの残照(ざんしょう)()()()()

 まるで上質な専門店のそれを味わっているかのような、そんなコーヒーだった。

 

「昨日多めに作った余りなんだ。()れ立てよりは――うん、流石に味は落ちてるね」

 

「これでか?」

 

 残ったカップを手に取り、自らもコーヒーを口に含んだレンが述べた感想にグエルが瞠目(どうもく)する。これで味が落ちているなら、淹れ立ては一体どれ程なのか?

 ……いや、それよりも。

 

「――今更だけど」

 

 再度口内にコーヒーを注いだミオリネは、中身が残り半分程になったカップをソーサーの上に戻してから、レンへと視線を向ける。

 

「どうしてアンタ達は心の怪盗団なんて作ろうと思ったの?」

 

 誰にも知られず認知の異世界を駆け、人の歪んだ欲望を奪って改心させるペルソナ使いの集団。――そんな一団を作るに至った、()()()()()

 それがどんなものであったとしても怪盗団を抜けたりするつもりは無いが、今後その一員として協力するからにはやはり知っておきたい。

 そのミオリネの要望に対して、ソーサーごとカップを机に置いたレンが返したのは――。

 

「“人助け”。そして“世直し”のため、だね」

 

「世直し?」

 

 そのミオリネのオウム返しに、そう、とレンが答えてから語り出す。

 

「俺が濡れ衣を着せられた話はもう皆知っての通りだね? ――今でこそ過去の話だけど、当時はそうでも無かった」

 

 自分に罪を着せて堂々と逃れた権力者と、その権力者の傲慢に全てを奪われて失意の底にあったレン自身がいた。

 そして彼と同じように、腐った大人に大切なものを奪われた者達がいた。

 

「そんな俺達と同じように、(ろく)でもない奴らに理不尽な目に遭わされているけど声を上げられない人達もきっといる。そんな人達を虐げる腐った連中を改心させて、彼らを少しでも助ける事が俺達には出来るんじゃないか? ――そう思ったんだ」

 

 それが心の怪盗団――誰も裁けぬ悪党の心を盗み改心させ、弱い立場の人々を救い勇気を与える“現代の義賊”と、彼らによる認知の異世界を利用した“世直し”の始まりであった。

 そう締め括られた怪盗団結成の経緯と目的に、まだ熱の残っているコーヒーを一口飲んだミオリネは率直な感想を述べる。

 

「とんだお人好しの集まりね」

 

 世のため人のため――これが怪盗団結成の理由だとレンは言ったが、自分だったらそんな理由で悪党に喧嘩を売るような集まりを作ったりはしない。虐げられていようが、理不尽な目に遭ってようが、()()()()で会った事も話した事も無い奴らのために動く義理など無ければ得も無いし、貧乏くじを引くだけだから。

 ただ、だからとレンと彼の仲間が怪盗団を結成した事まで否定する気はない。個人的な目的のためとはいえ既にミオリネもそのお人好し集団の一員であるし、少なくともレンについては本当に損得無く自身の正義に従う手合いであると分かっているから。

 だから、

 

「そりゃ仕方ないな。昔から損得考えないお人好しがやるモンだって決まってるからな、()()()()ってのは」

 

「――そうかもね」

 

続くモルガナの意見に気の無い口調ながらも同意を返す。

 と、それに続けてグエルも、ところで、と疑問を口にする。

 

明々後日(しあさって)の実習、お前どうする気だ?」

 

「実習?」

 

 レンへ向けて告げられたその問いに含まれた言葉に反応したミオリネは、横合いからそれを尋ねる。

 それに対するグエルの返答によれば、パイロット科の方では近々MSを使った学年合同の実習が予定されているそうなのだが、その実習ではどうもサポートを行う人員を用意する必要があるらしい。

 

「スポッターとメカニックを用意出来なきゃ、実習も自動的に不合格になるぞ。当てはあるのか?」

 

 やや不安気にグエルが尋ねる。

 考えてみれば、レンがアスティカシアに編入して来てからまだほんの数週間しか経っていない。まだ日が浅く、もしかするとこの場の面子としか交友関係を結べていないかもしれない彼では、実習のサポートメンバーはまだ決まっていないかもしれない。

 ……いや、グエルに二度も決闘で黒星を付け、おまけにアーシアンだとバレてしまっている今となっては、間違い無く決まっていない。ジェターク寮の寮生達の不興を買わないためか、あるいはアーシアンへの差別心からかで理由は変わって来るが、いずれにせよレンに力を貸す奇特(きとく)な人間はいないだろう。

 ……と思われたのだが。

 

「問題無いさ」

 

 当のレンは特に(きゅう)した様子も無く、あっさりと頷き返す。

 

「そもそもこうやってアジトを探してもらった理由も()()()()()んだけど、実は俺――」

 

 何故なら――。

 

「――明日から()()()()事になってね」

 




次回、レン入寮! そして見えない地雷が待つ実習へ!

こうご期待!
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