ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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VSグエルで始まる(多分)めっちゃアウェーな初決闘。
さーて、オッズはどうなってるかな~っと(地球寮の二年コンビ並感


#3 Fix release

「待ちなさいよッ!!」

 

 アスティカシア高等専門学園、地下格納庫。

 そこに息を切らしてミオリネが駆け込んだ時には、既に学園指定のパイロットスーツに着替えた男子生徒が、前方の空間で鎮座している彼のMSの方へと向かっているところであった。

 

「ん? ――やぁ、レンブランさん」

 

 歩みを止め、眼鏡を取った顔を向けた男子生徒が、これまでと変わらない朗らかな挨拶をミオリネへと返す。

 これから決闘へ、それも現ホルダーであるグエル・ジェタークとの戦いに挑むとは到底思えない、その呑気な所作(しょさ)には、続けてミオリネもこう叫ばざるを得ない。

 

「何が、やぁ、よ! このバカッ!!」

 

 男子生徒へ駆け寄りつつ、更にミオリネは言葉を続ける。

 

「アンタ、私の話聞いてなかったの!? 前に言ったでしょ、グエルは強い、勝てないって! 何でそんな奴に決闘申し込んでんのよ!」

 

 先の温室での一件と、そこから続く互いの決闘の了承。

 そこからは――相手が決闘委員会の所属でもあるグエルなのもあってか――決闘委員会への申請から実際に決闘を行う“戦術試験区域”の選定までトントン拍子に進み、後は互いにMSに乗り込んで決闘の場へ(おもむ)くのみ、という状況まで事は進んでいた。

 問題は、その勝敗が着いた後だ。

 

「しかも! よりにもよって、負けた時は退学ですって!?」

 

 決闘では、その申請時に戦う決闘者達が勝利した際に得るものを宣誓し、それを相手に賭けさせる事を要求出来る。

 今回の場合、男子生徒は破壊したミオリネの温室の修繕と、彼女に働いた無礼への謝罪をグエルへ要求している。これがつまり、この決闘においてグエルが賭けるものとなる。そして同時に、グエルの方からも男子生徒に何がしかを要求し、勝利した暁に得るものとして賭けさせる権利が発生するのだ。

 そこでグエルが要求して来たのが、今しがたミオリネが口にした通り、男子生徒の退学というワケである。

 

「……今更だけど、アンタ、アレなんでしょ? 最近水星から来たっていう、例の」

 

 大きく深呼吸をし、肩を下ろしてからミオリネは男子生徒にそう尋ねる。

 以前から、そういう噂はあった。

 遥か彼方の辺境の惑星である水星から、近々3年生のパイロット科へ編入して来る生徒がいる、と。

 経営戦略科の2年生で、尚且つその立場故に浮いた存在で友達もいないミオリネからすればどうでも良い話であったため、長く記憶の片隅に追いやっていたのだが……今にして思えば、一昨日のあのアクシデントが起こった時、彼は自らが新たに所属する事になるこの学園へと向かっている最中だったのかもしれない。

 

「――悪い事は言わない。今すぐグエルと決闘委員会に連絡して、この決闘を取り止めさせなさい」

 

 後はもうMSに乗り、決闘の場へ赴くだけ、というところまで既に事態は進展している。この状況で取り止めの申請を行うという事は、それ即ち降参――相手方の不戦敗という事になる。

 当然、互いが決闘前に賭けたものの処理が行われるワケだが――。

 

「こっちから負けを認めたってなれば、上手くいけばアンタの退学だけは勘弁してもらえるよう、グエルに頼めるかもしれない。――元を正せば、今回のはアイツが私をジェターク寮に連れてこうとしたのが発端、私とアイツの問題よ。関係の無いアンタが出しゃばる必要なんて無かったんだから、せめて被害だけでも抑えて――」

 

 と、男子生徒へとミオリネが訴え掛けていた、その最中であった。

 

「っはははっ」

 

 不意に、男子生徒が笑い声を上げた。

 唐突なその声に思わず固まるミオリネに、あーそっかー、と彼は言葉を続ける。

 

「参ったなぁ、降参しろなんて。信用されてるなんて都合の良い事思って無かったけど、そこまでとは……仕方ないんだろうけど……流石にこれは、ちょっとガックリ来たなぁ……」

 

 なおも笑い声を――自嘲の声を漏らす男子生徒であったが、

 

「“己が信じた正義のために、あまねく冒涜(ぼうとく)を省みぬ者”」

 

不意に、その黒い瞳が真っ直ぐにミオリネの目を見据えた。

 

「俺はそういう奴らしくてね。――どうも昔から、困ってる人とか、間違った事をしてる奴とかいると、見過ごせなくなる性質(タチ)なんだ」

 

 そのせいで自分が痛い目を見るかもしれないと分かってても、ね。

 そう男子生徒は自嘲を交えつつ語るが、その間も彼の黒い目は変わらず、真剣な眼差しを維持している。

 その、吸い込まれてしまいそうな黒にまっすぐ見つめられて言葉に詰まっているミオリネに、彼はきっぱりとこう告げた。

 

「降りないよ俺は、この決闘から」

 

「なっ……!」

 

 こいつ、まだそんな事を!

 聞き分けの無い男子生徒にイラつきを覚え、詰め寄ろうとしたミオリネであったが、しかしそれよりも一歩早く、人差し指と中指、薬指を立てた男子生徒の右手がその鼻先へと突き出された。

 

「三つだ。――三つ、君に言っておく事がある」

 

 一つ、と薬指が曲げられる。

 

「俺が責任を取る方法として君に提示した取引。君はおふざけとしか思って無いかもしれないけど、俺にそんなつもりは全く無い。――本当に出来る事として、俺はアレを提案した」

 

 二つ、と中指が曲げられる。

 

「俺には心強い()()()がいる。ジェタークは確かに強いんだろうけど、彼女はそれ以上に強いんだ。だから、俺は負けない。――ジェタークに勝って、君に謝らせて、温室も元に戻させる」

 

 三つ、と最後に残った人差し指が曲げられる。

 

「今言った二つは真実だ。嘘偽りなんて何一つ無い。だから――少しだけで良い。俺がジェタークとの決闘に勝ったら、俺の事をもうちょっと信用して欲しい」

 

 そうして、全ての指が曲げられて拳となった右手を引っ込めた男子生徒は、さて、と(おもむろ)に屈み込む。

 そして上体を上げるや、同時に持ち上げた何かをミオリネの胸元へと押し付けた。

 その何かとは――。

 

「猫ぉ!?」

 

 男子生徒が足下に連れていた、あの黒と白の猫であった。

 

「じゃ、俺はもう行くよ。その猫の事、宜しく」

 

「ちょっ、何勝手な事言って……!?」

 

 いつの間にか少し離れたところを歩いていた男子生徒を、手元で不満げな抗議の鳴き声を上げる猫と共に呼び止めようとするミオリネ。

 が、その必要も無く、あ、と男子生徒が声を上げて足を止めて振り返る。

 

「今更、で思い出したけど、そういえば俺、君に自己紹介してなかったね」

 

 その言葉に、ミオリネの方も思わず、あ、という声を漏らしてしまう。そういえば、確かに彼の名前を知らない、と。

 

「せっかくだから、今の内に名乗っておこうか。俺の名前は……」

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#3 Fix release

 

 

 

「――さて、と」

 

 不意に起きた強めの揺れがコックピット内を揺らした。

 それで、どうやら乗機を収めていたMSコンテナが目的地に辿り着いたらしい事を察した男子生徒は、正面左右に対象に配された操縦桿を握り、コンテナの解放へと備える。

 

「いよいよ最初の決闘、か。――準備は良いな?」

 

 ヘルメットを被った頭を少しだけ上へ向け、男子生徒はそう問い掛ける。

 無論、コックピット内にいるのは操縦者たる彼のみ。他には誰もいない。

 故に、その問いに返事を返す者はいない筈なのだが――。

 

「いつでもOK」

 

 ――果たして、男子生徒の声に応じる声がそこにあった。

 

「ていうか、君こそ大丈夫? あんな風にミオリネに大層な事言っちゃってさ」

 

 これで負けたらダサいどころじゃないよねー、と悪戯気に言うその声は、昨晩格納庫内にて男子生徒と話していた、あの少女の声であった。

 あの時と同様、まるで姿の見えない少女の声に、ふふっ、と男子生徒が笑い返す。

 

「同感だな。だから、ここは遠慮無くお前の力に頼らせてもらうよ、()()()()()

 

「ふふーん、任された。大船に乗った気でこのおねーさんを頼りなよ、シロートくん」

 

 そう少女の声と会話を交わしていた男子生徒の視界に、パァ、と光が入って来る。

 正面モニターに目をやれば、既にMSコンテナの正面ハッチが開け放たれ、その先に広がる戦場が(あら)わとなっていた。

 既に乗機をコンテナ内で固定していたアーム類も機体から離れている。となれば、後はそこに下り立つのみ、だ。

 

「それじゃあ行こうか」

 

 ぐっ、と男子生徒が左右の操縦桿を押し込む。

 それに合わせて、乗機の足が一歩前へと踏み出す。

 

「KP041、レン・アマミヤ。――“エアリアル”」

 

 自らの学籍番号と名前、そして乗機の名を(そら)んじる。

 その間にも足は進み――遂にその機体が戦術区域の地面を踏み締めた、その振動を受けると共に男子生徒――レン・アマミヤはニヤリ、と口角を上げて笑い、宣言した。

 

「ショータイム!」

 

 

 

「来たか――!」

 

 正面モニターの奥側、決闘の場となる第13戦術試験区域の灰色の丘陵の向こうに現れたMSコンテナ。その中から飛び出したMSの姿に、既に自らのMS――MD-0031“ディランザ”のコックピットの中でその時を待っていたグエルは獰猛に歯を剥く。

 XVX-016“エアリアル”――白を基調とし、胴や肩に淡い青色、襟元などに黄色、そして額や顎に赤の配色が施されたトリコロールカラーのそのMSは、これまで見たどのMSとも掛け離れた、独特のスマートなフォルムをした機体だった。

 

「フン、見てくれはなかなか良いじゃないか、水星なんて辺鄙(へんぴ)なド田舎から引っ張って来た機体にしたら。尤も――」

 

 中のパイロット()が三流の田舎者じゃあ、どんなMSだろうと無用の長物だがな。

 そう嘲笑(あざわら)うグエルがあの男子生徒が例の遥々(はるばる)水星からやって来た編入生だと知ったのは、つい先程。ジェターク寮内の格納庫でディランザに乗ろうとしていたところでメカニック科の生徒から知らされて、漸くの事であった。

 3年生のパイロット科、つまりは彼と同じ学年・学科の生徒であり、それ故にどこか見覚えがあったのだろう、とそれで得心出来たのだが……何分ホルダー、事実上学園一のMSパイロットとして名を馳せているグエルと、一昨日来たばかりで出身以外特に目立ったところも無い凡人とでは、あまり差があり過ぎる。彼が存在そのものに気づかなかったとしても、それは致し方ないというものだ。

 

<そんな田舎者との決闘を受けるなんて……少し遊びが過ぎるんじゃないの、兄さん>

 

 そう手元のコンソール内にセットしてある学園支給の電子生徒手帳を介してグエルに苦言を(てい)しているのは、同じジェターク寮の3年生にして彼の弟であるラウダ・ニールだ。

 同じ褐色の肌で、左側を長めに下ろした前髪を弄るいつもの癖をしている彼に、良いじゃないか、とグエルは軽く笑い返す。

 

(ろく)に学園のルールも知らん田舎者だろうが、この俺に楯突(たてつ)いたんだ。売られた決闘は買うのがホルダーとしての務め、未来のドミニコスのエースの矜持(きょうじ)ってもんだ。――なーに、軽く瞬殺してやるとも」

 

 お前はそこでのんびり観戦していろ、とラウダとの通信を打ち切るグエル。

 それを合図とばかりに、決闘の開始を告げるアナウンスが学園中に響き渡る。

 

<これより双方の合意の下、決闘を執り行う。勝敗は通常通り、相手MSのブレードアンテナを折った者の勝利とする。――両者、向顔>

 

 アナウンスが告げた向顔宣言と共に、正面モニターの中央にウィンドウがポップアップ。パイロットスーツとヘルメットに身を包んだ決闘相手の顔がそこに映される。

 つまりは、水星から来たというあの黒い癖毛の田舎者――レン・アマミヤの顔が。

 

<やあ、ジェターク。また会ったな>

 

 開口一番、特に緊張した様子も無い穏やかな笑顔でそう声を掛けて来るレン。

 その状況が分かっているとも、分を弁えているとも到底思えない不遜(ふそん)な態度が、ピクリ、とグエルの片眉を跳ねさせる。

 

「これからこの俺と決闘だっていうのに、随分余裕そうじゃないか、田舎者。――お前、分かってるのか? これからそのMSを粉々に解体されて、無様に水星へ泣いて帰らなきゃいけないって事を! ちょっとは不安がって見たらどうだ!」

 

 戦闘前の威圧も兼ねて、激しい声色を叩き付けるグエル。

 しかし、そんなもの暖簾(のれん)に腕押しとばかりに意に介した様子も無く、いや、とレンが肩を(すく)める。

 

<不安なら感じてるよ。――この決闘に()()()()がどう転ぶか、って不安はね>

 

「勝った後……だとぉ?」

 

 既に歯を剥いていたグエルの口角が、ピクピク、と痙攣(けいれん)する。

 

<ああ。――この後、()()()()()()ちょっと厄介なイベントが(ひか)えててね。どうも俺には待っている以外出来なさそうな感じの奴だから、どうしてもね>

 

「ほ~ぉ、そうかそうかぁ。それは大変だなぁ? ――でぇ?」

 

<ん?>

 

 溜息混じりに肩を落として見せるその姿に、グエルの顔はどんどん引き攣っていく。――湧き上がるその怒りと、苛立ちによって。

 

「まるで俺に勝つ事が当然みたいに語ってくれたがなぁ――それがまず不可能だって事、お前、分かってるんだろうなぁ?」

 

 あと一歩で爆発、というところまで怒りが溜まっているグエル。

 そこに最後の一手が放り投げられる。

 

<何だ、そんな事か>

 

「何ぃ?」

 

<レンブランさんともさっき約束して来たばかりなんだ、必ずお前に謝らせるって。――()()()()()()>

 

「――ッ! キッ、サマァっ……!!」

 

 もう我慢の限界だった。

 

<二人共、口喧嘩はそこまでだ。――時間も圧してる。そろそろ口上を>

 

 通信を介し、今回の決闘の立会人が二人に決闘開始前の口上を述べるよう(うなが)して来る。

 止むを得ず、途中まで出掛かっていた罵倒を飲み込んだグエルは悔しさに歯噛みしてから、まだ燻る怒りのまま、ヤケクソ気味に口上を叫ぶ。

 

「“勝敗はMSの性能のみで決まらず”ッ!!」

 

<おおっ、怖い怖い。――“操縦者の技のみで決まらず”>

 

『“ただ(ッ)、結果のみが真実”(ッ!!)』

 

 決闘者二人の口上唱和の完了。

 それを以て、立会人が宣言を告げる。

 

<決心開放(フィックスリリース)>

 

 決闘始め。

 その合図を受けて早々、先制を取るためにグエルは両の操縦桿を前へと押し込む。

 その操作を受け、彼のディランザが急速発進。マゼンタに染め上げられたその重量級の機体を脚部のホバークラフトで浮かせ、滑るように戦術試験区域の荒れた地面を疾走していく。

 その進行先にあるのは当然――。

 

「よくもこの俺に向けてアレだけふざけられたもんだ! 物を知らないって事がどれ程恐ろしいか、良く分かったよ! 礼に、俺もお前に教えてやる! このグエル・ジェタークの恐ろしさとォ!」

 

 ――真正面に立つ敵機、エアリアル。

 グエル専用にチューンナップが施されているが故のその機動性を遺憾(いかん)なく発揮して詰めた彼我距離差はあっという間に縮まり、既に残り5m程度。――十分だ。

 ディランザに、右手に握らせていた長柄の武器――ビームパルチザンを振り上げさせたグエルは、更にその先端から黄緑色のビーム刃を発振。更にビームライフルを捨てさせた左手の方も柄尻付近を握らせ、そのまま振り下ろさせる。

 

「貴様のような田舎者如きが俺をコケにする事の、愚かしさをなァッ!!」

 

 マゼンタと黄緑の流線と化す程の速さで繰り出した、唐竹割。

 それで胴体に致命傷を与え、怖れを為してまともに動けなくなったところで、悠々とブレードアンテナを刈り取って勝利を収める。

 そういう思惑の下繰り出した一撃は、

 

<おっと>

 

しかしエアリアルがバーニアを噴かせ、その場から飛び退いた事で危なげなく回避される。

 構わず、振り下ろし切ったパルチザンを強引に振り上げさせ、前身しながらの切り上げで追撃。しかし、これも再度の後退で回避。

 

「フン! 多少は大口叩くだけの事はあるか! だがなぁ!」

 

 二度の回避に、しかしグエルは動じず操作を続ける。

 散々働かれた無礼に対する怒りは全く失せていないが、それが彼の操縦からキレを奪うような事は無い。

 感情の起伏で支障が生じてしまうようなパイロットなど三流。いついかなる時、どんな状況、状態でもMSを思うがままに動かせるからこそ彼は一流のパイロットであり、ホルダーであり、未来のドミニコスのエースという己の“夢”を声高に語れるのだ。

 故に―― 一旦ディランザを後退。停止させる事無く先程捨てたビームライフルを拾わせるや、すぐさま彼はそれを発射させる。

 走る黄緑色の電光。

 一条、二条と続けて放たれたそれらは、しかし半身を引いたエアリアルのステップによって、掠める事さえ無く擦り抜けられる。

 しかし、それで良い。

 ライフルは牽制――そこに()い止めておくために放ったもの。

 本命は、

 

「いつまでも逃れられると思うなよ、田舎者ォ!!」

 

再びの急接近の勢いを乗せた、パルチザンの刺突。

 

「まずはその足ッ!」

 

 パルチザンの先端から伸びるビーム刃の、その切っ先が、見る見る間にエアリアルの左太腿へと迫る。

 そして今、

 

「もらったァッ!!」

 

グエルのイメージ通りにパルチザンの刃がそこを貫き、エアリアルの機動力を奪い取る!

 ――かと思われた。

 

「――っ!」

 

 響く轟音。

 だが、その音はビーム刃が装甲を貫徹した時のそれではない。

 むしろそれは――決闘の際、戦術試験区域外に流れ弾による被害を抑えるため、防護フィールドが展開されるが、そのフィールドが流れ弾を防いだ時に発生する音に近い。

 否、正にそれは、()()()()音だった。

 

「何だとぉ……っ!?」

 

 結論を言ってしまえば、ディランザのパルチザンはエアリアルの足を貫いていない。

 その刃は、止められていたのだ。

 つい先程までエアリアルの左の二の腕に付いていた、しかし今はそこから脱落し、独りでに浮遊している六角形の装甲に阻まれて。

 

 

 

「危ない危ない……」

 

 猛然と迫っていたディランザの槍に足を貫かれる危機を回避出来た事を正面モニターの映像で把握したレンは、ふぅ、と安堵の息を吐く。

 その一方で、

 

「ちょっとー、頼むよーレン! もうちょっと遅れてたら()()()足串刺しにされてたじゃん、今のー!」

 

例の少女の声が、もー、と彼に文句を言ってもいる。

 なので、上方を見上げてレンはこう返す。

 

「そっちこそ、大船に乗った気でいろって言ったのは何だったんだ? ――今差し込んだ“ビットステイブ”以外、ずっと俺の操縦だけで戦ってるんだけど?」

 

「あ、バレてた?」

 

 直後、先程までの批難がましい言い草が一転、悪戯がバレた子供のように笑う少女の声。

 それに呆れつつ、レンは操縦桿を手前に引き、脱落した左腕の装甲が尚もディランザの刺突を受け止めている間にエアリアルを後退させる。

 

「だってー、今のグエルくん相手にボクが本気出したらあっという間に終わっちゃうし、詰まんないもん。それに、思ってたよりか君全然戦えてるしー、余裕そーだしー。――いっそ、最後までボクの力無しでやっちゃえば?」

 

「はははっ、冗談キツいな」

 

 追い打ちに放たれるビームライフルの雨を、独りでに戻って来た装甲が再びエアリアルの左腕に装着される傍ら、左右に機体を振って(かわ)すレン。

 その所作は、一見すれば少女の声の言うように余裕がありそうだが、実際のところはそうでも無い。――それを証明するように、額の上に汗が流れる。

 

「回避優先でどうにかってトコなんだ。攻め込む余裕なんて無い」

 

 ビームライフルによる単発では埒が開かないと思ったのか、相手が胸部左右に1門ずつ並ぶ発射口からのビームバルカンの乱射に切り替えて来る。

 その威力よりも命中率を優先した射撃さえも左右への切り返しを大きくし、上下運動も交えてレンは回避し切ってこそ見せるが……その額から落ちる汗の量も、更に増える。

 ――それでも、

 

「このままじゃジリ貧だよ。――もう良いだろ? そろそろ、力を貸してくれ」

 

その顔は相変わらず余裕に満ちた笑みを浮かべているのだが。

 

<さっきから何をぐちゃぐちゃと()()()をぉ! 避けてるだけじゃこの俺には勝てんぞッ、田舎者ォ!!>

 

 通信を介して、煽るようなグエルの怒号がコックピット内に響き渡る。

 向こうも向こうで一向に攻撃が当たらない事に苛立っているのか、その声には僅かばかりだが焦燥のようなものがあった。

 ――だから、勢いに任せて()()()()を言ってしまったのだろう。

 

<それとも何だァ!? ()んで()ねて回るしか出来んのか、そのMSは!? だとしたら、見た目だけのトンだ()()()()だなァ!!>

 

「あ」

 

 嘲笑が後に続く中、それまで変わらなかった余裕の笑みをレンは初めて崩した。

 思わずそうしてしまう程に、その罵倒は迂闊(うかつ)な発言だったのだ。

 次の瞬間――。

 

「……ガラクタ?」

 

 ――コックピット内の温度が下がった。

 

「へーぇ、ボクがガラクタ。言ってくれるじゃん?――グエルくんのくせに」

 

 あくまで、そんな気がしただけかもしれない。

 しかし、もしかしたら本当に下がったのかもしれない。

 それを確かめるにはコンソールを操作する必要があったが、なおも無数に飛来する黄緑色の光弾に対する回避運動を続けているレンに、そうする暇は無かった。

 それに、急に声色が据わった少女の声がそうする事を彼に躊躇させてもいた。

 

「いーよ? 丁度注文もあったし、そんなに見たいなら見せて上げる」

 

 刹那、左右のモニターに円環状に配された11個の六角形のアイコンが一瞬だけ現れ、それに続いて――コックピット内のレンがその様子を見る事こそ適わないが――左右の太腿、胸部、肩、額と、下から上へ順にエアリアルの各部に配されたシェルユニットが内部の集積回路(サーキット)を赤く光らせていく。

 同時に、レンの操縦のまま回避行動を続けていたエアリアルが、()()()()()()()()その両腕を交差させる。

 そして次の瞬間、

 

()見せられるだけの、ボクの力をさぁ!」

 

まるで何かを解き放つようにエアリアルが重ねていた両腕を左右に振り払うと共に、その機体の各部から装甲が脱落。それらが重力のまま落ちる事無く、青く煌めく幾何学模様の軌跡を引きながら自立飛行し始めた。

 その数、計11。

 11基の装甲の群れは後退し続けるエアリアルの後を追うように、或いは周囲を周回するように止まる事無く飛び交い続けていたが――。

 

「行けっ、みんな!」

 

 コックピット内に少女の声が響き渡ると共にエアリアルが左腕を突き出すや、それに合わせて一斉静止。そして――それらが一斉に光を放った。

 

 

 

「っ!?」

 

 敵機の各部から装甲が脱落し、それが独りでに飛び回る。

 そうそう見る事の無い異様な光景に無意識に身を乗り出す程引き込まれていたグエルは、それらに灯った黄緑色の明滅を目にするや、反射的に操縦桿を引き、ディランザをその場から後退させようとした。

 しかし時既に遅く……(あやま)たず、無数のビームが飛来。ホバーによってある程度緩和(かんわ)出来ているとはいえ、機動性や運動性そのものはさほど高くないディランザでは回避し切れず、少なくない数の光の矢にその装甲が打ち据えられる。

 それでも、耐久性・堅牢さに重きを置いた設計であるその機体は暫くは降り注ぐビームの雨にも耐えていたが……結局はそれも僅かな間。

 そうしている間にも装甲群は独りでにディランザの傍へと飛来し、一つ一つが黄緑色の弾幕の厚さを増していくと共に、周囲を飛び回る事で着弾点をその全身へとくまなく増やしていく。

 肩のアーマー、腰部スカート、側頭、脹脛……全身を覆うように降り注ぐ雨が、見る見る内にグエルのMSを削り、コンソール上に表示されている機体状況をどんどん悪化させていく。

 

「……何なんだ、このMS……?」

 

 幾重にも飛び交っては視界を遮るビームの格子の向こうに立つその機体を前に、困惑に声を震わせるグエル。

 それを合図とばかり、それまで佇むばかりだったエアリアルが姿勢を屈めて背のバーニアを噴かせ、発進。装甲群に翻弄されるグエルのディランザ目掛けて、猛スピードで突っ込んで来る。

 150m、100m、50m……瞬く間に縮められていく。

 距離だけでは無く、この決闘自体が。

 されとて、まだ終わりではない。

 まだ右腕は動く。マゼンタの装甲がネズミに齧られて穴だらけになったチーズのような状態と化していても、そのマニュピレータ()に握られたビームパルチザンは、まだ降り抜ける。

 40m、30m、20m……なおも機体を削られ、破片が幾つも弾け飛ぶが、それでも迫る敵機をグエルは睨み、その時を待つ。

 自分はホルダー、未来のドミニコスのエース、敗北など有り得ない、と。

 そして……10m、5m……0!

 

「――そこだッ!」

 

 右の操縦桿を強く引き、ディランザにパルチザンを振らせるグエル。

 狙うはブレードアンテナ。前傾姿勢で攻めて来ているからこそ最も突き出ているそこを、刈り取る。――この高速度ならば、気づいたところで最早立ち止まる事も出来まい!

 その狙いの下、正面モニターに大写しとなった敵機へと迫るパルチザンのビーム刃は――しかし空を切った。

 何故か?

 ビーム刃が触れる直前、敵機がそこから()()()()()

 より正確にいえば――。

 

「なっ……!?」

 

 ――ブレードアンテナを切られるその寸前、地面を踏み付け、ディランザの正面からその頭上までジャンプする事で、加速に逆らわず回避したから。

 

「……何なんだ……」

 

 まるで人間がそうしているかのように、何十トンと重量のあるMSが頭上で滑らかに前転する様を見上げ、見つけたグエルは、そのまま背後へと降りて行くエアリアルの姿を目で追っていく。

 そうして、左手と片膝を着けて見事な着地を決めたエアリアルが、背部に背負っていたライフルを右手に取る。装甲群に翻弄(ほんろう)されつつもどうにか振り返ったディランザの鼻先へと、その銃口を突き付けて来る。

 銃口の奥に灯る、黄緑の光。

 それが数舜の内に何を(もたら)すか?

 それが分からない程グエルは愚かでは無かったが、しかし、信じる事は、受け入れる事は出来なかった。

 だから、脂汗の浮かんだ顔を引き()らせて彼は叫んだ。

 

「……何なんだ、お前はっ!?」

 

 その問いに答える者はいない。

 代わりに返って来たのは――。

 

<チェックメイト>

 

 ――あの余裕に満ちた笑みを連想させるレン・アマミヤの王手の宣言と。

 過たず発射され、ディランザの額から伸びるブレードアンテナを射抜いたビームの(まばゆ)さであった。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 ハッチを解放し、エアリアルのコックピットから抜け出したレンはヘルメットを脱ぐ。

 途端、汗に塗れていた頭に外気が触れ、心地良い冷たさが感じられる。

 

「まずは第一関門突破、か」

 

 言いつつ右側へ顔を向ければ、エアリアルのすぐ隣で背を向けて沈黙しているグエルのディランザがそこにあった。

 展開された“エスカッシャン”――計11基の“ビットステイブ”によるビームの乱射を浴び続けたその機体は、決闘前の鮮やかなマゼンタで彩られた傷一つ無い姿が嘘だったかのように、全身が黒く焦げ、ありとあらゆる部位が損傷。そして何より、豊かな白い羽飾りが特徴的なだったそのブレードアンテナは、レンの最後の一撃によって根本から消し飛び、無惨な断面を晒している。

 まだ正式に決着のアナウンスは流れていないが、それでもグエルとの決闘には()()()勝利を収めた、と考えて問題は無いといえる状況であった。

 

「お疲れ様」

 

 背後から掛けられた声に振り返るレン。

 その視界には誰も居なくなったコックピットの中か、もしくは緑色のツインアイで彼を見下ろすエアリアルの顔が映るのみで、相も変わらずその少女の声の主らしき姿は見当たらない。

 

「いやぁ、思ったよか面白かったよ。君の筋の良さも改めて確認出来たし、やっぱり最初から力貸さなくて正解だったね」

 

「それはどうも」

 

 お気に召したようで何よりだよ、と肩を竦めて見せるレン。

 そんな彼の反応を面白がるように少女の声が笑い声を上げるが、でも、と不意にそのトーンがダウンする。

 

「前も言ったけど、()はボクもどうなるのかホントに分かんない。もしかすれば、ボク達の取引もこれで終わり、って事になるかもしれない。――正念場(しょうねんば)、って奴だよ。レン」

 

「ああ」

 

 声に頷き返してから、再びレンは正面へと向き直る。

 そうして彼が空を見上げるのと同じくして――ふっと辺りが暗くなる。

 続け様に何処からともなくサイレンが鳴り出し、いくつも赤いALERTの文字が光の失せた戦術試験区域の上方に映し出される。

 その異常事態にも動じる事無く、しかし緊張に僅かなれど鋭く強張(こわば)るレンの黒い瞳が、上方から眩い光が下りて来るのを捉えた。

 光の正体は、三機のMSであった。

 

<警告! (ただ)ちに決闘を中止しなさい! 繰り返す! 直ちに――>

 

 地に降り立つが早いか否か、そうスピーカーから警告を叫びながら手に持つ銃器を向けて来るそのMS達を前に、この場にいない仲間に向けて一言だけ、レンは呟く。

 

「――後は頼んだぞ、モルガナ」

 




これにて水星本編1話分が終了。
やべーよやべーよ、攫われちまったよー! またしこたま殴られておクスリ打たれてどうなの!?ってされちゃうよー!! ついでに次の投稿も多分撃遅だよ!

助けてカモシダーマン!!
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