ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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ゲェッ!? 前回の投稿からもう一か月経ってる! コロナでダウンしてたり赤いガンダムやライドウリマスターで時間取られ過ぎた!
読者の皆様方、長々お待たせ致しまして、誠に申し訳ありません。そして、多分次回もまた長々お待たせする事になると思いますので、先に断っておきます。重ねて申し訳ありません。

遂に終わっちゃったジークアクス、突然出て来たリボンズ声のあの人は一体どこから憑りついていたのか? というか、ジークアクスの方にあの人憑依してたんなら、マチュの方にもキラキラ経由で誰か憑りつくクロスSSとかアリなのでは? 個人的にぱっと思いついたのは四十代目ライドウ!

そんなこんなで39話、はーじまるよー!


#39 Because it's a good opportunity to get revenge!

「――というワケで、決闘する事になっちゃって」

 

「なっちゃってじゃないよぉっ!?

 

 地球寮、格納庫。

 ベネリットグループ所属企業が管理する他寮所有の格納庫はおろか、学園地下の共用格納庫と比べても四方を覆う壁や頭上に張り巡らされたキャットウォークに(さび)が浮き、MSを収めるハンガー等の設備も古ぼけている。寮そのものと同じく老朽化(ろうきゅうか)(いちじる)しいその空間の中で、マルタンの絶叫と怒声の入り混じった声が響き渡る。

 その矛先は、彼に先の実習直後に起きた一悶着を一通り説明した制服姿のニカであり、またその隣に立っている事の元凶――同じく制服姿のチュチュであった。

 そのチュチュが、うるせーな、と耳を指で塞ぎながらぼやく。

 

「だってあのクソスペーシアンども、ズルしたって因縁付けてきやがったんだぜ? テメーらがまずあーしらのデミドレーナー(デミ)に細工しやがった癖によ。黙ってられるかっての!」

 

「だとしても決闘は無いでしょっ!? 勝てる見込みあると思ってる!?」

 

 そのマルタンの指摘に、ぐっ、とチュチュが呻く。

 

「……やるからには、勝つし」

 

 反論するチュチュであったが、マルタンから顔を背けて呟くその姿には持前の威勢の良さは殆ど見られない。

 そんなチュチュ達の様子を格納庫内に搬入したエアリアルの足元からレン、リリッケ、オジェロとヌーノ、ティルと共に眺めていたアリヤが呆れた面持ちで息を吐く。

 

「我慢の出来ない子だとは度々思ってたけど……よりにもよって、自分から決闘を仕掛けるとは」

 

「まだ殴り合いの方が勝ち目あんだろ」

 

「それはそれで問題んなってアウトだけどな」

 

 そう軽口を叩き合うオジェロとヌーノも、共に浮かべる表情は交わし合う言葉とは裏腹に複雑だ。無口を貫いているティルも、何か言いたげにおろおろしてるリリッケも、また同じく。

 チュチュは決闘に勝てない。――いずれもそう言わんばかりの彼らの態度に、不思議に思ったレンは口を挟む。

 

「どうも皆チュチュが負ける前提みたいだけど、どうして?」

 

 まだ相手――因縁を付けて来た例の女生徒達がどこの寮の所属で、どんなMSを所有しているのか? そもそも、彼女達本人が決闘に出るのかすら、現状では分かっていない。

 その状況でチュチュの敗北を前提とする事への不可思議さを述べてから、もしかして、と思いつく可能性をレンは告げる。

 

「チュチュ、そんなに操縦上手くない?」

 

 すると、

 

「――あっ、そっか」

 

「お前はまだ知らないのか」

 

一瞬ぽかんとした顔になった一同であったが、最初に得心したオジェロとヌーノに続き、すぐに全員が反応を変えて説明を始める。

 まずは、ティルとアリヤから。

 

「そういうワケじゃない。チュチュの腕自体は悪くない」

 

「君に比べたら劣るかもしれないが、それでも平均以上はある筈だよ」

 

「地球にいた時は仕事仲間の人達と一緒にMC(モビルクラフト)乗り回してたって良く自慢してるし、実際上手いんですよチュチュ!」

 

 続けてリリッケが――同学年だけあってか――どことなく自慢気に言い切る。

 そこまでだけなら(むし)ろ勝てそうに聞こえるが、しかし、ただなぁ、とぼやいたヌーノが視線を向けた先にある物がそうならない事を示す。

 それは、

 

()()()()がどうしてもなぁ……」

 

エアリアルの隣のハンガーの中に納まっている、チュチュのデミトレーナーだ。

 頭部から胴体、肩に黄土色のカラーリングが施され、更に機体とアームで直結された大型の砲塔と足に増設されたローラーダッシュが目を引くその機体は、パッと見のシルエット以外は教材として学園に配備されている同型機とは一線を(かく)しており、レンの目には寧ろそれなりに強そうにすら見えた。

 が、実際のところはそうでもないらしく、

 

「あのデミのベース、スクラップ間近だった型落ち品なんだよ。それを買い取って、何とか戦えるように仕立ててんだわ」

 

「寮の皆総出で作った自信作だけどよ、それでも他の寮の奴らが持ってるようなちゃんとしたMSと真正面からやり合えるかっつったら……」

 

「まー厳しいよね」

 

 同じようにデミトレーナーを見上げながら眉を(しか)めて(うな)るオジェロの言葉に、エアリアルの爪先に腰掛けている半透明のエリクトがうんうんと頷く。

 もちろん、その姿と声はレンと、彼女の傍で伏せているモルガナ以外には見えていないし、聞こえてもいない。

 なので、おまけに、と続く彼女の言葉も二人以外には聞こえない。

 

()()にも余裕無いからねぇ、地球寮(ここ)

 

 アスティカシアは入学するに当たってベネリットグループ所属企業からの推薦が必要になるが、地球寮のメンバーはその推薦企業のグループ内ランクが軒並み低く、受けられるバックアップはほぼ無いに等しい。よって、唯一のMSであったチュチュのデミトレーナーが決闘等で大きな損耗(そんもう)を負った場合、その修理費等はほぼ全額地球寮の予算から支出する事になる。

 この予算はそもそも他の寮と比較しても心許(こころもと)無く、そこから寮生達の日々の食費を始めとした生活費や、寮そのものや設備の維持費をどうにか遣り繰りしている。そこに――例え元が安価な中古品であったとしても――複雑な部品の組み合わせであるMSの修理費用という決して安くない出費が発生しようものなら、唯でさえ少ない予算に大打撃を与える大赤字は(まぬが)れ得ない。

 そんな地球寮の懐事情と唯一のMSの優れているとは言い難い性能を思えば、確かに決闘は避けるべきかもしれない。

 

「なのに自分から仕掛けちまったってワケか」

 

 そりゃあ叱られてもしょうがねぇな、と相変わらずマルタンから糾弾されているチュチュを横目に見ながら、モルガナが嘆息する。

 

「つーか、決闘すんのはマズいって言う前に分かんなかったのかよ? 自分が乗ってるMSがどれだけやれるとか――」

 

「アイツだって分かってる筈なんだけどなぁ、()()()()()

 

 呆れるモルガナの疑問に対し、直後に頬杖を突きながらヌーノが放ったぼやきが偶然にも答えとなる。

 それに続いたアリヤの言葉も。

 

「何といっても自分の機体だ。どれだけ戦えるかは、チュチュが一番良く分かってる。――だからこそ、あの娘だって今まで決闘は出来る限り避けていた」

 

「それでも耐え切れなくって、結局やる事になっちゃったのも何度かあったりしちゃったんですけどね」

 

「でも、自分から仕掛けるなんて今まであったか?」

 

 あはは、と苦笑交じりにリリッケが補足し、初めてじゃね、とオジェロが驚きを口にする。

 彼ら彼女らの言葉をそのまま受け取るならば、チュチュもデミトレーナーの性能や地球寮の懐事情は把握(はあく)しているからこれまでは決闘は基本的に避ける方針だったが、今回に限っては珍しく自分から仕掛けた、という事か?

 だとしたら、チュチュがその珍しい行動に出た理由は何だったのか? 単なるその場の勢いか? それとも、そうするに足る彼女なりの理由があったのか?

 レンとしても気になるところではあったが、それについて彼はこの場では考えなかった。

 

「ていうか、そろそろ()()()()()()()?」

 

 呆れたような溜息混じりにエリクトからそう(うなが)されたから。

 

「どうせ()()()()()()()なんでしょ? 一応断っとくけど、ボク、全然オッケーだから」

 

「だそうだぜ? ――地球寮(ここ)の奴らのためにも、一肌脱いでやれよ」

 

「了解」

 

 顎をしゃくるモルガナにそう呟きと視線で応じてから、レンは動き出す。

 チュチュ達の方へ、()()()()を投げ掛けるために。

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#39 Because it's a good opportunity to get revenge!

 

 

 

「――もう良いんじゃない、マルタン?」

 

 溜息混じりにニカがそう告げたのは、未だにそっぽを向き続けるチュチュと、彼女をじっとりとした目で睨みながらお小言を続けるマルタンに、流石にうんざりして来たからだった。

 

「やっちゃったものは仕方ないよ。チュチュを責めたって決闘が無くなるワケじゃないんだし、そろそろ勘弁して上げよ?」

 

「いや、そうだけど――」

 

 納得いかな気に食い下がろうとするマルタンであったが、構わず、それに、とニカは言葉を続ける。

 

「チュチュが決闘を吹っ掛けたのだって、多分、実習の結果にケチを付けられたからってだけじゃないよ」

 

 それとは別に、()()()()()()()()()。――これまでの付き合いから、そんな気がしていた。

 チュチュの性分的に、恐らくそっちの方が本命だ。なら、先にそれを吐き出させてしまった方が、きっとこの場も収まりやすい。

 だから、でしょ、とニカはチュチュの方に顔を向けて笑い掛け、その理由を説明させようとする。

 それに面食らったように少しだけ目を丸くしたチュチュであったが、少し間を置いて再びマルタンと顔を見合わせた彼女は、その理由をぽつぽつと語り出す。

 

「――アイツら、バカにしやがったんだ。レンにぃの事」

 

 言い掛かりを付けた女生徒達をレンが逆に言い負かし、その場を後にしようとした直後、ホルダーもズルして取っただの、アーシアンには不釣り合いだのと、連中は彼個人を(ののし)った。

 論理とプライドを崩されてまともに反論出来なくなった負け犬の遠吠えに過ぎない事は分かっていたが、それでもアーシアンどころかスペーシアンですら為せなかった偉業を成し遂げたレンに泥を掛けられているように思えたのだ。

 

「レンにぃはスゲェ人だ。底辺に押し込められてるしかなかったアーシアン(あーしら)と、踏ん反り返ってるスペーシアン共の立場を引っ繰り返してくれるかもしれねぇ、希望だ!」

 

 そんな彼が、遅効性スプレーの嫌がらせなんてしょうもないマネしか出来ずにあっさりあしらわれるような下らない連中にまで(おとし)められるのが、許せなかった。

 だから、決闘を挑んだ。二度とそんな事を言わせないために。

 ――そう語り終えたチュチュに、それでもマルタンは難しい顔で額を押さえ、うーん、と呻いている。

 

「何だよ! まだ納得いかねぇのかよ!? マルタンだって、レンにぃに期待してた口じゃねぇか!」

 

「いや、言いたい事は分かるよ。納得も出来るよ」

 

 チュチュの言う通り、マルタンも――というか、ニカも含めた地球寮の全員が、常勝無敗であったグエルとの二度目の決闘に挑むと決まった時から――レンがアーシアンと判明する前から――アーシアンとスペーシアン、果てはスペーシアン間での序列といった力関係が半ば固定されてしまっているこの学園において、何某(なにがし)かの変革を(もたら)してくれるのではないかと期待していた。彼がアーシアンと判明した上で入寮した今となってはその期待はより確かなものとなっているし、それに抜きにしても同じ寮の仲間だ。仲間を侮辱されたから怒ったというチュチュの言い分はシンプルで、同意しか無い。

 しかしそれはそれとして、やはり決闘となると色々分が悪いのは変わらない。特に寮長として寮を預かる立場のマルタンからすれば、どう足掻いても頭を抱えざるを得ない状況なのも変わらないだろう。

 そして、その状況が脅威なのはニカもチュチュも、他の寮生達も同じだ。

 なので、どうやったら損害を押さえつつ勝利を収められるかを考えようとするニカであったが――。

 

「成程、そういう事だったか」

 

 ――不意にその耳に飛び込んで来た声が三人に驚きを(もたら)し、一様に肩を跳ねさせた事でその思考を中断させた。

 

「レンにぃ!?」

 

「レンさん!?」

 

 思わぬ不意打ちに揃って声を上擦らせて叫び返したニカとチュチュに、やぁ、といつの間にやら彼女達のすぐ傍に立っていたレンが気安い調子で片手を上げて応じる。

 

「話は大体聞かせてもらったよ。――そうか。君が決闘なんて言い出したのは、俺のためでもあったんだね、チュチュ」

 

 眼鏡越しの黒い瞳を向け、ありがとう、と微笑み掛けるレン。

 それを受けたチュチュが気恥ずかしくなったためか、や、そっ、そんなじゃ、と顔を真っ赤に染めてしどろもどろになりながらそっぽを向く。

 そんな彼女を余所に、レンの顔が、

 

「アップモント」

 

今度はマルタンの方へと向けられる。

 

「ちょっと提案したい事があるんだけど、良いかな?」

 

「へ? 提案?」

 

 な、何かな、と動揺しつつも訊き返すマルタン。

 それに対し、一つ頷いてからレンが告げる。

 

「決闘の話なんだけど――()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

『!?』

 

 再びニカ達の意表を突き、一様に目を見開かせる力を持った、思わぬ提案を。

 

「代わりにって……もしかして、()()って事!?」

 

 先程以上の動揺と驚愕を乗せた口調で返されたマルタンのその質問に、ああ、と平時と変わらない落ち着いた様子でレンが肯定を返す。

 

「決闘で代役を立てるのは許可されてるよな?」

 

 彼の言う通り、確かにアスティカシアでの決闘ではそれをすると決めた当人達が絶対に戦わなければならないワケではない。操縦に専門的な技術が必要となるMSを使うのが基本であるため、そしてそれを用意出来る人脈もまた“力”と扱われるために、より優れた操縦技術を持つ代役を立てる事自体は許されている。

 ただし、この場合本来の決闘者達の間で遣り取りされるのは互いに()けたもののみだ。戦績、及びホルダーの資格の移動については代役を請け負った者のみが反映される。

 よって、今回の決闘においてもしもレンがチュチュの代役を引き受けて戦った場合、その戦績はレンにのみ反映され、懸けたものについてはチュチュとあの女生徒達の間でのみ遣り取りされる事になる。

 そして、もしも彼が負けた場合はホルダーの資格も――。

 

「待ってよ!」

 

 チュチュが叫ぶ。

 困惑が抜け切らずすぐに返事が出来ないマルタンよりも先に、代役というレンの提案に否の声を上げる。

 

「何言ってんだよレンにぃ!? 決闘吹っ掛けたのあーしだよ、レンにぃが出る必要無いって!」

 

「でも俺も関係無いワケじゃない」

 

 レンが目を伏せ、ふっと笑ってから言う。

 

「バカにされたから、()()()()()()()()()()んだろ?」

 

「!」

 

 つい先程自らが口にした()()を返されたチュチュが、目を見開いて押し黙る。

 

「そうでなくとも、俺も嫌がらせはされたし、実習の結果にもケチを付けられた。()()()()()は君だけじゃなくて、俺にもある筈。――だろ?」

 

「そ、そりゃあ……」

 

 微笑み掛けるレンに、困った様にチュチュが言い(よど)む。

 彼の言う通り、今回の件はレンも決して無関係ではない。あの場では口で言い負かすだけで穏便(おんびん)に終わらせようとしていたが、それ以上の――それこそ決闘でもしてあの女生徒達を()()()()()()()()()()()()権利は彼にもある。

 それはチュチュも分かっているのだろうが、それでも言い出しっぺの自分の代わりをレンにさせ、せっかくのホルダーを失わせるかもしれないというのは、納得が出来ないのだろう。

 それ故に悩むような面持ちの彼女の首が縦に振られる様子は無い。

 なので、

 

「お願いします、レンさん」

 

そんなチュチュに代わって、ニカはレンへと頭を下げた。

 即座に、ニカねぇ、とチュチュが動揺の声を漏らすが、そんな彼女にニカは、良いじゃない、と返す。

 

「レンさんは二度もあのグエルに勝てる凄い人だよ? チュチュだってそう言ったばっかりじゃない。そのレンさんが戦ってくれる――ホルダーになるのにズルなんてしなかったって()()()()()()()()って言ってくれてるんだから、ここは甘えちゃおう」

 

「う……でもさぁ――」

 

「それにね」

 

 そこでニカは満面の笑みを浮かべる。

 これからする発言に一切の口を挟む事を許さないと言わんばかりの、有無を言わさぬ迫力を秘めた笑みを、ほぼほぼ無意識に。

 

「私見たいの、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 実のところ、ニカがレンの提案を受け入れた理由として、チュチュの内心を(おもんぱか)ってというのはその半分だけ。もう半分の理由は正にこれ――レンが駆る水星のMSエアリアルの勇姿をまた見られるチャンスだから、であった。

 オマケに、そのエアリアルは既にこの格納庫内に搬入済み。もしチュチュが決闘するとなれば彼女のデミトレーナーの調整で時間を取られてしまうが、逆にレンが彼女の代役として戦うとなれば、それを口実にエアリアルの方を思うまま(いじ)れる。―― 一メカニックとして、非常に()()()()()機会だ。

 

「ちなみに、エアリアルの方はシン・セー開発公社(ウチの会社)がバックアップしてくれるよ?」

 

「えっ? そうなの?」

 

 レンが述べた付け足しに、唸りながら考え込んでいたマルタンが即座に食いつく。

 

「ウチも大きくは無いから多少だけど、ちょっとした部品くらいなら大丈夫だと思う。――というか、今も新しいライフルとサーベルこっちに送ってもらってるところだし」

 

「言われてみれば、この前の決闘で派手に壊してたりしてたね」

 

 つまり、今のエアリアルは武装の幾つかを喪失しており、完全な状態ではない。

 しかし、それでも長きに渡る無敗記録を築き上げて来た前ホルダーのグエルを二度に渡って破ったレンだ。その彼が、多少手数が少なくなっている程度でグエルよりは間違いなく劣るだろう相手に後れを取るとは思えないし、万が一傷を負ったとしても、多少なりともシン・セー開発公社からのバックアップが受けられるエアリアルはその分の修理費を浮かせられるかもしれない。

 そういった目算はニカよりも経営戦略科のマルタンの方が優れている。その彼が下した結論は――。

 

「――僕からも頼むよ、レン」

 

 先程のニカと同じ様に頭を下げるマルタン。

 それに、了解だ、と快諾(かいだく)を返すレンとは対照的に、マルタンまで、とチュチュが抗議の声を上げる。

 が、ここまで来たら反対しているのは彼女のみだ。ニカもマルタンもレンの提案を受け入れた今、その場の空気自体が彼が代役としてチュチュの代わりに戦う事を良しとする方向に流れている。

 その空気に抗い切れず、ぐぐっ、と呻く彼女が折れるのも時間の問題。それを待って、代役の申請を決闘委員会に通すだけ――という状況に異を唱えるように、不意にけたたましいアラームが鳴り響いた。

 

「ああ、俺だ」

 

 ちょっとごめん、とレンが断りを入れてから自身の電子生徒手帳を制服のポケットから取り出して、着信のアラームを鳴らし続けるそれの画面に目を下ろして、

 

「――グッドタイミングだ」

 

微かに口端を吊り上げてからそれを耳に当てた。

 

「やぁ。用件は決闘の事か? ――丁度良かった、伝えておきたい事が――え?」

 

 しかしどうした事か、通話を始めてからほんの十数秒程度でレンの顔に浮かんでいた笑みが消え失せる。

 それに代わって片眉を跳ね上げた怪訝そうな表情を作りながら、彼は電話先の相手と会話を進めていく。

 

「――そうか、そうなったか。――宣誓も今から? 分かった。()()()そっちに行くよ」

 

 また後で、と短い別れの言葉を最後に、レンが通話を終え、生徒手帳をポケットにしまう。

 明らかに何かあった――そんな様子の彼を不安の目で見ていたニカ達へと向き直ったレンが、

 

「すまない。――さっきの話なんだけど、()()()()()()

 

小さな溜息混じりにそう告げた。

 

「だ、ダメになった、とは……?」

 

「決闘に出られない、って事ですか? チュチュの代わりに」

 

 さっきの話と、そう言われれば真っ先に思いつくのは先の電話の直前まで話していた、チュチュの代理としてレンが決闘するという提案だ。

 ほんの少し前までその提案を受ける形で、ほぼ話は決まり掛けていた筈だ。それが急に出来なくなったとは、一体どういう事なのか?

 ワケが分からないままに、口元をヒクつかせるマルタンと共に問い掛けるニカ。

 その問いに対するレンの返答は、

 

「残念だけど、そうなるかな」

 

肯定の頷きであった。

 ――ただし。

 

「チュチュの代わり()()出られなくなった」

 

 そこから彼が続けた言葉の内容は、少し予想外のものとなった。

 

「次の決闘、()()()()()()()らしい」

 

 

 

 目的地への到着を告げる電子音声と共にエレベーターが静止し、正面のスライドドアが左右に開く。

 そこをレンと共に潜り抜けたチュチュが軽く首を回し、周囲一帯に広がる決闘委員会のラウンジの内装を一通り見回してから、

 

「相っ変わらず気取った部屋してやがる……」

 

ちっ、と苦々しさを隠す素振りも無く舌を打つ。

 

「クソスペの大将連中が雁首(がんくび)揃えて居座ってるだけあるわ。吸ってるだけで胸糞悪くなってきやがんぜ、ここの空気」

 

 不愉快さを押し隠さない毒づきを並べ、トドメに、ハン、と荒々しく鼻を鳴らすチュチュ。

 彼女の言葉を借りるところの()()()()()()()()()の根城に足を踏み入れた上でのその態度は、彼女のスペーシアンに対する嫌悪感と反骨心を横目に見ていたレンに改めて知ら占めるには十分なものだった。

 だけに、

 

「ま、今回はちょびっとだけ見直してやらねぇでもねぇけど」

 

僅かながらも掌を返すような言葉が付け足されたのは、彼としても意外だった。

 なので、どうして、とその理由を尋ねれば、にっと笑ったチュチュからはこんな答えが返って来る。

 

「だってさ、今回の決闘タッグ戦に決めたのスペーシアンの奴らじゃん?」

 

 タッグ(2VS2)となれば、レンだけが出ればいいというワケにはいかない。彼以外にも決闘を行う人員が必要となり、それは必然的にもう一人のパイロット科で言い出しっぺのチュチュ自身になる。

 

「やっぱ自分(テメェ)のケツは自分(テメェ)で拭くべきだと思うんだよね、あーし。代役んなるって言ってくれたレンにぃには悪いんだけど、他の奴に任せっぱなしとか()だったし、それなら一緒に戦えるこっちの方がずっと良いもん」

 

「ああ、成程ね」

 

 自分が招き寄せた問題の処理を他人に任せっきりにしたくない。

 そう語ったチュチュの気持ちはレンには良く分かった。――かつて、思考を放棄し、面倒事を他者に押し付けて楽な方に流れ()()される事を良しとした人々の“怠情”の欲望に抗った彼には、とても良く。

 

「まー、結局寮の皆には迷惑掛けちまう事になっちゃったけど」

 

「そうだね。――特にアップモンドなんかは凄い顔してたなぁ」

 

 チュチュを連れて地球寮を出る直前までのマルタンの、まるで魔神皇(まじんのう)によって学園ごと魔界に取り込まれてしまったかのような絶望の表情を思い返しながらレンが投げ掛けると、うぐっ、と痛いところを突かれたような呻き声が上がる。

 チュチュも決闘に参加するとなれば、当然ながら彼女は自身のデミトレーナーで戦場に(おもむ)く事になる。――性能面に優れず、何某か損傷を負えば修理費を地球寮のか細い予算から工面する事になる機体で。

 そういう自身の愛機を戦わせる事のリスクはチュチュ自身が一番理解している、と地球寮の面々からは聞いていたが、苦虫を嚙み潰したような顔を背ける彼女のこの反応を見るに、一応はその通りのようだ。

 

「――やっ、大丈夫だしっ! あーしだってパイロット科の端くれだしっ、デミ傷つけずに勝つくらい、出来るしっ! ……多分、きっと」

 

 焦ったように捲し立てた後、自信無さげにか細い声で付け足すチュチュの姿は、残念ながら大丈夫そうには見えない。

 それはもう、レンの制服のポケットの中のキーホルダーからその言葉を聞いていたエリクトからも、ホントに~ぃ、と疑わし気な声が掛けられる程に。

 

「――()()()()()()()()()()()()()()、これは」

 

「みたいだね。――あーあ、()()()()()()()()()か」

 

 チュチュには聞こえないように声量を落としたレンの呟きに、面倒くさそうにエリクトが返す。

 と、その時であった。

 

「おいレン!」

 

 そうこうしている内に立ち止まっていたレン達に声が掛けられたのは。

 反応して目を向ければ、やはりというか、腕を組んで仁王立ちするグエルがそこにいた。

 

「やぁ、グエル」

 

「やぁ、じゃねぇよ」

 

 ポケットから抜いた片手を掲げての(ほが)らかなレンの挨拶に、呆れた様子でグエルが息を吐く。

 

「そんなところで何を駄弁(だべ)っている? 相手はとっくに着いてるんだ。後はお前らだけなんだから、()()な事やってないで早くこっちに来い」

 

「おっと、待たせてたか」

 

 それはすまない、とレンはグエルの方へと早足へ向かう。

 途中、

 

「ああっ、バカだとぉ!?」

 

グエルの些細な発言にいきり立ち掛けたチュチュを伸ばした手で制しつつ。

 即座に、レンにぃ、とチュチュは唇を尖らせるが、それさえも口の前で人差し指を立てるジェスチャーと微笑みのセットで瞬時に黙らせたレンは、そのまま合流したグエルと共にラウンジの奥へと向かう。

 

「それはそうとレン。お前なぁ……何気楽に決闘仕掛けてるんだよ?」

 

 先を行くグエルに嘆息されつつ。

 

「お前、自分がホルダーだって自覚あるか? ――忘れるなよ? 俺は、いずれお前らからホルダーを取り戻すんだからな」

 

「仕掛けたのは俺じゃないんだけどなぁ。――まぁ、分かってるさ」

 

 肩を(すく)めつつ頷き返すレン。

 その返答に、本当かよ、と疑いの視線を向けたグエルが、続けてもう一度溜息を吐く。

 

「しかも、よりにもよってその相手が――」

 

 同時に肩を落とした彼のその視線は、既にレンから正面へと向き直っている。

 進行方向――その先に既に待っているという、決闘の相手の方へと。

 

「何で()()()()()()()()()()()()……」

 

 そうぼやくグエルの声は心底うんざりしているようだった。

 

 

 

「遅ぇんだよアーシアン!」

 

「アンタら貧乏人に態々(わざわざ)付き合ってやってんのに、ノロノロ重役出勤か!? 良いご身分だね、(いや)しい地球生まれサマはさぁ!」

 

 ある程度のところまで距離が詰まるなり、既にラウンジ奥のスクリーン機能付きの大窓の前で待機していた数名の生徒達の中から進み出た二名の女生徒が罵声を吐き出す。

 すかさず、レンが連れて来た桃色の髪の女生徒――何度か決闘者としてこの場に来たのを見た事がある――が、ハン、と荒い鼻息を立てて言い返す。

 

「そもそもテメェらが因縁付けて来たのが悪ィんだろが! テメェが種蒔いたの棚に上げて(わめ)いてんじゃねーよ、クソスペーシアンが!」

 

「ハァッ!?」

 

「この期に及んで、まだズルしたの認めない気!? 意地汚いアーシアンめ!」

 

「だからズルなんてしてねぇっつってんだろ!」

 

 ハンマー寮側の女生徒達とチュチュが睨み合い、威嚇(いかく)し合う。

 この場が決闘前の宣誓の場であるのを忘れて今にでも取っ組み合いになりそうなその様子にグエルは眉を顰めるが――今の彼にとっては、正直そちらはどうでも良かった。

 何故なら、

 

「フハハハハハ! そいつか!? 貴様を二度も(くだ)したアーシアンというのはその男か、グエル・ジェタークよ!!」

 

そんな女生徒達以上に彼をうんざりさせる存在がこの場にいたからだ。

 

「負けたからには貴様も謝ったのだろう? ()()()で!? 聞かせてもらおう、一体何の虫の声で謝って見せたのかを!!」

 

「……やかましいぞ、パーカー・イーストコット」

 

 眼前の男子生徒――パーカー・イーストコットが上げている、ラウンジ中に響き渡る、ワハハハハ、という高笑いによって引き起こされる鈍痛に、グエルは既に(しわ)が出来ている眉間を更に寄せる。

 

「コイツとミオリネには別にそんな謝り方はしていない。普通に頭を下げただけだ」

 

 鬱陶(うっとう)しさから自然とトーンが下がった声でグエルはそう返した。

 途端、なんとーぉっ、とやたらデカい驚きの声が上がる。

 

「私に――いや、貴様に今まで挑戦してきた者達にあんな屈辱を与えておきながら、いざ自分が負けた時には、虫の声で謝らないだとぉ!?」

 

「……その条件、付き付けたのは今のところお前だけなんだが……」

 

 何で俺が負けた時までやらないといけない事になってるんだよ、と口の端をヒクつかせるグエルであったが、その文句はわなわなと体を震わせるパーカーの耳には生憎と届いていない。

 

「何という……何という身勝手っ! ええいっ、やはり貴様らは自分達だけが特別だと思っているのだな!? そんな(おご)り高ぶった有様だから()()()()()()()()()という事が、まだ分からんと見える!」

 

 ならばぁ、とパーカーの人差し指がまっすぐにグエルの顔面へと突き付けられる。

 

「私はここに宣言するッ! その間違い、今度こそ我が“ハンマー・フィールド社”の名と栄光と共に示して見せると! 貴様ら、()()()()()()()を背負いし者らにぃ!!」

 

 そして繰り出される宣戦布告。

 まるで中世の騎士が放ったかのような気取った、しかし燃え上がるような熱の(こも)ったその宣言を突き付けられたグエルは、

 

「……はぁ」

 

脱力のままに頭と両肩を落としていた。

 そうもなろう。これからパーカーが戦うのは彼ではないのだから。

 戦うのは――。

 

「ちょっと良いか?」

 

 後ろから肩を指で突かれる。

 その感覚で気だるげに振り返ったグエルに、彼の後ろにいたレンがこう問い掛けて来る。

 

「イーストコット、だったか? 彼が俺達の相手、で良いんだよな?」

 

「ああ」

 

「何だか因縁(いんねん)が有りそうな感じだったけど、知り合い?」

 

 その問いに、何と答えたものかと少し思案を挟んだ後、何とも渋い表情を浮かべながらグエルは返答する。

 

「……お前の前に戦った相手だ」

 

 そう。このパーカー・イーストコットという男子生徒はグエルがレンと戦う前――つまりはまだホルダーだった時に戦った、最後の相手である。

 彼と決闘したのは、レンが初めて学園に訪れ、同時にミオリネが現状最後の脱走を図ったあの日だ。

 その脱走騒ぎを揶揄(やゆ)して発せられた“婚約者に逃げられた”という侮辱に端を発して行われる事となったその決闘で、難無くグエルは勝利を収めたのだが――実はパーカー、というかハンマー寮の生徒と彼が戦ったのはそれが初めてではない。更にいえば、ジェターク寮の他の寮生も。

 

「昔から奴らの会社はジェターク社(ウチ)と何かと衝突する事が多くてな。そのせいか知らんが、学園(ここ)でも何かと因縁吹っ掛けられるんだ」

 

 そういうワケで、唯でさえジェターク寮とハンマー寮は折り合いが悪いのだが、パーカーからグエルへと向けられるそれは特別強く、最早単純な敵対心や対抗心という言葉では片付かない。

 言うなればそれは――。

 

「ははーん、成程。()()()()()()()()()()んだね、グエル君」

 

「勘弁してくれ……」

 

 多分レンの制服のポケットに中にでも入ってるのだろうキーホルダーからのエリクトのその言葉は、恐らく間違っていない。

 間違ってはいないんだろうが、一方的にそれを向けられるグエルの側からすれば、冗談ではない、としか言いようが無い。

 なので、先のパーカーとの決闘では“負けたら虫の声で謝罪する”という、突き付けたグエル自身からしても今にして思えば意味不明だが、とにかく屈辱的な仕打ちを敗北と共に押し付けてやった。思い切り彼を笑い者にしてその意思を徹底的に()し折ってやれば、もう突っかかって来る事は無いと思ったから。

 が、()()()()

 

「ふふ、ふふふ……あの日貴様に与えられた屈辱、今でも昨日のように思い出せるぞぉ? 必ず雪辱(せつじょく)を果たさねばならぬと、この私の拳と我が愛機が(とどろ)き叫んでいるぞおおぉぉ……!」

 

 掲げた拳を震わせるパーカーの目には未だに――いや寧ろ、例の虫の声による謝罪を行わせる前以上に激しい炎が燃え(たぎ)っていた。

 あの日の敗北と(はずかし)めは、残念ながら火に注ぐ油にしかならなかったようだ。

 

「あのー、パーカー先輩? 今戦うの、グエル・ジェタークじゃないんですけど」

 

「ワハハハハハハ! 分かってるとも、()()()()後輩よ!」

 

()()()()()()です……」

 

 斜め後方に控えている、如何にも()()()とか()()()とかといった感じの影の薄い男子生徒からのツッコミに高笑いを返したパーカーが、続けてその指をびっと突き出す。

 グエルのすぐ背後に立つレンへと。

 

「そこに立つアーシアンども! 我が宿敵グエル・ジェタークからホルダーを奪い、更には我が後輩達に有らぬ罪を着せようとした身の程知らずの愚か者! 此度(こたび)我々が打ち倒すべき敵は、彼奴(きゃつ)らである!!」

 

「そうですよパーカー先輩!」

 

 威勢良く声を上げたパーカーを、桃色髪の生徒と言い争っていたハンマー寮側の女生徒達が後押しする。

 

「こいつらズルして実習に受かったんですよ! それなのに、逆にあたしらに変な言い掛かり付けて来て!」

 

「このメガネがホルダーになったのだって、きっとズルしたからですよ!」

 

 レンに指を突き付け、あんな卑怯な奴ら、()らしめてやっちゃって下さい、と調子づく女子生徒達に、すかさず、んだとぉ、とチュチュが噛み付こうとするのを、その正面を横切るように腕を伸ばしたレンが抑え込む。

 そこに、更に調子を良くしたパーカーが、ふぅん、と胸を張って告げる。

 

「任せておきたまえ、後輩諸君! このパーカー・イーストコット、卑怯な真似をせねば実習一つ達成出来ぬアーシアンなどに負けはしない!」

 

「うるっせぇぞボケスペーシアン! あーしら何もしてねぇっつってんだろが! テメェ、耳クソ溜まってんのか!?」

 

「えーい、止めろ止めろ!」

 

 このまま縄張りを争い合う野犬のように歯を剥いて睨み合う女生徒達も、笑い袋か何かの様にやかましい声をラウンジ中に響かせるパーカーも、放っておいても収拾がつかない。

 

「分かったから、お前らいい加減に罵り合うの止めて、黙ってそこに並べ! ――ほら、お前らも!」

 

 ややヤケクソ気味にグエルは声を張り上げ、ハンマー寮の生徒達とレン達を大窓の前に対峙させる形で強引に並べさせ、後方のソファーで他の決闘委員会のメンバーと共に彼らを眺めていたセセリアへと指示を叫ぶ。

 それに対して、いつもの軽薄な笑みを浮かべるセセリアが、えーっ、と不満の声が上げる。

 

「もうちょっと遅らせても良くないですかぁ? ノリノリのパーカー先輩も、めっちゃ苦虫噛んでるみたいな顔してるグエル先輩もマジウケルしぃ」

 

「いいからやれ!!」

 

 イラつきのままに鋭い一声を飛ばすグエル。

 それに、はーい、と詰まらそうな返事をしてから生徒手帳の画面に指を走らせたセセリアの操作によって、大窓から周囲の景観が消え、黒地に学園の紋章が浮かんだスクリーンへと変化する。

 そうして並ばせたハンマー寮の生徒達とレン達の間へと移動し、漸く本来の目的である決闘の宣誓の準備が整ったところで、

 

「は~ぁ。――双方、魂の代償を天秤(リーブラ)に」

 

大きく溜息を吐き出して精神を整えたグエルは進行を始める。

 

「決闘者はレン・アマミヤ、チュアチュリー・パンランチとパーカー・イーストコット、ツイディーノ・O・マキーノ。戦術試験区域2番にて、2対2の総力戦で()り行う。――双方、異論は無いな?」

 

「ああ」

 

「無論である!」

 

 グエルの問いにレンが微笑みと共に落ち着いた声で、パーカーが張り上げた声で肯定を返す。

 その大音声をすぐ間近でぶつけられたグエルは眉間の皺を深めるが、すぐに気を取り直して次の問いを投げ掛ける。

 まずはレン達の方から。

 

「レン、お前らはこの決闘に何を懸ける?」

 

「ああ。俺達は――」

 

 そうハーフパンツのポケットに両手を入れた姿で答えようとしたレンを、待ってレンにぃ、と彼の右隣に立つチュチュが呼び止める。

 

「ここはあーしに任せてくんない? ――ほら、言い出しっぺあーしだし、アイツらには色々言いたい事あるしさ」

 

「――それもそうだね。じゃあ、ここはチュチュに任せようか」

 

「サンキュー!」

 

 レンの許しに満面の笑顔を返したチュチュが、続けてハンマー寮側へ向き直って腰に両手を当て、おぅテメェら、とドスの効いた声で言い放つ。

 

「耳の穴かっぽじって良く聞きやがれクソスペども! あーしらが勝ったら、テメェら全員纏めて謝らせる! あーしらが実習でズルしたとか、レンにぃがズルしてホルダーになったとか、そーゆーの全部纏めて――そこのウルセェ野郎がさっきからちょいちょい言ってやがった()()()()()()()!!」

 

 途端、ハンマー寮側の女生徒達が、んなっ、と驚愕の声を上げる。

 

「フザけんな!」

 

「そんな()ずいマネ出来るか! 調子乗んなアーシアン!」

 

 そう抗議の叫びを上げる女生徒達に、あ゛あ゛っ、と眉間に皺を寄せたチュチュが身を乗り出そうとするが、それよりも前に、止めろ、とグエルは彼女達の行動を(いさ)めに掛かる。

 

「対戦相手が何を懸けようと、それを拒否する事は許されない。ましてや、戦うのはお前らじゃないだろ? 気に入らんのなら勝てば良いだけ――」

 

「うっさいんだよジェタークが!」

 

「アーシアンなんかに二回も負けた奴が偉そうにすんな!」

 

 しかし彼の言葉を聞き入れず、それどころか反発する女生徒達。

 そのあまりの言動に怒りを刺激され、んなっ、とカッとなり掛けるグエルであったが、そこにすかさず、止めよ後輩達よ、とパーカーの鋭い声が。

 

「つい先程も言った筈だ、私は負けぬと!」

 

「せ、先輩……」

 

「何を懸けられようと私は一向に構わん! ()()()()()()()()()()! お前達は(もく)して、我々の決闘を行く末をただ見ておれば良いのだ!」

 

 きっぱりと言い切るパーカーのその自信と迫力に説得された女生徒達が押し黙る。

 つい先程まで(しつけ)のなっていない犬の様に喚いていたのが嘘のようなその従順ぶりには呆れるほかないが、それはともかく邪魔は無くなったので、引き続き宣誓を進めようとグエルはパーカーにも何を懸けるのかを問い掛けようとする。

 が、それを待たずにパーカーは更なる宣言を、故にぃ、と不敵な笑い混じりにその口から言い放った。

 

「そう! 私が何を懸けると言っても、この場の誰も文句は言えまいのだ! よって、私はここに要求する!」

 

「おいっ、何を勝手に進めて――」

 

「ここなアーシアンどもが敗北した暁には、この者達が実習で働いた不正の全てを教師に告白して合格評価を取り下げさせる事! そして、言い掛かりを付けられた我が後輩達への謝罪を、()()()で行う事をぉ!!」

 

 勝手に宣誓を進めるパーカーに苦言を(てい)すグエルであったが、当のパーカーの耳にその文句は全く届かず、最後まで要求を言い切られてしまう。

 そうなったからにはもう仕方ないと、口元を痙攣(けいれん)させつつも怒りを抑えた彼は、さっさと宣誓を終了させようとする。

 

「……賽は投げられた(アーレア・ヤクタ・エスト)! 決闘を承認――」

 

 しかし、グエルは間違っていた。

 パーカーの要求は、

 

「そこの二人組! 及び、()()()()()()()()()()()!!」

 

「――す……何?」

 

()()()()()()()()()

 

「……待て。いや、待て。イーストコットお前……今、何て言った?」

 

 聞き間違いだ。多分、いや間違いなく聞き間違いだ。

 だってそうだろう? この決闘はレン達とパーカー達のもので、自分は単なる立ち合い人でしかないのだから。中立の立場なのだから。その立ち合い人が決闘の勝敗に巻き込まれるなど、前代未聞で、有り得ない事なのだから。

 ――そう思い、眉間を指で押さえながらグエルは問い質す。

 それに対する答えは、もちろん――。

 

「むっ? 聞こえなかったか? ではもう一度ここに宣言しよう! ――我々が勝った暁には、実習における不正の告白と、我が後輩達への言い掛かりに対する虫の声での謝罪を要求する!」

 

「うん、うん」

 

「そこのアーシアン達に!」

 

「うんうん、そうだな、そうだよな」

 

「そして貴様にだ! グエル・ジェターク!!

 

「うんうん、やっぱりそう――って何でだよッ!?

 

 ――最初に聞いたまんまであった。

 

「おい待てぇ!? お前らの問題でやる事になったんだろこの決闘!? 何で俺まで巻き込まれなきゃならないんだ!?」

 

「何故、とな?」

 

 全く冗談ではない要求に抗議の声を上げたグエルに、決まっておろう、とパーカーが叫び返す。

 

「貴様はかつて私に虫の声で謝罪させた! 此度の決闘が、その雪辱を果たす良い機会だからだ!」

 

「何だよ良い機会って!? そんなの認められるかァ!! というか――」

 

 そんなに謝らせたいなら、直接俺に決闘挑め!

 そう言おうとしたグエルであったが、しかし、

 

「ダメだぞーグエル?」

 

不意に背後から掛けられたその否定の声に肩を跳ねさせ振り返ったために、その言葉を口にする事は出来なかった。

 

「シャ、シャディク!?」

 

 いつの間にやらそこに立っていたシャディクに驚き一歩後ずさるグエル。

 それに構わず、いつもの穏やかな笑みを浮かべたシャディクが、

 

「はい! ――()()()()()()()

 

パン、とその場で手を打ち合わせ、まだ完全に下りていなかった決闘の承認を宣言してみせた。

 その様に、なっ、とグエルは目を見開く。

 

「お前っ、何を勝手な事をっ!?」

 

「それは俺の台詞だよ。――ダメだろ? 立会人(お前)が決闘者の要求を拒否しちゃ」

 

 決闘者の要求を拒否する事は許されない。対戦相手やその仲間はもちろん、無関係の外野も、中立の立場を取るべき決闘委員会の人間も。

 ましてや、立会人が口を挟むなど(もっ)ての外。

 他ならぬグエル自身が直前にそう発言したために、シャディクの言葉を彼は否定出来ず、ぐぅ、と呻くしかない。

 

「というワケで、開始時刻は一週間後の午後三時から。双方、遅れる事の無い様に」

 

 そのままにこやかな面持ちのシャディクに勝手に進行を進められた事で、決闘前の宣誓は程なくして終了。スクリーン機能が停止された大窓が元通りの外の景色を映し出すと共に、解散が宣言される。

 それと共に、

 

「貴様に負けた時、私は()()()()で謝らせられた」

 

再びパーカーが肩を揺らして笑う。

 

「貴様には、何の声で謝らせるのが良いだろうなぁ? ――その日が来るまでには決めておくから、貴様も精々そこなアーシアンどもと共に練習に(はげ)んでおくのだぞ! 良いな、グエル・ジェタークよ!?」

 

 そう指を突き付けて宣告した後、ワハハハハハハ、とけたたましい笑い声を上げながらパーカーが背を向けて歩き出す。

 その後に続き、女生徒達とどうも影の薄かった男子生徒もその場から去って行く。

 

「あーあ、カワイソー! ズルした自白だけじゃなくて、変なやり方で謝らなきゃいけなくなっちゃった!」

 

「楽しみにしといたげるから、精々そこの()()()と一緒に頑張って謝ってねー? ――さーて、カフェでも行こっか? ()()()()君も一緒にさ」

 

O()()()()()()だよ……」

 

 最後にそんな煽り文句を残してから。

 

「テメェらこそ精々謝る練習してろや! あーしらの“最高戦力”レンにぃ舐めやがった事、た~っぷり後悔させてやんよ!!」

 

 けっ、と中指を立てたチュチュがそんな事を吐き捨てていたが――は~っ、と深く息を吐き出して項垂(うなだ)れたグエルにはそんな事はどうでも良かった。

 決まってしまったのだ。次の決闘で万が一にもレン達が負けてしまおうものなら、何の関係も無かった筈の自分まで巻き添えを食ってしまう事が。パーカーの思わぬ執念深さのせいで。

 そう思うと、無性に腹が立って来た。非常にムカつきが込み上げて来た。

 なので、少しの間肩をわなわな震わせたグエルは、

 

「レンッ!!」

 

ぐるり、とレンの方へ振り返り、肩を怒らせて彼へと詰め寄る。

 

「良いか! 次の決闘は絶対に勝てよ!」

 

 パーカーはグエルがほぼ一方的に倒せる程度の相手だ。レンとエリクトが負けるとは全く思わないが、それでも万が一事態が起きた時に負うペナルティが最悪の極みだ。絶対に避けなければならない。

 そのためにも、

 

「イーストコットなんぞがホルダーになって俺まで虫の声で謝るなんぞ、死んでも御免だからなッ!!」

 

最低限の釘は刺しておかねば! 

 




特に理由の無いワケじゃない因縁がグエル君を巻き込む!
まー目の前でジークアクス強奪された挙句軍警にお世話(意味深)になったエグザベ君よりマシじゃてマシ。

それでは、次回もお楽しみに!
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