ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

41 / 41
前回から早2ヵ月……長らくお待たせ致しましてすいません! ようやく纏まった量が書き上がったので久々の投稿です!

今回は決闘直前のちょっとした準備回。ちょろっとだけオリキャラ?とかオリ武装?の顔見せとかあるので、あんまり大した内容じゃないけどどうか見てって見てって~!


#40 As a knight protecting the princess.

「いやいや、それは無理ってものだよ?」

 

 青白い壁に四方を囲まれたオフィスの中で、耳元に携帯端末を当てた男が小さく(かぶり)を振る。

 

水星(ウチの本社)から学園までどれだけ離れてるか分かってる? ちょっとした物資送るだけでもそれなりに日数は掛かるんだよ? なのに一週間後に決闘って……何考えてるんだい、君?」

 

 濃いブラウンのスーツに身を包んだ男が溜息と共に肩を落とし、同時に襟足から覗く天然パーマの掛かった後ろ髪も揺れる。

 懐かしくもあり、愛おしくもある()()だ。

 

「言い出しっぺは寮の後輩? でも君もやるんでしょ? だったら同じでしょ、そんなの。――ともかく、新しい武器の搬入予定は変えられないし、やるからには負けも許さないから。――君に預けているのは()()()()()()()なんだからね? そこのところ、決して忘れないように」

 

 それじゃ、と耳元から端末を離した男が通話を打ち切り、その場で振り返る。

 それによって視界に現れた男の頭には、彼を目にした者は誰しもが否応無く視線を集中させるだろう奇怪な物が存在していた。

 ()()だ。

 褐色の肌に薄らと髭が見える口元以外を、それこそ頭頂から襟足以外の後頭部に至るまで銀色の仮面(ヘッドギア)が丸々覆い隠しているのだ。

 そんな奇妙極まる男の風貌に、しかし自らのデスクの上で頬杖を突きながらその様子を眺めていた彼女は――プロスペラ・マーキュリーは訝しみ一つ覚えない。

 それどころか――以前の審問会の際は被っていたヘッドギアを外している事で顕わになっている――その灰色掛かった青色の瞳から男へ向けている視線には、慈しみや親しみの感情すらあった。

 

「彼、何て?」

 

 微笑みと共に投げ掛けた問いに、苦笑交じりの気安い口調で男が答える。

 

()()決闘するそうだよ。それで、頼んでいたライフルとサーベル送るの早められないか、だって」

 

 その男の返答に、あらぁ、とプロスペラは驚きと感嘆が入り混じった声を上げる。

 

「ジェターク社の御曹司とやりあってから、まだ二週間くらいしか経ってないのに?」

 

「全くだね。寮の後輩が売った喧嘩の付き添いとか言ってたけど、本当は自分から代役買って出ようとしてたんじゃないかな? ――やれやれ、思ってたよりも好戦的だったみたいだよ、ウチの専属パイロット君」

 

 しょうがない奴だ、とでも言いたげに掌で天を仰ぐ男に、ふふっ、とプロスペラは微笑み掛ける。

 

「まぁ、それくらいが丁度良いんだけどね。――もっともっと戦って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――そうだね」

 

 プロスペラの言葉に、腕を下ろした男が仮面の下の口元に不敵な笑みを作って応じる。

 

()()()()()()()()()()()()()ためにも、レンにはもっと頑張ってもらわなきゃ」

 

「ええ。差し当たっては――」

 

 頬杖を解いたプロスペラはデスクの上で手を組み、その上に顎を乗せ直す。

 男の――四つのレンズが横に等間隔に並んでいる仮面の――目元と視線を交わす彼女はその顔に、恍惚(こうこつ)とした笑みを浮かべる。

 

「――次の決闘もちゃんと勝ってもらわないと、ね」

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#40 As a knight protecting the princess.

 

 

 

「――まぁ、ダメだよな」

 

 地球寮、格納庫。

つい先程通話が切られたばかりの電子生徒手帳を持つ右手を見下ろし息を吐く制服姿のレンに、傍で様子を伺っていた地球寮の面々の中からニカが尋ねる。

 

「今電話していたのって、シン・セー開発公社の人ですか?」

 

「うん。――CCOのミランドさん」

 

 通話アプリを閉じた生徒手帳を制服のポケットに戻しつつ、レンは返答する。

 “ミランド・マーキュリー”。――それが先程までレンが連絡を取っていた相手であり、ひいてはシン・セー開発公社のCCO(No.2)にして、CEO――プロスペラ・マーキュリーの()()()()()男の名であった。

 今のレンは一応エアリアルの専属パイロットという扱いでシン・セー社にも(せき)を置いている状態であり、何某(なにがし)か連絡や要請があればまずミランドへ連絡を取る手筈(てはず)になっている。

 そういうワケで、今しがたもシン・セー本社に依頼していた――先のグエルとの二度目の決闘の際に喪失(そうしつ)した――ビームライフルとビームサーベルの新品の納期短縮の依頼をそのミランドへの連絡していたレンであったが、その結果は見ての通りであった。

 

「仕方ないな。――水星なんだろ、本社? ラグランジュ4(ここ)までは大分離れてる」

 

 息を吐くアリヤに、同じ事言われたよ、と微笑混じりに掌で天を仰いで見せるレンの心中には、特に口惜しさの類は無い。

 彼女だけでなくミランドにも言及された事だが、そもそも水星から学園まではどうして相応に日数に掛かる。――当に分かっている事だった。

 それでも駄目元で連絡したのは――。

 

「けっ」

 

 ニカやアリヤとは別のところからレンの様子を見ていたチュチュが、不愉快気に舌を打った。

 

「レンにぃが頭下げて頼み込んでんのに断りやがって。推薦企業(バック)だっつったって、所詮はスペーシアンだな」

 

「チュチュ」

 

 即座に飛んで来たニカからの注意に、一旦は唇を尖らせて口を(つぐ)いだチュチュが、んでもさ、と一転して明るい声をレンに掛ける。

 

「ちょっと武器が無いくらい、どうって事無くない?」

 

 それまで常勝無敗だったグエルをレンは二度も(くだ)している。そのグエルよりも明らかに劣っているだろう連中が相手なのだから、多少武装が欠落している程度じゃ何の問題にもならないのでは?

 そう首を傾げながら語ったチュチュの疑問に、だよな、と片手に電子生徒手帳を持ったヌーノが同意しながら歩み寄って来る。

 

「相手、ハンマー寮の奴らだったんだろ? ハンマー・フィールド社(連中の推薦企業)だってグループ内じゃ中堅程度だし、お前ならライフルとサーベル無いくらいなら問題無いんじゃないの?」

 

 言いつつ彼が見せた生徒手帳の画面にはハンマー・フィールド社の会社概要が表示されており、確かに件の会社がベネリットグループ内序列でも中堅である事がそこに記載されている。アスティカシアの各寮の力関係は推薦企業の序列と多分に比例しているため、それを(かんが)みればハンマー寮の力はジェターク寮よりも明らかに劣っているといえる。

 よって、そのジェターク寮のトップかつ常勝無敗だったグエルを二度に渡って打ち破ったレン達にとっては、一部武装の喪失というハンデがあっても猶、ハンマー寮は脅威とは成りえない。――ほぼほぼ負ける事は無いと、

 

「――勝てるとは思ってるよ」

 

()()()()()()()()()()()()

 しかし、

 

「でも、戦うのは俺だけじゃないだろ?」

 

次の決闘は個人戦ではなく、チュチュと組んでのタッグマッチ(2vs2)だ。

 言い換えればそれは、

 

()()()()()()()()として、()()()()は多いに越した事はないと思ってさ」

 

共に戦う彼女を()()()()()()()()()という事だ。

 チュチュの駆るデミトレーナーは型落ちの旧式モデルベースの改造機で比較的安価なのだが、それでも下手な損傷を負えば――例え決闘には勝ったとしても――地球寮は決して多くは無い寮費に修理費という手痛い打撃を受ける事になる。

 今やその地球寮の一員となったレンとしても、それを見過ごす事は出来ない。なので、デミトレーナーの損壊を抑える事も必然的にクリアすべき案件の一つとなるのだ。

 無論、逐一(ちくいち)介護が必要な程にチュチュの技量に問題があるとは彼も思ってはいない。(むし)ろ、事前に地球寮の面々から彼女の腕の程を聞かされている事もあって、相応の期待すら抱いている。

 なので、先の武装の件と同じくあくまで保険程度の話であり、決してチュチュを(あなど)っているワケではない。――そう誤解を生まないよう説明したレンであったが、ふとそこで彼は気づく。周囲の面々が、一様に鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしている事に。

 

「……お姫様?」

 

「……誰が?」

 

 戸惑い気味にアリヤとニカが尋ねる。

 それに続けて、まさか、とヌーノの三白眼がある方向へと向けられる。

 ――全く意味が分からないと目を(しばた)かせていたのが、その視線に気づくや、へ、と間の抜けた声を漏らしたチュチュの方へと。

 直後、バカ言ってんじゃねーよ、と困惑が多分に混じった声でチュチュが叫び返す。

 

「あーしが()()()ガラなワケねぇだろ!? レンにぃが言ってんのは別の奴だって、ちょっと考えりゃすぐ――」

 

「別の奴って?」

 

 そのまま彼女の口から続く早口の反論は、しかしその内容を不思議に思ったレンが首を傾げた途端に止む。

 そして代わりに、ぽかんとした顔を向けたチュチュへと、彼ははっきりと告げる。

 

「俺は()()()()()()言ったつもりだけど?」

 

 刹那、はぁあああぁぁ、という絶叫が格納庫内に重なり響き渡った。

 

「あーしが!?」

 

「チュチュが!?」

 

『お姫様ぁ!?』

 

 如何(いか)にも信じ難い事を耳にしたとばかりに、目を見開きすっとんきょな声を上げるチュチュとヌーノ。

 そんな二人と、二人程ではないにせよ呆気に取られるアリヤとニカの様子の奇妙さに、レンは小首を傾げてみせる。

 

「やっ、ちょっ……レンにぃっ、マジでそれ言ってんの!?」

 

「そんなにおかしな事言ったかな? ()()()()()()()()()()()()()()、別に間違っていないと思うけど?」

 

「っ!? っ!? ~~っ!!?」

 

 微笑みと共に返すや、目を点にしてチュチュが()け反る。

 それと共に、正気かよ、と信じ難いものを目撃したようにヌーノが呟く。

 

「こいつ捕まえてお姫様とか言う奴、初めて見たわ……」

 

「……ん、ううん、でも、まぁ……確かにチュチュだって女の子なんだし、間違ってるワケじゃない……のかなぁ?」

 

 そう歯切れ悪い口調でニカが言うや、ニカねぇ、と飛びつくような勢いでチュチュの首が彼女へと向けられる。

 

「何言ってんのさニカねぇまでっ!? 止めてよ! あーしそんなガラじゃないって! ってか、ヤだよお姫様とか!? この学園でお姫様つったら――」

 

 という風に必死の形相でチュチュが訴えていたその最中、彼女の声を(さえぎ)る様にけたたましいアラームがその場に鳴り響く。

 電話の着信を報せるそれの出元は、レンの制服のポケットの中――彼の電子生徒手帳で、取り出したそれの液晶に表示されていたのは――。

 

「――ミオリネ、か」

 

 その名前を認めた時、微かながらもレンは嫌な予感を覚えた。

 つい先程宣誓を終えた事もあって、決闘の事はまだミオリネには伝えていない。勝敗次第でホルダーの称号と共に()婿()が切り替わってしまう彼女からの、このタイミングでの電話とくれば、何となくその用件は察せてしまうというものだ。

 されとて出ないワケにもいかないため、内心を面に出さない微笑み顔のまま、液晶に映る応答ボタンをレンはタップする。

 直後、

 

<レエエエエェェェン!!>

 

通話が始まった生徒手帳から耳を(つんざ)く怒号が響き渡った。

 

「やぁ、ミオリネ。急にどうしたの? 君から電話が来るなんて珍し――」

 

<聞いたわよアンタ! 何私の許可無しに勝手に決闘なんて仕掛けてんのよ!?>

 

 第一声の凄まじい声量から敢えて生徒手帳を耳元に近づけず見下ろしたまま、あくまで平常のまま返した応答をミオリネの怒声が(さえぎ)る。

 やはりというか、決闘の話をどこかで彼女も知ったらしい。――しかもタチの悪い事に、中途半端な形で。

 なので――電話越しでも分かる激しい怒りに無駄だろうなと思いつつも――レンは弁明を図る。

 

「いや、仕掛けたのは俺じゃなくて寮の後輩なんだ。俺はその付き添いで――」

 

 が、その弁明も彼は途中で中断させられる事となる。

 今度は、

 

「うるっせぇぞクソスペーシアンッ!!」

 

生徒手帳を彼の手首ごと掴み寄せ、先程のミオリネから放たれたものにも負けない大音声を吐き出したチュチュによって。

 

「決闘仕掛けたから何だっつーんだよ!? (くだ)んねぇ事(わめ)いてんじゃねぇぞゴラァッ!!」

 

 目を吊り上げて吠えるチュチュ。

 その凄まじい――あまりに凄まじ過ぎて、口から飛び散る唾がレンの手に掛かる程の――勢いには、つい先程までの狼狽(ろうばい)し切った姿などまるで感じさせない。

 すかさず、はぁっ、と怒りと困惑が混ざったミオリネの声が反発する様に生徒手帳から発せられる。

 

<だっ、誰よアンタ!? レンはどうしたのよ!? 私は今レンと話して――>

 

「人のMSにスプレーなんてこすい奴らに、レンにぃとあーしが負けるとでも思ってんのかよ!? 何も出来ねぇ()()()は、黙って賞品(トロフィー)やってろや!!」

 

<なっ……何ですってぇ!?>

 

「こちとらテメェのせいで今クソ恥ずい気分になってんだ! 分かったら二度と掛けてくんな! クソスペのムカつく声なんかあーしらの“前線基地”ん中にタレ流してんじゃねぇボケェ!!」

 

<ふっざけんな! 誰が賞品よ! このチンピラ謎女――>

 

 そこまでミオリネが返し掛けたところでチュチュが生徒手帳の液晶をタッチ。強制的に通話を終了させたそれを掴んでいた腕ごとレンに押し返した後、ふー、ふー、と暫くの間荒い息をする。

 そして、激しい嵐が起きたかと思いやあっという間に過ぎ去ったかのようなミオリネとの口論に呆気に取られたレン達の方に向き直った彼女は、

 

「ともかくレンにぃッ!」

 

茹蛸(ゆでたこ)の様に顔を真っ赤に染めて怒鳴った。

 

「お姫様とかガラじゃないし()ずいんだから、マジで止めてね! レンにぃだから口だけで済ますんだからね! 他の奴だったら、速攻でぶっとばしてんだからね!?」

 

 羞恥と怒りが混ざった声で一息にそう言い切るや、ぶるりと体を一震わせしたチュチュがその場で(きびす)を返し、格納庫の出口向け、大股(おおまた)で足早に去って行く。

 その背を呆気に取られている様子の他の面々と共に見送っていたレンに、あーあ、と足元から一部始終を見ていたモルガナ、及びポケットの中のキーホルダーを通して聞いていたエリクトから、(そろ)って呆れたような声が掛けられる。

 

「やってくれたなぁ、チュチュの奴」

 

「今頃カンカンになってるだろうねミオリネ。――負けたらアイツに殺されるんじゃない、君?」

 

「ま、元を正せばお前がチュチュをからかい過ぎたせいだけどな。――ワガハイ言った筈だぜ? ()()()()()は止めろって」

 

 見上げるモルガナの蒼い目が鋭い視線を向ける。

 その視線を、からかったつもりは無いんだけどなぁ、と肩を竦めての苦笑いでレンが受け流すと、良く言うぜ、と彼は頭を下げてぼやく。

 

「真面目な話どーすんだよ? ちょっとゴメンとか言うくらいじゃ絶対許さねぇぞ、ミオリネの奴」

 

「――だよなぁ」

 

 直前の言葉を(かんが)みるに、どうもミオリネの要件は断りも無く勝手に決闘を取り決めた(と思い込んでる)レンへの非難だったようだ。そこに先のチュチュからの一方的な罵倒となれば、唯でさえ気難しい彼女を(しず)めるのはかなりの難題となるだろう。

 困ったもんだな、と首を(ひね)るレン。

 そこに、あの、とニカが話し掛けて来る。

 

「どうしたんですかレンさん? 何か、さっきから独り言が……」

 

 先のチュチュとミオリネの罵り合いの衝撃が抜け切ってないのか、おずおずと尋ねたニカに、一旦ミオリネに関する思考を打ち切ったレンは、ああ、と応答を返す。

 

「いや何、ちょっと考え事をね」

 

「考え事?」

 

「どうやってミオリネに謝ったものかな、って」

 

 そう伝えると、問題の場面を間近で見ていた事もあって、あー、と合点がいった様子を見せるニカであったが――すぐに一転して、

 

「……()()()()()()?」

 

不思議そうな目をレンに向けて来た。

 不意のその視線は気に掛かるものではあったが――敢えてレンはそれについて追及せず、それはまぁ、とニカの問いに肯定を返す。

 

「経緯はどうあれ、彼女の今後に関わるかもしれない事を相談も無しに決めちゃったからね。そりゃ怒鳴られても仕方ないし、こっちも謝って(しか)るべきさ」

 

「それって……あの人がスペ――」

 

 そこまで言い掛けたニカであったが、急に彼女は視線を下方に逸らして口を噤む。

 まるで、吐き出そうとしていた言葉が直前になって具合の悪いものであると気づいて、慌てて飲み込んだ、といった風に。

 彼女がそうした意図まではレンには分からなかったが、しかし、それを追究する間は無かった。

 

「――あの!」

 

 切り替える様に――もしくは誤魔化す様に――声を張り上げたニカ自身によって、

 

「えっとぉ……結局、武装ってどうするんですか?」

 

強引に話題に切り替えられたからだ。

 

「ん? ――ああ、そうだね」

 

 直前までのニカの様子が気になりはしたが、もうそれを尋ねられる空気ではないため、止むを得ずレンは彼女の新たな質問に応じる事にした。

 といっても、新品のビームライフルとビームサーベルが決闘には間に合わないのは変わりなく、それらが欠けた状態で挑むしかないのは変わらない。チュチュを守りつつ戦う上で手数が多いに越した事は無いからあった方が良いというだけで、最悪無くても構わないというのも、また同じくだ。

 なので、改めてレンは無問題だと答えようとするが――それよりも一足早く、ニカの方からこんな提案が投げ掛けられる。

 

「いっそ、()()()()()()()?」

 

「作る?」

 

 武器を、と思わぬ言葉に問い返すレンに、流石にライフルとかは無理ですけど、と苦笑しつつもニカが頷く。

 

「時間も一週間しかないから手が込んだりしてるのは難しいとして、うーん……()()()()()()()()()()()()()()のとかなら、多分、いけます」

 

「そうかい? なら――」

 

 決闘の発端となった実習での、遅効性スプレー対策の溶剤散布装置の件で地球寮の寮生達の技術は確かな物だと既に示されている。その一人であるニカが出来ると言うならば、ここは頼ってみるのも良いかもしれない。

 そう判断したレンは少しの思案の後、それじゃあ、とペイントアプリを立ち上げた生徒手帳にざっくりとしたイメージ図を描いていく。

 

()()()()()っていけるかな?」

 

 そうニカに出来上がった図案を差し出す直前まで、手帳の液晶と()()()()()()の間で視線を交互に行き来させながら。

 

 

 

 それから時は過ぎ去って一週間後。――()()()()

 

「オーライ、オーライ! そのままゆっくり! ――良いよ、降ろして!」

 

 地球寮、地下区画。

 格納庫同様に老朽化している様子がそこかしこに見受けられるその空間内で、高く上げた両腕を仰ぐニカの誘導のまま、リフトで持ち上げられていたエアリアルが解放状態のMSコンテナへと搬入されていく。

 その様子を真っ白なホルダー用パイロットスーツを(まと)ったレンは見届けた後、腕を下ろして一息吐いたニカに声を掛ける。

 

「お疲れ様。――()()が例の武装?」

 

 エアリアルの方を見上げながらのその問いに、ええ、とニカが頷き返す。

 より詳細に言えば、その()()の方を。

 

「一応頼まれていた通りの事は一通り出来ると思います。特にワイヤーとモーターは偶々良いの残ってたから、やろうと思えば相手のMSだって引っ張れますよ」

 

「本当かい?」

 

 だとすれば、ニカと、彼女と共に件の武装を用意してくれたメカニック科の面々は期待以上の仕事をしてくれた事になる。

 凄いなぁ、と率直な驚嘆を口にするレン。

 そこに、でしょ~、と入り込んで来る者が一人。

 チュチュだ。

 

「何てったって地球寮(ウチ)のエースメカニックのニカねぇの仕事だもん! 宇宙生まれだからって偉ぶってるだけの能無しクソスペなんかとは、一味も二味も違うってね! ――ねっ、ニカねぇ」

 

 代名詞たる巨大なシニヨンごと頭をすっぽりと覆うヘルメットのバイザー越しに快活な笑みを浮かべ、ニカを褒め称えるチュチュ。

 その強い尊敬と信頼が伺える賞賛に、()してよ、とやや気恥ずかしそうにニカが返すその一方で、

 

()めんのニカだけかぁ?」

 

「アレ作ったの、俺らもなんだけど~ぉ?」

 

ニカと同じくノーマルスーツ姿で彼女の後方にいたヌーノとオジェロが不満げに目を細めて訴えていた。

 

「もちろん忘れてねぇって! 二人も()()()()()()()()サンキューな!」

 

「手伝い扱いかよ……」

 

 そう二人にも感謝を述べるチュチュであったが、生憎その言葉はお気に召さなかったらしく、二人の視線は更に非難がましいものになる。

 

「ま、今に始まった事じゃねぇし良いけどさ。――んな事より、見ろよコレ!」

 

 しょうがないとばかりに溜息を一つ吐いたオジェロが一転、顔を(ほころ)ばせて生徒手帳を取り出し、その場の一同全員が注目するように突き出して見せる。

 液晶内ではレンとチュチュの名前と、今回の対戦相手となるハンマー寮の生徒二名の名前が“VS”の文字を境に左右に配され、それぞれの下に“ODDS”の文字と共に数字が表示されている。

 その内容に、今度はニカが呆れたようにぼやく。

 

「また“賭け”?」

 

 そう、“賭け”だ。

 密かにではあるが、学園では決闘が賭けの対象にされている。オジェロのようなギャンブル好きの一部の生徒達の間でどちらの決闘者が勝つか予想され、その結果に応じて各々が賭けた金額に応じた配当金が払い戻される仕組みであり、彼が見せているのはその倍率(オッズ)表だ。

 さて、気になるその倍率であるが――。

 

「――随分と差があるな?」

 

 液晶上の数字を見る限り、レン達の側は8.9倍、ハンマー寮側は1.1倍となっている。

 レン達が決闘に勝てば、彼らに賭けた者達も8.9倍の払い戻しを得て大勝する、という状態であり――だろぉ、と喜色ばんだ声を返すオジェロの様子から察するに、彼はレン達に賭けている側のようだ。

 ただ、その倍率が表しているのは単に勝利した際に得られるリターンだけではない。倍率が高いという事は、つまり賭けの参加者の大部分に賭けられていないという事でもあるからだ。

 それすなわち、

 

「殆どの奴らが()()()()()()()()()()()()、って事だな」

 

オジェロとは対照的に目を伏せて告げたヌーノの、その言葉通りという事だ。

 

「ホルダーの決闘なのに?」

 

 思わず、といった感じで目を見開いたニカが問う。

 無敗の王者であった前ホルダーのグエルを二度に渡って降した現ホルダーが参加する決闘で、しかも対戦相手の一人はそのグエルに直近で黒星を付けられている。傍から見てもレン達側が有利なこの対戦カードでこの倍率差というのは、彼女ならずとも疑問の一つを覚えざるを得ないだろう。

 これに対し、もう一度嘆息したヌーノはこう答える。

 

「レンがグエルに勝った、実力でホルダーになったって未だに認めてない奴ばっかなのかもな。――さもなきゃ、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、か」

 

「そんな……」

 

 ヌーノの返答を聞いたニカが表情を(くも)らせて(うつむ)く。

 そんなニカと対照的に、けっ、とチュチュが不愉快気に舌を打った。

 

「これだからクソだっつぅんだよな、スペーシアン共は。どこまでもあーしらを底辺扱いしてぇってクソ性根が目に見えらぁ! ――まー良いよ! どうせ今からあーしとレンにぃでそのクソスペ共の鼻明かしに行くんだし!」

 

 そう言って、へっ、と鼻を鳴らすチュチュに、そーそー、その意気その意気、と満面の笑みのオジェロが合いの手を打つ。

 

「ハンマー寮の奴らなんてコテンパンにのしてお前らの力知ら占めて、でもって俺にたんまり(かせ)がせてくれな! もう全力で応援するからよ!」

 

「おうよ! 任せとけ!」

 

 固く握った拳を掲げたガッツポーズでオジェロに応じるチュチュ。

 そして、その遣り取りを後目に、

 

「……ふぅん」

 

未だにオジェロが掲げたままの彼の生徒手帳を興味深く思いながら眺めていたレンは、適度なところで、そろそろ行こうか、とチュチュを引き連れ、当にMSコンテナ内に収まっている各々のMSへと向かって行く。

 一旦別れたチュチュはデミトレーナーへ。

 そしてレンは――エアリアルのコックピットへ。

 

「ふぁあぁ……やっと来た」

 

 コックピットハッチを開けて早々、シートの上側の空間を浮遊していたエリクトの欠伸(あくび)混じりの言葉がレンを出迎える。

 

「遅いよもぉ。このおねーさんをこんなに待ち草臥(くたび)れさせるなんて、良い度胸してるね君?」

 

 寝そべっていた体を起こし、腕を組んで半目で睨んで来るエリクト。

 その(とが)める視線を、悪いな、の一言と微笑みと共に受け流しながら、レンはシートに腰を落とす。

 

「ちょっと()()()()()()があったもんでね。つい聞き入ってた」

 

「惹かれる?」

 

「ああ。――後でギャベルに詳しく聞いてみないとな」

 

「オジェロ君に? ――レン、まさか君……?」

 

 僅かながらエリクトの眉根が(しか)められる。

 それに対してレンは敢えてはっきりとした答えを出さず、ただ悪戯気な笑みだけを彼女に返して見せる。

 程なくして、ガクン、とコックピットが大きく揺れ、発生した慣性力に体全体がシートに押し付けられる。

 自分達を乗せたMSコンテナが高速で動き出した事をそれで察したレンは、コンテナが目的地に到着するまでの間、その力に身を預ける。

 そうして暫しの後、再びの揺れと共に体に掛かっていた力が消え、目的地に到着した事を悟ると共に両腕を操縦桿へと伸ばす。

 同時にMSコンテナが解放され、光と共に周囲の情景が差し込むと共に、

 

<これより決闘を執り行う!>

 

「おっと」

 

決闘の開始を報せるアナウンスが飛び込んで来る。

 

「ほら、時間掛け過ぎたからもう始まってるじゃん。――早く出なよ、始まってもまだコンテナの中なんて、恰好付かないよ?」

 

「分かってるさ」

 

 頭上からのエリクトのお小言に肩を竦めて見せたレンは、言われた通りに固定アームが外されたエアリアルを目の前の戦場へと踏み出させるため、操縦桿を前へと押し込む。

 

「KP041、レン・アマミヤ。――エアリアル」

 

 レンの操縦に応じ、エアリアルが動き出す。

 一歩踏み出し、強めの振動と舞い上がった土埃(つちぼこり)を伴って眼前に広がる広大な戦場へと降り立つ。

 右数メートル先には同じくコンテナから出撃したデミトレーナー(僚機)、そして前方十数メートル先に(たたず)むは――敵機!

 戦いの始まりを、そして決闘相手の登場を今か今かと待ち構えていたかのように赤い単眼(モノアイ)をギラリと輝かせる二機のMS。

 その姿を黒い瞳の中に収めたレンは、ニヤリと口角を上げ、装甲越しに(にじ)み出ているかのようなその戦意に応じるため、高らかに声を上げた。

 

「ショータイム!」

 




次回、VSハンマー寮!

何か楽勝ムード出てるし余裕っしょ! 
意外な対策とか立てられてピンチに陥るなんて事も無いでしょ! 
ヨユーヨユー!






……本当に?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。