ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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今回は大出血の2話投稿。
やべーよやべーよ、ストックが削れてくぅ! もってけ怪盗ー!

最初は引っ叩かれるグエルくんのしょんぼりシーンから、スタート。


#5 Please take me to Earth!

 パァン、と乾いた音が鳴る。

 その音の出元である自身の左頬に手を遣ったグエルに、対面に立つ男が容赦の無い怒声を浴びせる。

 

「ジェターク家の人間が、ジェターク社のMSを使って負けただとォ!? お前は会社の信用を潰す気かッ!!」

 

「申し訳、有りません……父さん」

 

 反論の余地の無い自身の落ち度への追究に、グエルは深々と自らの父親――ジェターク・ヘビー・マシナリー現CEO ヴィム・ジェタークへと頭を下げ、謝罪する。

 そんな息子に、平時からして(いわお)のように厳めしい顔を怒髪天で更に歪めていたヴィムが、フン、と一つ鼻を鳴らしてから、彼のすぐ後ろにあるデスクへと移動しつつ告げる。

 その間も、グエルは不動で頭を下げ続ける。

 

「今回の決闘は俺の方で()()()()()()()。――敗北など、お前が進むべき()()()の上には不要な障害だからな」

 

 その言葉に、グエルは顔を歪める。

 親の権力による決闘そのものの無効――それは、一度は決した勝負を、こんな結果認められないと子供のようにごねて跳ね除けるのに等しい。そんな誇りも何も無い所業は、一人のMSパイロットとして、“ドミニコス”――監査組織(カテドラル)が誇る特殊部隊のエースを心から目指す者として、彼には到底受け入れられないものだった。

 だが、同時にそれは父の口から出た、父がそうすると決めた事項でもある。であれば、それはもうグエルにはどうしようもない。――逆らう事など許されない、確定事項だ。

 それ故の苦悩に耐えるグエルが頭を下げ続けるその先で、ドスン、とヴィムが席に腰を落とす音が聞こえた。

 

「だが二度目は無い。もしまた負けたなら、次は()()()そのものを敷き直す。――これ以上、俺に恥を掻かせるな!!」

 

「……はい」

 

 苦悶を己の内に必死に押し込め、何とかそれだけ返答して姿勢を正すグエル。

 その後、野良猫でも追い払うように手を振るヴィムのハンドサインに従い、一礼をしてから踵を返した彼は、そのまま部屋を――ジェターク社本社内のCEO用のオフィスを後にする。

 その後で、ヴィムが通信で社員から何か報告を受けていた。

 

「CEO、御来客です」

 

「誰だ?」

 

「それが……シン・セー開発公社の――」

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#5 Please take me to Earth!

 

 

 

 はぁ、と天井一面の強化ガラス越しに見える広大な宇宙をぼんやりと眺めながら、ミオリネは溜息を吐く。

 フロント73区、宇宙港。アスティカシアから見て地下にあり、フロント管理会社やベネリットグループ本社とも直に繋がっているそこに彼女が訪れている理由は、たった一つ。――先の温室でのジェターク寮生三人組との会話で知った、レンの退学に関する確認のためである。

 しかし、その事について得られた事は多く無い。先程フロント管理会社へと問い合わせを試みたものの、対応者からは彼が使っていたエアリアルというMSが禁止された物であった疑いがある、という事のみを伝えられただけ。ならばせめてパイロットに会わせろ、と訴えてみても、それは自分では判断しかねる、の一点張り。その挙句出て来たのは、憎んでやまない父、デリングの名前。

 結局問い合わせを強制的に打ち切られた彼女にはそれ以上どうする事も出来ず、仕方なくこうして宇宙港のエントランスで、無重力に身を任せて中空で寝そべりながら、途方に暮れているのであった。

 

「ニャー」

 

 ここまでついて来たレンの猫が、器用にミオリネの顔のすぐ横まで泳いで来る。

 そちらの方に目を遣ったミオリネは、どうしよ、と猫に呟き掛ける。

 

「このままじゃ、アンタのご主人様、水星に送り返されちゃう。……せめて、アンタだけでもアイツのトコに連れてかないといけないのに」

 

 そうしなければ、この猫は飼い主と離れ離れだ。

 唯でさえ自分の為に決闘してくれた借りがあるのだ。それさえ返せる見込みが無い以上、せめてこの猫くらいは彼の下に送り届けなければいけないのに……。

 もう一度、はぁ、と溜息を吐くミオリネ。

 そこに無粋な声が掛けられる。

 

「ミオリネ様」

 

「……学校に戻れば良いんでしょ?」

 

 感じた鬱陶(うっとう)しさを隠さず、声の主である見張りの一人の方に目を遣りながら返答する。

 だが、ゆっくりと浮遊して彼女の方に近付いて来た見張りからは、いえ、という否定が返って来る。

 

「お父様からご伝言です」

 

「……アイツから?」

 

 唯でさえ参っているというのに、一体何の用だというのか?

 恐らくはその伝言とやらが表示されているのだろう端末を見張りが差し出そうとしていたが、あの父親からというだけで気分が大きく滅入ってしまったミオリネは、見たくない、と端末の受け取りを拒否する。

 それに仕方なくという感じで応じた見張りは、では、読み上げます、と端末を引っ込め、その内容を朗読し始めた。

 

「「ミオリネ、()()()退()()()()()」」

 

「はぁっ!?」

 

 一発目から早々の、想定外すぎる発言。

 思わず、隣の猫も驚く程の勢いで飛び起き振り返るミオリネに、構わず見張りは朗読を続ける。

 

「「花婿もこちらで用意する。すぐに戻って来い」――以上です」

 

「貸して!!」

 

 あまりにも問答無用過ぎるその内容が信じられず、そう叫ぶが早いか否かの素早さでミオリネは見張りから端末を引っ手繰り、自らも確認するためその液晶を覗き込む。

 が、

 

「……何なのコレ」

 

そこに表示されている文面は、彼が読み上げた物と一字一句違わない。

 ミオリネの体が、怒りに震える。

 

「決闘で結婚相手を決めるって、アンタが勝手に決めた癖にぃ……!」

 

 それで、これか?

 自分が気に入らない相手がその座に収まったからって、自分が決めたルールすら無かったかのように捻じ曲げるのか?

 ……そうまでして、自分の思い通りにしたいのか?

 

「……ッ! 決闘で勝ったのはレンよ!!」

 

 髪を振り乱して、ミオリネは見張りに食って掛かる。

 

「クソ親父が決めた男なんかと、絶っ対に結婚なんてしないからッ!!」

 

 ギリギリ、と端末を握り締めながらそう宣言する。

 しかし、その文面を送って来た当のデリングはここにはいない。

 いるのは、私にそう言われましても、と困った顔で返すだけの見張りのみだ。

 

「……アイツはいつもそう……!」

 

 相談しない。説明しない。

 この学園に入る事も。習っていたピアノを止める事も。付き合う友達さえも。

 何かも、勝手に決めてしまう。

 

「……お母さんの、お葬式だってぇーッ!!」

 

 湧き上がる怒りのまま、手にした端末の力任せに放り投げるミオリネ。

 それがエントランス奥、そして天井の強化ガラスへと続けてバウンドするのを最後まで見届けず、手近な所にあった手摺を踏み台に彼女はその場から飛び出す。

 

「どちらへ!?」

 

「トイレ!!」

 

 動揺する見張りにも、同じように手摺を蹴って後を付いて来る猫にも構う事無く、ただ一心不乱に彼女は通路を飛んで行く。

 もう、何もかもが嫌になっていた。

 

 

 

 それからしばらくした後、ミオリネは女子トイレの個室内にいた。

 ただし、そこにいる目的は別に用を足すためではない。

 では、何をやっているのかといえば、生徒手帳にダウンロードしてあるゲームアプリである。

 

「死ね死ね死ね死ね……!」

 

 両手で握った手帳の画面を忙しなくタップして操作する傍ら、先の事からデリングへの呪詛(じゅそ)をこれでもかとばかりに吐き散らすミオリネであったが、自身のキャラが倒されてゲームオーバーになると共に、あっ、という声が漏れ出たのを最後にその呪詛も止まる事となる。

 アプリを閉じた後、はーっ、と息を吐き出しながらミオリネは肩を落とした。

 

「……私、何やってんだろ?」

 

 レンの退学の真偽を確かめに、宇宙港(ここ)に着た筈だ。

 だというのに、分かったのは彼のMSに妙な疑いが掛かっているという事だけ。その上、あのどうしようもない父親から当人が定めたルールすら無視して、また勝手を押し付けられて……。

 ……というか、勝手なのはレンも一緒じゃないだろうか? 勝手に助けに入って、勝手に決闘を受けて。そして、勝手に禁止されたMSとやらを使って、捕まって。

 

「……なーにが、己の信じた正義のために、よ」

 

 カッコつけて。勝ったら信じてくれ、とか言って。その結果退学させられて水星に送り返されるなんて、笑い話にもならない。

 ……でも。

 

「勝ったのよね。……言ってた通りに」

 

 出来る筈など無いとこっちはやる前から高を括っていたグエル相手の勝利を、レンは確かに()ぎ取ったのだ。――自分の言葉は真実である。信用出来る、と確かに示して見せたのだ。

 なら、もしかしたら……彼が言っていた“取引”も。

 あのどうしようもないクソ親父に、自分が決めたルールを撤廃させるという、どう考えても無理としか思えない事も……もしかすれば……?

 

「……」

 

 考えても栓の無い事だ。

 少しでも見張り達の、ひいてはデリングのところに戻りたくなくて時間を潰していたが、流石にそろそろ限界だろう。

 止む無く個室を出る事を決めたミオリネは、特に意識する事無く生徒手帳の画面へと目を遣ったのだが――ふと、ある違和感に気づく。

 

「何? このアプリ?」

 

 先程までしていたゲームアプリのアイコンのすぐ隣。そこに、見覚えの無いアプリのアイコンがあった。

 赤をバックに、ガラスが割れたような放射状の黒。更にその黒の中から赤い一つ目が覗いているという不気味なデザインのそのアプリは、当然ながらミオリネにはダウンロードした覚えなど全く無い。

 不審に感じつつも、取り敢えずそのアプリを消去するミオリネ。

 と、その時であった。

 

「ミオリネ・レンブランさん、ですね?」

 

 二度、個室のドアを叩く音と共に、誰かがそうミオリネに問い掛けて来る。

 見知らぬ女性の声だ。

 誰だろうか、とミオリネは記憶を探ろうとするが、その間も無く、続けて女性の声がこう言った。

 

「コロニー指定座標、XY72Z53」

 

「それって――」

 

 あの日の――レンに要救助者に間違われてしまったがために失敗する事となったあの脱出計画の、その待ち合わせ場所の宙域を示す座標であった。

 その座標をミオリネ以外に知る者がいるとすれば――。

 ロックを外し、恐る恐るドアを開いたミオリネの視界に、その人物の姿が映り込む。

 

「対面では初めまして」

 

 開口一番にそう挨拶をして来たのは、一人の中年女性だった。

 穏やかそうな面持ちに、恰幅の良い体の上からベージュのトレンチコートを纏ったその女性はやはり会った事の無い人物であったが、最早彼女に対しての警戒などミオリネは無かった。

 電子上の遣り取りは何度か交わした事があったからだ。

 

「先日お目見えにならなかったので、様子を見に参りました」

 

「アフターケアも万全、ってワケね」

 

 小さく微笑みながらのミオリネの言葉に、料金はもう頂いてますから、と女性も――あの日地球へ送ってもらう筈であった、運び屋も笑顔を返して来る。

 そして、続く運び屋の言葉は、まさに今の彼女にとって天恵であった。

 

「もし御意思に変わりが無いようでしたら、今から脱出致しますか?」

 

「え?」

 

「今ならご希望通り、地球にお送り出来ます」

 

「地球へ!?」

 

 それは願っても無い言葉だった。

 今彼女を取り巻く様々な状況から抜け出るという意味でも。念願であった母の故郷へ向かうという意味でも。

 

「でも……」

 

 それは一方で、彼女と関わった者達を置き去りにしていくという事でもある。

 そう、レンを。

 その事を彼女の良心が咎め、この場での決断を躊躇(ちゅうちょ)させる。

 しかし、長々と悩む時間は無い。

 それを示す様に、運び屋の女性がこう釘を刺す。

 

「猶予は30分です。――後悔の無い決断を」

 

 そう告げられたミオリネは、すぐに頭をフル回転させる。

 またとないこのチャンス。受け入れれば、父を始めとした様々なしがらみから逃れられる。

 されど、受け入れればレンを見捨てる事になる。彼自身の勝手で決めたとはいえ、自分にために戦ってくれたあの男子生徒に何も(むく)いらずに去る事になる。

 どちらを取るか? どちらが、より天秤を傾かせるか?

 思考に思考を重ねた末、ミオリネは決断する。

 

「……行く」

 

 レンを見捨ててでも、母の故郷へと向かう事を。

 

「私をここから――」

 

 ――連れ出して!

 その一言を言い切ってしまえば、もう後戻りは出来ない。

 それでも、もう戸惑わずミオリネは言葉を紡ごうとする。

 紡ごうとした――その時。

 

「ニャアーッ!!」

 

 黒い塊が一つ、彼女目掛けて飛び出して来た。

 




地球をいざ決めたミオリネ、そこに現れた黒い毛玉の正体とは? そして始まる審問会!

どうなる次回、こうご期待!
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