ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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ミオリネ、(強制的に)クソ親父に直談判しに行くってよ!

そんな感じの第7話、は~じまるよ~!


#7 I have power. You don't have it.

 フロント管理会社、独房。

 (ほとん)ど光源が無いため薄暗く、尚且つ無重力のため一つの場所に足を留めておくことも出来ないそれらの内の一室に押し込められているレンは、後頭部に両手を回し、足を組んで背を伸ばした、その辺で寝そべっているかのようにリラックスした姿で室内を浮遊していた。

 そこへ鳴り響く、来客を報せるブザー。

 そういえばそろそろ食事の時間か、とすぐに思い至ったレンは、姿勢はそのまま、閉じていた目だけを開いて、二重の自動ドアで固く閉じられている独房の入り口の方を見遣った。

 結論からいえば、彼の予想通り、その来訪者(らいほうしゃ)が持って来たのは食事であった。

 ただ、一つ妙な点があった。

 食事を持って来たその来訪者は、いつものようなフロント管理会社の人間では無かったのだ。

 

「これは珍しいお客さんだ」

 

 後頭部の腕組みを解き、上半身を持ち上げて独房内に入って来る来訪者を迎えるレン。

 それに対し、彼の眼前までやって来た来訪者は、

 

「お腹、空いてない?」

 

その手に持っていた食事のケースを彼へと差し出す。

 来訪者は、アスティカシアの生徒だ。

 レンも身に着けていた物と同じ緑と黒の――ただし、彼の物は二十袖の外側も黒く、首下からは通常の赤いネクタイでは無く、折り込まれた白布が下がっている――制服姿で、両の耳朶(みみたぶ)から垂れ下がっている筆先のような耳飾りが特徴的だ。

 

「丁度小腹が空いてたところだったんだ」

 

 有難い、とケースを受け取ったレンはそれを開封し、平時と変わらないペースでそれを食べ始める。

 その様子を暫く眺めていた男子生徒であったが、ふと彼が呟く。

 

「……思ってたより、平気そうだね」

 

 それが、この三日間、取調官から尋問を受け続けていた筈の自分が左程憔悴(しょうすい)していない事に対する指摘であるとすぐ察したレンは、ああ、と一旦食事の手を止める。

 

「初めてじゃないからね、()()()()()。今回は殴られもしなければ、自白剤(おクスリ)も無いし。――まぁ、延々同じ質問繰り返されるのは、それはそれでなかなかキツいけど」

 

 そういえば、延々無意味な事を繰り返させる拷問があると、何かの本で読んだ事があったような? ――そんな事を思い出しながら、おくすり、と今一意味が伝わらなかったように呟く男子生徒に肩を(すく)めて見せるレン。

 それに続けて、で、と今度は彼の方が男子生徒に質問を投げ掛ける。

 

「君の名前は?」

 

「僕は――エラン・ケレス」

 

 問われるがまま名乗った男子生徒――エラン・ケレスに、ふむ、と一つ頷いたレンは、続けてこう問う。

 

「じゃあ、ケレス。この食事、持って来てくれて有難い限りなんだけど、どうして君が? 係の人は?」

 

「係の人には、代わってもらった。どうしてかといえば――」

 

 じっと、エランの黄緑色の瞳がレンの顔を覗き込む。

 

「――君に会いたかったから」

 

「ん?」

 

「レン・アマミヤ。――僕は、君の事をもっと知りたい」

 

 表情一つ変わらない真顔のまま、真面目な口調でそう言い切るエラン。

 それに対してレンは、

 

「――っはははは!」

 

思わず腹を抱えて笑っていた。

 

「いやー参った参った。男相手にそんな殺し文句みたいな台詞言われるとは。俺が恋愛した事無い()()()な女の子だったらコロッと堕ちてたよ、今の」

 

「僕は――」

 

 変わらず仏頂面のまま、しかし遺憾(いかん)そうな口調で二の句を継ごうとするエランを、掌を見せてレンは制する。

 

「分かってる、真面目な話だったんだろ? ――そうだな。俺の事が知りたいって言うんなら、もう一つ、俺が平気な理由を教えようか?」

 

「もう一つ?」

 

 訊き返すエランに、レンは頷いて見せる。

 

「外に仲間がいるんだ」

 

「仲間?」

 

 ああ、ともう一度レンは頷く。

 

「今、ソイツが俺とエアリアルのために動いている。――見た目の割に大した奴でね。どう転ぶかはまだ分からないけど、多分、悪いようにはならないさ」

 

「……そう」

 

 何故か、少しだけ残念そうに(うつむ)くエラン。

 そのリアクションが少し気になったレンであったが、紛いなりにも出会ったばかりの彼の事を追究するのもどうかとも思えた。

 なので、敢えてそれを無視して彼は食事を再開する事にした。

 

「……仲間……」

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#7 I have power. You don't have it.

 

 

 

「ぃ、ったあぁ~~っ!?」

 

 突然左手に発生する、鋭い痛み。

 自分を地球へと運んでくれるという運び屋の女性の提案に、意を決して了承の意を示そうとしたその瞬間に不意打ちのように襲って来た痛みに、ミオリネは反射的に絶叫を上げる。

 否、それは正しく不意打ちであった。

 

「な、何してんのよアンタっ!?」

 

 痛みの理由は当に分かっている。

 彼女の左手にがっつり噛み付いているレンの猫が、その正体であった。

 すぐさま、離せバカ猫、と左腕を振り回して猫を引き剥がしにかかるミオリネ。

 幸いにして、猫はすぐ彼女の手から口を離す。

 そのまま、血が(にじ)み出る程歯形をくっきり刻まれた左手を眼前まで引き上げて傷の具合を確認した彼女は、次いで粗相(そそう)を叱るために猫の方をキッと睨み付ける。

 が、そこでもう一つ問題を発見してしまう。

 

「あぁっ! 私の生徒手帳!」

 

 いつの間にやら、猫が彼女の生徒手帳を(くわ)えていたのだ。

 先程まで手帳はミオリネの左手の中にあった。噛み付かれた際に思わず手放してしまったそれを、いつの間にやら回収していたようだ。

 そして更に悪い事に、ミオリネの方を向いていた猫はその場で反転。そのまま駆け出し、あっという間に女子トイレの外へと出てしまった。

 

「んなっ……!? 待てェーッ!」

 

「あ、ちょ……ミオリネさ~んっ!?」

 

 がっつり噛み付かれた上、大切な生徒手帳まで奪われ逃走されたとあっては、ミオリネもその場で黙ってなどいられない。

 結果、一瞬の内に怒り心頭となった彼女はすぐさまその場から飛び出し、慌てて呼び止めようとする運び屋の女性の言葉も全く耳に入らぬまま、全力で猫を追い始めた。

 ――そうして小一時間、その小さな体からすればかなり嵩張(かさば)る筈の生徒手帳を咥え続けているのに全くペースの落ちない猫と、息を切らせ脂汗を垂らしながらも必死に追い続けるミオリネの永遠に続くかと思われた追跡劇は、遂に終わりを迎えた。

 

「やっと、捕まえたっ!」

 

 急に立ち止まる猫。

 それまで脱兎(だっと)の如き素早さで逃げ続けていたのが嘘のようなその唐突な停止に、しかしミオリネも息も切れ切れで疑問に思う余裕は無かっため、容赦無くその隙だらけの首根っこを掴み上げた。

 

「よくもやったわね、このクソ猫ッ! この三日間面倒見てやった恩も忘れて泥棒なんて、アンタ一体どういう(しつ)けされてんのよ!!」

 

 一体どうしてくれようか、と肩で息をしながら、眼前まで持って来た猫の顔を睨み付けるミオリネ。

 しかし、怒りで頭に昇り切っていたその血は、次の瞬間一気に退()く事となる。

 

「ミオリネ」

 

 声が掛けられた。

 頭上から、重苦しい威圧感に満ちた()()()()()()

 無意識に顔を引き攣らせながら、声のした方へミオリネは顔を上げる。

 やはりというか、そこに()()()がいた。

 

「何故、お前がここにいる?」

 

「く……クソ親父?」

 

 あの身勝手極まる父親――デリング・レンブランが。

 

 

 

 その存在を認めるや、すぐさまミオリネは首を振り回して周囲を確認する。

 前方と左右に配された席と、そこに座るベネリットグループ所属企業の幹部達。――すぐに気づいた。今自分がいるそこが、グループ本社の審議室であると。

 しまった、と思った。猫を追い駆ける事に夢中になり過ぎて、いつの間にやらこんな場所に来てしまった。それも、その錚々(そうそう)たる面子(めんつ)を見るに、かなり重大な会議か何かを行っている、その真っ只中に。

 全力疾走で火照(ほて)っていた筈の体が、心胆から一気に冷え込む。

 更に悪い事に、

 

「ニャッ!」

 

「あっ!」

 

動揺から手の力が抜けてしまっていたのを突かれ、猫がミオリネの拘束から抜け出してしまう。

 そのまま、咥えていた生徒手帳も捨てて入り口の方へと駆けて行くその後ろ姿を、すぐさま彼女は追い駆けようとするが、

 

「もう一度聞く」

 

それは許されない。

 

「何故ここにいる、ミオリネ? ―― 一体、何をしに来た?」

 

 審議室の奥に(そび)える、最も高い席。

 王が座る玉座とでも言わんばかりのその席から、デリングのギラつく槍の穂先(ほさき)のような視線が注がれる。

 逃走は許さない。下らない言い訳も許さない。――年季の入った樹木のようなその顔が、言葉でなく表情でそう語っていた。

 

「……」

 

 言葉に詰まるミオリネ。

 当然である。ただ猫を追い続けていたらここに辿り着いただけで、何か目的があって来たワケではないのだから。

 だが――本当にそうだったろうか?

 本当に、何も用は無かったか?

 ……いや、ある。

 この場所そのものに用は無くとも、

 

「……アンタに用があるわ」

 

向こうで踏ん反り返っている父相手には、ある。

 額を濡らす汗を――つい噛まれた左手を使ったため染みてしまったのを我慢しながら――拭い取り、一つ深呼吸をして体を、気持ちを落ち着かせる。

 そして意を決し、ミオリネは叫んだ。

 

「自分で決めたルールを、後から勝手に変えるな! この、ダブスタクソ親父ッ!!」

 

 響き渡る大音声。

 素で体力に自信は無い上、更に猫との追跡劇で消耗しているというのに、よくこんな声が出たな、と自分でもつい感心してしまう程であったそのミオリネの怒声に、多少あったザワツキが一斉に止む。

 そして流れる、一旦の沈黙。

 それを破るように、

 

「ここに立っていいのは――」

 

デリングの厳粛(げんしゅく)な声が響き渡る。

 

「――ベネリットグループの、それも上位企業の力ある者のみ。だが、お前は違う。――何の力も無い、唯の学生だ」

 

 故に、お前にここにいる資格は無い。即刻ここから立ち去れ。

 そう言外に告げるデリングの物言いに苛立つまま、ミオリネは言い返す。

 

「アンタっていっつもそう! 上から目線で、説明も無しに勝手に決める!」

 

「説明も相談も必要無い。――私が決める。()()()()()

 

 即座に返って来たその言葉に――身勝手極まるその物言いに、ミオリネは唖然とする。

 

「何よそれ? ……アンタ、王様――」

 

()()

 

 王様のつもり、と嫌味を込めて言うはずだったその言葉は、しかしミオリネの口を出る前に父に否定される。

 そして、続けて発せられた言葉に、ミオリネは呆気に取られてしまう事になる。

 

「私は()()。――()くべき針路(しんろ)を定め、()()()()者だ」

 

「――はぁ?」

 

 父が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。まだ、私は王だ、とでも肯定してくれた方が理解出来た。

 だが、続くデリングの言葉で、彼が()()()()()()()()だけは分かった。

 

「私には力がある。お前には無い。――力の無い者は黙って従うのが、この世界のルールだ」

 

 だから、お前に説明など要らない。

 だから、お前に相談など要らない。

 だから、お前の意見など要らない。

 ただ――()()()()()

 ――要するにそういう事だ。

 

「……ふざけんな……」

 

 震える唇から、か細い声が漏れる。

 デリングの主張は、到底ミオリネには認められるものでは無かった。

 力が無いから、だから何もかも言われるがままにしなければならない?

 力があるから、だから自分の決めたルールさえも自分の都合一つで捻じ曲げて良い?

 ――そんな傲慢(ごうまん)の極みのような理屈は、何があっても認めるワケにはいかなかった。

 だから、彼女は言い返そうとした。

 思いつく限りの事を、それが整合性も何も無い唯の罵詈雑言(ばりぞうごん)であろうと、とにかく吐き出そうとして――。

 

「……」

 

 ――()()()

 無駄だ、と思った。

 何を言おうと、この男は耳を貸さない。

 何を言おうと、この男は意に介さない。

 変わらず、命令するのみ。変わらず、何もかも勝手に決めていくのみ。

 何故なら、この男にとって、力の無い自分の言葉など()()()()()()()()()()()

 取り付く島も無い、とは正にこの事。――分かり切っていた筈だ、()()()ところで無駄だと。

 だから、悔しさ、歯痒さに歯を食い縛り、爪が食い込む程に拳を握っていたとしても、もうミオリネは言葉を発さなかった。

 そして、もう何も言わなくなった彼女はその場において完全なる邪魔者。

 それを排除するために近付いたデリングの側近に腕を掴み上げられても、もう彼女は抵抗しなかった。

 そうして、腕を引かれるまま審議室の外へ――。

 

「意見、宜しいですかな?」

 

 

 

 ガチャリ、と独房のドアの方から音が聞こえた。

 何事かと、寝床の傍で寝そべっていたレンは近くの壁を蹴り、二重ドアの内側まで移動する。

 それと時同じくして外側の自動ドアが開き、そこから現れた者の姿を視界に入れたレンの口角が上がった。

 

「よぉ、()。待たせたな」

 

「ああ、待ちくたびれたよ。――三日ぶりだな、モルガナ」

 

 内ドアの向こうにいる少年の声――モルガナに、確かな安心感を覚えながら返事を返すレン。

 続けて、もうロックは外れてるぜ、とモルガナに言われるまま内ドアを手動で開けたレンはそこを潜り抜け、そのまま外ドアの傍の壁に手を着いて停止する。

 

「それで、あれからどうなったんだ? 決闘と、俺の事と、あと――()()()()は?」

 

「何とか()()()()に進んだぜ。アイツの方はまだどっかで捕まってんだろうが――ま、取り敢えずスクラップは保留になったんだ。その内顔見せるだろうさ。……ただ、なぁ」

 

 口籠(くちごも)るモルガナ。

 その様子を不思議に思い、どうした、と気に掛けるレンに、彼は(あご)をしゃくり、外ドアの外側を示して見せる。

 モルガナに示されたまま、外ドアから首を覗かせ、その先に広がる廊下を探ってみる。

 そしてすぐに、彼はモルガナが言い(よど)んだ理由を見つけた。

 

「――レンブランさん?」

 

 レンの独房の出入り口のすぐ傍に、ミオリネがいた。

 壁に背を預けて(うつむ)いた、()()()()()とすぐ察せられる沈鬱(ちんうつ)な雰囲気を(まと)って。




ミオミオ撃沈! ブルアアァァァァ!!(Vの字の魔物並み感

これにて水星本編第2話分終了! 次回からはオリジナル展開2.5話へ!
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