カルカ様、マジ聖王!
聖棍棒? そんな未来は無い! 良いね?
独自解釈、捏造設定が有ります。
それでもお付き合いを許せるならお進み下さい。
一本目 屍山血河
「ええい、このままだとジリ貧だぞ! グスターボ、どうにかしろ!」
「どうにかって……。無茶を言わないで下さいよ!」
「なら、イサンドロ! お前だ! 一発ドカーンと大逆転する作戦を考えろ!」
「ははは……。なら、神に祈るってのはどうです?」
その日、ローブル聖王国は二百年の歴史に幕を閉じてしまう危機に瀕していた。
国土の東にあるアベリオン丘陵より亜人連合軍が大挙襲来。国軍は国境を懸命に守り続けたが、その軍配は残念ながら亜人連合軍にもうすぐ挙がりきろうとしていた。
そもそも、大抵の亜人種は人間より強い。
譬えば、腕力だったり、タフネスさだったり、空を飛べる翼。人間と比較して、何らかの尖った強みを持つ為、人間が亜人種と戦う時は一対一を避けて、複数人であたるのが鉄則となっている。
つまり、連携や作戦といった知性が人間の強み。
逆に尖った強みを持った代償というべきか。ごく稀に誕生する突然変異を除いて、亜人種は姿形が人間から離れれば離れるほど知性に乏しい傾向がある。
実際、亜人連合軍の攻勢は実に単調だった。
攻めろ、退け、待ての三種類しか無い上、その簡単な連携さえも開戦当初は辛うじて見受けられたが、すぐに崩れた。
戦場に流れる血と闘争本能に酔い痴れて、雄叫びを轟かせながら突撃、突撃、ひたすらに突撃。
たまに角笛の音が戦場に響き渡り、指揮官と思しき者が何らかの合図を出していても、それを大多数が気に留めていない。烏合の衆である。
それに加えて、もう一つ。国家百年の計として建造された要塞線。
三つの要塞と九つの砦を城壁で繋ぎ、アベリオン丘陵と接する全長百キロの国境線を丸ごと封鎖している大きな優位点をローブル聖王国は持っていた。
しかも、やはり知性の乏しさ故か。それとも、アベリオン丘陵の亜人種が持つ拘りなのか。
勝利を得たいなら、攻め口は要塞と砦を避けて、その中間地点を選ぶのが当然の上策にも関わらず、アベリオン丘陵の亜人種は要塞や砦を攻める傾向が強かった。
今回の襲来とて、要塞線の中央に位置する最も大きくて堅牢な要塞を選んでいた。
これが人間同士の戦いなら陽動作戦の可能性を考え、実は別の場所こそが本命かと悩むところだが、最小限の兵力が配されている他の要塞や砦から襲来を知らせる狼煙は上がっていない。
その上、要塞の城門をたまに開けば、亜人達はそこへ我先にと殺到。ゴキブリホイホイならぬ、亜人ホイホイ。
虎口で待ち構えるローブル聖王国最強の聖騎士団団長『レメディオス・カストディオ』とその麾下によって、亜人達は尽く撃退されていた。
「不敬だぞ! 第一、祈りなら毎朝捧げている!
どうしてだ! おかしいだろ! 私の声は届いている筈だ!」
「神様だって、休みたい日がきっとあるんですよ。たまたま今日がそうだっただけで」
「ああ……。本当だったら、昨日から三ヶ月ぶりの休みで一週間はゆっくりと出来る筈だったのに……。」
しかし、戦端が開かれて、既に半日が経過。何事にも限度というものがある。
空は茜色を越えて、夜の帳が下り始めているが、亜人連合軍の勢いはとどまるところを知らず、要塞の先に見える丘には数千を超えるだろう亜人達の姿があった。
一週間前の昼前、そこが全ての始まりだった。
アベリオン丘陵を哨戒する聖騎士団から『亜人達に活発な動きが有り。警戒されたし』という報告が王都へ届き、王宮は『へぇ~~……。そうなんだ?』で軽く流して済ませた。
何故ならば、アベリオン丘陵の亜人種が好き放題に人間を狩っていたのは遠い昔の話。
要塞線が完成してからは攻めてくる頻度が次第に減ってゆき、今では月に一回か、二回。三回あったら珍しいと驚くほど。
攻めてくる人数も脅威にならない。
アベリオン丘陵の亜人種は国という概念を未だ持てずにいて、部族単位で動く為、多くても数十人程度。
もし、要塞線を越えられて、被害が近隣の村に及んだとしても撃退は十分に可能であり、国境より遠く離れた王宮の認識は頭痛の種くらいでしかなかった。
だが、その余裕は五日前の朝に崩れ去り、王宮は騒然となった。
年に一度の建国日以外、百年以上に渡って使用されていなかった大規模侵攻を告げる狼煙が幾つもの街や村を経由して、王都の東の空に上り、ローブル聖王国聖王『カルカ・ベサーレス』は国家総動員令を決断。後方指揮の全てを兄に一任すると、即座に王都を出陣した。
なにしろ、狼煙が上がる直前に届いた報告は悪夢そのもので『一万を優に超える亜人連合軍が進軍を開始。その後も続々と戦力が増えている』だ。
レメディオスが既に前日の昼の時点で王都に駐留していた聖騎士団を率いて出陣済みだが、要塞線に駐留する聖騎士団を合わせたとしても、その総数は五百。即応が可能な要塞線と近隣の街に駐留する国軍を合わせても兵数は一万を超えるか、越えないかであり、誰がどう考えても戦力が足りなかった。
そう、ローブル聖王国は戦う前から負けていた。
辛うじて、亜人連合軍が目標とする要塞が前日に判明して、レメディオスの到着と約一万の戦力の集結は間に合ったが、亜人連合軍の最終的な戦力は三万を超え、彼我兵力差は一対三。人間が亜人種と戦う時の「一対一を避けて、複数人であたる」鉄則の逆を強いられているのだから勝てる筈が無かった。
それでも、ローブル聖王国は善戦した。
レメディオスの的確な指揮と兵士一人一人のここを突破されてなるものかという士気の高さ。そこに堅牢な要塞と城塞線が合わさり、互角以上の戦いを可能にしていた。
しかし、ありとあらゆる手段で打撃が与えられた要塞と城壁の前面は、どこもかしこもボロボロ。
表面の石積みが崩されて、その内部の土や骨組みの木材が露わになっている箇所が至る所にあり、城壁に隙間が出来上がるのが早いか、城壁前に積み上がった死体の山が城壁の上まで届くのが早いか。
矢は小一時間前に尽きていた。
当初は亜人連合軍を魔法で景気良く撃破していた魔術師達は精神力が尽き、それを補う為にポーションを何度も飲むが追いつかずに昏倒。一人、また一人と後方へと運ばれて、今はもう一人も居ない。
最早、兵士達に出来る事といったら、城壁を乗り越えようと姫垣に手をかける亜人へ剣や槍を振るい続ける悪足掻きのみ。
だが、その悪足掻きすら疲労で精彩を欠き始め、城壁から逆に落とされる犠牲者が続出しており、その空いたスペースを埋める為に誰かが持ち場を広げるしかなく、結果として亜人連合軍の勢いが増す悪循環が生じていた。
「グロロ! オレサマ、ツヨイ! ニンゲン、アタマカラマルカジリ! 」
そして、遂に分水嶺が訪れた。
亜人の一人が城壁の上に到達。粗末な丸太の棍棒で適当に薙ぎ払った一撃だけで、周囲にいた兵士達はことごとくが吹き飛び、防御網の一角が空く。
こうなってしまったら、あとはダムが決壊する如し。
今度は亜人達が空いたスペースを埋める為に城壁の上へ一人、また一人と現れ、そこを起点に被害は爆発的に広がり、完全な夜を迎えるまでもなく要塞そのものが陥落する。
国家総動員令が発せられたといっても、この戦場以上の好条件は望めない上、亜人連合軍を打ち破るほどの兵力の集結には数日を待たなければならず、少なく見積もっても国土の半分が亜人連合軍によって踏み荒らされる未来しか待っていなかった。
「団長、もう駄目です! 決断を!」
「解っている! 解っているが……。くぅっ!?」
だからこそ、レメディオスは部下から進言されるまでもなく解っていた。
もう残された手段はたった一つ。ローブル聖王国の頂点に立つ聖王にのみ許された大規模儀式魔法『ラスト・ホーリーウォー』に頼るしかないと。
ローブル聖王国史上、ラスト・ホーリーウォーが使用されたのは建国時のただ一度きり。
その当時も亜人種の大襲来を打ち破る目的に使用されており、その様子を伝える文献によると、聖王の名を讃える一言で元気百倍。老人だろうと、女子供だろうと拳で岩を砕くほどの剛力を得るばかりか、致命傷を負わない限りは負った傷をたちどころに癒やして、疲れ知らずの勇者と化すらしい。
但し、ラスト・ホーリーウォーは諸刃の剣。その代償も大きい。
儀式に参加した初代聖王と高位神官十二人はラスト・ホーリーウォーが発動した瞬間に肉体と身に着けている衣服が塩と化し、初代聖王が額に着けていたサークレットだけが残ったといわれ、それが聖王の王冠として代々受け継がれていた。
レメディオスが決断を迷わせる理由がそこに有った。
この戦場に最も近い街へカルカが到着した報告が三時間前に、ラスト・ホーリーウォーの発動準備が整った報告が一時間前に届いており、その発動タイミングをローブル聖王国軍の全権を担うレメディオスが担っていた。
レメディオスにとって、カルカは敬愛する主であると共に幼い頃からの親友である。
それに報告の中には無かったが、ラスト・ホーリーウォーの大規模儀式を行うにあたり、その中心にローブル聖王国最高位神官に就く妹『ケラルト・カストディオ』が参加していない筈が無かった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
だが、どう足掻いてもラスト・ホーリーウォーに縋るしかない戦況。
レメディオスが決断に踏み切ろうと戦場の隅々まで響き渡るほどの慟哭をあげた次の瞬間だった。
「なっ!? ……なななぁぁ~~~っ!?」
突如、時が昼間に遡ったかのような光源が背後に現れたかと思ったら、それが頭上を通過。
燃え盛る流れ星が炎の尾を引きながら亜人連合軍が余力を残して待つ丘へと落下。凄まじい爆裂音が轟くと同時に大地が激しく揺れ、強烈な風が吹き荒れ、眩い閃光が戦場を真っ白に染めた。