聖なるガイコツ   作:やまみち

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十本目 ローブル三姉妹

 

 

 

「はわわぁ~~……。」

 

 

 カルカは湯を肩まで浸かり、身体の芯から感じる癒やしに吐息を漏らす。

 王都からカリンシャまで休憩をほぼ取らず、昼夜を馬車に揺られた数日間の強行軍。

 カリンシャ到着後、休憩は水を飲むだけに留めて、ラスト・ホーリーウォーを実行する準備の為に聖域へ。

 モモンガの出現とその誤算から大地震が発生して、ラスト・ホーリーウォーが中断。その混乱を治める為、陣頭指揮。

 その後、ケラルトを加えて、モモンガとの話し合いに約二時間。時刻はもうすぐ日付を跨ごうとしており、ちょっと熱いと感じる湯は疲れが溜まりきった身体に効いた。

 

 しかし、カルカには今夜中に成し遂げなければならない役目がまだあった。

 神殿の沐浴所で湯に浸かるのは疲れを癒やす意味もあるが、それはモモンガの存在を知らない者達が認識している目的。この後の役目の為に汚れを隅々まで落として、肌を珠のように磨くのが真の目的である。

 

 

「カルカ様」

「ん~~?」

「本当によろしいのですか?」

「えっ!?」

 

 

 つまり、モモンガとの夜伽だ。

 だが、その真の目的を知る当事者二人以外のただ一人。カルカの隣で湯に浸かるケラルトはそれが不満だった。

 

 

「カルカ様が身を挺する必要は有りません。

 モモンガ様は否定しますが、やはり神……。

 なら、神官の最高位を務める私が適任です。カルカ様は聖王としての役目が……。」

「駄目! 私が願って、私が約束したんだから、私でないと駄目よ!」

 

 

 カルカは目をギョッと見開き、慌てて上半身ごと振り向けて、ケラルトの献身を拒絶する。

 本音を明かすと、カルカはモモンガの本当の姿である鈴木悟の容貌を知ってから、神として敬うよりも男性として好感を持ち、モモンガに身を捧げるのは嫌じゃないどころか、歓迎していた。

 無論、骨の身であるモモンガとどう行為を交わすのかという疑問は大いに抱えていたが、モモンガは神と呼べる力を持っているのだから、何らかの解決手段を持っているに違いないと根拠に乏しい信頼感を抱いていた。

 

 ちなみに、モモンガは夜伽の約束なんてしていない。

 出会った当初、カルカの胸を揉んでしまう罪を犯してしまっただけ。全てはカルカの勘違い。

 

 しかし、モモンガも悪い。

 カルカの勘違いを生んだ罪に関してを未だ謝っていなかった。

 

 この世界の常識を一通り教えられた後、モモンガが特に興味を持ったのはやはり魔法。

 ユグドラシルには無かった生活魔法と俗に呼ばれているゼロ位階魔法を知って驚き、コレクター魂が爆発。

 カルカとケラルトに『見せて、見せて!』と頼み、二人が小さな灯火を人差し指の先に生む調理などの火種に用いる魔法を使うと、モモンガは『凄い! 凄い!』と大はしゃぎ。カルカとケラルトを『隕石の方が凄いですよ』と呆れさせた。

 

 また、モモンガが普通の人間だとカルカも、ケラルトも理解した。

 ユグドラシルを共に歩んできたギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバーが一人、また一人と引退して、モモンガ一人だけが最終的に取り残されてしまい、もしかしたら誰かが戻って来るかも知れないという思いから巨大なギルド拠点『ナザリック大墳墓』を数年に亘って維持し続けるも、それが結局は無駄に終わった。カルカはその優しさと責任感に好感を持ち、悲しさと寂しさを癒やしてあげたいと感じていた。

 

 だが、モモンガが持つ力は強大すぎた。この世界に伝わる神話を超える。

 モモンガから『実は戦死者達を生き返らせる事も出来るけど?』と提案された時、カルカも、ケラルトも口を揃えて『絶対に駄目です!』と叫んだ。

 

 なにせ、死の克服は生きる物全てにとっての永遠の課題だ。

 第五位階に到達しているケラルトは死者蘇生の魔法を使えるが、大量の金貨を触媒に必要とする上に死後経過時間などの成功条件が厳しい。

 

 現時点でさえ、モモンガは隕石を落として、巨大な要塞を戦場跡地に作り、傷を癒やす雨を降らせている。

 どれもが神話の再現と言える奇跡の連発であり、その上に戦死者達が生き返ったら、大騒ぎを超えた大混乱になる。それはローブル聖王国だけに留まらず、大陸全土へと瞬く間に広がりをみせるのは想像に難くない。

 

 奇跡の連発は多くの者達が戦場で目撃しており、その点についてはもう誤魔化しようが無い。救いが有るとしたら、ラスト・ホーリーウォーの存在だった。

 戦勝報告によると、どうやらレメディオスと戦場の者達は奇跡の連発がラスト・ホーリーウォーによるものだと思いこんでいるらしい。大規模儀式の中心を務めていたカルカと十二人の神官に対する感謝と追悼の言葉が最後に添えられていた。

 

 それ故、この勘違いにカルカとケラルトは乗っかる事にした。

 ラスト・ホーリーウォーは準備が整い、その発動を待つ時、集まった祈りが飽和状態になると、神の選択による奇跡が起こる。そう捏造する事に決めた。

 聖王継承時の口伝による聖王だけが知る真実が増え、未来のローブル聖王国に再び存亡の危機が迫った時にラスト・ホーリーウォーの期待値が大きくなってしまうが、それは仕方ないと諦めた。

 

 しかし、未来はともかく、明日からの事は別だ。神としか呼べないモモンガの力はどう足掻いても目立つ。

 世界の調停者を気取るアーグランド評議国の竜は黙認せず、何らかの介入をモモンガにも、ローブル聖王国にも行ってくるに違いないとケラルトは警戒心を抱く。

 

 その点について、じっくりと話し合う必要が有ったが、夜は更けている。

 モモンガはアンデッド種が持つ特性『疲労無効』の効果で疲れていなくても、カルカとケラルトは疲れ果てており、今後についての話し合いは明日に先延ばした。

 

 もっとも、カルカには明確な腹案が有った。

 王都へ帰った後、兄を正式な『宰相』に任じ、自分はモモンガと離宮に居を構えての新婚生活。白くて大きい犬を一匹飼う。

 子供が出来たら、兄を今度は『摂政』に任じ、聖王から退位。子供が七歳を迎えたら、いつかは行きたかった南方の浮遊都市へモモンガと一緒に旅立つ。

 

 そう、カルカは既にぞっこん状態。

 モモンガとの夜伽を嫌がっているどころか、将来的に子供を三人は欲しいとさえ考えていた。

 

 

「私なら平気です。幸いにして、モモンガ様は私の好みです。

 それに話してみて、趣味が合うのも解りました。私の方が絶対に適任です。

 はい、私が役目を務めます。だから、カルカ様はお疲れでしょうから今夜はゆっくりとお休み下さい」

「さっきから妙に不機嫌だと思ったら……。もしかして、嫉妬してる?」

 

 

 だからこそ、カルカは気付いた。

 ケラルトを幼い頃から知るカルカだからこそ、正面を向いたままのケラルトの無表情の横顔に嫉妬が混ざっているのを気付いた。

 

 カルカとケラルトの秘密を明かすと、二人の初恋はカルカの兄である。

 それがカルカの兄の婚約で幕を閉じた後も、カルカとケラルトの気になる男性は不思議と重なった。

 

 但し、そうなのかと確認を取った過去はお互いに一度も無い。

 そうだと肯定されたら、それが諍いの種になるかも知れず、二人は友情を優先した。

 

 だが、ふと気付いたら同じ男性を目で追っていたなんて過去は多々有った。

 カルカも、ケラルトもお互いにきっと似たタイプの男性が好みなのだろうという確信を半ば抱きながら遠慮し合った結果、この世界における結婚適齢期を突破。行き遅れを危ぶまれ始めた頃から焦り出した。

 

 そして、今夜。モモンガという二人のストライクゾーンに入る男が目の前に現れた。

 先ほど脱衣所で服を脱いでいる時、カルカがローブル聖王国を救ってもらう為にモモンガと交わした約束を告げた瞬間、ケラルトは自身が淡い恋心をモモンガに抱き始めている心の内に初めて気付いた。

 散り散りに乱れる心を押し隠して、カルカに『そうですか。なら、身体をしっかりと磨かなければなりませんね』と返したが、その後は口数が次第に少なくなり、身体を洗い終えた頃にはモモンガとの夜を前に期待と不安でいつも以上に多弁なカルカに相づちすら返さなくなり、カルカより一足早く湯に浸かって、先ほどの問いかけまで声を発していなかった。

 

 

「当然じゃない! 私達の彼氏作らない同盟はどうなったのよ!」

「何、それ! そんな同盟、知らないわよ! 馬鹿じゃないの!」

 

 

 ケラルトは湯から勢い良く立ち上がった。カルカもまた湯から勢い良く立ち上がった。

 二人はお互いの立場を忘れて、幼い頃の言葉遣いに戻り、どちらともなく互いに互いの両手を掴み合っての力比べを開始。湯面がザプンザプンと波打つ。

 

 

「卑怯者! 尻軽女! 初対面なのにいやらしい!」

「酷い! さっきは応援してくれたのに! 嘘つき、嘘つき!」

 

 

 この神殿の沐浴所は広い。張った水を熱々にするとなったら、結構な労力を必要とする。

 多忙が続いた二人を少しでも癒そうとする神官達の心尽くしを無駄にするキャットファイトは、現役は退いたが元高位神官でラスト・ホーリーウォーの中心の十二人となる為にカルカの出陣に同行したケラルトの母親が沐浴所に怒鳴り込んでくるまで続いた。

 

 

 

 ******

 

 

 

「ふん! ふん! ふん! ふん! ふん!」

 

 

 余談だが、カルカとケラルトより二歳年上のレメディオスは結婚も、恋愛も興味を持っていない。

 幼い頃から興味は剣と槍、乗馬、この三つであり、いかに自分が強くなるかだった。雨の日も、風の日も鍛錬を弛まず重ねてきた。

 

 だから、毎日がぐっすり快眠。誰もが持て余してしまう思春期の盛りも、女盛りを迎えている今も、剣を振っていたら自然と発散。

 一応、貴族令嬢として、持て余した際に好奇心から貞操を傷付けない手ほどきは受けていたが、思春期を迎える前の遠い昔の記憶。ソレを行うという発想そのものを忘れている。

 

 

「団長、休憩番でしょ? 寝ないんですか?」

「お前も一緒にどうだ! 月明かりの下でする鍛錬も悪くないぞ!」

「いや、寝ろよ。迷惑なんだって……。」

 

 

 その為、九死に一生を得た今夜も種を残そうとする生物の本能が高まって寝付けないでいたが、赤い雨を浴びて元気になったせいだと勘違い。剣を素振りする掛け声のうるささで休憩番の兵士達の安眠を妨害していた。

 

 

 






九本目『人間宣言』初掲載時、多くのワード誤字がありました。
現在、それ等は修正済みの筈です。今後もそういった勘違い、間違いは有るかと思いますが、ご指摘して頂けると幸いです。

そして、誤字脱字報告とその修正。ありがとうございます。感謝!
九本目はそれが多く、それを丁寧に修正してくれた方々、大感謝です!


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