「過去にレベル百の悪魔種モンスター四体をラストアタックで倒しているのが前提条件。
へぇ~~……。詠唱が必須ってもだけど、超々位魔法には前提条件が必要なものも有るのか。
う~~~ん、レベル百の悪魔か……。一人になってからはずっとソロで格下ばっかりだし、条件を満たしているかは解らないな」
今のモモンガの姿をカルカとケラルト以外の者が見たら、さぞや驚くに違いない。
骨な見た目も理由の一つになるが、今のモモンガは窓から差し込んでいる月明かりだけの暗闇の中、その月明かりの下に立ち、何やらブツブツと呟いているのだから不気味を超えた恐怖でしかない。
「……で、効果は?
エリアの四隅に拷問椅子と嘗て倒した悪魔を召喚。
悪魔を拷問で苦しめ、その苦痛と憎悪の叫びをエネルギーに変えて、目標エリア内の者にHPとMPの無属性極々大ダメージ。
カルマ値が低いほど追加効果発生。ダメージ増、リザレクション待機時間増、リザレクションレベルダウン増、リザレクション時バッドステータス各種付加」
しかし、モモンガにしたら問題は無い。
アンデッドが持つ特性『暗視』がある為、色彩が白黒に変わったという点を除いたら昼間のように視界は良好。
その白黒世界もユグドラシルの暗闇と同様である為に慣れているし、モモンガの視界内にある表示と非表示の選択が可能な各種情報ウィンドウもユグドラシルと同様に色が付いていて不自由は感じなかった。
今が深夜と呼ばれる時刻も問題は無い。
アンデッドが持つ特性『疲労無効』のおかげで睡眠を必要としない。
朝まで一人で過ごす暇な時間も、モモンガにはユグドラシルが終了する直前に得た数多の魔法が有る。それ等の説明文を読んでいるだけで数年の暇は潰せそうだった。
「うっはっ! 極悪過ぎぃ~~っ!
カルマ値最低の俺の為に有るような魔法じゃん! 悪魔に拷問をってところも魔王っぽい!
試してみたいなぁ~~……。でも、駄目だよなぁ~~……。七位階以上は絶対に駄目って言われたしなぁ~~……。
ユグドラシルなら山を吹き飛ばしても、一日経ったら勝手に復活するけど、ここではそうもいかないしなぁ~~……。」
問題を強いて挙げるのなら、大半の魔法が使用を禁じられている点か。
ケラルトは時刻が深夜に近づいた為もあり、今夜はモモンガが持つ力の強大さとこの世界の常識を説くだけに留めて、それ以外は明日に話し合うと決めた後、その時までこの部屋から出てはならないとモモンガに強くお願いすると、今後は七位階以上の魔法を使ったら大騒ぎになるとも説いて、禁止とまでは言わなかったが、そう暗に仄めかしていた。
「お、お待たせ致しました」
「えっ!?」
だが、そんなモモンガに大問題が発生する。
ドアがノックされて、モモンガの応答を待たずにカルカが入室。
その手に持つサイリウムと似た明かりは足元を照らす程度の頼りない光だったが、アンデッドが持つ特性『暗視』が手助けをして、モモンガの目にばっちり見えた。
カルカが身に纏うベビードールのサテン生地の光沢が。
ベビードールの丈が膝上でとても短く、下着をやっと隠しているのが。
起立した胸のぽっちによって、放射状の皺が胸の生地に作られているのが。
可愛らしさとセクシーさを同居させるフリルが各所に配されて、胸元には『さあ、召し上がれ』と言わんばかりのレースのリボンが結び飾られているのが。
モモンガは茫然と大口を開けきる。
その理由は言うまでもないが、カルカがケラルトに告白したモモンガとの約束を当のモモンガは交わした記憶が無いし、この部屋がカルカの寝室だとそもそも教えられていないからだ。
余談だが、ケラルトは母親からお説教をまだ受けている最中。奥歯を悔しさにギリギリと鳴らしていた。
但し、母親に神話の神々を例とするなら、降臨した神『モモンガ』も多情な可能性があると、後日に抱いて貰えと、カルカと一夫多妻を許容したら良いと、ローブル聖王国は原則的に一夫一妻制でも神にそれを望むのは不敬だと説かれて、希望を見出してもいた。
そんな明日を知らないモモンガは今、目の前の事で一杯一杯。
何が何やら解らず、目を背けなければならないと解っていてもカルカのセクシーな姿から目を離せず、ただただ茫然と赤い眼光を明暗させる瞬きすら忘れていると、更なる驚愕がモモンガの目に飛び込んできた。
「は、初めてなので……。や、優しくして下さいね?」
「えっ!?」
なんとカルカは明かりをベッドサイドテーブルに置き、いそいそとベッドの布団の中へ入った。
キングサイズの中央に陣取り、口元を布団で恥ずかしそうに隠しながらも、そこに覗かせた眼差しはモモンガへ期待を送ってきた。
******
(こ、これって……。ア、アレだよな? ア、アレ!)
モモンガは焦った。焦りまくった。
どうして、そうなっているのかは解らないが、そうとしか思えない状況。精神が何度も何度も抑制されて、身体は常に淡く光っている状態。
(そ、そんな目で見ないでくれよぉ~~! お、お願いだから!)
しかし、カルカは待ってくれない。
無言ながらも『早く』と、或いは『まだですか?』と眼差しで強く訴え、モモンガが想像するそれを激しく急き立てている。
だが、『しかし』である。
モモンガはリアル年齢イコール彼女居ない歴。
リアル世界の二十二世紀では性風俗の規制が極めて緩く、男も女も仕事を頑張った日はご褒美に帰宅前のすっきり爽快がごく当たり前になっていたが、モモンガは違った。そこへ収入を投じるくらいならユグドラシルに投じてきた。
その為、そうとしか思えない状況をどうしても疑ってしまう。
もしかしたら、自分の勘違いかも知れないと。もし、そうなら取り返しが効かなくなると。
「い、良いの?」
「は、はい……。」
「ほ、本当に良いの?」
「は、はい……。あ、あまり恥をかかせないで下さい」
だから、モモンガは諺『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』を思い出して、心を奮い立たせた。
一度では信じきれず、二度までも。カルカは隠した布団の中で頷き、二度目の確認で恥ずかしさのあまり布団を頭まで被って隠した。
(ま、間違ってなかったぁぁぁぁぁっ!
す、据え膳だよ! す、据え膳って奴だよ!
で、でも、どうしろってのさ! お、俺、骨だよ! ほ、骨! も、もう無いんだよ!
そ、そうだ! に、匂いだけでも! ……って、嫌だ! 絶対にクンカーだって軽蔑されるに決まってる!)
最早、疑いようは無かった。カルカが明確にソレを求めているのが判明した。
この上は一刻も早く何らかのアクションを起こさなければならない。男として、こうもお膳立てをされて、カルカにこれ以上の恥をかかせるのは酷だった。
しかし、モモンガはやっぱり骨である。
カルカが望んでいるソレは不可能。ソレを行う為に最も大事な部分を所持していない。
それでも、モモンガはどうしても諦めきれなかった。
映像でしか見た経験が無いソレが、お金の無駄だよねと目を背けて興味が無いフリをしていたソレが、小学校まで無理して卒業させてくれた両親には申し訳ないけど鈴木家は俺の代で終わりと諦めていたソレが遂に出来る。それも美人のカルカとソレが出来るとあって諦めきれなかった。
精神抑制が効いたそばから男の欲望が湧き溢れ、モモンガは何度も連続的に淡く発光。
擬音で表すならペペペペペペペペペペカッと光り、アンデッドが持つ特性『精神耐性』が『いい加減にしろ! これでもどうだ!』とモモンガの身体をペカーーーッと強く発光させる。
「はっ!? ……そうだ!」
その瞬間、モモンガの頭は冴え渡った。
直面している問題をたちどころに解決してしまう手段を発見した。
そう、男なら誰しも必ず経験に持つ一人で猛りを解き放った後に得られる悟りの極致。
俗に『賢者タイム』と呼ばれるそれが叡智を与え、モモンガは大賢者にジョブチェンジ。今日、ユグドラシルの最終日に買った指輪を右手の中指にはめる。
「I wishっ!
息子を! 俺が無くした息子をこの身に!」
そして、作った右拳を高々と掲げて願った。
この願いで指輪は使用限度の三つ目をカウントして、ちょっとした効果を持つシルバーリングに成り下がろうと後悔は一欠片も無かった。
結論から言おう。
この時、モモンガが焦ったりせず、単純に人間への種族変更か、俗称を使わずに正しい名称を使っていたら、それは見事に叶った。
「Ween es meines Gottes Willeっ!」
だが、そうしなかった結果がこれである。
もし、この世界に神が実際にいるとするなら、その神は悩んだ末に『こういう意味かな?』と願いを叶え、モモンガの股間から謎の産声があがった。