聖なるガイコツ   作:やまみち

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十二本目 思い出がいっぱい

 

 

「えっ!? 今、誰かが……。」

 

 

 突如、モモンガとカルカの二人しか居ない寝室に聞こえた第三者の声。

 その有り得なさに目を見開き、カルカがベッドに沈めていた上半身を思わず跳ね上げた次の瞬間。

 

 

「タ、タイム・ストップ《時間停止》!」

 

 

 世界は時間を止めて、完全な静寂を広げた。

 実際には術者であるモモンガが感じる時間を極限に引き伸ばしているだけで、喋っている途中の『が』の発音で口を開け続けているままのカルカと同じ時を過ごしているのだが、モモンガの主観では世界そのものが停止した。

 

 神だけに許された世界の中、モモンガは深呼吸を一つ。

 寝室の隅へ足早に向かい、カルカに背を向けながらそこでローブを開き、頭からつま先までの前面を露出させる。

 

 

「ああっ! 偉大なる我が創造主、モモぉンガ様!

 このパンドラズ・アクター、感謝の極みぃ!

 ……って、おや? 喋れる? 

 いやいや、喋れぇるなら尚更です! 感謝を! 圧倒的なぁ感謝を伝えなければ!」

 

 

 さっきまで無かった筈のハニワ顔をしたクリーム色の立派な肉棒が恥骨から伸びていた。

 大きさは拳を握った腕の肘くらいまで。その頭にはモモンガが見覚えのある軍帽が乗っていた。

 

 

「ああっ! 偉大なる我が創造主、モモぉンガ様!

 実は、実はぁ~っ! モモぉンガ様をいつも心の中で『ち・ち・う・え』と呼ばさせて頂いておりました!

 くわぁっ! 恥っずかしぃぃい!

 そして、そしてぇ~~っ! モモぉンガ様は先ほど私の事を息子と……。息子と呼んで下さぁいました!

 くううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!? 私の喜びは有頂天んんんんんっ!

 スーパー野菜人がスーパー大猿になったような感覚ぅ! もぉう止められませえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」

 

 

 しかも、そのハニワ顔はモモンガの目線までニョキニョキと伸びてきた。

 おまけに、肉棒を盛んに波打たせたり、フラフープで遊ぶようにくねらせて、喜びの舞いを披露。

 

 

「そっか、そっかそっか……。なるほど、なるほどね。

 お前は俺が作ったNPCだもんな。息子って言えるよな。何も間違ってないよな」

 

 

 モモンガは身体を淡く光らせた後、深い溜息を漏らす。

 今日はアンデッドが持つ特性『精神耐性』を何度も味わったが、今ほど冷静になったのは初めてだった。

 つい先ほどまで興奮しきってた分、心はまるで水平線まで波一つ無い晴天の海のような穏やかさ。比喩を用いないなら、白けきったと言い換えられる。

 

 姿形は違えども、モモンガはハニワ顔の肉棒を良く知っていた。

 ナザリック大墳墓の宝物殿守護者であり、モモンガが数年前に造ったNPCである。

 その設定に『アクターだからオーバーアクションを取るべき』などの厨二病設定をふんだんに書き込んだのはモモンガ自身であり、それが理由で無駄にオーバーアクションのハニワ顔の肉棒を『パンドラズ・アクター』と気付けた。

 

 だが、それは創造当時に抱えていた自分の黒歴史を見せつけられているようで辛かった。

 ユグドラシルでは問題にならなかった。勝手に喋ったり、勝手に動いたりはしなかったから、あくまで設定だけだった。

 モモンガは身体を淡く光らせて、アンデッドが持つ特性『精神耐性』が驚きや喜び、性的興奮のみならず、絶望にも効くと思い知る。

 

 

「その通りぃです! 偉大なる我が創造主、モモぉンガ様!

 いえ、父上! ……って、おやっ!? ここは何処です? あのお嬢様は?」

「ああ、うん。説明が必要だよな」

 

 そして、心を穏やかにするとても重要な点が有る。

 それはモモンガが期待していたカルカとのソレは、もう諦めなければならないという事だ。

 

 モモンガには自分自身の努力で手に入れた指輪がまだもう一つ有るが、それをモモンガは使うつもりが無かった。

 第一の理由はモモンガのコレクター魂がそうさせており、第二の理由は再び願った結果がまた変な効果で現れたらと考えてしまい、それをユグドラシルでの指輪にまつわる笑い話の数々が助長させていた。

 

 

「なんの、なんのぉ! このパンドラズ・アクター、父上にそうあれと願われた期待を裏切ったりはしませぇん!

 何故、父上が私を宝物殿から呼んだのか!

 何故、父上が私と一体化しているのか!

 何故、あのお嬢様は父上の寝室にいるのか! 謎ぉは全て解けましたよ!

 ならば、ご安心ぉ! 父と子とは言えども、プラぁっイベートは守るべきもの!

 それが寝室なら尚ぉ更です! 私は父上ぇが呼んで下さるまで……。そう! 息子と呼んで下さるまで意識を閉じて待っています!」

「へぇぇ~~~………。凄いな」

 

 

 しかし、カルカに恥をかかせる訳にもいかない。

 ウザさを感じるパンドラズ棒の声を聞き流しながら、モモンガが『そう言えば、ペロロンチーノさんから押し付けられたアレが有った筈だ』と自分は満足が出来なくてもカルカを満足させる為にアレなる品を取り出そうと、右手を虚空へ伸ばしかけたその時。

 

 

「ではでは、父上のご期待に応えて……。メタモルフォぉぉーゼ《変化》!」

「えっ!? ……ええっ!?」

 

 

 パンドラズ棒がモモンガの頭上へとグニーーーンと伸びた。

 そこから螺旋を描きながらモモンガを包み込み、眩いばかりの光が放たれた。

 

 

 

 ******

 

 

 

「……喋りませんでしたか?

 あれ? モモンガ様? ……えっ!?」

 

 

 カルカは視線の先のモモンガが唐突に姿を消して戸惑う。

 思わずモモンガを求め、モモンガが居た窓辺の左手側から右手側へと視線を向けて、今度は驚いた。

 

 いつの間にか、モモンガはカルカのすぐ隣にいた。

 話し合いの際に見せた人間の姿で胡座をかき、身に纏っていた豪奢な黒いローブを簡素な白いローブに変えていた。

 

 

「カルカさん、これを」

 

 

 モモンガはカルカの手を取り、その掌の上に指輪を乗せる。

 先ほどモモンガが魔法で鑑定してみたところ、三度の願いを使い切った指輪は無属性を除く属性ダメージを軽減させる効果を持つ。

 モモンガから見たらゴミとまでは言えないにしろ、とても微妙な効果であり、悲しい結果を生んだ思い出もあって手放したかった。

 それにこの世界の常識を知った今、その微妙な効果が重宝されるかも知れないとも考え、捨てるくらいならと指輪を外して、カルカに渡した。その程度の軽い気持ちだった。

 

 

「うっううっ……。」

 

 

 しかし、カルカはそう受け取らなかった。

 目を大きく見開くと、たちまち涙を零し始めて、その泣き顔を見られまいと伏す。

 

 

「あっ!? い、いや、その! い、嫌なら捨ててくれても!」

 

 

 そこへ至り、モモンガは今更ながら自分の大失敗に気付いた。

 経験は持っていなくても、知識として指輪が女性にとって大きな意味を持っているのを思い出して慌てふためく。

 

 

「違う! 違うんです! 嬉しい! 嬉しいです!」

「そ、そっか! な、なら、良かった!」

「はい、末永くよろしくお願いします!」

「……う、うん?」

 

 

 軽い気持ちで渡した指輪がとても重くなってしまっているのを感じる。

 だからと言って、口が裂けても返してくれと言えない雰囲気な上、カルカは涙を手で拭って伏していた顔を上げると、指輪を左手の薬指に着け、それを嬉しそうに微笑みながらモモンガに見せた。

 

 最早、どうしたら正解なのかがモモンガには解らなかった。

 先ほどまでは煩わしさを感じていたアンデッドが持つ特性『精神耐性』が働かない。今は生身を得ていても、真実は骨の身でありながら、墓場に踏み入れた心境に陥る。

 

 

「モモンガ様!」

「おわっ!?」

 

 

 そして、感極まったカルカがモモンガに抱き着き、唇と唇を重ねると、そこは確かな温もりがあった。

 

 

 

 ******

 

 

 

 その夜、モモンガは大人の階段を上った。

 

 

 







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