聖なるガイコツ   作:やまみち

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十六本目 雪上加霜

 

 

 

「エ・ランテルが死都化!」

 

 

 本来なら他国の使者を迎えるのは重臣達を集めた謁見の間が相応しい。

 だが、既に時刻は家路を急ぐ夕方の上、カルカとの謁見を望んだスレイン法国は緊急と秘密裏を望んだ為、その場を聖王執務室に設ける事となった。

 

 そして、スレイン法国陽光聖典隊長『ニグン・グリッド・ルーイン』から伝えられた衝撃の事実。

 カルカは椅子を蹴って立ち上がるのを聖王の威厳を保つ為に堪えたが、一瞬だけ腰を微かに浮かすのは堪えきれなかった。

 

 なにしろ、ローブル聖王国は亜人連合軍襲来という国家存亡の危機を退けたばかり。

 暫くの難事は起きないだろうと、上手くしたら自分の在位時はもう難事は起きないかも知れないと、カルカはモモンガとの幸せもあって油断していた。

 

 それに亜人が連合を組んでの大襲来もそうだが、モンスターが街を占拠するなんて物語や吟遊詩人で聞く話。

 大きな森を除いた大陸の平地を主として人類圏が確立してから百年に一度有るか、無いかの伝説が間をおかず、二度も連続で起こったというのだから驚かない筈が無い。

 

 

「はい、貴国が亜人等の大侵攻に遭ったのもそのせいかと。

 アンデッド共は動きは鈍くても、その数は膨大。アベリオン丘陵を踏み荒らされて押し出された。それが我が国の見解です」

 

 

 しかも、更なる衝撃の事実がニグンの口から明かされる。

 亜人連合軍の襲来は余波に過ぎず、本命は遠く離れた地に有るとされ、カルカは言葉を失った。

 

 つまり、国家存亡の危機はまだ去っていない。

 亜人達はまた大挙として侵攻してくるかも知れないし、その亜人達を打ち破ったアンデッド達が侵攻してくるかも知れないとなる。

 

 カルカは意見と考える時間が欲しかった。

 聖王として迂闊な発言は出来ない。目線だけを右へ向けると、カスポンドがそれに頷いて応える。

 

 

「なんて事だ。そんな裏事情が有ったなんて。

 今、どれほどの被害が広がっているかは解らないけど……。

 リ・エスティーゼの王都とエ・ランテルの間は広大な穀倉地帯。確実に麦の値段が上がるだろうね」

 

 

 しかし、カスポンドは内政に秀でていても、それ以外はあまり得意ではない。

 その為に対応策は捻り出せないが、国家総動員を発して消費した兵糧により何処の街も備蓄は逼迫しており、それを補填するあて先が大外れになりそうな近未来を伝え、ニグンがこの後に求めてくるだろう国軍の派遣を暗に反対する。

 

 

『どう思われますか?』

『う~~~ん……、

 多分だけど、第七位階魔法のアンデス・アーミーじゃないかな?』

 

 

 ケラルトは左手を腰に回して、その指先を小さく二度、三度と跳ねさせて合図。

 自分の背後に一歩離れて立つモモンガに伝言の魔法で見解を尋ねると、モモンガは顎を右手に持ちながら首を傾げた。

 

 ちなみに、モモンガがこの場に同席しているのはケラルトの提案。

 六大神の信仰心が強いスレイン法国の者と会っておくのはモモンガの良い経験となり、モモンガが持つ神を超える力がいかに影響を与えるかが解ると考えたから。

 

 実際、その効果は有った。

 ニグンはカルカに挨拶を済ませると、次に亜人連合軍を撃退したローブル聖王国の勝利を讃えたが、その中に神が、神が、神がと何度も挟み、モモンガはその狂信っぷりにドン引きしていた。

 

 特にニグンはモモンガが魔法で造った要塞を大絶賛。

 最初こそ、モモンガは自分の作品を褒められて『そうだろう! そうだろう!』と誇らしくなり、笑顔でウンウンと頷いていたが、

 ニグンが『スルシャーナ様の偉大さを感じずにはおられませんが、それ故に最上階の四方を飾る頭骨は外して頂きたい。あれではスルシャーナ様の御姿を無知な者達に誤らせてしまうし、そもそもスルシャーナ様は御一人だけ。不敬です。不敬です』とケチを付け始めると、顔を引きつらせた。

 

 

『では、モモンガ様以外の誰かが?』

 

 

 ケラルトの眉がピクリと跳ねる。

 モモンガの推測した通り、第七位階魔法が原因とするなら、その人類未踏を成し遂げた者が居る筈である。

 モモンガと出会う前なら考慮に入れもしなかったが、その人類未踏を雑魚呼びしたモモンガが振り返ったらそこに居る以上、モモンガと同様にユグドラシルからこの世界へ来た者が居る可能性にケラルトは至った。

 

 エ・ランテルの街の死都化とモモンガが現れた時期は重なっている。

 正確には数週間の差異は有るが、ユグドラシルのプレイヤーと思しき六大神と八欲王などの出現が百年単位である過去を考えたら誤差でしかない。

 

 それが正しいとするなら、モモンガの存在は重要になってくる。

 ケラルトもまたカルカと同様にモモンガが王宮での生活に窮屈さを感じていると直感的に察して、何かしらのガス抜きが必要と考えていたが、それを見直さなければならない。

 

 ケラルトは皺を眉間に刻む。

 実を言うと、世界の調停者を気取る竜に先手を打たれる前にアーグランド評議国へ表敬訪問という名目のモモンガと二人っきりの新婚旅行を計画して、自分が留守中の調整やカルカが駄目だと言わないように根回しを始めていた。

 

 

『いや、それもおかしい。どうせ、やるなら第十位階のアーマゲドン・イビルか、アーマゲドン・グッドの方が良い。

 だけど、今挙げた二つも効果時間は数時間程度。アンデス・アーミーなんて、発動した瞬間だけ。アンデッドがずっと湧き続けているのは変だ』

 

 

 だが、モモンガは未知のプレイヤーの可能性を否定する。

 ユグドラシルは過疎化が始まると、新規プレイヤーに対する救済策として初心者専用マップを作り、レベルアップが容易くなった。

 末期に至っては『初心者の貴方もお手軽な時間でレベル百まで一週間』を謳い文句にして、よりレベルアップが容易くなり、モモンガのような古参プレイヤー達に『俺達の苦労は何だったんだ? でも、仕方ないか』とぼやかせた。

 

 それ故、ユグドラシルのプレイヤーは百レベルが当たり前なら、第十位階魔法の習得も当たり前。

 もしかしたら、レベルアップの苦労がまだ必要だった頃の引退者がユグドラシルの最終日に帰ってきた可能性が有るが、モモンガは自分達のギルドがどうだったかを顧みて、それを否定した。

 

 

『では、神々が残した遺産。或いはタレントでしょうか?』

 

 

 ケラルトはそれならと次の可能性を考える。

 前者の場合、確認されているその数は少ないし、その性能を満足に発揮させられる者はもっと少ないが、確かに存在する為に大きな警戒が必要となる。

 譬えば、ローブル聖王国に伝わる国宝の槌『サンシオン』は大地を操ると伝えられており、全長百キロに及ぶ要塞線の基礎はその力を用いて造られたと国史で語られている。

 

 後者の場合、この世界の人間、亜人、異形種を問わずに二百分の一の確率で持つといわれる特殊能力だ。

 『火打ち石の着火が一発で成功する』や『大便がするりと落ちて汚れない』などの微妙な能力も有れば、『疲労軽減』や『魔法適性』などの強力な能力も有り、『天気予報』といった農業や戦争などに重宝される国家レベルで役立つ能力まで幅広い。

 

 

『マジックアイテムの可能性は有るね。

 召喚系のアイテムはプレイヤー主催の祭りで良く使われていたし、俺も全てを把握している訳でもないし』

『つまり、誰もが持っている有り触れたアイテムだと?』

『うん、俺も幾つか持っているよ。譬えば、ゴブリンを呼ぶ角笛とかね。

 でも、あの人が言っているように際限なく湧くってのは有り得ない。数を揃えたら、その限りじゃないけど……。』

『それも有り得ないと?』

『だって、所詮は人を驚かせるジョークグッズだからね。そんなゴミを集める人って居たのかな?』

『ゴミ……。ですか』

『うん、ゴミ。アイテムの召喚モンスターって倒してもドロップ品が無いからね。

 召喚モンスターメインで戦いたいなら、サモナーになった方が断然に強いんだよ。

 ……で、タレントの方はユグドラシルに無かったから、そっちはケラルトさんの方が詳しいでしょ?』

『そうですね。譬えば、彼はタレント持ちです。召喚した天使を強化すると聞きます』

『それはまたニッチな……。』

『ですが、そのタレントと目的が上手く噛み合った良い例です。

 陽光聖典といったら、スレイン法国の表向きなエリート部隊。その隊長となったら、エリート中のエリートですよ』

 

 

 しかし、モモンガは前者を否定して、後者の回答は避けた。

 ケラルトはモモンガとの会話を重ねながら考え、ニグンへ視線を向けて、一つの推測を立てる。

 もしかしたら、前者と後者の両方が合さって原因となり、それが人類未踏を達成しているのではなかろうかと。

 

 

『へぇぇ~~~……。』

 

 

 モモンガが釣られるようにニグンへ視線を向ける。

 改めて、観察して持った印象は『左頬に傷があって厳ついイケメンだけど、何となく幸薄そう』だった。

 その様子を横目で窺い、カルカは二人が伝言の魔法による密談を終え、ケラルトが何らかの解答を得たと悟り、沈黙していた口を開く。

 

 

「それで? スレイン法国は我が国に何をお望みですか?」

「我等が二神を失ったとは言え、貴国は聖王国を名乗っておられる。

 ならば、アンデッドに対する手段を持った者も多い筈。人類存亡の危機にご助力を願いたい」

「つまり、軍を派遣しろと?」

 

 

 その結果、予想した通りの言葉が返ってきた。

 カスポンドは顎先を左右に小さく振り、ケラルトはそれを見て頷き、カルカがどう断ろうかとニグンへ強い眼差しを向ける。

 

 

「そうであれば嬉しいですが……。

 貴国は亜人共の襲来を受けたばかり。今は時間が必要だと承知しています。

 ですから、精鋭を送って頂きたい。少人数でもアンデッドの群れを突き崩せるような精鋭を」

「我が国の事情を考えて頂けるとは痛み入ります」

「それと派遣先はリ・エスティーゼ王国でお願いします」

「何故、リ・エスティーゼに? 貴国ではなくて、よろしいのですか?」

 

 

 ところが、今度は予想外の言葉が二度も返ってきた。

 一度目はカルカがそこに含んでいる要らぬ心配に冷たく微笑み、二度目はケラルトがそこに含んでいそうな策謀に口を挟む。

 

 

「我が国の事はご心配なく。自分達の国は自分達で守れます。

 しかし、リ・エスティーゼ……。あの国はもう駄目です。足の引っ張り合いしかしていない。

 エ・ランテルが死都となって、約一ヶ月。領土の半分を失って、アンデッド共が王都へ到達していたとしても、私は驚きませんよ」

「話は解りました……。

 しかし、この場で即答は出来ません。宿泊の用意をさせますから、そちらで待って頂けますか?」

「いいえ、その必要は有りません。我々は今すぐ帰らせて頂きます。

 そして、貴国が人類存亡の危機に必ずや立ち上がってくれると信じています」

 

 

 モモンガは完全に蚊帳の外。

 緊迫感が増した場をぼんやりと眺めて、リアル世界の会社の重役会議もこんな感じなのかなと考え、カルカへ深々と礼をした後はすぐさま踵を返して足早に去ってゆくニグンの背中を見送りながら『みんな、格好良いな』と憧れを抱いた。

 

 

 

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