「ふぅ~~……。危なかった。
……というか、いきなり魔法が切れるとか、運営に文句を……。
いや、待て。確かにサーバーダウンした筈だよな?
もしかして、延長になったのか? ……って、あれ? GMコールが無いぞ?」
カルカは驚きのあまり茫然と目をパチパチと瞬き。
だが、ラスト・ホーリーウォーのような偽りの奇跡とは違う真の奇跡が起きたとだけは解った。
何故ならば、カルカは聖王。一般市民が知り得ない他国の事情に通じていた。
目の前の骸骨はローブル聖王国では失われた二神の内の一神。アベリオン丘陵の向こう側にあるスレイン法国で今も敬われている闇の神そのものだった。
即ち、神の降臨である。
闇の神が何やらボヤく言葉は意味不明だったが、その確かな証拠を聖王の証たるサークレットを通して、カルカは感じていた。
端的に言うなら、聖王の証たるサークレットはマジックアイテム。
ラスト・ホーリーウォーの魔法行使権が付与されており、装着者自身の魔力を大きく増幅させる性能に加えて、街一つほどの広範囲から装着者の要請に応じた者達の魔力を奪って集める性能を持つ。
闇の神が身に纏う豪奢な黒いローブは魔力ビンビン。
このカリンシャ中の祈りが集まっている聖域にあって、強烈な存在感を放っていた。
それこそ、カルカが着ている国宝の法衣よりもだ。
ラスト・ホーリーウォーの行使を助ける為、建国からの約二百年の永きに亘り、ローブル聖王国の神官達が魔力を込め続けてきたソレが比較にならない。
ローブ一つでそうなのだから、闇の神自身に宿る力はどれほどのものになるのか。
それに闇の神はカルカの呼び声に応えて降臨してくれたが、ラスト・ホーリーウォーの協力は応じていない。
ところが、闇の神の降臨と共に聖域より立ち上る光の柱の輝きは格段に増していた。
闇の神がただそこにあるだけで聖王の証たるサークレットは強大な魔力の一端を感じ、カルカを含んだラスト・ホーリーウォーの大規模儀式に参加している全ての者達の魔力を越えていた。
「カルカ様、大丈夫ですか!」
「だ、大丈夫! へ、平気よ! ちょ、ちょっとふらついただけだから!」
「解りました! あとひと頑張りです!」
そして、その格段に増した輝きが闇の神の降臨を隠した。
闇の神が降臨した際に思わずカルカがあげた悲鳴を聞きつけて、背後の扉の向こう側にいるケラルトが安否を気づかって呼びかけてくるが、闇の神の降臨に気付いた様子は無い。
慌てて我に返ったカルカは背後を振り返り、それっぽい適当な嘘で誤魔化す。
前述の通り、闇の神に対する信仰はローブル聖王国では失われているし、その見た目から闇の神がアンデッド種なのは明らかであり、アンデッド種は一般的に忌み嫌われて恐れられてもいる。
もし、闇の神が降臨した事実を知られたら、大騒ぎになるのは必至。ラスト・ホーリーウォーの大規模儀式は確実に中断する。
下手したら、恐れるあまり闇の神を邪神と見なして、亜人連合軍の大襲来は闇の神が企んだに違いないと騒ぎ始め、挙国一致の今現在が崩れてしまいかねなかった。全てはカルカの双肩にかかっていた。
「口が動いている。……まさか、ユグドラシルⅡ!」
「スレイン法国に伝えられるその御姿! 闇の神とお見受け致します!
私はローブル聖王国聖王! 名をカルカ・ベサーレスと申します!
今、我が国は危機に瀕しています! どうかどうか、ご助力をお願い致します!」
やはり闇の神の言葉は意味不明だったが、すぐさまカルカはその場に土下座。
この奇跡を逃してなるものかと矢継ぎ早に訴えて、伏した顔を少しだけ上げ、怖ず怖ずと様子を上目遣いで窺うと、闇の神は腕を組んで頭を傾げた。
「立て」
「はい」
カルカは何が足りないのだろうかと頭を必死に働かせる。
言われるがままに立ち上がって、気をつけの姿勢を取り、闇の神が不躾に顎を持ち、頬をフニフニと押してきてもされるがまま。
「マジか……。モザイクがかかっていない上に18禁行為が出来て、BANされないぞ!」
その右手が下がり、まさかと驚くも身体がビクッと震えそうになるのも堪えて耐えた。
予想した通り、神の右手に胸を鷲掴みされて、もみっもみもみもみと揉まれても表情を強張らせずに耐えた。
だが、胸のぽっちを人差し指の先でツンツンと突かれて、身体が勝手に反応。
胸のぽっちが固く起立するのを自覚して、カルカは頬を紅く染めながら吐息を鼻から漏らすのを耐えられなかった。
「んんっ……。」
「しかも、超リアル!」
しかし、その恐る恐るながらも積極性が感じられる闇の神の行為に光明を得る。
数多いアンデッド種の中で最高位にあるヴァンパイアは人間の生き血を糧にしており、特に男なら童貞、女なら処女を好むとされている。闇の神もまたソレを望んでいるか、カルカ自身の身体を望んでいるのではなかろうかと。
実際、神が人間と交わった例は伝えられている神話に多い。
特に六大神が打倒して、神の座から堕ちたとされる八欲王の一人は大変な色狂いであり、人間との間に数多くの子供を儲けたとされている。
なら、カルカが今行うべきはアピールだ。
自分の純真無垢さを伝えれば、闇の神はきっと願いに応えてくれる。
今の今まで良縁に恵まれない悩みを抱えていたが、それは今この瞬間の為だったと、カルカは恥ずかしさを堪えて、勇気を振り絞る。
「あ、あの!」
「うん?」
「わ、私、処女です!」
「えっ!?」
ところがところが、カルカを試しているのか。闇の神は意地悪だった。
顔を真っ赤に染めたカルカの告白をおとぼけ。顎骨を落として、大口を開ける小技で戯けてみせた。
カルカはどうしたら良いのかと焦り迷うが、答えは一つ。
闇の神が満足するまで赤裸々に今以上の告白を重ねて、自分の純真無垢さを伝えるしかない。
これこそ、正に神の試練。
カルカは次から次へと湧いて溢れる耐え難い羞恥心を堪える。
せめての抵抗に目をギュッと力強く瞑りたい衝動に駆られるが、それも懸命に堪える。
もし、目を瞑った瞬間に闇の神が立ち去ってしまい、その姿が目を再び開けた時に消えていたら。そんな考えが頭をよぎり、カルカは瞬きすらも堪え、闇の神の眼孔の奥に灯る赤い目を真っ直ぐに見据えた。
「で、ですから、男性経験は有りません!」
「う、うん?」
「え、ええっと……。じ、自慰は週に一回か、二回!
で、でも、入口を触るだけです! こ、怖くて、指を入れた事は今まで一度も有りません!」
「お、おう……。そ、そっか」
「も、勿論、性具もです! ほ、本音を言ったら、とても興味は有りますが!」
果たして、それは正しかった。
カルカが次は自慰行為の際に好んで用いている嫌いな貴族達との『くっころ』なシチュエーションを告白しようとするよりも早く、闇の神が満足の意思表示に右掌をカルカへと突き出した。
「解った、解った。もう良い、もう良いから……。
それで? 俺は何をしたら良いんだ? 要求を言ってみろ」
「ありがとうございます!」
カルカはその場に改めて土下座。嬉しさのあまり涙をポロポロと零す。
闇の神に身体を捧げる以上、結婚はもう望めないし、骸骨の身である闇の神とどうやって交わるのだろうかという不安は有ったが、今はただただ感謝の気持ちで一杯だった。