聖なるガイコツ   作:やまみち

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 *** 謝罪 ***

皆様のご指摘で作中に用いた指輪の名前と性能に誤りが解りました。
原作通りなら、指輪の名前は正確にはウロボロス。効果も一度きり?
本来なら修正が望ましいのですが、物語そのものが崩れる為に許容して頂けると幸いです。





四本目 終焉の日

 

 

 

 ………今一度、時は少し遡る。

 

 

 

 ******

 

 

 

「ええっ!? シューティングスターがこの値段でっ!?」

 

 

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。

 嘗てはDMMORPG界を一世風靡して、爆発的な大ヒットで隆盛を極めた『ユグドラシル』もまた終わりの時を今日を迎え、十二年の歴史に幕が下りようとしていた。

 

 ユグドラシルこそが人生。ユグドラシルこそが本当のリアル。

 そう言っても過言でないくらい全てを費やしてきた『鈴木悟』は、上司に今日だけはどうしてもと頭を何度も下げて、嫌味と怒号の連発を引き換えに定時上がりをもぎ取り、脇目も振らず帰宅。食事とトイレを急ぎ済ませた後にユグドラシルを起動させて、骸骨の身体『モモンガ』になると、まずは仲間達からのメールをチェックした後、ユグドラシル最大の街を訪れて驚愕した。

 

 

「ええ、花火を買うには幾らあっても足りませんからね」

「花火?」

「あれ? もしかして、全体チャットを閉じています?」

「はい、昔からの習慣で……。煽りとか、うるさいですし」

 

 

 最盛期とは比べ物にはならない。

 だが、これほどの者達がユグドラシルにまだ残っていたのかという嬉しい賑わい。露天売買がメインストリートで活発に行われており、ここはユグドラシル万博会場かと思えるくらい一昔前なら売買取引の場に決して出てこなかった超レアな武器や防具、アイテムがずらりと列んでいた。

 

 しかも、それ等全てが投げ売り状態。

 特にモモンガの目を引いたのは、その昔にボーナス全額を投じたガチャの末にようやく得た超レアの指輪だった。

 

 

「だったら、開いてみると良いですよ。

 スルシャーナって人がみんなで花火大会をしようって、その場所とか呼びかけていますから」

「へぇぇ~~~……。」

 

 

 その効果はどんな願いも三度だけ叶えるというプレイヤーの夢そのもの。

 無論、願いを訴える内容はプレイヤーの自由だが、それを実際に叶えるのはユグドラシル運営の匙加減。禁止されている事や技術的に不可能な事も多い。

 

 譬えば、ユグドラシルはとても高い自由度を売りにしていても、性的表現とその行為にとても厳しい。

 過去、この限界に挑戦しようと指輪に『今日から俺の種族は裸族だ! 裸族は脱げば脱ぐほど強いのだ!』と願った愚か者が居り、その願い通りに彼は人間から裸族という種族に変更されて、ユグドラシル初の全裸にもなれた。

 

 しかし、パンツを意気揚々と脱いだ途端、どの角度から見ても股間と尻を大きく隠すモザイクがかかった。

 それ以後、彼は『モザイクマン』の悲しい名前で呼ばれる十字架を背負い続け、彼自身が自分で付けたプレイヤー名で呼ばれる事は二度と無くなった。

 

 一方、ゲームバランスをぶっ壊すアイテムが生まれた実例もある。

 ある者が『ムカつくあいつをBANしてくれ! あいつをBANしてくれるなら、俺をBANしてくれても構わない!』と願った結果、敵対者にトドメの一撃を入れると敵対者を完全消滅させた後に使用者も完全消滅する『ロンギヌスの槍』が与えられている。

 

 その為、この指輪を手に入れた者達はこぞって使い、多くの悲哀と笑い、歓喜が生まれた。

 だが、モモンガはボーナス全額を投じて得たにも関わらず、この指輪を一度も使った事が無かった。

 

 ボーナス全額を投じて得たからこそ、勿体なくて使えなかったというのも有るが、最たる理由はモモンガが持つコレクター収集癖によるもの。

 願いを消費する毎、デザインが微妙に変化する為、新品状態で所持していたかったモモンガは大事に大事に保管。うっかり使ってしまったり、捨ててしまったりしないようにアイテム所持欄にあるロック機能をしっかりとかけて守っていた。

 

 

「……で、どうします?

 今、七時ぴったりだし、ラッキーセブンという事で更に一割引きしますよ?」

「買います! 勿論、買います!」

 

 

 その考えはサービス終了を迎える今日も変わらなかったが、二つ目が手に入るなら話は別。

 売り出されている指輪は願いを一度叶えた痕跡は有るが、それが新品と中古品の比較になり、モモンガにとっては逆に嬉しかった。

 

 

 

 ******

 

 

 

「モモンガを愛しているっと……。

 かはーーっ!? 恥ずかしい! 馬っ鹿じゃないの俺!」

 

 

 ユグドラシルが終了するまであと十五分。

 モモンガは全体チャットで盛んに呼びかけられている花火大会へ行こうかと何度か迷ったが、結局は自分が所属するギルドの拠点『ナザリック大墳墓』に留まる事を選択した。

 

 何故ならば、ユグドラシルを引退して去ったギルドメンバーの誰かが現れるかも知れない期待があったからだ。

 一ヶ月前と一週間前、三日前の三度に渡り、今日がユグドラシルの最終日である事を知らせて、みんなで思い出を語り合わないかとメールで誘ってもいた。

 

 しかし、メールの返事が来たのは四十人中の半分以下。

 それも無理、難しい、行けたら行くのお断りメールばかり。絶対に行くという返事は一つも貰えなかった。

 

 そして、今日。ログインしたのはたったの四人。

 その内の一人はモモンガが働いていた時間中で顔を合わせてすら居ない。

 残りの三人とて、いずれも滞在時間は十分を超えず、思い出を語り合うまでもなく挨拶程度で去っている。

 

 最後の一人が去って、既に一時間半が経過。

 モモンガは玉座に座って、広大な謁見の間に唯一人。最後の時を迎えようとしていた。

 

 

「はぁぁ~~~……。さて、最後にやるか」

 

 

 寂しさを紛らわそうと玉座前に数体のNPCを配置してみたが、所詮は人形遊びに過ぎない。

 今もNPCの設定を弄って戯けてみるもツッコミは入らず、そこにただただ在るだけ。モモンガは埋められない寂しさに溜息を漏らしながら玉座から立ち上がると、今日手に入れた指輪を右手の中指に着けた後、拳を作って掲げる。

 

 

「I wishっ!

 我に叡智を! この世全ての魔法を与えよ!」

 

 

 指輪に願う内容は決まっていた。

 モモンガは武器や防具、アイテムをコレクションしているが、一番の関心は魔法にあり、誰もが『これ、本当に必要?』と言うような魔法すらも習得している。

 

 その数は七百を超え、恐らくはプレイヤーの中で一、二を争う。

 だが、一説によると、ユグドラシルに存在する魔法数は6000以上。育ててきた強さやそもそもの種族制限などで習得そのものが不可能だったり、困難なものがあり、それを常々モモンガは不満に感じていた。

 

 

「くっくっ、くくくくくっ……。」

 

 

 だからこそ、願いは『もし、指輪を使うならこれしかない』とずっと昔から決まっていた。

 ユグドラシル最盛期なら運営は難色を示すかも知れないが、ユグドラシル終了まであと十五分に迫った今なら大盤振る舞いをしてくれるだろう期待があった。

 

 願いを叶えた経験者の話によると、運営の審査は五分くらいかかるらしい。

 高揚感が寂しさを吹き飛ばして、笑みが自然と漏れた。モモンガはその時を待つまで少し落ち着こうと腰を玉座に下ろしかけると、光源を持たない筈の頭上の天井から降り注いだ淡い光がモモンガを包みこんで消えた。

 

 

「今のっ!? 今のが合図かっ!?

 うおっ!? スクロールバー、短っ!? もう線じゃん!」

 

 

 すぐさま手元を操作して確認してみれば、習得魔法一覧のウィンドウの中に名前がずらり。

 ウィンドウ内を人差し指で勢い良く何度も何度もスライドさせても途切れず、魔法のレベルが高位になるほど見た事も聞いた事もない魔法が増え始めて、モモンガは大興奮。

 

 新しい何かを手にした時、それをすぐに使いたくなるのが人の業である。

 謁見の間はとても広い。この場で試し打ちをしても良かったが、このナザリック大墳墓はモモンガにとっての青春そのものであり、あと十五分足らずで電脳の彼方に消え去ってしまうとは言えども傷を自分自身で付けるのは嫌だった。

 

 

「よし! テレポーテーション《転移》!」

 

 

 だから、モモンガはナザリック大墳墓の外へと出た。

 未知の魔法がどれほどの威力を持っているのかが解らない為、ナザリック大墳墓から遠く遠くに離れた。

 

 

 

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