聖なるガイコツ   作:やまみち

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五本目 ユグドラシルⅡ

 

 

 

「凄い! 凄い! 凄すぎる!」

 

 

 突如、巨大な銀竜が天空より直滑降して出現。

 モモンガの頭上で急制動をかけた後、羽音をバサリバサリと立てながら滞空。顎をゆっくりと大きく開けてゆき、その奥に瞬かせていた光を右から左へと、左から右へと放ち、鬱蒼と広がっていた森を更地にすると、その姿を光の粒子に変えて消した。

 

 すぐさま効果範囲を確かめる為に上空へと可能な限りに浮かび上がってみれば、なんと地平線まで届く巨大すぎる扇型の更地が出来上がっているではないか。

 ここまで至ると対人、対モンスターどころか、対軍、対城を越え、対エリアすら越えて、対ワールドと呼べる威力であり、モモンガは拍手を頭上で叩きながら喝采をあげる。

 

 

「よーし、次だ! 次!

 ……って、何っ!? 超々位魔法だと! そんなの有ったのか!

 ああ、時間が無い! これに決めた!

 うおっ!? 何だ、これ? 詠唱文? ……必須! 長い、長いぞ! 間に合うのか!」

 

 

 だが、ユグドラシルが終了するまであと二分弱。

 興奮に浸っている暇が無ければ、新発見に驚く暇も無いし、今までにない仕様に戸惑っている暇も無かった。

 

 

「オープン・エア《起きろ、エア》!」

 

 

 モモンガは逸る心を抑えて、大きく深呼吸。

 視界の中央に表示されている字幕に従い、言葉をゆっくりと紡いでゆく。

 

 なにせ、その言葉はモモンガの厨二病心をくすぐる魅力的なものだったが、日常生活で絶対に使わない単語が多い。

 ふりがなが漢字に付いていても舌を噛みそうな読みであり、魔法説明文に詠唱を一字でも間違ったら効果は発動せず、その場合でも成功時と同様のクールタイムが7日間も有ると書かれている以上、失敗は絶対に許されなかった。

 

 

「原初を語る! 天地は別れ! 無は開闢を言祝ぐ! 世界を裂くは我が乖離剣!」

 

 

 ユグドラシルを十二年プレイしているのに、初めて耳にするBGMが開始。

 一節を告げる度、モモンガを中心にして現れた積層球体型の赤い魔法陣は発光を強めて、それぞれの回転する速度が増す。

 それに呼応して、大地は次第に強く揺れ始め、先ほどまで晴天だった筈の曇天は轟蠢き、モモンガの期待感は否が応でも高まってゆく。

 

 

「星々を廻す臼! 天上の地獄とは創世前夜の祝着よ! 死を以て靜まるが……。ああっ!? くそっ!?」

 

 

 しかし、あとちょっとのところで残念ながらタイムアップ。

 モモンガの視界右上に配置されている時計が『0:00:00』を刻み、視界が真っ白に染まる。

 

 思わずモモンガが悪態をつくが、次の瞬間に違和感を感じた。

 ユグドラシルが終了。つまりはログアウトした際、通常は視界は真っ暗になる筈であり、リアルの鈴木悟が首の裏に挿しているインタフェースプラグを抜こうとしても、それが何処にもないばかりか、皮膚と肉の感触がない。

 

 

「えっ!? ……えっ!? ええっ!?」

 

 

 その上、自分が高い場所から落ちているような感覚。

 実際に高いビルから飛び降りた経験は一度も持っていないが、そうというしかない落下感と空気抵抗を骨身に感じ、身に着けているローブの裾が現実のように音をバサバサと鳴らして翻っている。

 

 

「ふ、フライ《飛行》!」

 

 

 ユグドラシルが終了したのだから、その言葉は意味を持たない。

 だが、真っ白に染まった理解不能な視界の中、モモンガは恐怖感からそう叫んだ。

 

 

 

 ******

 

 

 

「ふぅ~~……。危なかった」

 

 

 思わずの行動だったが、それは正解だった。

 叫んだ瞬間に落下感がピタリと止み、モモンガは自分の足で立っている感触を覚えて、危機一髪だったと安堵の溜息を漏らす。

 

 

「……というか、いきなり魔法が切れるとか、運営に文句を……。

 いや、待て。確かにサーバーダウンした筈だよな? 

 もしかして、延長になったのか? ……って、あれ? GMコールが無いぞ?」

 

 

 すぐさまモモンガはユグドラシル運営に苦情を入れるべくシステムウィンドウを開いた。

 だが、いけ好かない上司の顔より見慣れたシステムウィンドウの中にあった筈の項目は大半が削除されており、ウィンドウ内を何度も上下にスライドさせても目的のGMコールが見当たらない。

 

 

「カルカ様、大丈夫ですか!」

「だ、大丈夫! へ、平気よ! ちょ、ちょっとふらついただけだから!」

「解りました! あとひと頑張りです!」

 

 

 そうこうしている内、目の前で唐突に会話が始まった。

 モモンガは驚きのあまり茫然と赤い眼光をパチパチと明暗させる。

 

 ユグドラシルはリアルな仮想現実世界を描いているが、処理速度向上と制作コスト削減の目的で表情は瞬きのみ。

 表情は古典的な吹き出しによるエモーションの笑い顔や怒り顔などを用いなければならず、喋っても口は動かない。

 

 

「口が動いている。……まさか、ユグドラシルⅡ!」

 

 

 ところが、両手を胸の前で組みながら跪いている目の前の女性には表情があり、喋る際は口が動いていた。

 自分自身も喋った際に口を動かしている実感が有り、モモンガはユグドラシルが終了すると同時にユグドラシルⅡへと移行したのではなかろうかと推測した。

 実際、六年ほど前にユグドラシルⅡの制作開始が発表されており、半年毎に『これ、ユグドラシルと何処が違うの?』と感じてしまう間違い探しのようなプロモーション映像が公開されて、最新版では表情と口の動きが確認されていた。

 

 

「スレイン法国に伝えられるその御姿! 闇の神とお見受け致します!

 私はローブル聖王国聖王! 名をカルカ・ベサーレスと申します!

 今、我が国は危機に瀕しています! どうかどうか、ご助力をお願い致します!」

 

 

 唐突に女性が土下座。

 モモンガは腕を組みながら頭を傾げて、女性がプレイヤーなのか、NPCなのかと判断に迷う。

 

 ユグドラシルのNPCは基本的に喋れなかった。

 デフォルトで戦闘時などに発せられる幾つかの短い掛け声。課金を行えば、声を吹き込めたが、それも一言がやっと。

 

 だが、モモンガには女性がプレイヤーとは思えなかった。

 その理由は簡単。初対面の相手にいきなり土下座をする者も、こうも強烈なロールプレイを押し付けてくる奴はまず居ない。

 

 それに女性の言葉がいかにもイベントを開始させるNPCっぽい。

 モモンガは心の中で『ユグドラシルⅡ、凄え!』と感動しながら視界内のウィンドウを操作して探ると、システム以外はそのまま。

 強さも、所持品も、一番気になるつい先ほど得た膨大な習得魔法も継続しており、これならイベントを進めても不安は無いだろうと女性に指示を出す。

 

 

「立て」

「はい」

 

 

 そして、モモンガは今日一番の驚きを知った。

 NPC相手に動揺したら格好が悪い為、寸前で耐えたが、思わず仰け反って後退りそうになった。

 

 ユグドラシルでは性的な表現や行為を厳しく禁止されていた。

 セクシーさを感じる装備は数多に有ったが、性的特徴は大きく隠されており、対人戦の結果で装備を剥かれたとしても、その下にある野暮ったい下着は絶対に剥けない仕様になっていた。

 

 ところがところが、女性が着ているシースルーの白いローブは中身がほぼ丸見え。

 下着を着けておらず、桜色の二つのぽっちはおろか、股間に薄く茂る髪と同じ金色も、その向こうにある亀裂もばっちりと確認する事が出来てしまっていた。

 

 モモンガは吸い寄せられるように一歩前進。

 最終確認の為、女性がプレイヤーなら拒絶を示すだろうし、NPCなら受け入れるだろうと右手を伸ばす。

 

 本心では胸を触りたかったが、それを必死に封じ込めて、女性の顎を持つ。

 もし、胸を触って、女性がプレイヤーなら拒絶どころか、手痛い反撃を喰らった上にユグドラシルⅡ開始早々に『エロ骨』の十字架を背負ってしまい、今後が楽しめなくなる。

 下手したら、モモンガはそこそこ有名な為、名前を知られている可能性があり、モモンガならぬ『エロンガ』の名前で呼ばれるようになったら、ユグドラシルⅡにもしかしたら帰って来るかも知れないギルドメンバーに顔向けが出来ず、もう引退するか、隠遁プレイをするしかない。

 

 結果、モモンガは賭けに勝った。女性はNPCと判明した。

 顎を持っても、人差し指と親指に二度、三度と力を軽く入れて、頬を不躾に揉んでも受け入れ、そこには確かな柔らかい肉の感触があり、それを知ったら封印は簡単に解けた。

 

 

「マジか……。モザイクがかかっていない上に十八禁行為が出来て、BANされないぞ!」

「んんっ……。」

 

 

 女性の胸をモミモミと揉んでみれば、張りを感じる極上の柔らかさ。

 次は止まらない好奇心に胸のぽっちを人差し指でツンツンと突付けば、それが明らかにニョキニョキッと固く起立。女性がたまらずといった様子で目を伏せながら色っぽい吐息を漏らす。

 

 

「しかも、超リアル!」

 

 

 慌ててモモンガは我に返り、右手を素早く戻す。

 アンデッド種であるが故の精神耐性を持っていなかったらやばかった。

 身体がペカーッと淡く発光した瞬間、我を取り戻せたが、そうでなかったら次なる未知の冒険に右手が伸びていたに違いない。NPC相手とは言え、さすがにそれはどうかという倫理観が働く。

 

 もっとも、モモンガは実物に触れた経験を持っていないが、女性の胸は仮想現実世界とは思えない現実感があった。

 触覚は現実との混同を避ける為、電脳法によって制限されている筈であり、自分が知らない内に改定されたのかと考え、こうも考える。

 

 どんなに綺麗事を並べて反対したところで、やっぱりエロは最強。

 集客の強い一手として、ユグドラシルⅡは性的表現とその行為を解禁したのではなかろうかと。

 

 

「あ、あの!」

「うん?」

「わ、私、処女です!」

「えっ!?」

 

 

 だが、女性はモモンガに落ち着いて考える暇を与えてくれなかった。

 モモンガは顎をカクンと落として絶句。このままイベントを進めても本当に大丈夫なのかと判断に悩み、他者の意見が欲しくて、この場から今すぐ立ち去りたかったが、真っ直ぐに向けられた女性の強い眼差しがモモンガを縫い付ける。

 

 

「で、ですから、男性経験は有りません!」

「う、うん?」

「え、ええっと……。じ、自慰は週に一回か、二回!

 で、でも、入口を触るだけです! こ、怖くて、指を入れた事は今まで一度も有りません!」

「お、おう……。そ、そっか」

「も、勿論、性具もです! ほ、本音を言ったら、とても興味は有りますが!」

 

 

 改めて、アンデッド種であるが故の精神耐性を持っていなかったらやばかった。

 ユグドラシルでは最大のレベル百の強さを持つモモンガだが、女性の口から飛び出した赤裸々な告白はレベルが高すぎた。もし、精神耐性が効かなかったら、女性がどんなに止めようと脇目を振らずに逃げ出していたところ。

 

 

「解った、解った。もう良い、もう良いから……。

 それで? 俺は何をしたら良いんだ? 要求を言ってみろ」

「ありがとうございます!」

 

 

 それでも、モモンガは女性の視線を受け止めきれずに目線を左手で覆う。

 これ以上のアピールは必要ないという意思表示に右掌を突き出すと共に覚悟を決め、イベントを受ける旨を伝えた。

 

 

 

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