「あれだな?」
モモンガは上へ上へと天高く飛翔。
この時点でユグドラシルと大きく違っていた。
ユグドラシルには空を飛べる限界の高度が有った。
空は頭上にまだ広がっていても、見えない天井に阻まれて、先へ決して進めなかった。
だが、その限界を遥かに超える高度にモモンガは今居た。
地上では深く濃い霧のように視界を遮っていた輝きは高度を上げる毎に薄まってゆき、それが完全に無くなったところで上昇を止めると、夕陽が落ちかけた赤と黒の挾間にある世界はユグドラシル歴十二年を持つモモンガの記憶の何処にも当てはまらない景色だった。
そして、その中にイベント目標を見つける。
望遠の魔法を用いてもモモンガの目にそこは小さな蠢きにしか見えないが、女性が危機を訴えていた方角と合致しているし、そこ以外に異変は見当たらなかった。
「オーバーマジック《魔力上昇》!
サイレントマジック《魔法無詠唱化》!
トリプレットマジック《魔法三重化》!
ペネトレートマジック《魔法抵抗難度強化》!
マキシマイズマジック《魔法最強化》!
ワイデンマジック《魔法効果範囲拡大!》
エクステンドマジック《魔法持続時間延長化》!」
早速、モモンガは準備を始める。
幾つもの魔法陣がモモンガを中心にして現れて、それが積層球体型を作り、それぞれが青白い輝きを強めてゆくと共に回転する速度を早めてゆく。
どうせなら習得したばかりの未知の魔法を使った一撃を行使したかったが、未知故にどういった効果が発生するかが解らない以上、モモンガは慎重を期して、自分が良く知っている魔法を選ぶ。
「メテオフォール《隕石落下》!」
ところが、良く知っている筈の魔法が違った。
モモンガの後方、天空より飛来した隕石の大きさがユグドラシルと違った。
落下速度を加速的に上げ、その姿はどんどん小さくなっているが、モモンガの頭上を通り過ぎた時は瞬間的な目測で確実に三倍は大きかった。
間もなくして、隕石はモモンガが目標とした地点を違わずに着弾。
その瞬間、そこにまるで小さな太陽が出現したかのような凄まじい閃光が放たれ、轟音と突風が少し遅れてモモンガを襲う。
小手調べのつもりで戦場の一角を焼く筈だった爆炎は戦場全体へと及び、その中心からはキノコ雲が立ち上って、超高度にいるモモンガが見上げるほどの巨大さに育ってゆく。
「だ、大丈夫か? ……こ、これ?」
挙げ句の果て、ユグドラシルでは無かった追加効果が発生して、大きな地震が起こっているらしい。
確実に守る対象を巻き込んでいるとしか思えない光景に、モモンガは足元で微かに聞こえている数多の悲鳴を耳にしながら声を震わせる。
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《バハルス帝国》
「お姉ちゃん、あれ!」
「えっ!? お陽さまはさっき沈んだよね?」
ある事情があって、住人全員が村と国を捨てる事になってしまい、陽が沈んでも今日中のバハルス帝国の国境到着を目指して歩き続けていた村人の一人『エンリ・エモット』は、ふと立ち止まった妹が指差す背後を振り向き、南西の山々の稜線が赤みを帯びている光景に首を傾げる。
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《リ・エスティーゼ王国》
「あれは……。まさか、聖王国でも!」
ある事情があって、出陣準備を急いでいた王国戦士長『ガゼフ・ストロノーフ』は、ふと夕陽とは別に南南西の空が赤白く染まっている異変に気づき、その有り得なさに喉をゴクリと鳴らす。
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《スレイン法国》
「おおっ……。神よ!」
ある事情があって、ある任務が中止。新たな任務を携えて、ローブル聖王国へと急ぎ向かっていた陽光聖典隊長『ニグン・グリッド・ルーイン』は、まだまだ遠い向かう先の西の空が茜色に染め上げられ、巨大なキノコ雲が立ち上ってゆく様子に思わず足を止め、心に広がってゆく絶望感を打ち払おうと祈りを跪いて捧げる。
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《アーグランド評議国》
「これは……。百年の揺り返し?
いずれにせよ、調べる必要が有るね。久々に彼女へ会いに行こうか」
棲家になっている巨大な洞窟で微睡んでいた白銀の竜『ツァインドルクス=ヴァイシオン』は世界を乱す波動を感じ取り、のんびりと寝ている暇はもう無くなったのを確信して、右手側の壁際に鎮座している人間大に作られた白金の全身鎧に意識を移す。
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《ローブル聖王国》
「カルカ様!」
ラスト・ホーリーウォーを実行する為の大規模儀式は今さっきあった地震で完全に途切れた。
聖域から天へと上っていた光の柱は消えて無くなり、地震の騒ぎが冷めやらぬ今、ラスト・ホーリーウォーの準備を再び整えるのは先ほど以上の時間がどうしても必要になる。
最高位神官のケラルトはそれを少しでも減らすべく指揮を執らなければならない立場にいたが、どうしてもカルカの事が心配になり、地震の揺れが止むと同時に聖域の扉を開けて、カルカの元へと駆け寄った。
もっとも、聖域は何も置かれていない広いだけの空間。
今さっきあった地震はかなり大きかったが、怪我を負う可能性は完全にゼロだ。
ケラルトが案じているのは、カルカの心。
ケラルト自身、ラスト・ホーリーウォーが中断してしまった失意があり、準備をまた最初から行わなければならない億劫さがある。それを励まして、自分自身も奮い立たせなければならなかった。
「フフ、大丈夫。もう大丈夫よ……。私達は救われたわ」
「……カルカ様?」
ところが、違った。
ケラルトは背を向けているカルカの横を通り過ぎ、その前に回って戸惑うしかなかった。
失意も無ければ、聖域へ入る時に見た決意と緊張も見当たらない。
有るのはとてもリラックスした安堵感。カルカは手を胸の前で組みながら頭上を見上げて、涙を零しながらも嬉しそうに微笑んでいた。
「だって、神様が来てくれたんだもん」
何故ならば、カルカだけは知っていた。
この街に居る全ての者達がラスト・ホーリーウォーの祈りに顔を伏している中、巨大な隕石が上空を通り過ぎて、国境の戦場へと向かって飛んでゆくのを見ていたから。
……という事でいかがだったでしょうか?
三年前くらいに書いたけど、書きかけのまま放置していたのをオーバーロード劇場版聖王国編公開と聞いて、当時のものを手直しして書き上げてみました。
正直、ローブル聖王国の設定は良く解ってません。
何となくこうだろうで書いているので違和感が有っても許して下さい。それと在庫はもう有りません。