聖なるガイコツ   作:やまみち

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九本目 人間宣言

 

 

 

「……という事で、俺は神様なんかじゃない。人間なんだよ。

 多分、二人が言っていたスルシャーナさんもそうだ。

 ワールドチャットで花火大会を主催していた人じゃないかな?」

 

 

 モモンガ、カルカ、ケラルトの三人は丸テーブルを囲んで椅子に座り、まずはモモンガの長々とした事情説明が終わる。

 カルカに対する不埒な行為の謝罪はまだだが、モモンガはリアルの事、ユグドラシルの事、この世界に転移した事をかいつまんで語った。

 

 

「ス、スルシャーナ様が花火大会の主催者……。」

 

 

 ケラルトは半ば放心状態。

 ローブル聖王国では信仰が失われても、隣国のスレイン法国では根強く敬われ続け、一部の狂信的な信者すら居る闇の神。

 その神話で伝えられているイメージと花火大会の主催者はかけ離れ過ぎ、それを明かしたモモンガのスルシャーナに対する扱いがぞんざいであり、モモンガがスルシャーナを格下だと認識していると悟って。

 

 その認識はモモンガ自身がそうと認識していないが正しかった。

 件のスルシャーナはモモンガと同じ魔法系スケルトンの最上位であるオーバーロードのクラスを持ち、オーバーロードの外見的な特徴である赤い目の灯火と長く尖った顎骨の二つからカルカとケラルトは混同してしまい、神話で伝えられている御業に畏れ敬うしかないが、モモンガからしたらユグドラシル最終日に初めて聞いた名前である。

 

 ユグドラシルに限らず、あらゆるゲームにおいて、強さは知名度の大きな要因。

 数年前から過疎化が著しいユグドラシルにあって、最終日まで無名だったなら、それはスルシャーナが全プレイヤーの平均的な強さしか持っていなかった証である。

 ユグドラシル全盛期に悪の華と讃えられたギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の長にして、非公式魔王とも呼ばれたモモンガはそれに相応しい強さと矜持を持っており、最大レベルまで育ててきた過程による強さの相性は有っても、そんじょそこらの無名プレイヤーに負けない自信があった。

 

 

「はい、モモンガ様」

「その様付けも要らないんだけど……。質問が有るなら、どうぞ?」

「モモンガ様はリアル? というところで人間だったそうですが、人間にもなれるのですか?」

 

 

 カルカが右手を小さく挙手。

 モモンガはカルカが何故に目を輝かしながらそこに食いついてくるのかが解らなかったが、それはモモンガ自身もカルカが寝室に戻って来るまでの約二時間に通ってきた悲しい道だった。

 

 匂いを感じられるのだから、味も感じたい。

 飲料も、食料も偽物しか知らないモモンガがそう考えるのは当然であり、ユグドラシルにあった全ての魔法の中にはそれを叶える魔法が有る筈だと考えた。

 

 

「それなんだけどさ……。

 まあ、見てもらった方が早いかな? グレーター・ファントム《上位幻影》!」

 

 

 しかし、残念ながら見つからなかった。

 六千以上の魔法の詳細を知るには時間が足り無さ過ぎても、習得魔法一覧のウィンドウにずらりと並ぶ魔法名からそれっぽいものを二十ほど見つけて、それ等を試してみたが全て駄目。

 

 

 それ等の中で一番要望に近かったのがこれだった。

 モモンガがやるせない溜息を漏らして、呪文を唱えると、その姿が黒髪黒目の男性へと変わる。

 

 

「あっ、南方系の!」

 

 

 それはイケメンとは呼べなかったが、性格の優しさがにじみ出た顔だった。

 カルカは嬉しそうにウンウンと頷き、骨の身だったモモンガがローブの前を開けていた為に見えている男の素肌に胸をドキドキ。ちょっと痩せ過ぎかなと心配する。

 

 ローブル聖王国は大陸から『U』の字型で突き出した半島を国土に持ち、大陸の北と南を繋ぐ海運の中継地点を担っている。

 北のリ・エスティーゼ王国では滅多に見かけない南方に住まう黒髪黒目の人種を港町でなら当たり前に見かけるし、少数ながらも移民して暮らしている者達も居る。

 

 それ故、驚きは少なかったし、排他感も持たなかった。

 逆にまだ見慣れていない今は恐れを少なからず感じてしまう骨の顔だった分、好印象を感じて、笑みが口元に浮かぶのを止められなかった。

 

 

「触ってみて?」

「は、はい……。あっ!?」

 

 

 しかも、モモンガから右手を差し出されて、カルカは胸のドキドキを加速させる。

 カルカが重ねてきた二十四年の人生の中で男性の手を意図的に触れた経験は一度も無い。例外は父と兄の二人だけ。

 王族としての教養であるダンスは教師役を女性が務め、パーティなどでダンスを披露する時は相手を兄が担い、兄が不在の時はレメディオスが担っていた。

 

 だが、その高揚感はすぐに止んだ。

 モモンガの右手を両手で怖ず怖ずと握り包んで間もなく違和感を感じ、目を奪われていたモモンガの顔からモモンガの手へと視線を向けて驚き、目をパチパチと瞬きさせる。

 

 

「これ、俺のリアルでの姿なんだけどさ。

 見た目は人間にしか見えないし、軽く触れただけなら人間と変わらない。

 でも、やっぱり中身は骨なんだよ。

 多分、仮想現実世界と一緒で、頭がそう認識しているだけで……。ほら、お茶を飲むと、顎から零れ落ちるんだ」

 

 

 まるで精巧に作られた人形の手を触っているかのような感触。

 温もりを感じられず、それに気付いた途端、感触が固いものに変わり、よく見たらカルカの指先が今さっきまで触れていた筈の肌を突き破り、不自然にモモンガの手の中に沈んでいる。

 モモンガはカルカの反応に苦笑した後、ティーポットの茶をティーカップに注ぎ、蓋を外したティーポットの開口部を顎下に左手であてがいながらティーカップを右手でゆっくりと呷ると、顎の内側からティーポットへと茶が音を立てて零れ落ちる手品を披露した。

 

 カルカも、ケラルトもどう反応したら良いのかが解らずに無言。

 右手を虚空へと伸ばしたモモンガはそこに現れた黒い穴の中からタオルを取り出して、少し濡れてしまったテーブルを拭き、そのモモンガにとったら当たり前の動作がカルカとケラルトに驚きを重ねさせる。

 

 そうと気づかないモモンガは拭き終わったタオルを右手側にポイッと投げ捨て、再び現れた黒い穴へストライクイン。

 丸テーブルを間に挟んで座るカルカとケラルトは思わず左手側に顔を振り向け、タオルと黒い穴が何処に消えたかを探すも見当たらない。

 

 

「モモンガ様、不快を承知で進言させて頂きますが、やはり貴方様は神です」

「だから、違うって……。」

「いいえ、違いません。座られている椅子もですが、その見た目を変える魔法は何位階ですか?」

 

 

 暫くして、カルカは左手側を茫然と見たままだが、ケラルトが我を取り戻す。

 ケラルトはどうしても知りたかった。話し合いを始める前、モモンガが今座っている椅子を造り出した魔法の難易度を。

 

 なにしろ、無から物体を創造する魔法は有れども、ここまでの立派な物を造る魔法は見た事も聞いた事も無い。

 造れたとしても、ナイフやハンマーなど片手で握る程度な小さくて軽い品に限られる上、長くても十分程度で姿を世界から消す。

 

 それでいて、習得難易度が高くて、行使時の精神消耗も大きい。

 その魔法の習得に時間を費やすなら別の魔法にした方が良いとまで言われている覚え損の魔法だ。

 

 しかし、モモンガが今座っている椅子ときたら有り得ないの一言。

 匠が作った最高級品と言われたら信じてしまうほど装飾が凝っており、カルカとケラルトが座っている聖王の寝室に先代前から長らく備えられていた椅子よりも豪華。

 既にモモンガが座ってから約三十分は経っているが、その姿を今も維持し続けており、どれほど術者の能力が優れていたら、それを可能とするのかをケラルトは知りたかった。

 

 

「んっ!? どっちも七位階だけど?」

「「な、七位階っ!?」」

 

 

 そして、返ってきた答えに驚愕。カルカも、ケラルトも目を見開きながら椅子を蹴って立ち上がる。

 モモンガも予想外に強い反応に驚き、椅子に座ったままで仰け反り、後頭部を椅子の背にぶつけてしまう。

 

 

「ええっ!? そんなに驚く事? 使い勝手は良いけど、七位階なんて雑魚魔法じゃない?」

「ざ、雑魚魔法……。」

「では、戦場を焼き払った隕石は? 造り上げた要塞は? 負傷者を癒やした雨は?」

 

 

 しかも、ユグドラシルの常識を語るモモンガの例に挙げられている魔法に対する扱いはとても軽かった。

 カルカは茫然と腰を力なく落として椅子に座り戻り、ケラルトはそれならと亜人連合軍を打ち破った魔法は神話に伝えられる十位階なのかと声を荒げそうになるのを堪え、両手を丸テーブルに突きながら身を乗り出して問いた。

 

 この世界において、魔術師は第三位階に到達したら一流の域。

 その一流の域を超え、カルカは第四位階を、ケラルトは第五位階を習得しており、英雄の域を超えた逸脱者と呼ばれる魔術師の老人がローブル聖王国から遠く離れたバハルス帝国に居り、その老人が行使可能と言われているのが第六位階である。

 

 魔法の到達位階は生まれ持った才能に頼らざるを得ない。

 そこへ到達したら、一位階を上げるのに人生の長い時を費やす。

 

 カルカは第四位階に、ケラルトは第五位階に到達する事が出来たのは破格の才能を持っていたから。

 二人共、日々の努力は怠っていないが、魔法だけに集中していられる立場とは違う為、位階を今以上に上げるのは不可能だと半ば確信していた。

 

 それなのに人類未踏の第七位階を雑魚呼び。

 驚くなというのが無理であり、どんなにモモンガが人間だと自分で言い張ろうが、カルカとケラルトにとっては神だった。

 

 

「ああ、あれね。本当に申し訳ないです。

 メテオフォールの威力が予想外に強くてさ。超位魔法並みの効果だったんだよね」

「ちょ、超位魔法っ!? ……ま、まさか、十位階の上がっ!?」

「そうそう、超々位魔法も使えるようになったんだよ。

 超々位魔法が存在してたって知ってた? びっくりだよね?」

 

 

 ところがところが、モモンガの口から神話さえも超える存在が明かされる。

 ケラルトは『知りませんよ!』と叫びたかったし、『とっくに驚いていますよ!』とも叫びたかったのを必死に耐える。隣の様子をチラリと窺えば、カルカは茫然のあまり目を見開いたまま固まっている。

 

 

「モモンガ様、改めて言わせて頂きます。貴方は神です。

 そして、説明もさせて頂きます。この世界の常識を、貴方様がいかに常識外れなのかを……。」

 

 

 この上は自分がなんとかするしかないと、ケラルトは決意。

 嵐の海のように乱れる心を落ち着かせる為、震える深呼吸を三回。椅子に座り戻って、この世界の説明を始めた。

 

 

 

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