呪いの王の後継   作:高天原降

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なんか続いたので。


二話 それからのこと、これからのこと

 

 リアス・グレモリーとの邂逅を果たした後の話。

 結果から言ってしまえば、一誠は助かった。

 まあ、ある意味では死んだとも言えるのかもしれないが……。

 それでも一命を取り留めたのは事実なのだから、そこは素直に喜ぶべき所だろう。

 ただ、あの時のリアス・グレモリーの言葉を信じるなら、一誠はこれから先の生を悪魔として過ごさねばならなくなる。

 実際にリアス・グレモリーの施した治療という名の、蘇生術……この場合は転生術の方が正しいのだろうか。

 ともかくとして、一誠は人間としてではなく悪魔としてその命を拾い直したのだ。

 だからある意味では、死んだとも言えるのだろう。

 なんてことを通学路を歩きながら考えていると、

 

「おーい、千光!」

 

 後ろから名前を呼ばれた。

 デジャブだ。つい最近も似たようなことがあった。

 振り返ってみれば、やはり一誠がこっちに向かって走ってきていた。

 

「よお一誠、おはよう。朝から元気だな」

「ん、ああ、おはよう……じゃなくて!」

 

 ガバッと、一誠は千光の両肩を掴んだ。

 

「なあ、お前は覚えてるよな!?」

 

 縋るような瞳。その顔は不安の一色に塗れていて、まるで信じていたものが夢幻のように消えてしまったかのようだ。

 実際上、一誠の心境としては似たようなものなのだろう。

 その原因も、千光には心当たりがある。

 

「ああ、色々覚えてるぞ。駒王学園に行きたいからって三人で土下座してきて勉強会の面倒見たこととか、一誠が罰ゲームでラーメンを奢るって約束したこととか、仮病使って保健室のベッドで携帯でAV見てることとか」

「最後のは俺じゃねぇよ!?」

 

 それは元浜じゃねぇか!? と元気に返してくる一誠を見て、ツッコミができる程度には回復したのを確認する。

 現状確認できる限りでは、何らかの後遺症などは見当たらない。

 しかし感じる気配は人間のものから、悪魔特有のものに変わっていた。

 

「そうじゃなくて」

「あとはそうだな、彼女ができたこと、とか?」

「──! ……だよな、やっぱり夕麻ちゃんはいたんだよな!?」

 

 一誠は嬉しいような、でもどこか困惑しているような、色んな感情が綯い交ぜになった表情だった。

 

「一誠、お前どこまで覚えてる?」

「どこまでって」

「悪い、回りくどいな。言い方変えるわ。お前、彼女に殺されかけたの覚えてるか?」

「……ッ!?」

 

 酷く顔を歪めた後に、小さな声で肯定する。

 

「で、でも」

「夢でもなんでもねぇよ。現実」

 

 何かを言い出そうとした一誠を制するように、上から言葉を被せる。

 一誠にとっては少々辛く、理解し難い現実かもしれないが、受け入れてもらわねば困る。

 何故なら命を狙われたのだから。

 リアス・グレモリーは今日、説明のための使いを寄越すと言っていた。

 少なくとも彼女の説明とやらを聞いて、全てを飲み込んだ上で一誠は決断をしないといけないだろうと、千光は思っている。

 その結果、全てを忘れたいと言ったのならそれでもいい。

 リアス・グレモリーに記憶を消してもらって、その間に千光が一誠を殺そうとした堕天使を見つけ出して始末すれば万事解決だ。

 でもそれをするにしても、一誠の意志を尊重したい。

 自分の人生は他でもない自分のモノ、なあなあで他人に委ねていいもののはずがない。

 他ならぬ唯我独尊の化身を長年近くで見てきて、築き上げた人生観だった。

 

「今日の放課後に、お前を助けてくれた人の使いがやってくるんだと」

「俺を助け……あっ!」

「なんだ、案外覚えてるもんだな。そん時にちゃんと、礼言っとけよ」

 

 そう言うと、まだ納得できていないのか、不承不承ならがも一誠は頷いた。

 

 1

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!! 」

 

 予想に反して、いやある意味では予想通りの反応に、千光は呆れとも困惑ともつかない苦笑いが零れた。

 放課後、リアス・グレモリーの使いとしてやってきたのは、千光の予想通り木場祐斗だった。

 木場は千光の一年の頃のクラスメイトであり、一誠の次に親しい間柄でもある。

 入学した時から木場が悪魔だということには気付いており、今回のこともあって、もしかしてと少しばかり予想を巡らせていたのが的中した形だった。

 

「悪魔、最高じゃねぇか! 何これ、何これ! やべーよ千光! 俺チョーテンション上がってきたよ! 今なら秘蔵のエロ本も捨てられ──いや、エロ本はダメだ。アレはダメだ」

「急に冷静になるなよ、怖いだろ」

 

 現在、旧校舎オカルト研究部の部室にて。

 一誠が興奮している理由は、リアス・グレモリーの言葉だった。

 彼女の説明、それを纏めると概要は主に三つ。

 一つ、一誠が堕天使に狙われた理由。

 二つ、転生し悪魔となった者の処遇。

 三つ、リアス・グレモリーの素性。

 以上が、話を聞く中で気に留めておくべきと千光が判断した三つである。

 だが当然ながら、その三つの中に一誠が興奮する要因は欠片も存在しない。

 この欲望全開ピンク色の思春期を夢見る親友を昂らせるのは、いつだってソッチ方面の話だ。

 そう、この三つの要点にプラスアルファとして説明されたのが、『転生悪魔と階級制度』である。

 要は転生し悪魔となった者は、功績を積めば爵位を上げることができ、下僕を作ることができるようになるという話。

 それでハーレムを作るなりなんなりと、爵位を上げていけば好きにできるぞというのが、一誠の思春期ヤル気メーターを天元突破させた原因だった。

 

「それで、次に貴方のことを聞きたいのだけれど」

 

 一誠を微笑ましく見守っていたリアス・グレモリーは、一旦間を置き、次いで視線を千光に移した。

 

「と言いますと?」

 

 少しとぼけてみる。これといった理由は無いが、素直に話すのも味気ないと思ったからだ。

 強いて言うなら、目の前の『公爵位』にあるという悪魔がどこまで状況を推察できているのか、これから問われるであろう言葉で、彼女の状況把握能力を推し量れれば御の字と言うところか。

 

「何故あの場にいたのか、私を見て動揺よりも先に警戒したこととか、今の説明を聞いても平然としていたこととか。普通なら、イッセーみたいに信じないか、少しは驚くものでしょう?」

「……先輩の考えを聞いても?」

「ふふ。ええ、良いわよ」

 

 リアス・グレモリーは嫋やかに笑って、傍らに立つ女性──姫島朱乃の入れた紅茶を一口飲み、喉を潤す。

 

「まず前提として、貴方は(こちら)側を知っている人間」

「……」

 

 肯定も否定もせず、千光もリアス・グレモリーと同じように出された紅茶を飲んだ。

 ……ものすごく美味い。

 千光はこの紅茶が密かに気に入った。

 

「私の説明を聞いて驚いた様子もなく、加えてこの間見せた警戒と機敏な動き。……少し話は変わるのだけど、最近はぐれ悪魔を討伐して回る謎の人物が巷で噂になっているの」

「おや、それは例の?」

 

 反応したのは、姫島朱乃だった。

 先程まで興奮してた一誠も、今は真剣な話だと空気を読んだのか、千光の隣で大人しく様子を見ている。

 

「ええ、名前は……追儺(ついな)、だったかしら」

「あらあらまあまあ、それはなんとも()()()()()名前ですわね」

「ふふ、そうね。その追儺は、素性は謎に包まれているのだけど、一つ言われてることがあるのよ」

「それはなんでしょう?」

 

 三年生二人のやり取りを見て、わざとらしいと千光は思った。

 話の流れからして、もう先は見えている。

 どうしようかと考えて、この茶番を見届けるのも話を振った自分の責任かと、黙っていることにした。

 

「声が若い男性なことや言葉遣いから、人間の学生なんじゃないかって。まあ、あくまでも噂なのだけれどね」

 

 それで、と期待半分疑い半分の視線を寄越されれば、千光も答えないわけには行かなかった。

 まだ決定的な証拠は提示されてないし、リアス・グレモリーの話だって状況証拠と彼女の中にあるそれらしい話題の人物を適当に結び合わせて、それっぽく語っているに過ぎないので、誤魔化そうと思えば誤魔化せる範囲だ。

 語る本人も確信がある訳では無いのだろう。

 証拠に、断定するようなことは言っていない。これでもし外れていたら、あら残念、で済ませられる上手い語り方だった。

 ────まあ、合っているのだが。

 

「たったそれだけで、よく結び付けましたね」

「あら、あっさりと認めるのね」

「別に隠してるわけではないので」

 

 紅茶を飲み干すと、「入れ直しましょうか?」と朱乃に言われ、素直に頷く。

 

「え? え? マジで? 千光、お前そんなことしてたのかよ!?」

 

 まるで何も無かったかのように和むリアスと千光に、一番の動揺を見せたのは一誠だった。

 

「なんで隠してたんだよ!」

「だって聞かれなかったし」

「そりゃそうだろ!」

「もし話したところで、お前信じたの?」

 

 そう言うと、「うぐっ」と一誠は押し黙る。

 

「それで今後のことなのだけど」

「いいですよ」

「え?」

「え?」

 

 困惑の声を浮かべたのはリアス・グレモリーであり、困惑の声に疑問符を浮かべたのは千光だった。

 

「いいって、何に対してなのかしら?」

「ん? 先輩は俺も悪魔にして下僕の一人にするつもりじゃなかったんですか?」

「……私は、オカルト研究部に入らないか誘おうとしただけなのだけど……」

「ありゃ。今後って言うから俺はてっきり」

 

 話の流れからしても、千光はすっかりそう思い込んでいた。

 まるで探偵のように千光の素性を暴き、加えてその前には懇切丁寧に悪魔と、その悪魔社会の制度を話していたので、てっきり魅力的な条件や報酬で自分も眷属に勧誘していると思ったのだ。

 

「噂の追儺を眷属にできるなら、私としては願ったり叶ったりなのだけど……確認のために聞くけれど、私の眷属になるということは、人間をやめるということよ?」

 

はっ、と鼻で笑う。愚問だった。

 

「どうでもいいですよ、人間かどうかなんて。俺は俺だし、その定義が覆ることもない。生きたいままに生きて、やりたいようにやる。今もこれからも、それがブレることがないなら、人かどうかなんて些細な問題じゃないんですか?」

 

 知らず知らず、その瞳に確たる意志と険が宿る。

 それに気付いたのは、対面に座り千光の瞳を真っ直ぐ覗き込んでいたリアス・グレモリーだけだろう。

 

「それとも、転生すると人格が変わったり?」

「……いえ、そういうことは無いから安心して」

「そうっすか。なら、別にいいです」

「……そう。それじゃあ、貴方を眷属(げぼく)として迎え入れましょう」

 

 呟いて、リアス・グレモリーがその場から席を立つ。

 それ見届けていると、ついついっと一誠とは反対の位置に座る人物に袖を引かれた。

 視線を落とすと、女児と見間違えそうなほど小柄な女子生徒──塔城小猫がこちらを見上げている。

 

「……千光先輩も、オカルト研究部に入るんですか?」

「まあ、眷属になるってことだし、そうなんじゃない?」

「……そうですか」

「おう、よろしくな」

「……はい」

 

 相変わらず口数は少ないが、これでも懐いてくれていると知っているので何か言うことは無かった。

 そしてちらっと、座らずにずっと立っているもう一人の友人にも目を配る。

 

「木場も」

「うん、もちろん。……それにしても、最初から気付いてたんだね」

「まあ……けど、知られたくなさそうにしてたしな」

「それは、ありがとうって言った方がいいのかな?」

「いいよ別に、俺も面倒事を避けただけだし」

 

 なんて会話をしていると、手にチェスの駒を持ったリアス・グレモリーが戻ってくる。

 あれは形状的に『騎士(ナイト)』の駒だろう。

 

「それじゃあ、ここに立ってくれる?」

 

 言われた通りの場所に、千光は移動する。

 他の部員たちはこれから行われることを見守るように、少し離れ部室の隅へ移動していた。

 淡々と見守る三人とは違い、眷属になったばかりの一誠だけが、これから起こることへの興味を隠せずにいた。

 千光も一誠ほどではないが、転生とやらの方法や感覚に興味を引かれている。

 前に宿儺が即身仏となった記憶を見た際、どう言った感じなのか気になっていたのだ。

 転生と即身仏とでは色々と違うだろうが、未知の体験という意味ではどちらも同じだった。

 

「──我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、飛騨千光よ。我の下僕となるため、魂を流転させ、悪魔と成れ。汝、我が『騎士』として、新たな生に歓喜せよ!」

 

 言葉は魂の新生と下僕の誕生を祝する祝詞。

 告げられた声と同時に眩く光る紅い駒が、ゆっくりと千光の中に沈みこんでいく。

 己の肉体の中、その最奥に異物が深く根を下ろすのが感覚的に分かった。

 ──なるほど、これが転生の感覚か。

 どこかむず痒いような、しかし心地の良さも体を包み──刹那、

 

 

 

 ──千光の体内から、悪魔の駒(イーヴィルピース)が弾き出された。

 

 

 

「「え?」」

 

 全く同時に呆然とした声を出して、リアス・グレモリーと千光は目を合わせるのだった。

 





第一巻の内容は特に主人公の動きがないので、早足で済ませたいと思っています。
それと評価や感想ありがとうございます。
方針としてあまり返信は致しませんが、ちゃんと読ませて頂きます。
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