呪いの王の後継   作:高天原降

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このやる気が持続すればいいのですが……。

※ちょっとだけ加筆修正しました。


三話 説教

 

「つまるところ、ただの好奇心だった。……貴様(おまえ)はそう言うのだな」

「はい、そうで──うぉっ危なッ!?」

 

 喉元に迫った斬撃を、寸でのところで『解』を打ち返して相殺する。

 しかし僅かばかり反応が遅れたせいか、薄皮一枚が切られ、ツーっと赤い血が喉を伝って落ちた。

 千光は現在、夢の中の領域──ややこしいので夢界と千光は勝手に名付けた──で、宿儺の前で正座をさせられていた。

 

「塵の下に付くとのたまった挙句、己の肉体にすら干渉を許すか。ふん、余程その体は要らんらしいな」

 

 上から見下す宿儺の目は、これ以上ない程に不愉快の色を見せている。

 縮こまって正座をする千光は、服はボロボロで血塗れだった。

 見た目の割に傷がないのは、反転術式で治したからだ。

 

「……ちょっと興味あったんだよぅ。それに、面白ければ遊んでやるってのが、宿儺の教えじゃんか」

 

 両手の人差し指でモジモジといじけながら、言い訳めいた反論をしてみる。

 ──『不快なら殺す、面白ければ遊んでやる』。

 かつて宿儺が幼い千光に与えた言葉だ。

 その言葉の全てに同意をするわけでは無いが、理解できる部分もある。

 少なくとも、その言葉が今日(こんにち)の千光という人間を構成する要因の一つであることは間違いない。

 千光の人生観である『自分の人生は自分のモノ』は、まさしくこの言葉から生まれているのだ。

 いつだってその人生観に従って千光は生きてきた。

 面白そうだと思えば首を突っ込むし、助けたいと思ったらなんと言われようが絶対に助ける。

 やりたいことをやりたいだけ、好きなようにやっていく。

 他者に満たして貰うのを否定する訳では無い、けれどそれとは別にして、なるたけ自分で自分を満たせるように千光は生きたいのだ。

 つらつらと長く語ったが、要は蛙の子は蛙というやつで、宿儺の背中(記憶)を見て育った千光は、自己中心的なのだ。

 宿儺と比べれば、可愛いものではあるが。

 

「分を弁えろと言っている。お前があの小娘共と何をしようが構わん。だが、貴様が上で、アレが下だ。無論、貴様の上には俺がいる。まして、今回は()()にまで干渉をしてくる不快な玩具(ゴミ)まで送り付けられた」

 

 確かに宿儺の確認を取らなかった己にも非がある。

 宿儺が魂に干渉されるのを嫌うことは知っていたが、まさか転生の影響がこの領域にまで及ぶとは思わなかったのだ。

 転生とは名ばかりで、実際は肉体の再構築、組成の組み換え程度だろうとしか思っていなかった千光の考えは、非常に甘いものだった。

 それを宿儺に身をもって教えられたのが、数十分前のこと。

 以上のことを踏まえても、その場で無理矢理体の主導権を奪い、直ぐに首を跳ねなかっただけでも、寛恕(かんじょ)があったと思うべきだろう。

 体の主導権を奪ったところで、生前の指一本にも満たない存在の宿儺は数秒しか動けず、直ぐに千光に主導権は戻る。

 しかし、その数秒もあれば如何に弱体化しているとはいえ、千光(うつわ)のスペックもあって、オカルト研究部の全員を(みなごろし)にする程度はわけもないだろう。

 

「ごめんなさい」

「一度は許す。二度はない」

「……はい」

 

 御厨子の社の前で怒られている姿は、父親からの説教を食らう子供のそれであった。

 

 1

 

 何年かぶりに、マジで宿儺に怒られるという経験をしてから少し時間が経った。

 転生の儀が失敗した件に関しては、リアス・グレモリーは自分の実力不足ということで納得したようだ。

 本当のことを話しても良かったが、宿儺もリアス・グレモリーのことを認めてはおらず、また千光としても「同居人が部長のことを嫌ってるみたいです」なんて言えるわけもなく。

 誰も幸せにならないなら、知らぬが仏ということなのだろうと口を噤むことにしたのだ。

 またそれを抜きにしても、『実力の差が離れ過ぎている』というのも間違ってはいないだろう。

 千光の視点からしても、リアス・グレモリーが自分を従えるに足る実力があるとは思えないのだ。

 千光と追儺を結び付けた勘の良さや頭の回転は、王として、指揮する者としての素質の高さや片鱗は見えるが、所詮はその程度。

 宿儺がリアス・グレモリーを『塵』と呼んだ時に、真っ向から否定しなかったのが答えだ。

 

「二度と教会に近づいちゃダメよ」

 

 険しい顔と厳かな声音が、夜の部室に広がった。

 転生に失敗した後、これも何かの縁ということで千光は一誠と共にオカルト研究部に入部することにした。

 立場としては眷属(仮)ということになるらしい。

 とは言っても、何かを強制されたり主であるリアスの命令は絶対ということではない。

 あくまでも、外部協力者に過ぎない、ということである。

 ただし、それでは同じ部活にいるのにややこしいということで、名目上は眷属(仮)なのであった。

 

「教会の関係者、特に『悪魔祓い(エクソシスト)』は我々の敵」

 

 主人に怒られる一誠を見て、この間の自分と姿が重なる。

 一誠が怒られている理由は、道に迷ったシスターを助けたから、というものだった。

 たかがそれぐらいで、とは思わない。一誠が悪魔だということを考えれば、リアスの叱責は真っ当なものだからだ。

 少しの間オカルト研究部と過ごしてみて分かった。

 リアスは、眷属を気にかける良い主人である。

 そんな彼女だからこそ、自分の大切な眷属(下僕)が無自覚だったとはいえ危険な行動をしていたら、怒ってしまうのも無理からぬことであろう。

 ふと、リアスの視線が千光に向けられた。

 

「チアキも気を付けなさい。悪魔祓いの中には、人間とはいえ悪魔と関わりを持つ者も悪魔と見なす輩も居るわ。……まあ追儺として活躍するぐらいだから、実力的には問題ないかもしれないけれど、一応ね」

「分かりました」

 

 ふと、考えを巡らせる。

 悪魔祓い。人間の中における人外討伐のスペシャリスト。

 世の中には千光のように人間でありながら、何かしらの理由で人外を討伐してそれを食い扶持にする、所謂『賞金稼ぎ』もいないではない。

 けれどそれとは別にして、金銭ではなく『討伐』そのものを目的としているのが悪魔祓いと呼ばれる者達だ。

 そうした者達は大抵がまともじゃない。

 それは千光の経験則である。

 脳内で想起されたのは、とあるはぐれ悪魔を狩ろうとした際に出会った『頭のおかしい白髪神父』だ。

 

「討伐の依頼が大公から届きました」

 

 千光が考え事をしている間に話は済んだのか、そう話題を切りかえたのは朱乃だった。

 

 2

 

 悪魔の駒。比喩でもなんでもなく、他の生物を悪魔に作り替える、宿儺曰く玩具。

 これを単なる肉体の再構築だと千光は考えていたが、どうやらその影響は魂にも及ぶらしい。

 残念ながら千光は魂を知覚する術を持たないので、その本質を見抜けず、それが原因で宿儺に説教をされてしまった。

 そしてそんな千光が怒られる発端となった悪魔の駒だが、その一つ一つには駒の役割に合った特性が存在する。

騎士(ナイト)』であるならば、スピード。

戦車(ルーク)』であるならば、シンプルな力。

女王(クイーン)』であるならば、全ての駒の特性を合わせ持つ最強の切り札となる。

 なるほど、と千光は一人頷く。

 食指が動くほどじゃないが、オカルト研究部の面々を見るに、粒揃いらしい。

 磨けば光る、と言い換えてもいい。

 今はまだそれほどだが、いずれは戦ってみるのもありだなと心で呟く。

 千光はほのかに戦闘狂でもあった。

 

「殺せ」

「そう、なら消し飛びなさい」

 

 ──化け物のくっ殺とか誰得。

 はぐれ悪魔バイサーがリアスに消滅させられるのを見届けながら、千光はそんなことを考える。

 

『(ほう)』

 

 脳内で意外な声が響いた。宿儺だ。

 

『(どうした?)』

 

 口を動かさず、心の中で呼び掛ける。

 

『(小娘の呪力だ)』

『(呪力?)』

『(()()は興味深い。フム、宝の持ち腐れだな。あの小娘(ゴミ)はこうも食材を無駄にできるのか。はっ、ある種の才能か)』

 

 褒めたと思ったら今度は馬鹿にし始めた宿儺に、千光は疑問符を浮かべる。

 呪力──こちら風に言うならば魔力に宿儺は興味を持ったらしい。

 だがその興味はあくまでも魔力であり、リアスそのものにではない。

 むしろ、リアスの評価は更に下がった様子だった。

 リアスが見せた紅い魔力。理由は分からないが、宿儺が興味を示す程度の何かがあったのだろう。

 千光はその事を覚えておくことにした。

 

「それじゃあ、戻りましょうか」

 

 自分が『兵士(ポーン)』だという言葉に、僅かなショックを感じる一誠を横目に、リアスが建物を出ようとした瞬間だった。

 

「おっと部長、失礼」

「え、きゃっ!」

 

 この場の誰よりも早く気付いた千光は、一瞬の隙にリアスに近付き、その体を抱えて跳躍をする。

 刹那、轟音が炸裂し入口一帯が消し飛んだ。

 

「「「「──っ!?」」」」

 

 遅れて、全員が気付く。

 何者かに攻撃を仕掛けられたと。

 

「チアキ、ありがとう。助かったわ」

 

 背と膝裏に手を回された、所謂お姫様抱っこの体勢でリアスは千光を見上げていた。

 彼女の顔は安堵するのと同時に、少しの緊張が走っていた。

 下手をしたらあの攻撃で重傷を負っていたかもしれないと、そう思ったからだろう。

 いや、もしかしたら即死の可能性だってあったかもしれない。

 彼女の眷属はともかく、王であるリアス本人は紙装甲だ。

 決して有り得ない話じゃない。

 

「どうやらバイサーは一人じゃなかったぽいですね」

 

 リアスを下ろしながら、視線の先の敵を見据える。

 数はおよそ五、六人。罠……の可能性は低いとみていいだろう。

 これが端からリアス本人、あるいはグレモリー眷属を狙ったものなら、バイサーが殺されるまで出てこないのは可笑しい。

 仮に力量を測るためだったとしても、仲間が一人減っているのでは割に合わないだろう。それにそもそも、この依頼を持ってきた大公とやらも疑わねばならなくなるし、そうなると大事過ぎる。

 ないことはないが、可能性は低いと考えるのが定石だ。

 となると挙げられる候補としては、彼らは元々集団でこの廃墟に住み着き活動していた、辺りか。

 丁度バイサー以外が留守にしていたタイミングで、オカルト研究部が来てしまったのだろう。

 

「……あ」

 

 ふと、あることを思い出す。

 それはリアス達と出会う少し前、追儺として動いていた時のこと。

 元同業者の情報屋の男性から聞いた話だった。

 ──『お前さんがここ最近暴れているせいで、はぐれどもが徒党を組むようになった』

 その時は「そうなんだ」ぐらいにしか思っていなかったが……ふむ、どうやら今回の依頼のイレギュラーは、自分にも責任がありそうだ。

 

「何人か食いやがったな」

 

 はぐれ悪魔の集団は、口の周りが血に濡れている。

 人間を好んで食する悪魔が、徒党を組んだのだと理解する。

 ふう、と千光は軽く息を吐いた。

 

「部長、こっからは俺のお仕事ってことで」

「え?」

「入部の時の約束」

「……そう。そういうことなら、任せましょうか。いいわ、見せてちょうだい、貴方の実力を」

「あいやい」

 

 腕を組んでビシッと決めるリアスに、千光は場違いにも思う。

 こういう上からな所が宿儺が嫌う一因でもあるだろうな、と。

 千光個人としては嫌いじゃないが、宿儺とリアスとじゃ水と油かもなぁと苦笑いを零した。

 その僅か数瞬──一秒にも満たない刹那の時間で、はぐれ悪魔達の命は細切れとなった。

 

 ──は? 

 

 漏らした声は誰のものだったのか。

 戦いとすら呼べない一瞬の出来事に、オカルト研究部の面々は理解が追いつかなかった。






主人公には甘い(ただし重傷まで追い込む)すっくんでした。ただし二度目は問答無用で全員首チョンパなんですが……。
ヒロインはリアスと黒猫(ネコ)(あの人)になるのかなぁ……と思ったり。
……でもすっくんが認めてくれないよあ……。

主人公の本格バトルはまだ少しお預けでお願いします。
原作一巻の内容は次回で終わりで、ガチバトルは二巻以降からの想定です。
まあ、書けたらの話ですが……。
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