呪いの王の後継 作:高天原降
誤字脱字報告ありがとうございます。
入部をする際、リアスと千光は個人で結んだ約束がある。
軽い言い方をしているが、内容は約束というより契約に近いものだ。
というのもオカルト研究部というのは、今更言うまでもなく千光以外のメンバーは漏れなく悪魔である。
またオカルト研究部というのも主人のリアスの趣味に合わせただけの、言わば表の姿であり、その素性や詳しい活動内容は明らかに部活の範疇から逸脱している。
例にあげて言うならば、悪魔との契約営業がそうだろう。
新人の一誠もビラ配りに始まり前代未聞、会いに行けるアイドルならぬ、チャリで会いに来てくれる悪魔として活躍している。
余談ではあるが、意外なことに
とまあ、こうしてオカルト研究部は『お仕事』をしているわけだが、当然ながら人間である千光がそれに参加することはない。
では千光は何をしているのか──答えは単純、荒事担当である。
『できる範囲で構わないから、討伐依頼が来たら何件か自分に回して欲しい』
そう千光が持ちかけ、リアスが了承したのだ。
理由は幾つかあるが、千光にとっては『面倒事を少なくして生活費を稼ぎたい』というのが主なものだった。
これまでは自分で裏の伝手(違法)を使い依頼を貰って……と面倒な手順を踏んでいたのを、リアスを介する事で諸々を省くことができるのだ。
ポストがリアスであるということも嬉しい要因で、彼女ならば報酬を安くしたり、そもそも支払わないといったこともないので、安心できるのだ。
ちなみに今までそうやって嘗めた態度をしてきた相手は、既に全員この世にはいない。
と、そういった約束があって、前回のはぐれ悪魔バイサーの時も美味しいところを譲ってもらったのだ。
「ん?」
とある廃ビルの中。
丁度、貰った依頼を片付けた時、ポケットにしまってあった携帯が鳴り出す。
「もしもし、部長? え、一誠が教会に乗り込んだ? 今から合流? はあ、堕天使。いや、丁度終わったんで大丈夫です」
シスターを助けるために一誠が堕天使の根城に突撃してったらしい。
──何それ面白そう。
千光は遅れるわけにはいかないと、全力で廃教会へ向かった。
1
『
中でも『
そして一誠が身に宿した『神器』こそが、その『神滅具』であり名を──
その能力は宿主の力の増幅。十秒毎に、力を倍にしていくというもの。
無限に、それこそ今息をしているこの時も力を倍にし続けているのだとしたら、なるほど神とやらの命に手をかけるのも納得ができる。
まさか親友がそのような力を手にしていたとは。
話をリアスから聞いた千光は、一誠に小さな期待を抱くのを自覚した。
一誠は親友である。そうなるまでに紆余曲折はあったものの、千光はそう思っている。
だから一誠の死に際には多少なりとも焦ったし、また同じような状況があったら、即座に助けるだろう。
けどその一誠が悪魔となり、龍の力すらも宿していると知った今や、親友としての心配よりも、もしかしたら……という思いの方が強くなった。
──飛騨千光は何よりも強者を求めている。
見据えるその先には最強がいるから。
追いつくためには生半可な努力では足りない。半端な相手では意味が無い。
死地に立ち、己より上の相手に噛みつかねば、史上最強は愚か現代最強にだって届かない。
だが虚しきかな、千光は強かった。強くなった。現状では満足できる相手がいないくらいに。
千光は戦うことが嫌いでは無い。
けれど、それのみを生き甲斐にしているわけでもないので、この停滞は退屈なれど「まあ一度はそういう時期もあるか」と納得している。
その中で見つけた、切っ掛けとなり得る原石。
『神滅具』──神殺しの
これほど、切磋琢磨のしがいがある相手もそうそういないだろう。
「お疲れさまです、イッセーさん!」
早朝の公園にて、金髪の美少女が柔和な笑みを湛えていた。
「ううぅ、アーシア! 俺は感動した! こうして暖かく迎えてくれる美少女が、俺にお茶を持ってきてくれるなんて!」
目元を覆ってわざとらしく泣くフリ……いや、本当に泣く一誠。
千光は「それほどか?」と思うが、恋人のフリをした堕天使に苦い思いをしていることを鑑みて、泣き出すのも仕方ないかと納得する。
ちらりと、視線を一誠の隣にいる少女──アーシアに向ける。
廃教会の一件、というよりも一誠を取り巻く堕天使の事件は、彼女を救出することにより収束を見せたらしい。
らしい、というのもあの晩、千光が皆と合流した頃には全ての方が付いたようで、大して出番らしい出番もなかったのだ。
「ほらほら、一息ついたなら次のメニューに進むわよ」
「そ、そんな……部長、もう少しだけ」
「ダメよ、登校までの時間もないのだし。チアキ、お願いね」
「あいやいさー」
千光は指示された通りに動く。
次のメニューは腕立て伏せ。千光の仕事は、筋トレをする一誠の上に乗り、重りとなることだ。
「うぅ……つーかなんで千光なんだよ! せめて部長、部長が上に乗ってくださいよ!」
「初めはそのつもりだったのだけど、丁度チアキが手伝ってくれているのだしね」
「まあ、重りって役割なら確実に俺の方が適任だろうしな。部長軽いし」
千光は、はぐれ悪魔バイサーの時のことを思い出す。
「そういうわけで、ほらイッセー早くしなさい」
「そうだそうだ」
「あ、アーシアぁ……」
「あのぉ、その、イッセーさん頑張ってください!」
「ちくしょおおお、やってやるよおおお!!」
頼みの綱すら切れて、一誠は自分自身に喝を入れるためか咆哮をあげる。
腕立て伏せの体勢に移行する際、その目は恨みがましく千光を見つめていた。
「そらそら、頑張れ頑張れ。ハーレム王になるんだろー」
「ぐぎぎ……ハーレム王、に……俺は……なる!」
「いや海賊か」
「お前が……言わせたんだろ、が! 覚えてろよ……千光……じゅう、さん!」
「はいはい。あと八十七回」
人間であった時と変わらないやり取りをしながら、千光は一誠に強くなって欲しいと期待を寄せ笑う。
千光は視線を一誠から外して、何やら考え込んだ様子のリアスへと向けた。
今朝から、というよりもここ最近はずっとこの様子だった。
心ここに在らず。上の空。言葉はなんでもいいが、ふとした時に今みたいな仕草を見せることが増えた。
初めは、千光の討伐依頼やら何やらで迷惑をかけてしまったせいだと思っていたが、それは面と向かって本人に否定されたので違うだろう。
嘘を吐いてる可能性もあるが、それを確かめる手段は千光にはない。
しかし、多少なりとも世話になっているので、じっと黙っているというのも居心地が悪いように感じた。
「部長」
声をかけると、リアスは少し驚いて千光の方を向いた。
「何かしら?」
「何かってほどのことじゃないんすけど……。まあ、困ってることがあったら手伝いますよ。世話になってますし」
千光の言葉を聞いて、一瞬だけリアスはキョトンと呆けるが、次には美しい笑みを浮かべた。
「……ふふ、ありがとう」
「いえいえー」
あまりにも綺麗な顔だったので、もう少しだけそれを見ていたいなと千光は思った。
「千光、あと、何回……!」
「あ、やべ。あー……多分、九十」
「さっきより増えてんじゃねーかっ!?」
2
「じゃあな、ネコ」
「にゃあ」
一緒に夕食をとり少しのんびりしたあと、ネコはいつものようにベランダから出ていく。
またどこかしらで、のらりくらりとでもするのだろうか。
実に野良猫然とした気風だ。
部屋には千光だけが残される。
時間は深夜。今日は特に部活もなく、討伐依頼もない。
明日も学校はあるので、さっさと寝るのが一番だろう。
電気を消し、綺麗に整えられたベッドに潜り込んで、夢界での今日の戦略を頭の中で組み立てていく。
『御厨子』の練度では当然ながら宿儺が遥か上、その宿儺から教わった彌虚葛籠やそれを発展させた
好ましいのは奇襲だ。それもただの奇襲ではなく、
直後、眩い光を放ち部屋の中に魔法陣が出現した。
「グレモリーの魔法陣?」
上体を起こし、訝しむように呟いて……千光の前に現れたのは、リアスだった。
リアスは千光の姿を確認すると、その場で服を脱ぎ捨てて、ベッドに上がってくる。
突然の行動に、さしもの千光も混乱を隠せずにいた。
「えー、あ、え? 部長?」
窓から差し込む月明かりに照らされた、染み一つ存在しない珠のような白磁の肌。
燃えるように鮮やかな紅の髪は、薄暗い部屋の中で輝いているようにさえ見える。
切り取れば一枚の絵画にも見える空間は、まるで男女の逢瀬だ。
けれど、そこに睦言めいた甘い空気感などなく。
産まれたままの姿で迫るリアスの顔は、羞恥からか赤く、その裏には焦燥が見て取れた。
「お願い、チアキ。私を抱いて」
千光の腕を取り、己の胸に押し当てる姿は、けれどどこか追い込まれたように痛ましく感じられた。
そこに一種の覚悟を見た気がして、千光はリアスに何もさせるべきではないと即座に思い至った。
リアスの細い腰に腕を回して、優しく静かに、けれど勝手ができないように軽く抱き寄せる。
これで身動きは封じることに成功した。
「部長、本気なら俺も構いません。でも……自分の
それが他の誰でもない自分の決意なら、千光は応える。
だが、それが逃避という単なる甘えた理由での行動なら、千光はリアスの評価を落とさねばならない。いや、もっと単純に失望するだろう。
逃げるのが悪いことでは無い、それが自分の意思で、本気で逃げたいと思っているのであれば、実の所構わないのだ。
けれど何となくだけで、逃げて欲しくは無いし、リアスの反発心だけでことに及びたくは無い。
きっとリアスは、千光を好いてくれているのだろう。
少なくともこうして縋り先として選んでくれる程度には。
だがそれは男女のソレでは無いし、親愛とかに近いものだと千光は考える。
あるいはリアスがそういった行為を、スポーツ感覚で楽しむ性格だったのならば、千光もまた深く考えずに頷いていた。
けれど残念ながら、リアスは普通だ。
己の中に確固とした貞操観念があり、責任感もある。
一度性交渉に及べば、今の関係は確実に破綻を迎えるだろう。
存外にオカルト研究部は居心地が良かっただけに、それは千光の望むことではない。
それに千光は宿儺と違って、リアスにはそれなりに好感を抱いている。
だから勝手を承知で欲を言うなら、逃げるよりも立ち向かって欲しいと思う。
「……っ」
リアスの瞳に、迷いを見た。
そんな相手を千光は抱こうとは思わない。
リアスは理由があってここに来たのだろう。
だから、追い出すのも酷と考えた千光は、
「今日は泊まってってください。俺はホテルにでも──」
言葉は続かなかった。
なぜなら、部屋の中に新たな魔法陣が浮かび上がったから。
「こんなことをして破談に持ち込もうというわけですか?」
銀に輝く髪を纏う侍女悪魔が、そこに現れた。
「このような下賎な輩──ッ!?」
刹那──
「は、不躾だな。礼儀を弁えろよ、木っ端悪魔」
瀑布を思わせる殺気が、空気を震わせた。
知らない人にいきなり下賎呼ばわりされたら、誰だって嫌だよね。
次は修行編(すぐ終わる)か……。
二巻入ったので、こっからは話のテンポがスローペースになるかもです。