呪いの王の後継 作:高天原降
前回のグレイフィアの台詞である「このような下賤な輩――」は原作のモノだったりします。
なぜあのような発言をしたんだろうと、今回は独自解釈も入っています。
それとご指摘があったため、念のためにアンチ・ヘイトタグを追加しました。
ですが本作は、原作で描写されている以上のキャラ下げなどは行わないつもりです。
勘違いをさせるようなことをしてしまい、申し訳ございませんでした!
「それで、どうなったのかな?」
冥界──豪奢な館の一室。
部屋に存在する家具や調度品は余すことなく最上級で、しかして見た目だけでなくその機能も最上のものばかり。
まるで主の気風を反映させたかのような、清涼で静謐なその空間には二人の悪魔の影があった。
「リアスお嬢様に助けられる形となりました」
主に問われ、銀髪の侍女悪魔──グレイフィアは委細を語る。
己が女王の言葉を受け、主の男──魔王サーゼクス・ルシファーは少なくない驚きを見せた。
「それほどなのかい?」
「……死を覚悟するほどには」
グレイフィアの脳裏を過るのは、飛騨千光という異端なる少年の姿。
『はっ、不躾だな。礼儀を弁えろよ、木っ端悪魔』
尊大なる口調と共に叩き付けられた超質量の殺意は、女悪魔最強をして死を想起するほどに重く、それをもってグレイフィアは
相手はどこの馬の骨とも知れぬ人間の少年。
リアスの責務や純潔悪魔としての義務、魔王の妹というプレッシャー、それらを知らず。また知ったところで、ただの人間に何ができるというのか。
人間を侮蔑しているわけではない。
けれど事実として、人間は悪魔と比べて脆弱に過ぎる生き物だ。
悪魔と共に歩むには、その生は短すぎるのだ。
だからこそ、相手がリアスにとって大切な友であると分かった上で、グレイフィアは悪魔としてまた一人の義姉として、厳しく接したのだ。
相手をあえて貶すために下賤と口にしたのは、怒りや恨み、敵意といった負の感情を全て引き受けるためだった。
もし何かの間違いで、その矛先がリアスに向かうなどはあってはならないから。
……けれど見誤った。
ただの人間? あれが?
冗談ではない。あれは暴威だ。嵐や地震などに近い存在。
人の姿をした理不尽。
最上位の存在、それこそ己が主である魔王や神々、龍神などと比べれば可愛いものだ。
実際、戦えば五割の確率でグレイフィアが勝つだろう。
魔王に侍る女王としてのプライドも、己が実力への自負も持っているが故に、死力を尽くして勝つ。
……だが、五割の確率で
端的に言ってしまえば、戦った後にどうなるかの想像がつかない。
その時点で既に異常なのだ。
だが何よりも恐ろしいのは、あれで未完だということ。
直接殺意を向けられたグレイフィアだからこそ感じ取れた、飛騨千光の潜在能力。
それは果てのない深淵の如き才能。
羽化の前の蛹であり、華の開かない蕾。
何故そんな者が、人間として生まれているというのか。
──理由なき力の象徴。
その片鱗をグレイフィアは見た。
だからこそ、間に入ってくれたリアスには感謝をしているし、飛騨千光には無礼を働いてしまったと誠心誠意の謝罪をした。
「となると、今回の
「もし飛騨千光が参加するとなると、ハッキリと申し上げまして──話にならないかと」
「……ふむ。ではこうしようか」
1
千光には嫌いなものがいくつかある。
代表的なのは己を不快にするモノや、ピーマンである。
昨夜の騒動、途中で出てきたグレイフィアとかいう侍女悪魔は、前者のそれを見事に踏んでしまった。
別に下賤と言われたことが原因……いや、それも大きな要因の一つではあるが、全てではない。
グレイフィアが差別主義者ではないというのは、目を見ればわかった。
主な原因は二つ。
まず最初に、千光の断りもなく勝手に家に上がったこと。
千光は今の己の家を一種の聖域として捉えている節がある。
それは幼少期に親族から疎まれ、居場所を持てなかったことに起因しており、今のアパートに引っ越すことになった時は小躍りをするほどには喜んでいた。
──ようやく自分の
だから、親しい者や自分が許可をした者以外が足を踏み入れることを、千光は嫌う。
次に、グレイフィアが千光を
こちらが理由のほとんどを占めていると言ってもいい。
一見すると、やっぱり下賤と言われたことが原因ではないか、と思われるかもしれないが少し違う。
グレイフィアは確かに『
無理もない話である。
人間は悪魔や堕天使に比べ、ちょっとした衝撃で最悪死に至る脆い種族だ。
過去には英雄と呼ばれる人間たちもいたが、現代でそのような人種はほとんど絶滅している。
九割九分が、人外に小突かれただけでその命を失くすだろう。
そのような種族を相手に、むしろ対等に見ろという方が無茶無謀だ。
道端の蟻だって命を持つ生物で、その命を尊重することはあっても侮蔑する人間はない。
けれど、その蟻が己を人間と同じように扱えと言ってきたら、人間も困るだろう。
そのつもりはなくても、うっかりと踏んでしまっただけで死ぬ生物を相手に、どう対等に扱えと?
心情としてはそれに近いはずだ。
──が、そんなことは知らん。
嘗められた、その時点で千光は不快に思うのだから。
「なんかちょっとだけ不機嫌だな、千光。なんかあったのか?」
部室に向かうため二人で廊下を歩いていると、急に一誠はそんなことを言ってきた。
表に出しているつもりはなかったのに、近くにいた一誠は気付いたようだ。
「喧嘩……じゃないけど、まあちょっとな。向こうも謝ってくれたし、もうほとんど気にしてないけど。モヤモヤが残ってさ」
誤魔化してもよかったが、どうせバレているのならと素直に頷く。
昨晩は、あわや殺し合いとなりかけたグレイフィアとの出会いだが、リアスの言葉や、考えを改めたのであろうグレイフィアの真摯な謝罪もあって、千光は矛を収めた。
千光は宿儺とは違い、一度目までなら許すことができる。
けれどそれはそれとして、久しぶりに巡り合った強敵でもあるグレイフィアとは、本気で戦いたいと思った。
千光の言うモヤモヤとはそれの事であり、肩透かしを食らったような気分になっているのだ。
「珍しいな。そんなお前を見るの、すげー久しぶりだわ」
「そうだっけか?」
「うん。最後に見たのは、中二の頃に松田と元浜の奴がふざけてお前にピーマン食わそうとした時だもん」
「……そう言えば、そんなこともあったな」
その時は拳骨で沈めて、二人の宝物(エロ本やAV)を全て燃やしたことを思い出す。
「お前ってキレると人格が変わったのかってぐらい怖くなるし、口調もちょっと変わるだろ?」
「そうなのか?」
「え、自覚なかったの?」
まるで危ない奴みたいな言い方ではあるが、あながち間違いではなかった。
子とは親を見て育つものである。
一誠の言う通り、千光は怒ると少しだけ宿儺っぽくなる。
本人にその自覚はなく、なまじ自分は宿儺ほど暴君じゃないと思っているせいで、指摘すると恐らく微妙に嫌な顔をすることだろう。
千光は傍から見れば、怒っている時とそうでないときの違いが分かりやすかった。
なんてことを話していると、部室に着く。
扉を開けるとそこには、一誠と千光以外の全員が集合をしていた。
その中にはグレイフィアの姿もある。
「全員揃ったわね。では、部活をする前に少し話があるの」
口火を切ったのはリアスだった。
「お嬢様、そのことについては私が説明させてもらいます。万一の事がありますので」
そういってチラッと、グレイフィアの視線が千光に向いた。
千光は気付くが、別段不快な類のものではなかったので気にしないことにする。
「では」
と、グレイフィアが説明に入ろうとした時、部室に見慣れない魔法陣が現れる。
それを見たグレイフィアは、一瞬だけ頭の痛そうな顔をしたが、瞬きの間に元の表情に戻っていた。
「──フェニックス」
入り口の近くにいた木場が、紋章の悪魔の名を口にする。
フェニックス。不死鳥か、と千光が思考を巡らせると、それを肯定するように炎が舞い上がった。
チリッと肌を撫でる熱、それだけならばよかったが、気付くのに遅れた火の粉が、『解』で叩き落とすよりも早く黒い染みとなって付着する。
──イラッ。
眉が一瞬だけ動く。
最近クリーニングに出したばかりのブレザーが汚れ、不快感が滲みだす。
渦巻く炎の中で、一人の男性が現れた。
「ふう、人間界は久しぶりだ」
リアスの髪とは真逆の、品性のない赤いスーツを纏った金髪の男性。
スーツの趣味だけでなく、胸元まで開かれたシャツを見るに、その着こなし方まで品性がない。
「愛しのリアス、会いに来たぜ」
第一声が、それだった。
「千光様」
──
そう千光が動き出すよりも先に、グレイフィアが呼び止めた。
「誠に申し訳ございません。どうかここは
はたして、この侍女悪魔の言葉に従うメリットがあるのだろうか。
千光は考える。
「抑えろ、とは言いません。戦うな、とも。ただし、やりあうのなら相応しい場所を用意しています」
「………………………………クリーニング代、出してくれるなら」
「勿論」
何故だろうか、目の前の無表情メイドが一瞬だけ安堵したような、あるいはガッツポーズをしたように見えた。
グレイフィアは千光から離れ、スーツの男に近寄る。
「ライザー様、今日はこちらに来ないよう通達をしていたはずですが」
「いやいや、愛しい婚約者への挨拶とくれば、直接出向かねば不義理というものでしょう」
グレイフィアは無表情にも変わらず、今にもため息を吐きそうだった。
「ここここ、婚約者ぁぁああ!?」
横にいた一誠が男の言葉を耳にして、両目を見開く。
「こんな奴が、部長の!?」
「あ? 誰だ、お前?」
「俺はリアス・グレモリー様の眷属悪魔、兵藤一誠だ!」
「ふーん、あっそ。……ところで」
スッとスーツの男──ライザー・フェニックスは視線を千光に向けた。
「なんでこの場所に」
「この方はライザー・フェニックス様。本人の言っていた通り、リアスお嬢様の婿殿です」
少し声を強めて、グレイフィアはライザーの言葉を殺した。
間一髪、もしあのままライザーを喋らせていたら、とんでもない惨劇が生まれていたことだろう。
せっかく頭を下げてまで千光に大人しくしてもらったのに、危うく一言で全てが台無しになるところだった。
──グレイフィアは、まさしく有能な悪魔だった。
「そしてこちらが、人間界の外部協力者である飛騨千光様でございます」
「どうもー、眷属(仮)だ。よろしくしたくないから、失せろやきと」
「オホンッ! ……こうして皆様に集まってもらったのは、お嬢様の御意思を再確認するためです」
何度でも言おう、グレイフィアは有能な魔王の
眷属(仮)? と呟くライザーを横目に、グレイフィアは改めてリアスを捉える。
「お嬢様に婚姻の意思はない。それでよろしいですね?」
「ええ、私の相手は私が決めるわ!」
居丈高にそう言い放つリアスに、千光は思わず笑みが零れた。
そう、自分の人生は他でもない自分だけのものだ。
それを他者に委ねるなんて、そんなものは死んでることと変わらない。
「以前にも聞いたよ。だがな、リアス。そうはいかないことぐらい、君も理解はしているだろう?」
「余計なお世話だわ! 私の意志は変わらない」
「……あのなリアス。俺もフェニックスの看板を背負ってるんだよ。それに泥を塗られるわけにはいかないんだ。そもそも、こっちだって薄汚い人間界に来たくなかったんだ。ここは風と炎が汚い。そんな場所、風と炎を司る者としては耐えがたいんだよ!」
激高したライザーから炎が吹き荒れる。
ただの人間なら触れただけでも即死であろうそれは、しかし千光の前では児戯に過ぎなかった。
──キンッ、と甲高い音。
「なっ」
炎は瞬きの間もなく、切り刻まれ消失した。
「はっ! 悪いな、クソ鳥。部長が願い下げってんだ、大人しく田舎に帰れ」
いつの間にかリアスを守るように移動していた千光は、獰猛な笑みを浮かべながらライザーを見据える。
苛立ちも不快感もある。
だが、今はそれ以上に、リアスが己の我を貫こうとしている。
立ち向かおうとしているのだ。
千光がそうあってほしいと望んだとおり。
だから不快である以上に気分がいい。
それに、こう言えば必ず言い出すはずだ。あの侍女悪魔が言っていた、相応しい場所とやらのことを。
「人間風情が……っ!」
パン! とグレイフィアは柏手を打った。
全員の注目がグレイフィアに集まる。
「こうなることは旦那様もサーゼクス様も、そしてフェニックス家の方々も重々承知でした。故に今回の最後の話し合いにおいて、決着が付かなかった場合のことを予測して、最終手段を取り入れることとしました」
「最終手段? どういうこと、グレイフィア」
「あそこまで啖呵を切ったのなら、それを押し通しなさいということです。──グレモリー眷属とフェニックス眷属によるレーティングゲームを行っていただきます」
次は修行編か(二回目)……。
ごめんなさい、こんなに膨らむとは思わなかったんです……。
それはそれとしてグレイフィアさんが有能なため、首チョンパをされずに済んだライザーくんの明日はどっちだ!