呪いの王の後継 作:高天原降
お久しぶりです。
ここのところ色々と用事が立て込んでしまい、更新が遅れてしまいました。
今回は、独自設定や独自解釈が多めです。
それと、アンケートにご協力頂きありがとうございました!
現状はとりあえず様子見ということで、このままで行こうと思います。
※サブタイ入れ忘れてたので入れました。
山篭り修行も折り返しを過ぎた頃。
深夜、千光は運動着に着替えて男子部屋を抜け出す。
一誠と木場は修行の疲れから深い眠りに落ちていた。
静寂が漂う廊下を歩きながら玄関へ向かっていると、途中でリビングの方の扉が少し空いていることに気が付いた。
「あら、チアキ」
人の気配を感じて中へ入ってみれば、出迎えたのはテーブルに何かの参考書を広げているリアスだ。
その面貌には普段は掛けられていない眼鏡があり、いつも以上に理知を感じさせる。
「こんばんは。珍しいですね、眼鏡」
「ふふ、気分的にね。考え事をしてる時とか、たまに付けるのよ。その方が頭が回るから」
人間界が長い証拠ね、と小さく笑うリアス。
彼女の言うように、よく見ればテーブルの上には参考書以外にもノートや地図が置かれており、来たるレーティングゲームに向けて対策を練っている事が伺える。
「……正直に言うとね、気休めでしかないわ」
ぼうっと、千光がテーブルの上を眺めていたからだろうか。
リアスはらしくない、弱々しさを微かに含ませた苦笑いを浮かべた。
その顔色の中には、隠しても隠し通せない疲労が垣間見える。
千光はまあ少しならばいいかと、リアスの息抜きに付き合うために、対面の椅子に腰かけた。
「レーティングゲームにおける戦術論や
読んでいたのであろう本に視線を落としながら、リアスは声を滲ませる。
戦術、戦略、あるいは定石。
確かに、そういったものは存在するし、それら総じて策と呼ばれるものが戦場の趨勢を決定付けることもあるだろう。
そうした面での有用さを千光は否定するつもりは無いし、無価値だと断ずるつもりもない。
だが千光は知っている、そういった
例えどんな戦略を練ろうが、対策を打ち出そうが、それら全てを嘲笑い歯牙にもかけない状況というものが存在する。
これは千光の持論だが、策略が無意味になる瞬間は大別して二つあると思っている。
一つは、策そのものが実行不可能に陥る瞬間。
どんなに緻密で綿密な計画を練り上げようが、完璧なものなどこの世の何処にも存在し得ない。
それは時に味方の裏切りだったり、単純なヒューマンエラーに起因する場合もあれば、天候や天災などその時その場の情勢や状況によっても左右される場合もある。
99パーセントの完成度を誇れても、必ず人の手ではどうしようもない1パーセントの穴はできてしまうのだ。
しかし、こちらならばまだマシな方だ。
裏を返せば、完璧には出来なくとも可能な限りの失敗を潰すことが出来るのだから。
だからこそ、最悪なのは二つ目。
──戦略も対策も、あらゆるもの全てが意味をなさないほどの
どれほどの数を集めようが、どれほどの質を揃えようが、吹けば飛ぶ塵芥も同然の価値しか許さない、そんな存在がいる。
千光の脳裏に焼き付いた、呪いの頂きに立つまさしく天災のような存在。
それと比べるのも烏滸がましいが、リアス達からすればライザーは後者の存在であることには間違いないだろう。
「そこまで心配することなんですかね」
「え?」
ポロリと本音を零すと、キョトンとしたリアスの表情が帰ってくる。
「フェニックス。不死の特性を持つ悪魔ね」
事前にされていた説明を今一度自分で噛み砕いて、やはり憂う必要などないと頷く。
「たかが
千光はライザーの持つフェニックスの特性は、反転術式に近しいものではないかと考えている。
無論、完全にそうであると決めつけている訳ではなく、あくまでも系統としてはということだ。
そう考えるに至ったのは初日、別荘に向かう道中で『フェニックスの倒し方』をリアスから聞いた時だ。
一つは超火力を持って一撃で消し飛ばす方法、もう一つは殺し続けて肉体ではなく『精神』を殺す方法。
……可笑しいではないか。
不死を謳いながら、攻略法が確立されているなど。
真に不死であるなら、それは不変不滅を意味する。
例えそれが星を砕く力であったとしても、例えそれが幾万幾億と殺され続けているのだとしても、肉体も精神も決して『
「ふ、ふふふ、あはは」
月明かりが差し込む二人だけの部屋に、笑い声がこだました。
これまた珍しいことに、リアスが口元に手を添えて笑っていた。
「フェニックスをたかが、なんて、きっと貴方ぐらいよチアキ」
「そうっすかね?」
「ええ。……ねえチアキ、私たちは勝てるかしら?」
今日は珍しいことが続く日のようだ。
リアスのその言葉を聞いて、千光は少しだけ訝しんだ。
「勝つわ、絶対に。俺の知ってる部長なら、こう言うと思うんすけど」
はっと、リアスが目を見開いた。
「……ええ、そうね。そうだわ。ごめんなさい、駄目ね。どうも今日は弱気になってたみたい。──勝つわ、絶対」
目の中にいつもの知っている光が戻ったことを確認して、千光は大丈夫そうだと判断する。
それから十分ほど、雑談を交わした。
眷属達の成長と、この後で千光がやろうとしていることなど。
初日とは見違えるように、一誠達は実力を伸ばしてきている。
それこそ千光の身体能力のゴリ押しだけでは、危ういところも出てくるぐらいには。
千光はただの人間だ。人類において最高峰の肉体性能を有するが、あくまでも人という枠組みの中で最高に過ぎない。
呪力を用いない純粋な肉体の強度や性能そのものは、残念ながら一誠達悪魔のような人外の方が上なのだ。
初日に千光がグレモリー眷属を圧倒できたのは、彼らが悪魔としての体の動かし方を完全に熟知していなかったからだ。
しかしそれももう、今は心配ない。
少なくとも、千光が訓練中には呪力で強化をしなければならない程度には。
これが宿儺のような天性の肉体だったり、フィジカルギフテッドを千光が持っていたのならまた少し違ったのだろうが……。
「ねえ、チアキ。最後に聞いておきたいのだけれど」
話を終えて、千光が席を立ち上がった時だった。
「……?」
「なんで貴方は、私に協力してくれるの?」
純粋な疑問を投げかけられる。
「親友の一誠が私の下僕になってしまったこととか鑑みても、それでも正直に言ってしまえば、貴方にとって私は赤の他人で、助けてくれる理由がほとんどないように思えるわ」
「理由、か……」
顎に手を当てて少し考える。
……言われてみれば、確かになんでだろうと思える。
一誠の主だからか?
──それは、違うと思う。
では一誠が心配であるから?
──なくはないが、一誠が自分の意思で悪魔になると決めた時に、過保護に守ってやる必要は無いと決めた。
オカ研が好きだから?
──否定はしない。この部は自分にとって、存外にも居心地いい。けれど、ここまで親身になる理由としては薄い気がする。
じゃあ、リアスに惚れたからか?
──俺が? 部長に? ……確かに好ましく思っているが、色恋のそれとは違う気がする。
いや恋愛なんてしたことないから分かんないけど。
こんな冷めた感じのが恋とは思えない、というか思いたくない。ドキドキのしない恋なんて、なんか自分が枯れているみたいで嫌だ。
どちらかと言えば、興味に近い。
ネコに初めて餌を与えた時のような、あるいは……ああ、そうだ。
これは、どちらかと言えば
そう──宿儺が伏黒恵に興味を示した時のような、
……いやもっと
自分の中で、腑に落ちたような感覚があった。
初めてリアスと会った日に、運命めいた何かをリアスに感じたのかもしれない──
──
ふと脳裏に、楽しそうに
「……期待、かな」
「期待?」
「うん、多分、そうかな。俺は他でもない、リアスって女に
「……っ!?」
これは恋では無いが、魅せられて期待を抱いたのなら、それは惚れていることと変わらないと納得する。
リアスも一誠も、可能性の塊だ。
そういった意味では、千光はグレモリー眷属に惚れているのだろう。
我ながら自分の気持ちを言語化するが上手いと自画自賛していると、はっと我に返る。
そろそろ行かねばならない。
「部長、俺はそろそろ行きます……部長?」
「……っ、ええ、何かしら?」
「いや、もう行こうかなって……顔赤いですよ、大丈夫っすか?」
「おほん、大丈夫よ。そう、
「あいやい」
1
『生得術式』とは、肉体に刻まれた言わば先天的な異能である。
これは誰でも使える技術ではなく、呪術に携わる系譜に遺伝しやすい才能とも言うべきものであり、後天的に『術式』を得ることは基本的には出来ない。
無論、絶対という訳ではなく、いくつかの例外が存在する。
それは例えば呪物に耐えうる肉体を持つ虎杖悠仁であったり、他者の肉体を乗っ取れる羂索、他の術式をコピーし行使できる乙骨憂太などがそうだ。
そしてまた、飛騨千光もそんな例外に並ぶ一人だった。
『御厨子』──それが、千光が普段から使う術式の名であり、今の戦闘スタイルを確立させた言わば基盤となっているものだ。
では、『御厨子』が千光の術式なのか──否である。
「──
グレモリー家の別荘から遠く離れた深い森の中。
暗澹たる夜の空間に、布瑠の言が響き渡る。
異変は刹那の間に。
獣の遠吠えが聞こえる。
玉犬が、蝦蟇が、ソレの召喚を讃えるように、畏れるように、さながら寺社を守護する対の霊獣の如く現れる。
『来るぞ』
左の頬に、宿儺の口が出現する。
「珍しいじゃん、声掛けてくるなんて。心配してくれてんの?」
『は、減らず口を。魅せてみろ、俺の
「わかってるよ」
『十種影法術』──それこそが、千光の肉体に刻まれた本来の術式の名である。
……では、何故千光は『御厨子』を使えるのか。
本来魂の状態、それも欠片程度の存在規模でしかない今の宿儺には生得術式である『御厨子』は扱えないはずだった。
術式とは肉体に刻まれるもので、魂はそこに付随しないとされているためである。
だが、とある平安の呪詛師は『魂とは肉体であり、肉体とは魂である』と説いた。
それは彼の特異な術式や経歴から来る一種の悟りに近しいものであり、とある別の
これはどちらが間違っているという話ではない。
何故ならば
千光は一つ、ある勘違いをしている。
千光はある時、偶然に宿儺と出会った訳では無い。
宿儺の魂の欠片は、
それを千光と宿儺の両方が知覚し認識したのが、絶望に打ちひしがれたあのタイミングだったというだけだ。
『……』
それに気付いているのは、千光の中にいる宿儺だけ。
何たる皮肉だろうか。
胎にいる頃に、己が兄弟を喰らうことで飢えより生き延びた宿儺は、因果なことに一人の赤子の肉体に二つ目の魂として宿ってしまったのだ。
この事実に気付いたのは、初めて千光の魂と邂逅した時であり、だからこそ興が乗り、千光という童を鍛えると決めたのだ。
そして宿儺が気付いたことは、もう一つある。
宿儺の魂の欠片に
宿儺の魂という規格に合わせて、千光の肉体は生前の宿儺の
それこそが、本来有り得ざる【
つまり羂索の悟りも、
「……ふぅ」
深く深く、千光は息を吐く。
影より這い出でるその式神を視界に収め、呪力を体に漲らせる。
円鹿、満象、貫牛、虎葬、計四体。それが、合宿に来てから千光が調伏した式神だ。
これでほぼ全ての式神を調伏したことになる。
残る一体────最強の式神を除いて。
「生で見ると迫力が違うな、おい」
その威容を目の当たりにして、世界が一変したかのような重圧と寒さを感じた。
ツーっと、冷や汗が背中を伝う。
──八握剣異戒神将魔虚羅。
最後の式神の封が解かれた。
千光君がいるせいで、原作よりも強くなりそうなオカ研なのであった……。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さていきなりではありますが、告知をさせて頂きたいと思います。
11月17日(日曜日)に、コミティアというイベントにて小説掌編集の頒布を予定しております!
稚拙ながら私の作品も掲載しています。
ホールの具体的な場所等は、ここで載せても大丈夫なのか心配なので、活動報告の方に載せたいと思います。