「征途」原作のあらすじ
一九四四年一〇月、合衆国軍のフィリピン奪還作戦に伴い、帝国海軍は「捷号作戦」を発動した。それは、レイテ島・タクロバンで上陸作戦をおこなう合衆国上陸船団を撃滅するというものだった。
戦艦〈長門〉が敵機を引き付けたことにより、帝国海軍が建造した最後の戦艦〈大和〉〈武蔵〉を中核とする第一遊撃部隊は合衆国旧式戦艦群を撃滅し、船団を壊滅させることに成功する。
この戦いにより、合衆国は対日進攻計画の変更を余儀なくされる。フィリピン奪還作戦は中止に追い込まれ、沖縄進攻作戦は二カ月遅延した。加えて北海道にはソ連の侵攻部隊が上陸してきた。
〈武蔵〉は沖縄沖、〈大和〉は北海道で、それぞれ帝国海軍最後の咆哮を挙げた。
一九四五年八月三〇日。太平洋戦争が終結したとき、日本は南北に分断されていた。
「日本国(南日本)」と「日本民主主義人民共和国(北日本)」。
ふたつに分かれた日本は、北海道で、ヴェトナムで、そして砂漠の地で干戈を交えることとなった。
そのような世界で、戦艦〈大和〉、いや超大型護衛艦〈やまと〉は、南日本の守護神、海上自衛隊の女帝として君臨した。
一九九四年七月。北日本の独裁者の死をきっかけに統一戦争が始まった。超大型護衛艦〈やまと〉は水上部隊の一員として参加、戦争終盤に北日本のIRBM基地を撃破することに成功する。
ほどなくして北日本は崩壊、日本列島は五〇年ぶりにひとつの国として再生の道を歩むこととなった。
一九九五年八月。沖縄宇宙港から、世界初の実用型宇宙往還機が宇宙を目指して飛び上がった。
これから綴る物語は、日本の再統一後、現代社会の片隅で生きる、「僕」と「彼女」を描いたものである。
決して趣味が合っていた訳ではない。まぁ、確かに、どちらもコミケに──僕はサークル参加、彼女はコスプレ参加をしていたけれど、そんなことは決定的な要素じゃない。
まぁでも、出会いはやっぱりコミケ。例の感染症が蔓延するちょっと前、僕は2019年のC96で艦船擬人化コンテンツのキャラクターを演じていた彼女を見かけた。スラリとした長身、自己主張の強いバスト、そして整った顔立ちに見え隠れする理知的な瞳。
そんな姿に一目ぼれをしたのは、確かに僕だ。それは間違いじゃない。でもそれだけじゃない。
幸運だったのは、ふたりの間に共通の知人がいたこと。これが第一歩。
そして、コミケ終了後、なんとかかんとか場をセッティングしてくれたのが第二歩。
僕と売り子をしてくれた友人は、その知人の誘いで彼女と彼女のグループと合同での打ち上げをすることになった。女性と接する機会のあまりなかった僕は、打ち上げの席で彼女に接近する機会を伺っていた。
どうしたらいいのだろう、悶々としている内に、例の知人が彼女を紹介しにきた。
僕はしどろもどろになりながら自己紹介をした。彼女も微笑みながら自己紹介をしてくれた。知人は「後はおふたりで」とだけ言い残して他の卓に行ってしまった。
彼女は僕に「どんな小説を書いているの?」と尋ねてきた。「これこれこういう内容なんだ」、とかなんとか。僕は小説を書き始めたきっかけや、小説に隠された意図なんかを熱弁していた。その様は多分、完全にオタクのそれだったと思う。
そんなオタクの戯言を、彼女は興味深そうに聞いてくれた。そして僕がいつか、小説で身を立てたいと言ったことも。
そして、これが最後で、決定的な始まりになったのは次のやりとりからだ。
一次会も終わり、次の会場へ移動する時だった。みんなで歩く繁華街の両側はコンクリートジャングルで、空は真四角く区切られていた。集団はいくつかに分かれ、僕は彼女と連れ立つ形になった。
お互い、なんとなく交わす言葉もなく、どうでもいい話題をポツリ、ポツリ。
段々居たたまれなくなってきた頃、雲が流れて四角い空にお月様が浮かんだんだ。薄汚れた都会のジャングルで、お月様は唯独り、誇り高く輝いていた。
ふと横を見てみると、彼女もお月様を眺めていた。その横顔は悲しいほど綺麗だった。
僕は躊躇いがちに、ただ断固として言った。
「月が綺麗ですね」
その時、彼女は微笑んで応えてくれた。
「本当、綺麗ですね」
しばらくふたりで、そのお月様を眺めていたんだ。そしてこれが、僕らの始まりだった。