二〇二七年二月一六日
東京駅 東京都
僕らは6時台の新幹線に乗るため、東京駅のホームに立っていた。目的地は函館。僕の実家だ。
2月半ばの東京は、空気がキンと冷えていた。
「寒いね」
彼女がつぶやいた。
「もうすぐで列車が来るよ。そうなればホカホカだ」
〝あぁ、実家に帰るのは何年振りだろう〟
「着いたら驚くと思うよ」
「寒いから?」
「多分、君が想像するより寒いよ」
〝それに……〟
出発した。大宮からは先は新幹線らしい加速を開始した。宇都宮からは本領発揮だ。瞬く間に移り変わる車窓。
「速いね」
「うん、なんせ360キロ運転だからね」
「それって、どれだけ速いの?」
「そうだなぁ、最初の新幹線が210キロ運転だったから、だいたい1・7倍のスピードで驀進しているんだよね」
「へぇ」
「速度自体は大馬力モータを載せればなんとかなるんだけど、騒音問題の解決の方が大変なんだ」
「そうなの?」
「凹凸があれば音を発するから、なるべく滑らかに、先頭車はほとんどノーズになって客室がなくなっちゃった」
「それで代わりに荷物を載せているのね」
北上するにつれ、徐々に風景が白く変わっていった。
「雪だね」
「うん」
2時間半ほどで青函トンネルを出ると、北海道の風景が広がっていた。
「真っ白だね」
「うん」
僕は言葉が少なくなっていた。
3時間で新函館北斗駅に着いた。僕らが乗った便は、スイッチバックして函館駅に向かった。
函館駅に列車が着き、僕らはホームに降り立つ。白い息が立ち上がる。
「ホントに寒いね」
「うん」
流石に、彼女は不思議そうな顔をしていた。
「どうしたの、帰ってきて嬉しくないの?」
「いや、嬉しいよ……少し歩こうか」
「うん、いいよ」
「足元が滑るから気をつけてね」
普段は彼女がリードしがちだけど、今回ばかりは僕がエスコートした。恐る恐る歩く彼女の腕をしっかり掴む。
駅前のロータリーをぐるりと回って電停のある通りまで出た。
街は大分寂れたけれど、それでも僕にとっては忘れられない風景が広がっていた。無口な民衆、朝市、路面電車、そして真っ白に化粧付いた函館山。
……反応弾に焼かれても、再び立ち上がった逞しき我が故郷。
「あれが函館山なのね」
「うん」
ふと、今日に至るまでの来し方を思い出す。つい視界がぼやけてきた。彼女が心配そうに尋ねる。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫……やっと……やっと」
「うん」
「君にこの景色を見せることができた」
「わたしも」
「うん」
「あなたとここに来れてよかった」
僕らは泣きながら抱擁した。
「彼女と僕(WEB版)」 了