西暦2011年。
—————……この世界に、神なんていない……。
赤毛の少女は走っていた。
—————この世界に、神なんていない!
喉は罅割れるようだった。脚は震えることも忘れ去った。何もかもをも振り切るようにしてがむしゃらに走っていた。だと言うのに、目の前に広がる惨状と、鼻腔を刺す硝煙と死臭は拭いきれない。
ここは、
少女は走らなければならなかった。少女は他者を殺めてでも生きなければならなかった。理由は忘れた、そのはずだ。ただ、生きる意味を求める為に走っていた。
同じ境遇の子供の死体を踏みつけて、走る。零れた臓物と血で塗れた大地を踏みしめて、走る。後悔と絶望を振り払うために、走る。
「ッッ!」
目の前には戦車があった。既に砲門は自分の方向に向いている。武装した大人の男たちがライフルを構えて走って来た。
「ッ!」
死を覚悟した。……その時だった。天から桃色の光の柱が降り注いだ。
「……?」
日が暮れる空に、人影が浮いていた。戦車の操縦席を寸分違わず撃ち抜き、兵士たちを一瞬にして蒸発させた『その存在』は、戦場に似つかわしくないほどに美しく思えた。
真っ白な機械の鎧。背面から浮かび、放射状に伸びる飛行翼。そしてさらにそこから天に広がる、
「ぅ、あ……」
銃を取り落とす少年兵の少女。神を信じなかったはず彼女は、その言葉を思い出した。
「白い……、天使」
「……は?何でISの世界にGN粒子あんの?」
時は西暦2007年。齢十歳となった
「自分の名前が『篠ノ之束』な時点で嫌な予感はしてたんだ……。でもここまでヤバイとは思ってなかったんだけど?おかしいよね?こんなのおかしいよ!ずぇぇぇったいおかしいっ‼」
待て待て、落ち着け、冷静になろう。現状の把握をしてみよう。そうじゃないと本当に頭抱えることになるもん。
—————『インフィニット・ストラトス』、というラノベがあった。生前の話だけどね。その内容をざっくり言えば、女性にしか使えない兵器ISを主人公の男の子が動かして、女子校に入学してしまう……云々という学園ラブコメだった。ただし学園要素は水星の魔女な感じ。うん、厄ネタですね。国際情勢とか鑑みても、裏じゃフレッシュトマトになる奴出てそうだし……。
そんなIS世界の歪みの元凶とも言える、パワードスーツISの設計者。スパコ並みのナチュラルだった人物が篠ノ之束………、つまりは今の私である。
ただ、原作の篠ノ之束は「細胞レベルでオーバースペック」とか言っていたけど、私が入ってるこの体のスペック、そんな言葉じゃ説明つかなくない?だって小学生の時点でもう『イノベイター』化してるんだけど?
イノベイター。これはロボットアニメ、機動戦士ガンダム00という作品に出現する新人類のこと。つまり、人間とは遺伝子レベルで身体組織が違う生物なのだ。劇中で出て来た設定だけでも、『空間把握能力や情報処理能力が格段に向上』、『脳量子波を用いたテレパシー染みたコミュニケーション能力』、『細胞の変化により身体能力が高いうえ老化速度が抑えられる』、などなどの旧人類とは異なる特徴を持っている。
……うん。インチキ能力も大概にしろって言いたくなるよ。普通の人でもこれでしょ?私の場合、素でスーパーコンピュータな頭で人類最高の身体持ってたやつが、神経系の情報を受容する媒体が量子に変わったってことでしょ?頭脳が量子コンピュータになってる戦略級兵器な人間って、これ何と戦うの?ハイスピードバトル学園ラブコメの世界観変わっちゃうよ!
つーか私、別にISとか作る気全ッ然無かったんだけど!何ならこの頭で人と関わらずにずるずるニート生活して、金だけ貯めるだけの自堕落な生活の方が合ってるんですけど!原作でもISなければ防げた戦いだらけじゃん!
でも脳の構造が変わった結果、周囲の状況から未来を演算くらいできるようになっちゃったし!しかもあり得ない精度でサクサク技術革新のテクノロジーのアイデアが浮かびまくるし!これを公表して生活を豊かに、とかできそうだし……良心が、良心が痛む……!
何より、この世界にGN粒子があるなら、遅かれ早かれ
まじで!どーしよう!
「……。……~~~っ!……っ。とりあえず迎えにいこっか、主人公たち……」
量子で思考できる脳をもってしても、結論は一先ず保留することになった。
■
目の前には、
「…………ぅぅぅッ!」
……なのだが、気の触れた狂犬みたい。うーん、警戒心丸出しのご様子で……。まぁそれはそっか、単身でクソみたいな研究してた大人連中全員ぶち■してるもん。……ほんと、倫理観無くなっちゃってるな、私って。
「ん?」
……あれェ!?何でちーちゃんの眼も金色になってんの!?原作でぴかぴかしてたの、いっくんだけでしょ!?
どーいうことこれ。サルベージした廃棄データから何かわかるかな、何々……。は?
公的には死亡したアメリカ軍人、Mの脳量子波を参考にして作られた人造人間のイノベイター…………、イノベイド量産計画?完成品のイノベイド塩基配列パターンMタイプ1000番……織斑千冬?
「…………マジでふざけんなよ、この世界……」
改めて、CE並のこの世界に殺意が沸いた。
西暦2021年。
「……束。お前は『イオリ・A・シュヘンベルグ』という偽名を使い、ISを始め、人類を豊かにする様々な技術を世に発表してきた。だがお前は人間を嫌い、こんな孤島に一人で過ごしている」
私が隠れ家としている南国の孤島の一つに、ご足労してくれた幼馴染とチェスをする。むぅ……二勝二敗の接戦だ。流石ちーちゃん。先生としても忙しいだろうけど、こうしてたまに時間を取ってくれる友人がいるのは嬉しいね。
「違うね、ちーちゃん。私が嫌っているのは、知識を誤った方法で使い、違いや差別に囚われ、真実を見失う連中だよ。それらが誤解、不和、争いを世界に振りまく。……ねぇちーちゃん、こんな世界で楽しい?私は、嫌だね。もっと人は分かり合うべきだと思わない?」
「……それがお前の求める世界か?」
「そうしなくちゃ人類は、無限の果ての空へ……、遥かな宇宙へ旅立っても、新たな争いの火種を生む。そんなのは、哀しいじゃん?」
「束……」
ここ数年で感じたことをちょっと原作イオリアエミュして言えば、神妙な顔をして私のことを見て来るちーちゃん。ほんっと、出会った頃に比べて感情豊かになったよね。お母さん嬉しい。いや、肉親じゃないんだけどね?実質的に育てたの篠ノ之家だし、その中で勉強とか教えたの私だし、多少はね。
でもねぇ。結局原作のうさ耳付けた私の通り、IS作ることになっちゃった……。偽名で発表しただけだし、実家の父母に迷惑はかけてはいないんだけど、やっぱり世界はこうなるよね、って結果でした。まぁ、それを踏まえての計画なんだけどね!
はぁ。世界の悪意が見えるようだよ……(男女差別)。しょーっっもな!お前ら良いのか?GN粒子に惹かれて
「—————それではな。久しぶりに会えて、本当に良かった。今度は柳韻さんたちにも顔を見せてやれ」
「あーうん。そだね。時間が取れれば日本に帰るよ」
ちーちゃんは
「……ま、私もIS学園行く予定なんだけどね?」
ここ十年で色々な分野に手を伸ばして、来たると思しきクソヤバ事案に備えて来た。とある国の王家の方々と繋がりを得てISの材料を秘密裏に手に入れることもできるようになった。
あとは暇な時間にGN粒子発生時のメカニズムをノートに書いたり、粒子変換装置の設計図を描いたり、作れやしないけどMyガンダムみたいなのも考えてみたりしてた。ちなみに名前は
(それにしても、私以外にも結構いたんだよねー、イノベイターって)
でもねぇぇぇ…。00でも言われてたように、GN粒子は自然界に普通に存在するものだけど、人類が数十世代くらい浴びないとイノベイターに変革しない、ってぐらい少量だし。ホント、この私の情報収集能力で集められた、
(本当は戦力増強というか、将来起こりうる例の為にイノベイター覚醒を促しておきたかったけれど、現状はこれで限界だったし………)
ちなみに当時の私はこんなことを思っていた。『イノベイターを増やそうにもトランザムバーストはできないし………あ、そーだ。無限のエネルギーを生成するISコアに、電力式GN粒子変換装置のGNドライヴ[T]を取り付ければオリジナルの太陽炉とほぼ同じことできるんじゃね?』と。
まぁ、流石にオリジナルと同レベルの性能になるかは怪しいけれど、ISコアをTDブランケットの代用品にできれば色々とできそうだなー……そう思って数個、試作機を作ってみたんだ。
……なんか、一基だけ発生するGN粒子が
そんなこんなで、白騎士事件起こす数か月前、
「はーぁ……なーんか幼馴染からの信用が重いなあ?あれかな、命の恩人だからかな?」
「は?九死に一生得たら脳くらい焼かれんだろ、普通」
「うーむ、君が言うと色々説得力が凄いよ……
「……、うっせぇ」
無人島の豪邸に、私以外の声が響いた。暗がりから数人の足音が聞こえてくる。
「それで、良かったのかしら?あの子に任せて。実力は知っているけれど、まだ十五歳の子供でしょう?」
「彼女には、こちら側で世界と戦う理由があった。それだけだよ、
私は着ていた白衣を脱いだ。その下から現れるのは、パーソナルカラーが差し色になった近未来的な服。……つまりガンダム00セカンドシーズンで、ガンダムマイスターやソレスタルビーイングのメンバーが使っていたデザインそのまんまな制服である。
ちなみに私のパーソナルカラーは赤紫。金髪の美魔女様は炎のような赤で、蜘蛛のねーちゃんは臙脂色だったりする。
「それに、オータムのアレは局地戦闘用だし、スコール……君の方に至っては過剰殲滅能力過ぎるんだよ。だから今回のお披露目には
瞼を閉じて、再び開ける。脳量子波に反応して私の眼……天然の
遺伝子レベルでオーバーホールされた頭脳が、これからの未来を弾き出そうとしていた。
「そろそろ作戦開始時間だね、じゃあ、始めよっか」
『……この時期にUSAは新型ISの発表をするとはな』
黄昏のような、
(—————IS学園に初の男子生徒が入学したしね。ロールアウトを繰り上げてでも発表をぶつけるさ。豪儀だねぇ。まぁ、それもこれも
『……ヨンロクサンゴマルイチ、イチイチキュウニーサンイチロク。目標地点を確認した』
(—————あ、露骨に話題逸らしたね。はいはい、オペレートを再開するよ。……クロエ、頼める?)
黒い機体の少女と会話をしていた通信の相手が変わる。明るく朗らかな女性から、凛として涼やかな少女の声に変わった。
(—————……オペレーターを交代しました。では、これよりミッションプランの実行を開始します)
『了解—————ミッション、ファーストフェイズを開始する』
成層圏近い空域から、赤い光を靡かせて急転直下に飛び降りる一つの機影。それは、従来の『インフィニット・ストラトス』の速度を容易く凌駕していた。
目下には、アメリカ大陸の国土が見える。彼女はアメリカ合衆国、北西の湾岸部へと近づいていく。
『目標【
マッハ十以上の速さであるものの、赤いGN粒子を放つ蝶の翅型のスラスターユニットが自在に慣性を操作し、急停止さえ重力を感じさせない挙動の機影。第十六国防戦略基地、『
『サイレント・ゼフィルス・“フィンスターニス”……【黒騎士】。目標を殲滅する』
■
「……ん?なぁよ、ナタル。演習にあんな機体使うって言ってたか?」
ふと頭上を見上げたアメリカ合衆国国家代表にしてIS震牙の操縦者、『イーリス・コーリング』が気付く。彼女の瞳に豆粒のような機影が映った。
赤い光を放つ機体を見て首をかしげるのは、IS銀の福音を纏う女性『ナターシャ・ファイルス』。
「……いいえ、イーリ。あれは
「ハッ、つまりはそーいうこったな!」
黒い騎士のISは、スラスターから赤い粒子を放ちながら悠然と下界を見下していた。二機のISのことなど、更に来たるはずの増援のことすら歯牙にもかけないというかのように。
『……脳量子波コントロールシステム、オールグリーン。同調開始。ランサー・ビット、シールド・ビット、射出する』
腰部やスラスター下部にマウントされていた騎槍を模した刺突武器が四基、盾を思わせる武器が六基、黒騎士の周囲を浮遊し始めた。さらにそれらにオレンジ色のビームが発生し、ランサー・ビットは鋭利さが増強、シールド・ビットには蝶の翅を思わせる形状のビームカッターが展開される。
—————光の軌跡を描き、それらのビットは
『……鬱憤が溜まるな、殺さないというのは』
アメリカの軍事施設に火柱が上がる。軍事兵器やISの破壊によって爆発が巻き起こる。そして、ビットに襲われる軍人たちから沸き上がる悲鳴。
「BT兵器!?ここまで卓越した操作能力だなんて……!?」
「っ……どこのどいつだ?テロ組織か、もしや
「イーリ!?何をする気!?」
「当然、戦うんだよ。未確認だろうと米国の領土に勝手にISで領空侵犯しやがったんだ。他国に口実作られちゃ敵わねぇしよぉ!」
上空に佇む黒い騎士に向かって、ファング・クエイクは飛翔する。背面のスラスター四基による
だが…………。
『……圧縮粒子、最大解放』
黒い騎士は腕に、巨大な銃火器を展開した。
『GNマルチランチャー【スターブレイカーMkⅡ】、フルバースト』
大口径主砲に紫電が奔る。そして銃口の内部から煌々と漏れ出すのは、橙色の光。
「な————」
それを感じたのは一瞬だった。即座に射程圏外へと離脱したのは、従軍経験が成せる技か。刹那の前まで自らがいた位置を、オレンジ色の極太い光が通り過ぎていく。
そして、そのビームは地上にあった基地施設を焼き払う。スクランブルによって丁度発進した地上のIS部隊にさえ、その火の手は襲い掛かっている。
「がッ……、くぅ……」
「ナタルっ!」
地上へと戻ったイーリスに待っていたのは、死屍累々となった
幸い非戦闘員の離脱は済んでいたようだが、ここに配備されていたほぼ全てのISが使用不能の事態に陥っていると言っても過言ではない。
「何、なの……あいつ、は……」
譫言のように呟くナターシャを抱え、イーリスはハイパーセンサーを用いて頭上の機体を観察する。
「……!」
ファング・クエイクのセンサーは正体不明機の頭頂部バイザーに、四文字のアルファベットを発見した。
「……
「ISは、分かるけど、GN…?何かの略称……?」
施設を破壊し尽くした謎のISは、誰かに向かって言葉を紡ぐ。
『ミッション、ファーストフェイズ、終了。
(—————了解。ミッションプランを継続、
ジニス、彼女はそう言った。
「
—————これが、『白騎士事件』から十年を経て再び起こったIS第二のターニングポイント、世界の革新となる武力による紛争根絶……『黒騎士事件』の始まりであった。
※要約
IS世界「GN粒子が自然発生しちゃってるから絶対天敵としてELS一万体がすぐ(地球視点)来る可能性大!イノベイターとしてあなた覚醒させるから助けて!」
憑依転生者束さん「……は?」
↓
現在の束さん「GN粒子通すIS作ったはいいけどくだらねぇ女尊男卑やってる場合じゃねぇって‼そうなる可能性考慮してたけど初歩の初歩だよコレ!?ISでイノベイターの母体になれる確率の高い適性者見つけてヴェーダに登録して、同時並行で木星行ってGN通訳機作んないと……」
IS世界「ごめんもうちょっとでELS着いちゃう!早く!はーやーくー!」
現在の束さん「早くっつったってあと数百年くらいだろ……は?あと数年……?ああああああああ(キチゲ発散)!—————しゃーねぇ、私設武装組織作るか……」
クソみたいな強行軍。イノベイター化した天災一人でもこれはキツイ……。