鷺澤有里栖、小話集   作:サーたん

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けっこう二乃も好きな作者。


有里栖、ゲーム奮闘記4

 日曜日。朝食は叶方の家で摂り、朝には家に戻ると、何やら台所で煮込んでる様子。不穏な匂いがする。やや不機嫌な二乃が出迎えた。そら姉は不在みたいだ。

 

「兄さん、叶方君の部屋に泊まって何の用事だったんですか?」

「ただ遊びに行っただけだ」

「……何か怪しいですね。それも気になりますが……それよりもそら姉が兄さんの心配してましたよ。ちゃんとご飯食べられるかって」

 

 二食も外食してきたら、我が家の食卓を守り続けてるそら姉が心配するのは無理もない。

 

「ああ、わかってる。そら姉にはちゃんとメールで連絡してる」

「それなら良いですが」

 

 二乃から理解を得られたみたいで、喧騒な雰囲気が霧散していく。

 

「それで鳳城さんは大丈夫なんですか?」

「今朝、鳳城からメールが来てるぞ。熱は微熱までは下がって落ち着いてるようだ」

「そうですか、それは大事がなくて良かったです」

 

 鳳城曰く、微熱が下がらないようなのでまだ寝ているから、しばらくはゲームの指導は無理らしい。今日は午後からのゲームの予定は、有里栖の独学、俺が対戦相手になるくらいだ。あとは白河が連れて来る予定のまだ見ないゲームプレイヤーとの練習試合だ。因みに午前中は家の掃除があるので有里栖と一緒にいられない。少し残念だが、いつでも綺麗に有里栖を向かい入れる空間にしておきたいからサボれない。だが、掃除の前に突っ込みたいことがある。

 

「なあ、何かまた作ってるのか?」

「ええ、有里栖さんの応援のために新作料理を作ってます! 腕によりをかけてです」

 

 得意げに笑う二乃。有里栖が料理を褒めた一件により二乃は料理作る頻度が増えていた。そら姉今いないのはそういうことなのか? いやそんなわけないよな? そら姉は人格者だし。これを食べるであろう、有里栖が心配になる。以前有里栖が喜んでいたあんなミラクル料理、二乃が二度と作れるとは思えない。

 

「兄さん、掃除終わったら味見に付き合ってくださいね」

「もう一生掃除してようかな……」

「何か言いましたか?」

 

 悪魔みたいな微笑みを浮かべる我が妹。どうやら逃げ場はない。俺は犠牲になるしかないらしい。有里栖への被害を最小限に食い止めるために、覚悟を決めて俺は二乃と掃除を始めた。

 

「ちわーっす、一澄、二乃ちゃん」

 

 ゲームセンター近くの通り。有里栖が遠目から俺たちに気がつくと、有里栖が笑いかける。辺りを照らす太陽に負けない、眩しさだ。

 

「有里栖こそ、ちわーっす」

「随分古い挨拶ですね。こんにちは有里栖さん、約束の物です」

 

 二乃が有里栖に小さな小包を渡す。例の弁当だ。有里栖は無邪気に喜ぶ。

 

「ありがと、二乃ちゃん。昼食作ってくれるっていうから楽しみにしてお昼抜きにしてきたんだ。食べてからゲームするね!」

「ゲームできなくならないと良いが……」

「に・い・さ・ん?」

「二乃の料理が美味しいと良いな、うん」

「兄さんも食べてくださいね。味見ほど遠慮しなくていいので」

 

 近くのベンチに三人並んで腰掛ける。有里栖が食べるのに俺が食べないのは良くない。というか彼女にこんな危険な任務を一任するわけにはいかない。味見のときは……思い出したくない。だができることはやったはずだ。どうか有里栖、無事でいてくれ。ほぼ同時に有里栖は弁当のおかずを食べた。もぐもぐと咀嚼する。俺は……顔に出さないように振る舞っていた。

 

「これは……」

「どうですか? 私渾身の自信作の味は?」

 

 有里栖はじっくり味わって食べてるのか、すぐには二乃には答えなかった。表情に陰りがない。

 

「このエビチリは刺激的な味だね。口内で噛んでるだけで、脳が活性化していくというか、目が冴えるというか……一言で表すのが難しい、とにかく奥が深い料理だよ。二乃ちゃん!」

「あ、ありがとうございます。有里栖さんがそこまで言ってくれるなんて……作った甲斐があります」

 

 有里栖はどうにか自分の中の感動を俺たちに伝えたいもどかしさがあった。有里栖の気持ち二乃は俺にドヤ顔を見せる。エビチリは味見した時は辛すぎて食えなかった。砂糖で甘くしようとしたが二乃に防がれた。そんな必要なかったでしょうと言いたげな二乃の表情。どうも有里栖は料理の適応範囲が広いようだ。案外、二乃のような料理下手な人間とは相性が良いのかもしれない。他の料理も有里栖にだけは好評に終わって、ゲームの練習に。その時になると白河が姿を見せる。

 

「やあ、みんな。今日は晴天。絶好の練習日和ですね」

「ゲームの練習は室内だけどな」

「気分の問題です。雨だったらテーションが上げにくいでしょう。あ、来ました。こっちこっち~」

 

 白河に手招きで現れたのが二人の男女。この二人が今回の有里栖の練習相手らしい。しかしこの二人……

 

「今日はこの方との練習試合をしなければいけないらしい、ハニー」

「浮気はやーよダーリン♪」

「心配するな。私に相応しいフィアンセはお前しかいない、ハニー」

「キャー大好きよダーリン♪」

 

 恥ずかしいくらいイチャコラしてるカップルだった。有里栖が恥ずかしげだが、どこか羨ましそうな目でカップルを眺めている。言葉を失っていた白河の隣へ。

 

「あのカップルも白河がくっつけたのか?」

「はい、恋愛請負人のかなり初期の頃に。彼たちは初々しいカップルだったはずですが……これほど進歩してるとは……いやはやこれは……」

「兄さんたちはあんなバカップルにはならないでくださいね」

「初対面の相手にバカップルとか……お前、かなり失礼だぞ」

 

 ぼそっと忠告する二乃に俺は一応突っ込むが内心では同意だ。しかしこんな二人が有里栖のゲームの練習相手になるのかと疑問が湧く。お互いに自己紹介を済ませる。

 

「さて鷺澤さん、練習の場に案内してくれるかしら?」

「え? あ、こっちだよ。佐藤さん今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ対戦お願いするわ」

 

 カップルの女の子、佐藤さんが有里栖に声をかけてくる。急な真剣な声色に有里栖は戸惑うが、すぐに先導する。俺たちの疑問に答えるかのように男、田中君が口を開く。

 

「彼女はゲームになると人が変わるのさ」

「佐藤さんはどれくらいゲームが上手いんですか?」

「やればわかる」

 

 端的に答え、田中君は有里栖たちに追いつくように歩調を速める。俺たちも後に続いてゲームセンターへ入る。早速、有里栖と佐藤さんの対戦へ。

 

「佐藤さん中々やるね。負けないよー」

「鷺澤さんこそ、学園のアイドルの名は伊達ではないということね」

 

 彼女らはゲーム上で、一対一でバチバチにカートを走らせていた。だが、二周目に入ると段々と有里栖が離されていく。技術では佐藤さんの方が上のようだ。歯を食いしばる有里栖。

 

「有里栖さん頑張ってください!」

「鷺澤、踏ん張れー」

 

 二乃や白河の声援に俺ははっと気が付き、有里栖の近くへ。右肩にそっと触れる。友人の応援や俺の気持ちが伝わったのか有里栖の顔色に冷静さが戻る。それから有里栖の操作の精度は戻り徐々に距離を詰めていくが、アイテムを使ってもゴールまでに追いつくことは叶わなかった。

 

「学園のアイドルに勝ったわ。ダーリン♪」

「ああ、悪くなかったな。ハニー」

「勝負事には相変わらず釣れないわね。でもそんな真摯なダーリンも好きよ♪」

「私も好きだ。ハニー」

 

 イチャイチャする二人が落ち着くのを待って有里栖が声を掛ける。

 

「ええと佐藤さんはプレイ日数はどれくらいなんですか?」

「以前数回やったくらいですかね。鷺澤さんも同じくらいの経験ですか?」

「え、う、うん。私も佐藤さんと同じくらいです……」

 

 有里栖が少し驚くように答える。やや口調が低くなっていた。あ、これは少し不味いな。自分よりセンスのある人間と戦って、有里栖が凹んでる。

 

「それで試合を続行すればいいのかしら?」

「えと、大人数の対戦も並行にと思って。大丈夫ですか?」

 

 しかし有里栖は首を振って、悔しい思いを振り切って前を向く。

 

「ええ、ワタクシは構わないわ」

「次の次はボクも参戦するね。どうせ暇だしね」

「俺も混ぜてくれよ。有里栖の役に立ちたいからな」

「わ、私は有里栖さんを応援してます。ゲームの腕はからっきしなので! せめてそれくらいはさせてください!」

「皆、ありがとう。私、頑張るね」

 

 皆の励ましに有里栖は笑顔を取り戻し練習に励む。今日は休みだったが、他の客がこのゲームをやりたいと言ってくる者はいなく、有里栖はゲームに没頭できたようだ。ただ、若干有里栖が力み過ぎに見えたのが心配だ。

 

 今日は少し早くメンバーは解散した。なぜかと言うと鳳城の体調が気になるからだ。その足でスパへ。病人ということであまり大勢で押しかけるのは迷惑になりそうなので、俺と有里栖だけで向かう。

 

「詩名ちゃん大丈夫?」

「おかげさまで。まだ熱は下がらないですが楽にはなりました」

 

 ベッドに横になってるが、鳳城の顔色は先日より良くなっていた。

 

「鷺澤さん今日の練習内容、白河さんから聞きましたよ。大変だったそうですね」

「ま、まあね」

 

 苦笑いを返す有里栖。取り繕っているが相当疲弊してるのはわかる。

 

「体調崩した私があまり偉そうな事は言えませんが、鷺澤さんはまだ初心者。チャレンジャーです。少し練習した程度で自惚れてはいけません。どうか勘違いしないようにしないでくださいね」

「う、うん、肝に銘じるよ。師匠」

 

 師匠呼びを思い出したように有里栖は敬礼する。

 

「けっこう辛辣だな。鳳城は」

「優しくするばかりでは上達しませんからね」

「有里栖、鳳城なりの優しさだ」

「うん、わかってるよ。師匠」

「優しさではありません。それに優しくするのは私の役目じゃないですからね」

 

 俺に視線を向ける鳳城。わかってると目で返事をする。あまり病人相手に長居はできない。お大事にと退散した。スパを出て少しすると有里栖は表情を萎ませる。

 

「有里栖、どうした?」

「えーとね……もう一澄以外いないし良いかな」

 

 有里栖が俺に身を預けてきたので、そっと有里栖の体を受け止める。今の有里栖は、心もとないか弱い少女に見えた。

 

「どうした?」

「今日の練習中ね。少し……ううん一瞬心が折れかけた」

「有里栖……」

 

 有里栖はぼそっと呟く。有里栖らしくない暗い口調で。やはりな……今日、有里栖は佐藤さんに一度も勝てなかった。僅差ではなく、ある程度の力量に差が見られた。プレイ日数が負けてる相手に。それが猛烈に悔しいのだろう。今までマイペースの有里栖からは考えられなかった。だがそれだけ有里栖が、今回の勝負に真剣な気持ちで望んでるのが伝わった。

 

「今まで何か勝負事に没頭した経験がなかったせいかな。センスがある子にボロボロに負けて……数日でも本気で取り込んで負けると……こんなに悔しいんだね。知らなかったよ」

 

 有里栖が悔しさを表すように体を震わせた。俺は少しでも癒すように背中を撫でる。有里栖は競技中はずっとこの大きな感情を堪え、相手に立ち向かっていた。それだけでも有里栖は立派だ。すっと有里栖が俺から体を離す。俺に向き直ってきた。

 

「ーーそんな折れかけた私だったけど、ひよりんや二乃ちゃん、そして一澄のおかげで前を向けた。おかげで佐藤さんに立ち向かえた。一澄、ありがとうね」

 

 落ち込んだ有里栖はもう目の前にいなかった。普段の明るい有里栖だ。

 

「佐藤さんは強いけど、きっと杉並君はもっと強い。佐藤さんを余裕で倒すくらいの腕にならないといけない。師匠もそれがわかってらからさっき鼓舞してくれたんだよ。私、もっと頑張るよ!」

「ああ、中ボスにうろたえたらラスボスは倒せないな」

「うん、ラスボスに届く刃を作るために更に腕を磨かないとね」

 

 有里栖は俺の横に並んで歩き始めた。夜闇を照らす月より、輝かしい有里栖の笑顔。すっかり立ち直ったようだ。でもすぐに立ち止まる。ぎゅっと俺の右手を掴んでいた。顔が赤い。

 

「有里栖?」

「一澄……今日は私、帰りたくない」

 

 上目遣いで俺を見つめる有里栖。

 

「それは……」

「さっきはああは言ったけど、一澄から勇気をもらいたいな……駄目かな?」

「わかった。自宅に離れがある。弁当買ってそこで泊まろう」

 

 即座に決断した。二乃やそら姉には悪いが彼女に甘えられて断れるはずがない。幸い明日は月曜休みだから学校はない。返事の代わりに有里栖は背伸びして、俺と唇を合わせる。

 

「えへへ、一澄いこ?」

「ああ、行こうか有里栖」

 

 ニコニコと笑ってる有里栖の手を握って歩き出す。

 

「それにしても有里栖は積極的になったな。前までだったら急に泊まりたいなんて言わなかっただろう?」

「付き合うと女の子は変わるんですよ。私も自分の変化に驚いてるけどね」

「そうだな。有里栖は付き合ってもっと可愛くなったぞ。あと綺麗にもなった」

「そ、そう? そうだと嬉しいな」

「あら、随分と仲良しカップルがいるわ。ダーリン♪」

「口を挟むのは野暮だ。行くぞ、ハニー」

 

 さっと佐藤さんと田中君が俺たちから離れてどこかへ行ってしまう。いつの間に側にいたんだ。有里栖に夢中で全然気が付かなかった。有里栖も目を丸くしていたが、やがて顔が沸騰した。

 

「他の人に見られた恥ずかしい……」

「俺もだ……」

 

 離れに着くまで俺たちはやや気まずい雰囲気だった。あの二人のバカップルのことを、俺たちには言えなかったようだ。




佐藤さんと田中君はもちろんオリジナルキャラクターです。次回以降にもちょこちょこ出ます。
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