鷺澤有里栖、小話集   作:サーたん

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ご無沙汰しております。約一年ぶりの更新です。

D.C5to4ルミナスメモリーズ発売記念ということで書き溜めを一気に書き上げました。
早速最新作の有里栖ルートをやりましたが、有里栖可愛かった! 有里栖成分補給完了! 数年ぶりの推しの子の供給ありがとうございます、サーカスさん!

さて関係ない話はこの辺りで止めましょうか。今回は有里栖と有里咲のお話。最新作のネタバレは無しなのでご安心下さい(有里栖のゲーム奮闘記の続き更新はもう少しお待ちください)

当話の時系列は有里栖ルートの有里咲が使命を全うし、何とか有里栖の世界に戻れたという状況になります。どうやって有里咲が使命をこなしたかは省きます。また一澄と有里栖は恋人です。今作の他の話の設定を受け継いでるという解釈でお願いします。

前置きが長くなりましたがそれではどうぞ。今回はヒロインというよりも主人公感が強い有里栖です。


鷺澤有里栖が魔法少女になった日

 

「うう……」

「君どうしたの?」

 

和菓子屋さんの前に、小さな女の子が泣きじゃくっていた。私はしゃがんで目線を合わせる。

 

「あのおかし食べたかったのに……売りきれだって……」

 

女の子の視線には和菓子屋のガラスケースに向いていた。売り切れという紙が貼ってある。

 

「あーそれは悲しいね。ここの和菓子屋さんのどら焼きは美味しいもんね」

 

お菓子が大好きな私には女の子の気持ちが痛いほど理解できた。私はすぐにどうするか決める。

 

「私がこのお店のどら焼き出してあげるね!」

「お、お姉ちゃんが?」

 

女の子の目から期待の色が浮かんできた。

 

「うん、任せてよ。魔法少女の有里栖さんがこのお店のどら焼きを……」

 

私は手のひらに全神経を集中させる。

そして、私は手のひらに重さを感じた。どうやら成功したみたい。

 

「ほら、あのお店のどら焼きだよ。どうぞ」

「わーい、ありがとうお姉ちゃん!」

「どういたしまして、じっくり味わって食べてね」

「……うん、うん、美味しいよ!」

「そっか、良かったね」

 

どうやら魔法は失敗していないようだ。女の子は大喜びで帰っていく。女の子の反応に私も満足し帰路につく。そこで私を呼ぶ声がした。

 

「有里栖お嬢様、朝ですよ」

「あ、あれ可純さん……おはよう」

 

私の意識はそこで暗転し、目の前には可純さんが横たわった私を覗き込んでいた。私は夢を見ていたようだ。珍しく鮮明に内容を覚えている。とりあえず私は体を起こす。

 

「おはようございます、有里栖お嬢様。朝食の支度ができましたので、支度をして早くキッチンにいらして下さい」

「う、うん。呼びにきにてくれてありがとう」

「いえ。そうそう……今日の朝食にはお歳暮でフルーツをいただきましたので、朝食の後のデザートで出させていただきます」

「本当に! 桃? それともパイナップル? 何だろう……今すぐ行くよ!」

 

私はフルーツという単語に眠気が吹っ飛んだ。

 

「有里栖お嬢様、着替えてからいらっしゃってください。寝癖が酷いですよ」

「え? わあ、本当だ……ありがとう可純さん!」

 

自室の鏡には髪が乱れた私が映った。慌てて鏡に寄っていく。髪を整えながら私は今朝の夢を思い出していた。私が手のひらからどら焼きを出していたあの光景。今の今まで考えたことがなかったけど、魔法で食べ物が出せるのかもしれない。朝食のひと時を満喫すると、早速私は有里咲へ連絡して会う約束を取り付けた。彼女は正真正銘の魔法使い。何か知ってるかもしれないからだ。

 

「有里咲、聞いて聞いて」

「有里栖、楽しそうにどうかしたの?」

 

朝早く、学校の屋上で有里咲と落ち合う。

 

「手のひらから甘いお菓子が出る夢を見たんだ。手品みたいですごいと思ったんだけど、魔法とかでそういうものって実現できない?」

「厳密に言うとできるよ。サクラの世界での魔法使いの中には、特定の食べ物を生成する魔法を使える人は少なからずいる」

「本当に! 私も魔法?のようなものが使えるしできないかなあ」

「うーん……有里栖には悪いけどはっきり言うと難しいかな」

「それだけ難しい魔法なの?」

 

私の問いに有里咲は少し考えてから解説を始める。

 

「物体生成は単純に難しい魔法なの。自分の体内エネルギーを変換し、特定の物体に変質させるんだけどこれが難しくて……やり方は知ってるけど、私にはできない」

「有里咲、すごい魔法使いなのにそんな有里咲にもできないの?」

「ありがとう。私はあくまでも世界を安定させる魔法使いとして育てられたからね。他の魔法は得意ではないんだ。習得も他人に比べて容易じゃない」

 

つまりは有里咲の持ってる魔法が自身に何らかの制限をかけてるということだろう、そう解釈できる。

 

「有里栖の解釈通りだよ。特別な魔法が、私の体に強力なデバフをかけてる。だから知識だけではどうにもできないの。流石有里栖、理解が早いね」

「えへへ、ありがとう。あとは確かこっちの世界と有里咲のいた世界と同じ法則が適用できるかわからないみたいなこと……言ってたよね?」

「察しが良いね。そう、サクラの世界で通用していた理論が同じようにこちらの世界で適用できるか、こればっかりは試してみないとわからないけどね。まあ難しいことには違いないけど」

 

有里咲に難しいと強調されたが、簡単に諦める私ではない。一澄と共に色々乗り越えられたのだ。そんな成長した私ならと意気込む。

 

「じゃあ早速その魔法をとやらを教えて下さい! 私、自分で食べ物を出してみたい!」

「そんな笑顔で頼まれたら断れないなあ……まあ、有里栖には色々恩もあるしそれを返す良い機会なのかもね」

 

有里咲は一人で頷くと私を振り返る。

 

「有里栖のお願い、喜んで引き受けるよ。でも私、魔法を誰かに教えるのは初めてなんだ。つまり有里栖が初めての教え子ってこと」

「有里咲の初めていただいちゃいました!」

 

有里栖が満面な笑みで微笑むと、有里咲も笑顔で答える。

 

「ふふ、初めてが有里栖は私も嬉しいよ。でも指導が温いと何年かかるかわからないから、おばあちゃん仕込みの厳しい教官モードでいくよ。有里栖覚悟してね?」

「有里咲が禍々しいオーラが漂ってくる……少し怖いなあ。でも私も食べ物を出さないといけないんだよ……どーんと来て! 有里咲!」

「ふふ、その度胸がどこまで通じるか見物だね」

 

有里咲による魔法の特訓が始まる。それは想像以上に厳しいものだった。

 

「えーと……有里咲一つ聞いて良いかな?」

「どうしたの?」

「私、魔法の特訓をするんだよね? どうして無人島まで来る必要があるの?」

 

 そう私たちは実家である鷺澤財閥の力を使って、孤島に来ている。

 

「魔法はね、大人のような精神力が要になってるんだよね。あと純真さ。後者は有里栖に既にあると思うし……実際に違う魔法は使えてるから残りの精神力を鍛えようってこと」

「精神力向上が無人島に来ることと何か関係するの?」

「当然あるよ。これから一ヶ月間、有里栖には無人島で生活してもらいます」

「え……ええええええ!? だ、だから有里咲、私にジャージで来いって言ってたんだ……」

 

有里咲の無茶苦茶な宣言に私は声をあげた。

 

「そう。有里栖には当分その服装で生活してもらうから。キャンプセットが一式あるからそれで生活してね」

「つまり食べ物は自給自足しろってことだよね……」

「そういうことだね」

「甘いお菓子の支給は……」

「あると思う?」

 

にっこりと有里咲が笑う。初めて私は有里咲が怖く見えた。思わず浜辺に膝をつく。

 

「私には耐え難い苦行だよね……一ヶ月もお菓子禁止って……初日から絶望だよ……」

「有里栖はもう諦めるの? 言っておくけど、サクラの世界ですごいって呼ばれる魔法使いはこれくらいの特訓は普通にこなしてるんだよ。それだけ精神力は魔法習得において大事ってこと」

 

有里咲は容赦なく畳み掛けてきた。それだけ真剣なのが私に伝わってくる。

 

「それにこの特訓のために有里栖のお父さんにはかなりお金を投入してもらってる。有里栖は父親のお金をドブに捨てるの?」

「そうだよね……今更後には引けないよね……わかった。何とか上手くやってみるよ!」

 

私は立ち上がってぐっと両拳を握った。

 

「有里栖には期待してるよ。あとシャワーやトイレはあるから。流石に私もそこまで鬼じゃないから。必要最低限はある。洗濯は自分で手作業でやってもらうけど……常坂君には随時、私から報告するから頑張ってね」

「うん、頑張る。帰ったら私……一澄に魔法を披露するんだ……!」

「有里栖、何かそれ死亡フラグっぽいよ」

 

私の魔法使いになるための特訓はこうして幕を開ける。

 

初日夜

 

「うう、虫だらけだよ……テントを閉めても蚊は入ってくるし……落ち着かなくて寝られない」

 

翌朝

 

「お腹空いた……やっぱりきのみじゃ足りないよ。釣りしてお魚確保しないと……自給自足って大変だよ……」

「おはよう、有里栖。元気が無いね」

 

有里咲が様子を見に来てくれたらしいのだが、片手に持ってるものがいけない。

 

「おはよう有里咲。あ、そのお菓子……良いなあ」

「うんうん、とっても美味しいクッキーだね。流石逢見先輩手作り。私お菓子そこまで好きではないんだけど、これは食べ過ぎちゃいそう」

 

美味しそうにクッキーを頬張る有里咲。私はその姿を羨ましそうに少しの間見つめたが、首を振って海へ。まだまだ先は長い。こんな序盤に禁断のお菓子を見ていたら耐えられなくなる。

 

「結局小さなお魚一匹だけか。思った以上に釣りって難しいね」

 

小さな魚を焚き火で焼いて食べる。味気ない食事だが、これしかないとわかってるとじっくり味わって食べざるを得なかった。

 

「でもこのお魚さんしっかり噛んで食べると美味しい」

 

そんな食事も私には新鮮だったせいか、何とか楽しめた。当分はこういう些細な楽しみを見出し、過ごそうと私は決める。

細々と食いつないで一週間後、今日は有里咲がお客さんを連れてきた。

 

「有里栖、無人島サバイバル、楽しめてますか?」

 

私の幼馴染である白河ひよりのこと、ひよりんが何か大きな箱のような物を持って島まで来ていた。

 

「ひよりん、わざわざ会いに来てくれたんだ?」

「ええ、有里咲から有里栖が頑張ってると聞いて。白河家の船を借りて応援へ参りました」

「わざわざありがとうね。無人島サバイバル何とか慣れてきたよ。このまま一ヶ月突破しちゃうからね!」

「そうですか。実に頼もしいですね。そんな有里栖に差し入れです! どうぞ遠慮なく受け取って下さい!」

 

私はひよりんが下ろしてきた荷物を注目する。あれは……思わず戦慄が走った。

 

「お、お菓子の詰め合わせセット……し、しかもこれって……」

「どうぞ、ボクからささやかなプレゼントです。どれも有里栖の大好物のはずですよね? 幼馴染のボクには有里栖の好みはリサーチ済みです!」

 

ひよりんが悪い笑みを浮かべる。これは応援ではなくただの妨害行為だ。

 

「ひ、ひよりん……私が今お菓子食べられないのわかってて……酷いよ……ねえ有里咲、たまには……」

「駄目だよ。そんな脆弱な精神の子には魔法は教えません。約束だからね」

 

有里咲はきっぱり否定する。

 

「そ、そんな……」

「ふふふ、有里栖さあどうする? お菓子たちが笑顔で君を待ってますよ?」

「ううう……我慢しなきゃ……でも食べたい……あのお菓子たちを今すぐ私のお口に入れたい」

 

私はお菓子の山の前で葛藤する。体を震わせながら。

 

「私が言うのも何だけどひよりん中々鬼畜だね」

「これくらいやらないと面白くないですよ。せっかくの無人島サバイバルなんですから。まだまだ序の口ですよ。こんなものは」

「主催者の私としては楽しみ半分不安半分ってところだね」

 

そんな会話はほとんど私の耳には入らず、私は重い足を立ち上がらせその場を駆け出す。やけくそ気味で。

 

「うわあああああああああああん! お菓子くんたち待っててね! 修行を終えたら真っ先に会いに行くから!」

 

こんな序盤で屈したくない。お菓子は修行後でも食べられる。でも魔法はこの苦しみを乗り越えた先でしか手に入らない。ここは堪えないと。何とかひよりんからの刺客をやり過ごす。

 

 

無人島滞在二週間目。目標の一ヶ月の折り返し地点まで来ればこの生活も慣れたもので、森を散策し食用のきのみを見つけたり、魚釣りも上手くなっていた。少しマンネリ化し出したが、これも修行だと私は割り切れるようになっていた。このまま残り二週間乗り切れる自信が付いてきた、そんな矢先にまさかのトラブルが起きた。

 

「雨? わ、けっこう強いかも」

 

今日は朝から空模様が怪しく、行動を早めていたがその予感は的中。空から雨粒が振ってきたのだ。それも短時間で雨足が強くなっていく。今日までは小雨程度で過ごせていたが、大雨は初体験だ。急いで寝床であるテントに避難したが、雨が思った以上に強く、風もテント越しから伝わるほどの強さ。テントが吹き飛ばされないか不安になる。雨が止むまで引きこもるしか無い。私はテントに籠城する。

 

しばらく時間が経過したが、風がさらに強くなって雨も豪雨と言っていいほどの強さに変わっていた。台風がこの島に上陸したのだろうかという考えが頭をよぎる。テントを支える杭がカタカタ揺れてるのがより一層、私の恐怖を煽った。

 

「有里咲……一澄……」

 

これから私はどうなってしまうのかそんな不安の心中、思わず私は大切な友人と大事な人の顔を浮かべてしまう。どちらでも良い、雨で空気が冷たくなっている。そんな冷え切った体を温めてほしいと私は無意識に虚空へ右手を伸ばす。そんな望み叶うわけないのに、海だってとても船を出せる天候でない。それに今は修行の身だ。このような苦難を超えなければ、魔法を扱うのに必要な精神力だって身につかない。そう思い立ったタイミングで、今までで一番大きな突風がテントを襲う。

 

「杭が抜ける……支えないと!」

 

テントを守る四方の杭のうちの一本が今にも抜けそうだ。幸い入り口付近の一本だったので、すぐにフォローに行ける。

 

「あ……このまま行ったら服が濡ちゃう」

 

だがそこで一旦思いとどまり、私は服を全て脱ぐ。どうせ誰もいない。雨で服を濡らしたら体が冷えて体調不良に直結してもおかしくない。幸い気温は高いのだ。濡れた体は体操服のズボンで拭えば良い。今はテントを守るのが先決だ。寝床は死守しないと。私は下着まで脱ぎ終えると、そのまま外に飛び出す。裸で歩き回るのは恥ずかしいなんて言ってられる余裕はない。外に出て一瞬でずぶ濡れになるほどの雨だ。打ち込み用のハンマーを持って、釘を打ち込もうとする。だが雨風のせいか難しく一本打ち込むのに時間を要した。

 

「……よし、何とか凌いだかな」

 

当然もう三本も念のために打ち込んで回る。少し緩んでいたのでこの判断は正しかった。打ち込み終えると、テントに引き返し、ズボンで体の水分を丹念に拭き取る。髪は完全に拭き取れるほどの布は無いが、下着を身に着け上着だけ元通りの服装。下半身は下着だけだが、他人もいないので恥ずかしくはない。何とか被害は最小限に抑えた。一段落したところで私のお腹が鳴った。

 

「あ……ああああ!!」

 

私は大事なことに気が付き、叫び声を上げる。慌ててテント内を見渡したが、当然無かった。今日確保した食料を大雨に慌てて外のどこかに置いてきてしまった。食べ物にありつくのは雨が収まるのを待つしか無い。雨が弱まるのを静かに過ごすことにした。

 

「お腹空いたよ……」

 

私は心もとない凹んだお腹を擦る。不幸中の幸いか時間経過と共に雨は徐々に弱くなっているが、これ以上体を拭くものがないため、外には出られない。空腹な私は夢想を始めた。パンケーキなどの好物の数々を。想像すると口から洪水しそうになったため、口を慌てて拭う。ああ、夢のように食べ物が手から出たらなと想像してしまう。試しに夢のように右手を突き出す。美味しいもの何か出てと願った。私も本気に望んだわけではない、むしろ無心だった。それが良かったのか。

 

「あれ……これはきのみ?」

 

無人島生活で森の散策を行ってる中で、私が一番お気に入りの味だった赤いきのみ。なぜか前置き無くそれが出現していたのだ。本来なら驚いて感激していただろうが、この状況ではただ口を紛らわしたくて、すぐにそのきのみを口に入れる。

 

「……美味しい」

 

私はきのみを味合うようにじっくりと咀嚼し、味を噛みしめる。無人島で暮らして一番美味しく感じた。いや今までで一番美味しいフルーツとまで思えるものだった。一時は台風のトラブルもあり気分がかなり沈んだが、これだけで私は報われた気分になった。その頃になると、雨が止んだので外に出ると、青い大空に微かな虹が空を彩る。私はしばらくきのみを食べた余韻と共にその景色に浸っていた。

 

「有里栖! 大丈夫!?」

「有里栖、大丈夫か!?」

「有里咲に……一澄まで来てくれたんだ」

 

顔を歪ませた有里咲と一澄が息を弾ませながら有里栖に近づいてくる。私は思わず二人に駆け寄った。

 

「二人共心配かけてごめんね。この通り多少濡れちゃったけど何とか無事だったよ」

「あ……悪い」

 

一澄が目を逸らす。私は今は下半身にズボン着ていないからだ。慌ててジャージの上着を伸ばす。いくら付き合ってるとはいえ生足を見られるのは恥ずかしい。着るものやタオルを持ってくると一澄は一旦戻っていった。

 

「雑事は私に任せれば良いのに……常坂君に気を遣わせちゃったかな?」

「気を遣わせたってどうかしたの?」

「ええとね……」

 

言葉を濁す有里咲。その続きは別の人物からすぐに語られた。後から来たひよりんだ。

 

「有里咲がボクに早く船を出してって必死に迫っていたんですよ。あんな有里咲は初めて見ました」

「ひよりん……だって有里栖のお父さんは用事があっていなくて、頼めるのがひよりんしかいなかったから……ひどい台風だったし有里栖にもしものことがあったら……私の責任だし」

「有里咲すごく心配してくれたんだね……」

 

有里咲の胸の内を聞くと、不思議と胸が温かかくなる。私もかけがえない友達を持ったのが実感できて嬉しくて、気がついたら私は飛び出していた。

 

「有里栖?」

「有里咲の気持ちすごく嬉しくて……ありがとう」

 

私は有里咲を抱擁していた。有里咲は特に戸惑わず、笑顔で受け入れてくれた。

 

「有里栖が必要以上に酷い目にあったのは私の想像力不足だったのに……有里栖が無事で良かったよ」

「有里栖の無事を確認できてめでたしめでたしですね」

 

ひよりんがそう締めくる頃には一澄がタオルと着替えの一式を持って現れた。私は一澄にも無事だと伝えてから一旦シャワーを浴びてリラックスする。体をスッキリさせた。

 

「お疲れ様です。困難を乗り切った有里栖に労いを込めて特別なお菓子を用意させていただきました」

「こ、これは幻の有名店のパンケーキ!?」

 

私の目の前には知る人が知る名店のパンケーキ店のパッケージが突きつけられた。私は思わず身を乗り出す。

 

「どうぞ遠慮なく食べてください。有里栖この嵐の中何も食べていないでしょう?」

「本当に! ひよりん太っ腹ーじゃあ遠慮なくーー」

 

箱を受け取りかけた直後、私は手を止める。あれ困難を乗り越えた空気だけど、まだ修行期間終わっていないじゃん! これはひよりんの巧妙な罠だ。とっさに私は思い留まる。

 

「ひよりん私はもう騙されないよ! まだ試練は二週間あるよ。ちゃんと覚えてるからね!」

「ふふ、惜しいですね。もう少しで作戦完了でしたのに。嵐の中でもしっかり覚えてましたか。流石有里栖です。ボクの練りに練った策略を見抜くなんて」

「ひよりんこの状況で罠にはめようとするのは流石に鬼畜すぎない?」

 

有里咲が呆れたように呟く。やはりひよりん単独での作戦だったらしい。危ない危ない。

 

「常に面白さを追求するこの白河ひよりは、例えこんな緊急事態すらも利用します。さらばです!」

「じゃあねひよりん、二人を送ってくれてありがとう。修行が終わったらまた一緒に遊ぼうね」

 

ひよりんは去り際に一回振り返って私に応えるように手を振り返す。そういえばと私は重要なことを思い出す。

 

「嵐は大変だったけど大きな収穫はあったよ」

「有里栖そうなのか?」

「うん、私が空腹でお腹が空いたときに何か食べたいって思ったら、きのみが手のひらから出てきたんだよ。一澄たちにも見せたかったな」

「本当に有里栖はすごいね……修行二週間で使いたい魔法を使えるようになるなんて……すごい才能の持ち主だよ。有里栖には……ちょっと嫉妬しちゃうな」

 

有里咲が何とも言えない表情で私を見つめる。以前有里咲は魔法は短期間で習得は難しいと言っていた。二週間は長期間とは言えないから長年苦労して魔法を身につけた有里咲にとっては良い気分はしないはず。だがそんなに甘くはない。

 

「でもね、有里咲。今願っても使えないしさっきのはただの偶然。きっと魔法を安定させるにはまだまだ修業が必要なんだよ。有里咲には遠く及ばないよ。とりあえず残り二週間も頑張るからね。有里咲と一澄は見守ってくれると嬉しいな」」

「そっか、有里栖は謙虚だね。そこが偶然でも魔法を使えた理由かもしれないね……嫉妬していた私が小さく見えてきちゃったよ」

「褒めてくれてありがとう。有里咲どうしたの?」

 

有里咲が褒め言葉の後に小声でボソボソ何か言っていたが聞こえなかった。どうしたのだろう。

 

「何でもないよ。有里栖はこれからも修行を積むべきだって思ったの。偶然を必然に少しでも近づけるためにね」

「ああ、だが嵐を超えられた有里栖なら残りの日数は難しくない。頑張れ」

「二人共ありがとうね! 一澄と有里咲の応援のおかげで二週間乗り切れそうだよ!」

 

有里咲や一澄、ひよりんからの声援のおかげで力が湧いた。もう私に怖いものなどない。自然にそう思えたのだった。

 

残り二週間はあっという間に過ぎた。その間何も苦労がなかったわけではないけど、あの嵐の日を超える出来事は流石に起きなかった。無人島滞在を終えると、私は有里咲から認めてもらい、具体的な魔法の修行をしてもらえることになった。

 

 

それから時間は数ヶ月経過し、汗が滲みなくなり、コートを着込む季節になった。

 

「有里栖の出したきのみ美味しいね……とっても」

「ああ、有里咲の言う通りだ。何か甘さ以外に不思議な味がするな」

「ふふ、ありがとう」

 

私の魔法はあの赤いきのみを出す魔法に収まっていた。有里咲曰く、きのみなら小さなエネルギーを変換するだけなら難易度はそこそこだそうだ。ケーキや和菓子などのエネルギーが大きく必要な食べ物を出すにはまだまだ修行が必要だし、赤い木の実も安定して出せるかと言えばそうでもない。まだどこか不安定だった。出せない日もある。でも私はすごく満足していた。

 

「夢みたいに小さな子供にお菓子を差し出せたらとても素敵だとは思うけど、最悪買えばいいからね。夢がないといえばそうかもしれないけど、どちらでも子供は変わらず喜ぶしね」

「魔法で出したかよりも問題は相手を笑顔にできるかだね。問題の本質は結局そこだね。魔法使いの私には忘れちゃいけない考えだね」

 

私は魔法を使ってみたいと好奇心で動き始めていたけど、いざ理由を問われると、私の出した食べ物で誰かの役に立てたら嬉しい、という単純な考えが私のしたいことだと思えた。

 

「そんな大げさなものじゃないけどね。こんな不安定な魔法でも有里咲や一澄を笑顔にできたし十分だよ」

 

もちろんけじめとして有里咲からの教えは受け続ける。それでも私は満たされているから、これ以上魔法が上達するかは未知数。もしも魔法が上手くなったら考えが変わるかもしれないけど。今はそこに着地しておく。私にも魔法修行だけでなく現実でもやるべきことはあるしね。例えば今日は街中がイルミネーションで飾られた日。盛大な祝い事の準備をしてる人々で賑わっていた。

 

「さあ、今日はクリスマスイブ前日。一澄と有里咲と三人デートだよ! 久しぶりに楽しもうね」

「二人のバカップルぶりを側から見せつけられるのは複雑だけど、今日くらいは付き合うよ。ひよりんも誘えば良かったのにね」

「ひよりんはイブ直後で恋愛相談に忙しくってパスだって。私も手伝おうかって言ったけど、一人で問題ないからって言ってこいって背中押されちゃった。何か勘違いされてるよね」

「絶対に常坂君と二人で行くって思われてるよね。私は馬に蹴られないように静かに退散するべきかな」

 

有里咲が私たちから距離を取ろうとするのを私は捕まえる。弱い力で。

 

「今日は有里咲も一緒だよ。嫉妬で一緒にいたくないって思ってるなら止めないけど」

「……有里栖はずるいな。そんなこと言われたら断れないよ。有里栖は欲深いよね。常坂君だけでは飽き足らず、私まで彼女にしようとするんだから」

「有里咲を彼女とは有里栖も中々贅沢だな」

「そうだね。でも、私の彼女ポジションは有里咲が良いな」

 

私は右手に一澄の手を握り、左手は有里咲と手を握り合う。わざとらしく有里咲はため息を吐き、笑顔になる。

 

「真顔でこんな事言うんだから……全くこれだから有里栖は嫌いになれないんだよね。仕方ないな。今日は有里栖と常坂君に付き合うよ」

「ありがとう、有里咲!」

 

私は二人を引くように歩き出す。理由はわからないが足取りが軽かった。今日はクリスマスイブ直前ということで街周辺はイルミネーションで綺麗な景観だ。ワンダーランドも良いけど、こういった普段通る道がライトアップされてるのも違った魅力を感じる。しばらく二人と雑談しながら街並みを堪能する。ふと通りかかったケーキ屋の前には一人の女の子が寂しそうな表情をしていた。気になった私はその子に声をかける。腰を低くして。

 

「大丈夫? どうしたの?」

「ケーキ買いにきたんだけどお金おとしちゃった……ママにおこられるよ」

「そっか、でもここまで一人でお使いに来たんだよね? 偉いよ」

 

私は女の子を慰めるように背中を擦る。

 

「でもママケーキがこうぶつなんだ……がっかりする」

「あなたはママに喜んでもらいたんだね。優しいね。財布とかの色わかる?」

 

私は言葉をかけながら、女の子の名前や落とした財布の特徴を聞き出し、有里咲と一澄に振り返る。

 

「有里咲に一澄、花ちゃんの財布見つけてやれないかな? 今から花ちゃんが歩いたルートを辿るからその周囲を目を凝らしてくれたら有難いんだけど」

「それくらいお安い御用だよ」

「ああ、任せておけ」

 

二人は力強く頷いてくれた。一人だったら見つけるなんて言い切るのは難しかったけど、私には力強い味方が二人もいる。花ちゃんの手を引こうとするが、動けないのか立ち止まって俯いている。簡単に気持ちを切り替えられるなら苦労はないだろう。小さい子なら尚更。それなら、私は手のひらに全身の神経を集中させる。

 

「これ食べてみて、きっと元気が出るから」

「……これなに?」

「花ちゃんが食べたらきっと元気が出る。元気のもとだよ。友達も美味しいって言ってくれるお墨付きだから安心してね」

 

花ちゃんは少し迷った様子だが、私の気持ちが伝わったのか木の実を少しかじる。

 

「おいしい」

「……良かった。花ちゃんのお口にあって」

 

花ちゃんは木の実をそのまま平らげた。その様子から多少は元気が出たのがわかった。花ちゃんから一歩踏み出す。

 

「ありがとう。お姉ちゃん。この木の実すごくおいしかった。アニメにでてくるまほうしょうじょみたいだね。すごく元気が出た」

「魔法少女か……今の私にとっては最上級の褒め言葉だよ。ありがとうね」

 

花ちゃんの言葉で私の頬が緩むのがわかった。

あの無人島での時間は決して無駄ではないのは理解していたが、こうして何も事情を知らない第三者から素直に喜ばれるのは、私にとって何者にも代えがたい幸福だ。

 

「花ちゃんの言う通り、このお姉ちゃんは回りを幸せにする魔法少女なんだよ。もう安心だね」

「ああ、財布も見つけるだろうな、この魔法少女さんなら」

「もう二人ったら……花ちゃん必ず財布は見つけるからね」

「うん……お姉ちゃんありがとう」

 

私は花ちゃんの手を握りながら財布探しに奔走するのだった。本物の魔法使いなら一瞬で見つけるだろうけど、もどきの私には簡単ではないし、元通りにもできない。

 

「わたしのおかねが……どうしよう……」

 

道路の端で見つかった財布だったけど、偶然通りかかった犬が財布を蹴り飛ばし泥の中に沈んでしまった。私が飛び込んで掘り起こしたけど、とても使い物にならない。泥まみれな財布を見て、花ちゃんは泣きじゃくる。一瞬魔法で出したきのみで元気にしようかと思ったけど、それは正しくないと私にはすぐにわかった。私は泥のついた手をハンカチで拭い、花ちゃんに歩み寄る。

 

「花ちゃんごめんね」

「うう……」

 

せめてもの償いとして私は花ちゃんを抱きしめる。嘘つき呼ばわりされてもおかしくないのに花ちゃんは八つ当たりはしない。それどころか、くしゃくしゃな顔を上げて、私に申し訳なさそうにする。

 

「お姉ちゃんの服どろでよごれちゃってる……ごめんね」

「気にしないで私が勝手にやったことだから。でも花ちゃんは優しいね。ありがとう」

 

思わぬ優しさで私は花ちゃんを抱きしめてしまう。この年で他人を労えるなんて優しい子だ。きっと良い親なのだろう。すぐその答えを知ることになった。

 

「花!」

「ママ!」

 

後方の叫び声に花ちゃんは私から視線を外し、そう答えていた。母親効果はすごい、花ちゃんの表情には安心感と申し訳なさが混在していたくらい、元気を取り戻してはいた。罪悪感は当然残していたが。私は花ちゃんの手を握りながら振り返ると、花ちゃんの母親に有里咲と一澄が二人が並んでいた。どうやら私が財布を泥から探してる間、二人は母親を探してくれていたらしい。

 

「この子達から事情は聞きました。うちの花がお世話になりました。本当にありがとうございます。ここまで服を泥だらけにして……弁償します」

「弁償なんてそんな……結局財布は駄目にしてしまいましたし」

 

私は汚れた財布を気まずげに差し出すと、ためらいなく花ちゃん母は財布を受け取る。

 

「不慮の事故だと聞いていますよ。元々この子の過失です。そもそも私が手間を惜しんで付き添いに行かなかったのが原因です。ともかく財布を取り戻していただきありがとうございました」

「どういたしまして。ですけどせっかくのクリスマスケーキが買えないなんて……予約券も財布に入っていたらんじゃないですか?」

 

花ちゃんから途中で聞いた話だ。予約制のケーキなのでお金と一緒に財布を取り戻したがっていたのだ。お金だけではどうにもならないのだ。私の疑問に花ちゃんのお母さんは首を振った。

 

「確かにケーキは好物ですが、こうなった以上は仕方ありません。適当なもので我慢します。代わりと言ってはなんですが、花とのクリスマスパーティーに貴方方を招待したいです。色々お返しもしたいですし花も慕ってるようですし」

「わたし、お姉ちゃんとパーティーしたい」

「花ちゃん……」

 

私は花ちゃんと一澄たちを見比べる。二人と出かけたい気持ちがあるが、今の私は花ちゃんとも時間を共にしたがっていた。そんな悩む私に意味深な笑みを浮かべる花ちゃん母。

 

「もちろんパーティーは今夜行いますよ。思春期の女の子をイブやクリスマスに誘うほど私は野暮ではないですよ。どうですか?」

「配慮してもらってありがたいです。せっかくなのでそのご厚意に甘えて参加します」

「やったーまほうしょうじょのお姉ちゃんといっしょだ!」

 

花ちゃんは私の手を握って喜ぶ。有里咲たちも快く賛同してくれた。まずは服の弁償をすると言って、一旦花ちゃん宅まで行って花ちゃん母が運転する車で移動。

 

「まほうしょうじょのお姉ちゃんは何でもにあうね。ねえお兄ちゃん?」

「ああ、流石有里栖だな。可愛過ぎて目に入れられないぜ」

「有里栖、次はこれなんかどう? フリフリの可愛いやつだけど」

「有里咲まで……私は着せ替え人形じゃないんだよ?」

 

そんな文句を言いながらも色々な服を着てしまう私。何だかんだ楽しくなっていた。気に入った服を購入した。もう少し買っても良いと花ちゃんのお母さんは言ってたけど、流石に遠慮した。元の服はクリーニングして返すって言ってくれてるし、何だか悪いなと思ってしまう。服の買い物を終えると、そのまま花ちゃんの自宅へ直行し、パーティーするお運びになったのだ。準備はある程度済んでいたらしい。待つまでもなく少し早いクリスマスパーティーが始まる。

 

「適当なケーキですよね?」

「ええ、適当なものを見繕いました」

 

テーブルを大きく飾る定番な大きなショートケーキ。だが異なる点があった。いちごの他にフルーツがたくさん乗っていて美味しそうだ。これで適当なものなのだから予約していたケーキはどんなものだったのだろうかと気になってしまう。味は最高だった。一仕事したのが報われる甘さのパラダイスだった。花ちゃん親子と有里咲や一澄と過ごす一時はかけがえのない時間だった。

 

「まほうしょうじょのお姉ちゃん、ありがとう。つぎ会ったらまたあのきのみ食べさせてね」

「うん、約束だね。また会おうね、花ちゃん」

 

私の魔法を楽しみにする花ちゃんの存在が不思議と輝かしいものに感じた。帰り道に有里咲たちから祝福された。

 

「魔法使いが人生の私でも私の魔法を楽しみにしてるなんて、他人から言われたこと無いよ。有里栖には本当に恐れ入るね。嫉妬を通り越して尊敬するよ」

「ああ、有里栖は恋愛感情抜きで尊敬できる人物だな」

「二人がそう言ってくれるのは嬉しいよ。ありがとうね。でもこうして花ちゃんが笑ってくれたのは、一澄や有里咲たちも協力してくれたおかげ。私一人じゃ何もできないよ」

 

もちろんこれは私の心からの言葉だ。でも一から特訓し魔法で何とかささやかな食べ物を出して、魔法少女だと花ちゃんから言われて、私が抱いていた夢が一つ叶えられた。今年の23日は生涯忘れられない一日になる。

 

自惚れてるかもしれないけど、私が本当の意味で魔法少女になった記念日とさせてもらおう。きっとこれから毎年思い出すだろう。私が魔法少女になった日は12月23日だと。

 

有里咲や一澄と共に思い出もまた一つ作ることもでき、大満足なクリスマスイブ前日だった。

 

 

完




感想から素敵なネタを頂いたので書いてみました。
トウリさん、良質なネタをありがとうございます。

ここからは色々雑談します。興味のない方はブラウザバックをお願いします。




最初はもちろん……ダ・カーポリメイクおめでとうございます!(今更)書き始めは制作発表だったのでだいぶ経ちます。どれだけこの作品を放置したかわかります(呆れ)

あとこれもだいぶ前ですが、有里栖のアクスタが買えてご機嫌な主です。他には有里咲とひよりん、5の瑞花と個人的に気に入っているヒロインを購入しました。皆さんはお気に入りの子は買えましたか?(遅い)

作品については魔法の細かい設定が以前の作品にあったらごめんなさい。見逃して下さい。勢いで書ききったので見直しは最低限しか行っていませんので。

あと有里栖のゲーム奮闘記は鋭意執筆中です。最新作をプレイしながら気長にお待ちください。今年の有里栖の誕生日(12月8日)までには完成させます(フラグ)では良きD.Cライフを。


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