「ねえ常坂君」
「有里栖、どうした?」
とある休日の午後。有里栖の部屋で、俺は二人でのんびりと過ごしてる。有里栖は俺にもたれかかってだらーんと過ごしている。
「前々から疑問だったんだけど、常坂君っていつから私を有里栖呼びしていたんだったんだっけ?」
俺が有里栖を名前呼びしたきっかけ。俺は一旦天井を見上げ、己の記憶をたどる。
「一昨年の暮れくらいだった気がする。有里栖……いや有里咲が言ってきたんだよ。鷺澤は距離を感じるから名前で呼んで欲しいって」
「あーちょうど私と有里咲が入れ替わっていた時期かな。それまで常坂君と話すことはあったけど、親密ってほどじゃなかったし。それなら納得だよ」
有里栖は有里咲とそれぞれ別世界に入れ替わっていた時期が一年ほどある。姿形がそっくりな二人だったから周囲は入れ替わりに全く気が付かなかったし、俺もきっかけがなければ全く気が付かなかった。
「俺も有里栖とよく絡むようになったのは有里咲に入れ替わってからだったな」
「そう考えると、常坂君とこうして付き合えたのは有里咲のおかげだね。有里咲は私たちのキューピットさんだね。元気かな。有里咲」
「元気にやってるだろう。有里咲は二つの世界を経験してる魔法使いだ。ちょっとやそっとのことじゃ折れたりしないさ」
「そうだね。私たちも有里咲に負けないようにSSRの活動、頑張らないとね」
「ああ、有里咲が安心して使命を全うできるように頑張ろうな」
SSR活動を通して有里咲の使命に必要なマナを集める。継続的には中々上手くいかないが有里栖と一緒なら諦めず続けられるだろう。ふと有里栖が目を細めた。何やら悲壮感が漂う雰囲気だ。
「……名前を呼んで欲しかったか、もしかして有里咲は内心……」
「有里栖?」
「ううん何でもないよ」
だがすぐに有里栖は顔色が普段通り明るい表情に戻る。有里栖の悲しそうな表情の意味、そんな疑問がすぐ吹き飛ぶくらいの眩しい笑顔を俺に向けた。
「私も常坂君の事、名前で呼んでいい? もしくは恋人同士の愛称をつけるとか、どう?」
「名前はもちろん良いぞ。というかむしろ呼んで欲しいな、愛称か。有里栖……難しいな」
「常坂君の名前は一澄だから……いっちゃんは逢見先輩が呼んでるし、いっくんは……何か違う気がする」
「そうか? 語呂とか悪くはない気がするが」
俺の返しにすぐに首を振る有里栖。嫌に真面目な顔つきだった。
「……私が常坂君をそう呼んじゃいけないような気がしてね。それなら……いちりんはどうかな? お花っぽくって可愛らしい名前だと、私は思うよ」
「いちりんね……可愛い名前は男子としてはあまり喜ばしくはないな。白河と同じ法則か?」
「うん、ひよりんといちりん。でも常坂君が喜べないなら却下で良いよ」
「いや単にいちりんって呼ばれるのが恥ずかしいと思っただけなんだ。有里栖の気持ちは嬉しい」
俺の返答に有里栖は無邪気に笑い、俺の腕を絡みついてきた。
「そっか、じゃあ普段は普通に一澄って呼ぶよ。常坂君が不快じゃないなら時々いちりんって呼んじゃうね?」
「時々ってそれは心臓に悪そうだな……良いけどさ」
「カップルに刺激は時折必要だと有里栖さんは思うのですよ」
「それなら有里栖さんの時々のサプライズを楽しみにしてるな」
「えい」
俺の答えを待っていたかのように有里栖は俺に唇を合わせる。とても柔らかく蕩けそうな、甘いキスだった。顔を離すと可愛らしく笑う有里栖が目の前にいた。
「ふふ、いちりん顔真っ赤だね」
ちょんと俺の鼻を突っつく。有里栖のいたずらっぽい表情と言動。甘い甘すぎる。照れ臭く顔を逸らす。
「……全然、時々じゃねえじゃないか」
「えへへ、これは名前呼び記念のキス。サプライズとはまた別だよ」
有里栖は無邪気に俺の右肩に飛びつく。そんな有里栖の姿に、愛おしさが胸から湧き上がってくる。俺も有里栖の体を寄せて密着する。
「全く有里栖には敵わないな」
「ずっと一緒にいようね。一澄」
「ああ、有里栖とはずっと一緒だ」
有里栖と体をくっつけ、お互いの存在を確かめ合った。何回かキスを交わす。しばらく有里栖と蜜月な時を過ごす。
「ところで話は変わるけど、私のニックネーム何か良いの思いついた?」
一時間ほど経過し、俺と有里栖はベッドの中。隣に寝転んだ有里栖が話しかけてきた。顔はついさっきの行為のせいか、若干赤み帯びてる。慣れたとはいえどこか照れくさそうだ。
「すごく言うのが恥ずかしいが……ありりんとかどうだ? 俺へのニックネームで思いついた」
「ありりん……わあ、可愛いね! ありりんって呼んでくれたら嬉しいな。試しに一回そう呼んでみて、張り切ってどうぞ!」
有里栖は俺を期待の眼差しで見つめる。こんな純情な有里栖を俺は裏切れない……覚悟を決めて口に出す。
「あ、ありりん」
「うううっ……たまらないよ! もう一回!」
有里栖はベッドで悶えながらも連呼を要求。だが一回言っただけで相当恥ずかしい。
「これ以上は勘弁してくれ……どんな羞恥プレイだ」
「一澄は恥ずかしがり屋さんだね。でも、私の無茶に応えてくれてありがとう」
有里栖は俺の頬にキスし、少し離れてにっこり笑う。有里栖が可愛くて胸が一杯になる、俺は彼女の気持ちに答えるように、再びキスという名の愛情表現を繰り返す。こうして俺と有里栖の甘々な時間が再び動き始めるのだった。
有里栖とイチャイチしていたら時間の経過を忘れ、帰るタイミングを完全に逃していた。夜遅く自宅に戻ると、二乃から『兄さん、羽目外し過ぎです』と叱られてしまい、罰として妹の手料理を食べる羽目になったのは別の話。
有里栖はあくまでもお砂糖のような甘さな付き合いだと、個人的には思っています。有里咲は幼馴染特有のノリ。あれはあれで好き。
原作で有里栖は有里咲を名前(真名)を呼び捨てしてるし、他のヒロインは名前呼び捨ての子はいないしこれ以外は思いつかなかった。違和感あったら申し訳ない。君呼びはひよりんが使ってるため自重しています。
作者のニックネームのセンスはお察しください。