鷺澤有里栖、小話集   作:サーたん

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今回は続きものです。


有里栖、ゲーム奮闘記

 

 

「あー惜しい! もう少しでくまちゃんゲットできたのになあ」

 

 有里栖が操作するクレーンゲームのアームがぬいぐるみを掴んでいたが、目的の場所を僅かにずれ、小さいくまの頭が逆さに落下してしまう。

 

「ああ、惜しかったな。もうちょっと掴む位置が良ければいけそうだな。俺がやろうか?」

「ううん、一澄の気持ちは嬉しいけどここまで来たら私の手でやらせて。私がくまさんを手に入れてみせるよ」

 

 有里栖は俺に頼らず自分に課した目標をクリアしようとする。意外と有里栖は試行錯誤するのが好きなのだ。何度かの微調整の末、有里栖は見事にくまを自分の腕の中に収めることができた。

 

「えへへ、無事に私のくまちゃんになったよ」

 

 有里栖は満足そうにニコニコしながら、ぬいぐるみを抱きかかえる。

 

「おめでとう、有里栖」

「ありがとうね。一澄が近くで見守ってくれたからクリアできたよ。くまちゃんも一澄に感謝してるよ。ねー?」

 

 有里栖はくまのぬいぐるみに問いかける。その通りだと声色を若干変えながら小芝居をする。

 

「そのくまには少し嫉妬するな。有里栖の腕の中を独り占めにしてるんだからな」

「一澄は私の腕の中、独り占めしたい?」

「ああ、できればずっと俺だけのスペースにしたいくらいだ」

「全く一澄は甘えん坊さんだね。仕方がないなあ」

 

 有里栖はくまのぬいぐるみを手近のベンチに置いて、両腕を広げる。

 

「良いのか?」

「一澄の彼女さんだもん。それくらいお安い御用だよ。何なら私がしたいし……くまちゃんも今は譲ってくれるって言ってるよ」

 

 くまのぬいぐるみを一度見てから有里栖から俺を抱きしめてきた。髪からシャンプーのような良い匂いが鼻腔をくすぐる。何か……くまに俺たちのイチャイチャを見られてるようで恥ずかしいな。

 

 そう、俺と有里栖は休日のゲームセンターデートをしている。なぜか今日のゲームセンターには、従業員以外の客がもいないので、こんな大胆な行動が取れるということだ。しばらく有里栖の感触や匂いに夢中になってると、

 

「ゲームセンターはイチャコラする場所じゃないですよ。常坂さん」

「ほ、鳳城!?」

「詩名ちゃんも来てたの!?」

 

 声で気がつき振り向く。鳳城がくまのぬいぐるみと並んで、俺たちの様子を呆れるように眺めていた。ばっと俺は有里栖と体を離す。

 

「呆れた人たちです。ゲームセンターは己の限界を試す場所ですよ。そんな神聖な場所で……い、いやらしい行為はしないでくれますか?」

「やらしいことは何もしてないよ!」

 

 俺たちを宥めたいのだろうが、鳳城も若干恥ずかしげで全く怒られてる感覚にならない。

 

「大体己を試す場所って……普通に遊びに来る人だっているだろう?」

「いえそんな事はありません。このゲームセンターでは常に自己新記録を目指してる人は多いです。例えばあのレコード表を見てください」

 

 鳳城は奥のレースゲーム記録の画面を指差す。トップ10が記録され、鳳城の名前があって、何と2位となってる。更新日時は昨日の今と同じ時間帯。だが一位の記録の更新が鳳城の記録から二時間後。

 

「昨日かなりの時間を費やして更新したにも関わらず、それを軽く更新されているのです。苦労したというのにこれはショックを受けました」

「1位の名前のSUGINAMIって、どう考えても……」

「杉並君だよね……」

 

 ゲームを極めたり、理由のわからん活動したり、騒動を起こしたり、杉並は謎なやつだ。

 

「常坂さんに鷺澤さん。ここで会ったのも何かの縁です。このゲームのレースモードを一緒にプレイしてみませんか?」

「俺は良いが、有里栖はどうだ?」

「私もやってみたいな。家庭用のレースゲームしかやったことないからね。実機プレイ面白そう」

 

 そう有里栖が賛成したので、俺たちとCPU交えてレースゲームをプレイ。コースを三周するとクリアのゲームだ。四人プレイヤーがいないとゲームできないようで、CPUが自動で参加させられていた。数分間の一レースを終えて一息入れる。

 

「ふっまだまだですね!」

「うわあ、詩名ちゃんぶっちぎりトップだよ。すごいねー」

「アイテム妨害を二度受けても他を引き離してたからな。鳳城このゲームに慣れ過ぎだろう」

「タイムアタックばかりで対人戦は初めてですが、こうして複数でわいわい騒ぐのも楽しいものですね。本当に」

 

 少しだけしんみりとした表情を浮かべながら、鳳城は俺をちらりと見た。うん?

 

「詩名ちゃんはお友達や家族とはゲームはしないの?」

「ゲームは基本一人でやるので友達とはあまり……両親は休みの日には私に付き合ってくれました。どちらも弱くて張り合いないですが……楽しい時間です」

 

 口元を緩ませる鳳城。普段の無愛想っぷりからは想像できない様子だ。

 

「そっか。詩名ちゃんの家庭は楽しそうだね。じゃあさ、もっと私たちともやろうよ。私もやるからには勝ちたいし。ねえ一澄?」

「ああ、やられっぱなしは悔しいからな。俺も一回は鳳城には勝ちたい」

「良いでしょう。私が二人を返り討ちにして差し上げます」

「私だって今度は負けないよ!」

 

 有里栖が意気込むと、再びバチバチとレースの火蓋が切って落とされる。このゲームは初心者と熟練者の間を埋めるために、ランダムアイテムという運要素が多く配置されている。これを上手いタイミングで使用すれば、俺や有里栖にも勝機がある。ところがそう上手くはいかない。

 

「あ、ごめんね。一澄赤甲羅たくさん出ちゃった」

「運がないな」

 

 有里栖が操るカートからの攻撃に俺のカートがスリップし、有里栖に抜かされる。走りを再開し近くのアイテムボックスから出たのは、すぐ先頭を攻撃する、これまた赤甲羅。お互いを潰しあえと? そんな神からの啓示にしか思えない。そう思っていたら、背後から爆弾が飛んで俺が空中へ。CPCに先をいかれる。俺が最下位、鳳城がトップ。今は二周目の中盤ながら、既に鳳城が独走モードに入ってる。

 

「詩名ちゃん守り固くてアイテムが通らないよーこうなったら……」

「うーん……」

 

 有里栖は声から察するに、鳳城を攻撃しようと試みているようだが現状上手く行っていないようだ。俺もアイテムを拾う。サンダー。思わず唸ってしまった。強力なアイテムだ。使用者以外の全プレイヤーのカート速度を一時的に遅くする。これでは有里栖と連携しようにも……

 

「運で勝てるほど私の腕は甘くはないです。このレースもいただきましたね」

 

 得意げに笑った鳳城。その瞬間事故が起こった。俺のサンダーが奪われたのだ。プレイヤーからアイテムを奪うアイテムが存在する。奪う際にはキャラクターのアイコンが表示される。有里栖が使っていたキャラクターだった。お、これは……

 

「詩名ちゃん覚悟!」

 

 有里栖が俺から奪ったサンダーを使って、俺を含め全員を低速にする。

 

「……やりますね、ですがそれでもまだ追いつけませんよ」

「ダメ押しの赤甲羅だよー」

 

 サンダーを使った後、すぐに入手した赤甲羅を使って更に鳳城を足止めする。

 

「く、中々運が良いですね」

「詩名ちゃんに追いつくよ」

 

 画面上には二人の距離がだいぶ詰めていった。これで二人の接戦にーーそう思っていたら不意に二人の背後からキラキラ光りながら何かが突っ込んでいた。は? 一瞬、俺を含め全員唖然とした。すぐに理解する。CPCが無敵のアイテムを使っていて、俺のサンダーを無効化しながら一気に上位へ躍り出たということを。有里栖と鳳城は無敵状態のCPUに突き飛ばされ、レースはこのままCPUがトップに逃げ切る。何これ? おかげで俺はビリだ。だが、鳳城と有里栖はそうでもなかった。最後の最後まで熱戦していた。

 

「鷺澤さん」

「詩名ちゃん?」

 

 鳳城が手をまっすぐ突き出していた。有里栖はよくわからず鳳城の手を取る。

 

「あなたにはゲーマとしての才能があります。CPUの不意打ちにもすぐに立ち直りましたし、その後の根気強い粘りも素晴らしかったです」

 

 有里栖は最後の最後まで鳳城相手に張り付いて、粘り強い戦いをしていた。正直俺は途中で自分の操作は放棄し、有里栖の応援をしていたくらいだ。

 

「まあ、結局詩名ちゃんには負けちゃったけどね……」

「当然です。技術の差が大きくありますからね。プレイ数十分の鷺澤さんには負けられません」

 

 ふんと鼻を鳴らしつつも、鳳城は有里栖に笑いかける。

 

「ですが、プレイ技術の吸収レベルが並大抵には思えなかったですよ。鷺澤さん、私とゲームで上を目指してみませんか?」

「私は詩名ちゃんとの戦いが楽しいから夢中だっただけだよ。急にそんな事言われても……」

 

 そう言いつつも有里栖はどこか嬉しそうに笑っていた。

 

「楽しみながら強くなれる……希少な才能ですよ。考えておいてくださいね。鷺澤さん」

「困っちゃったな。どうしよう、一澄?」

 

 鳳城の勧誘に、言葉とは違って満更ではなさそうな有里栖。俺に困ったように視線を投げかけてくる。

 

「有里栖の好きにしたらいい。俺はどうしようと有里栖を応援する」

「……うん、せっかく詩名ちゃんがここまで言ってくれるなら考えてみるよ」

 

 有里栖はここでは保留しにゲームセンターを出る。くまのぬいぐるみを持って。外は肌寒い。冬が近い。鳳城が申し訳無さそうに表情を落としていた。

 

「ちょっと夢中になりすぎましたね。お二人のデートの邪魔をしてすみませんでした」

「謝らなくていい。ゲーム楽しかったし。なあ有里栖?」

「うん、たまにはこんなデートも趣があっていいと思う。私も夢中になるくらい楽しかったしね」

「そう言ってくれると嬉しいです。さっきの勧誘とは別にまた一緒にゲームしましょう」

「ああ、そうだな。それにしても……」

 

 俺はさっきのプレイを思い出す。途中の思わぬCPUの動き。

 

「あのCPUやけに狙ったタイミングで無敵になってたな」

「まるで生身のプレイヤーだったね」

「はい、漁夫の利のような戦法でした。手本のようなプレイですね」

「それはそれはお褒めに預かり光栄だな!」

 

 男の高笑いが店から響いてくる。声の主が店から姿を現した。

 

「杉並……」

「杉並君、店内にいたの?」

「このゲームセンターの主とは少しばかり因縁があってな。ふっ、それにしても先程の戦いは実にエキサイティングなものであった! この俺様でも多少は胸が踊ったぞ」

「杉並さん、あのCPUはまさかあなたの……でもどうやって……」

「謎は謎のままの方が魅力的だからな。解説などという野暮な真似はしない。全て想像に任せる。さらばだ」

 

 杉並はすぐさま駆け出し夕闇の中に消えていく。あいつまじで謎な存在だな……俺たちは呆然と杉並の後ろ姿を見送る。

 

「鷺澤さん」

「詩名ちゃん?」

 

 先程よりも真剣な眼差しが有里栖に向けられる。

 

「私と……打倒・杉並さんを目指しませんか? このままでは悔しくて夜も眠れません」

「目的が具体的になると面白そうだね……私もやる気出てきた。やってみようか詩名ちゃん」

「よろしくお願いします。鷺澤さん」

 

 こうして有里栖と鳳城は杉並を打ち倒すべく、立ち上がった。

 

「それでは明日にでも杉並さんに戦いを申し込んで、放課後は特訓です。よろしくお願いしまs……くしょん!」

 

 鳳城がくしゃみをする。小さく可愛らしいものだった。有里栖がポケットティッシュを差し出す。鳳城がありがとうと言って受け取る。風が冷えてるからな。くしゃみだってする。

 

「帰ってからは暖かくするんだぞ。最近冷えてきたからな」

「は、はい。ありがとうございます。常坂さん」

 

 俺の心配にはにかむように笑う鳳城。一礼して立ち去る。さてさて……隣の有里栖が左手を広げている。

 

「寒いから有里栖に温めてもらおうかな」

「うん! 一澄の手は私が温めてあげるね」

 

 寒さをも吹き飛ばす温かい笑顔を向けてくれる有里栖。一緒に手を握り合って帰宅したのだった。

 





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