鷺澤有里栖、小話集   作:サーたん

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『有里栖、ゲーム奮闘記』の続きです。


有里栖、ゲーム奮闘記2

「杉並さん、お話いいですか」

 

有里栖とゲームセンターデートをした翌日の学校。早速鳳城は杉並にリベンジを布告しに来ていた。俺や有里栖も連れ添ってる。

 

「鳳城詩名か。どうした?」

「昨日のレースのリベンジマッチを言い渡しに来ました」

「ほう?」

 

 杉並は興味深そうに声を漏らす。

 

「あんな不意打ちな方法でなければ私があの勝負勝ってました。ですから日にちを変えて、私たちと正々堂々と勝負してください」

「ふっ、あの状況でもっとも勝率が高い方法を用いただけだ。顔合わせの戦いなら、また他の手段を講ずるまでだな」

「……言いますね」

 

杉並の強気な返しに舌を噛む鳳城。だがすぐに表情を引き締め直す。

 

「真面目にゲームに取り組む者として、あんな卑怯な方法で勝利する杉並さんを許しておきません。再戦を申し込みます」

「そう言ってるが鷺澤嬢も参戦するのか?」

「うん、私も参加するよ。杉並君今度はちゃんと正面で戦おうよ。杉並君の真の実力見てみたいし」

「二人にそう言われては断るのも忍びないな。さてどのように面白くするか」

 

 戦いを仕掛けられ、思案顔になる杉並。

 

「というか俺を無視するなよ。俺も参加するかもしれないだろう?」

「同士は色々見どころあるが、ゲームの腕はからっきしだ。心配するな。何も期待していない」

「はっきり言うな」

 

 杉並に言われなくても、俺は杉並とは戦うつもりはさっぱりないが。俺は今回、後方支援に徹する予定だ。そんな感じで俺は杉並の発言を流していたが、引っかかっていた人がいた。

 

「杉並君、いくらなんでも一澄のゲームの腕がからっきしは言い過ぎだと思うよ? 一澄の彼女さんとしてその発言は聞き流せないな」

「それなら……どうするというのだ?」

 

 杉並が挑発するように、有里栖を見る。有里栖はその態度を笑って受け止めた。

 

「私が杉並君を倒して今の発言を訂正させる。覚悟は良いね?」

「どうやらやる気になったようだな。期待してるぞ、鷺澤嬢。勝負内容はあのレースゲーム。詳細は追って連絡する」

 

 杉並は己の目的は果たしたとばかりに俺たちから去っていった。

 

「頑張ろう、詩名ちゃん。色々教えてくれると嬉しいな」

「はい、何としてでもあの杉並さんを倒しましょう」

 

 有里栖と、鳳城が協定を結び合って放課後から特訓を開始することになった。もちろん俺も付き添いするのだが、帰り際に杉並から呼び止められた。

 

「同士、悪いが話がある。すぐに終わる」

「有里栖、悪いが先にゲームセンターに行っていてくれ」

「うん、詩名ちゃん誘って先に行ってるね。杉並君、一澄を懐柔するのは無駄だと思うよ」

「ふっ、進言感謝だ」

 

 有里栖がそう釘を指してから教室を出ていく。杉並は俺を中庭まで連れて行き、とある相談を打ち明けられる。俺はそれを承知した。楽しくなりそうだな。今回の勝負は。俺は練習前からそう予感していた。

 

 杉並の相談から開放されるとその足でゲームセンターに向かう。既に中では有里栖と鳳城がゲームをプレイしていた。

 

「うう……うにゅううううううううう……!」

 

 有里栖がおどろおどろしい声を漏らしていた。鳳城相手に苦戦してるらしい。

 

「有里栖、調子は悪そうだな」

「詩名ちゃんが私をいじめるのー」

「特訓中は師匠と呼ぶように言ったはずですよ?」

「すみません、師匠。でも師匠が強すぎてゲームが面白くないです」

 

 いつの間にか鳳城が有里栖のゲーム師匠になってスパルタしていた。だが有里栖の声色から察するにあまり成果は芳しくない様子。

 

「やはり鷺澤さんはゲームが楽しいと思えないと腕が上がらないようですね」

「わがままでごめんなさい」

「いえそういう素質だとわかって協力を申し出たのは私です。何か鷺澤さんにやる気を出させる方法を考えなくては……」

 

 鳳城がうーんと小首をひねる。

 

「じゃあ気分転換に俺も交えて試合してみようか」

「うん、一澄も一緒にやろうよ」

 

 有里栖は自らが操作するコントローラーの隣を勧める。俺は有里栖の横に座った。息抜きプレイということで以前の対戦のように技術云々は一旦捨てて楽しむことに。わちゃわちゃしたレースとなり今回は俺が一位となり、鳳城は二位。有里栖はCPUにも負けて最下位になってしまったが、特に落ち込んでいなかった。

 

「ぐぬぬ……まさか私が杉並さん以外に首位を譲るなんて……不覚です」

「今回は俺、アイテム運に恵まれたな。有里栖も危険を越してダッシュで突っ込んできたのは意外だった」

「あそこで落っこちなければ、私が一位だったかも。うーん面白かったけど勝つのは難しいね」

 

 有里栖は試合中、俺や鳳城とアイテムのぶつけ合いになり、それなりの駆け引きがあった。有里栖の賭けは成功すれば勝ちに直結しそうだが、技術がまだ追いつかない。だが、もしかしたら有里栖は真面目に特訓するよりも、こうして皆で楽しくやった方が伸びるタイプ……俺はそう結論した。

 

「有里栖、鳳城。このまま遊びまくろう。楽しく勝つためにさ」

「……なるほど。鷺澤さんは真剣に取り組むよりは、こうして皆で楽しくプレイした方が伸びるかもと常坂さんは考えるんですね?」

「ああ、有里栖はどう思う?」

「うーんどうかな。確かにこっちの方が夢中に勝つ方法を探せるけど……それで杉並君に勝てる技術が身につくのかな?」

 

 有里栖も流石にそこまで楽観的に考えてはいない。俺の提案を疑問視してる。鳳城が咳払いして俺と有里栖を見る。

 

「だったら真剣な1対1の対戦と、皆でのワイワイ対戦を交互に一回ずつやってみましょうか。両方やって相乗効果を狙うんです」

「そうだね。そっちの方がマンネリ化は防止できるし面白そう」

「じゃあ今回は俺と有里栖の一対一の真剣バトルスタートだな」

「彼女だからって手加減しないでね?」

「ああ、もちろんだ。有里栖のために必死こいてやる。後悔するなよ?」

「私だってただで負ける気はないよ?」

 

 お互い挑発し合い、試合へ。有里栖と切磋琢磨することになった。この方が後々楽しくなるだろうし、どんな形でも俺自身、有里栖と真剣に向かい合えるのは嬉しい。イチャイチャするだけでは知ることができない。有里栖のまだ見ぬ一面を見れるチャンスである。俺は初めて、ゲームに本気でプレイに没頭することにしたのだった。

 

「はー疲れたーゲームって思った以上に体と頭使うんだねー」

 

 既に暗くなった外。ゲームセンターを出た有里栖はうーんと背伸びする。

 

「結局、俺と有里栖は戦績は互角か」

「一澄、必死だったもんね」

「彼女に一方的に負けたら格好つかないだろう?」

「うん、プレイ中の一澄の真剣な顔に見惚れてたよ。格好良かった」

「その割には冷静だったな」

「そこはちゃんと割り切ってるよ。師匠と一緒に打倒杉並君を果たさなければいけないですし……師匠?」

 

 さっきから妙にだんまりの鳳城。有里栖が鳳城を覗き込む。

 

「調子でも悪いんですか、師匠?」

「いえ……少しボケっとしてるだけです。今日はお付き合いありがとうございました。明日は休日ですが半日は特訓しましょう」

 

 そう言う鳳城はぼんやりしてるが、顔が赤いとかはないから熱はなさそうだ。

 

「特訓は午後からで良いかな? 午前中は用事があるの」

「わかりました。明日の午後二時からで良いですね?」

「うん、その時間で大丈夫。明日もよろしくお願いします、師匠!」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 鳳城と約束を交わすと別れ、有里栖と二人になる。

 

「明日の予定って何かあるのか?」

「一澄と一緒に勉強しようと思ってね。いくら目標とはいっても毎日ゲームばかりはバランスが悪いかなって。どう?」

 

 真面目だな有里栖は。まあ彼女にこう言われて断るの彼氏はいない。

 

「ああ、有里栖となら何だって楽しくなる。歓迎だ」

「じゃあ明日は朝一にうちに来てもらって良いかな?」

「ああ、わかった。今日も送るぞ」

「ありがとう、一澄」

 

 有里栖の手を握って自宅まで送っていった。明日は一日中有里栖と一緒だ。楽しみである。

 

 

 翌朝、早々に有里栖の自宅へ。そのまま自室に通された。

 

「じゃじゃーん、これを見よ!」

「お、おお?」

 

 有里栖がでかでかと掲げたのは、最近流行りのゲーム機と、例のレースゲームの家庭版ソフトだ。

 

「お小遣いが溜まってたから、奮発して買ったんだよね。ゲームで大金使うの初めてだったからドキドキだったよ」

「いくらだった? 俺も出すよ」

「言葉だけで大丈夫だよ。私はお金持ちの娘さんだからね? こういう時は頼りにして。でもその分……一澄にはこのゲームで長い間、私と一緒に遊んでもらう義務があります」

「それは中々ハードな義務だな。早速……」

「だーめ。勉強が先です」

 

 ゲームに伸ばす俺の手を有里栖はぴっと軽く叩く。

 

「有里栖って忘れがちだけど普通に優等生だったな」

「優等生かは知らないけど勉強も必要だよ。勉強で鍛えた思考能力が無関係な事柄に役に立ったりする……かも?」

「願望だなあ」

 

 だが有里栖の意見も一概に否定はできない。

 

「それに、私にはお金や食べ物で不自由していない分、学生の本分を全うする義務があるの。一澄は違うかもしれないけど、私に付き合ってくれると嬉しいな」

「……有里栖がひたすら眩しい。仕方がない、やるか。俺も有里栖に相応しい彼氏にならないと」

「うん、私も頑張るから、一澄も一緒に頑張ろうね」

 

 無邪気に笑いながら俺の隣座って、参考書を取り出す有里栖。学習開始だ。有里栖は勉強中でもうーんと大げさに唸ったり、ぱっとわかったと笑顔でペンを進めたり、問題を間違えたのか、しゅんと落ち込んだり、反応が一々可愛すぎる俺の彼女。うう……これは拷問だ。けれど今欲望に流されるわけにはいかない。我慢だ。我慢。問題を解くことに集中して何とか有里栖への欲を抑える。三時間後には、ようやく本題のレースゲームを息抜きとしてすることになった。

 

「お、初めてなのに、動き良いな」

「あれだけ昨日レースしたからね。否が応でも上達するよ」

 

 どこか得意げにウインクする有里栖。一レース目から普通レベルのCPUや俺を引き離しトップに。次のレースでは俺のアイテム運の強さにも負けずに防衛しきってトップでゴール。ここ二日のプレイで有里栖はだいぶ上手くなっていた。

 

「この調子なら杉並にも勝てそうだな」

「それはどうかな。ようやくゲームに慣れてきたくらいだからね。杉並君みたいな未知数な相手には、まだまだ手札が足りない気がするよ」

 

 杉並を相当な強敵と考えてる有里栖。あいつに関しては実力が不透明な以上油断できる相手ではない。ここでこのゲームはお開き。午後の練習を控えてる。スタミナは温存しておきたいだろう。有里栖が紅茶を淹れてくれて、休息を取る。

 

「はい、お待たせー」

「サンキュー……お、旨いな」

 

 カップに口をつけ一口。有里栖が淹れてくれたという時点で相当な補正があるが、以前と同じ茶葉だが確実に味や風味が良くなってる。

 

「でしょー可純さんに淹れ方教えてもらってるんだ。一澄が喜んでくれるの見たくてね。満足してくれるみたいで嬉しいよ」

「俺も有里栖が淹れてくれた紅茶が飲めて嬉しいよ。おかげで頭のリラックスができる」

「ありがとう。勉強は頭使うし大変だもんね」

 

 俺は有里栖と笑い合いながら休息の時間を過ごした。

 

 

「ふっ、今日も練習に励んでるようで何よりだ」

「杉並さん、日程とか決まりましたか?」

 

 時間進んでゲームセンター前。俺たち練習の場に杉並が現れた。鳳城は目的を聞き出そうとする。

 

「ああ、今回はその通達に来た。その前にせっかくの勝負だ。何か賭けをしないか?」

「賭け?」

 

 杉並の言葉に目をぱちくりする有里栖。

 

「そうだ。勝負事に賭けを付け加えることにより、お互いに負けられない理由ができて競技に必死になれる。結果、試合が面白くなる。違うか?」

「理屈は理解できるけど賭けに出すほどのものは私には……詩名ちゃんはどう?」

「私はそうですね……二度と杉並さんがゲームで卑怯な真似をしないと誓って欲しいです」

「そんなことで良いのか? 例えば同士たち三名を国内旅行の手配をするといったことも可能だが」

「り、旅行? 杉並君にそんなことできるの?」

「無論だ。旅行代理店にちょっとした知り合いがいるからな。多少の融通は効かせてくれるはずだ。勝つメリットが低い話には必死になれないだろう?」

「そうだね……杉並君の望みは?」

 

 まあ結局賭けに応じるかは杉並の要求次第だな。

 

「同士をこちらの組織に引き入れたい。望むなら鷺澤嬢たちも仲間になってくれてもいい」

「組織?」

「そこは詳しくは言えないが、とても面白いことをする集団とだけ言っておこう」

 

 俺としては杉並の言う組織とやらは、胡散臭いが興味深い。有里栖との関係がなければ二つ返事で賭けを受け入れてただろう。俺たちは返事できず悩む。

 

「その組織に属したら……私たちはどうなるの?」

「今言えることは、同志たちが送ってる生活は間違いなく大きく変化する」

「それって……私たちが今までの生活が送れなくなるってことだよね?」

「想像に任せる」

 

 肝心なところははぐらかす杉並。有里栖は不安そうな顔つきだった。

 

「少し条件変えられない? もしくはもう少し具体的に組織の活動内容を話してくれないかな? 目的が不透明な集団に、私たちが入るなんてデメリットが大きすぎるよ」

「うむ……他の案を提案するなら、鷺澤嬢が以前文化祭の準備中に着たメイド服があるだろう? あれの写真や、他の服装の写真を公式に、二人に撮らせて欲しい」

「えっ、ひよりんたちが作ったあのメイド服?」

 

 昨年の文化祭で正式採用されなかったメイド服だ。バニーメイド服を着た有里栖。相当可愛かった思い出が脳裏に蘇る。

 

「どうして私の写真を撮りたいの?」

「鷺澤嬢は恋人ができたとはいえ、学園きっての人気は不動。鳳城詩名もコアな人気がある。二人は需要があるのだよ。色々とな」

 

 杉並が黒い笑みを漏らす。軽蔑するような眼差しで鳳城は杉並を無言で見返す。要するに有里栖たちの色々な写真を撮って売りさばきたいのだろう。活動資金欲しさに。彼氏としては彼女の写真流失は猛反対したい。だが杉並はこれ以上条件を譲歩するとは思えない。

 

「一澄、私受けても良いと思うんだけど一澄はどう思う?」

 

 しかし有里栖は違った。思わず首を傾げる。

 

「有里栖?」

「鷺澤さん、正気ですか? 杉並さんにそんな横暴許せばどこまで稼ぎに利用されるかわかったものではないですよ!」

「まあ多少は心配だけど……たぶん大丈夫だよ。そもそも杉並君ならこんな律儀に頼み込まなくても盗撮くらいはできそうじゃない? 裏でこっそり私たちを撮って売りさばく。そのくらい朝飯前。そうだよね?」

「ふっ、否定はしない」

 

 有里栖の予想に、杉並は面白そうに笑いながら続き促す。

 

「でもそれをしないのは、万が一にもそれが発覚した時、私たちとの信頼を失いたくないから。だからこうして対等な立場に立って、勝負の賭けとして持ちかけてる。違う?」

「ああ、同志たちとのコネクションは大事にしておきたい。同志たちの周囲では面白いことが起きるからな。その環境を自ら手放すのは惜しい。それだけは信じてもらいたいところだ」

「……そっか」

 

 有里栖は杉並の瞳を数秒じっと見つめる。何かを見定めるように。そして迷いなく結論を下す。

 

「私は杉並君の話を信じる。あまり知らない人のために写真を撮られるのは、正直気分良くはないけど……私は賭けを受けたい。勝って、二人と一緒に旅行に行きたい。一澄や詩名ちゃんはどう?」

「はぁ……」

 

 有里栖の決断に大げさにため息をつく鳳城。

 

「私は杉並さんを信じるなんてできません。相当胡散臭くて疑わしいです。だから」

 

 鳳城は言い直した。

 

「私は、鷺澤さんは信じます。彼女の今した話や、数日一緒にプレイした鷺澤さんの人柄を信じてみます。常坂さんはどうなんですか?」

「もちろん俺も有里栖の決断を信じて着いていく。彼女の目を信じるのは彼氏として当然だろう?」

「一澄ー!」

 

 俺の言葉に有里栖が喜んだように俺の右肩に抱きつく。さっきまでの凛々しかった彼女が今は無邪気な子どものようだ。思わず頬が緩む。すぐに表情を切り替え、有里栖と鳳城と共に杉並と向き合う。

 

「どうやら、賭けを含んだ勝負をさせてもらえるようだな?」

「うん、杉並君の二回目に提示した賭けに応じさせてもらうよ。よろしくね」

「杉並、勝負に勝ったら、俺たちに旅行には行かせてもらうからな。約束だぞ」

「ああ、男に二言はない。この勝負、目一杯楽しませてもらうぞ。同志よ!」

 

 杉並はそう高らかに笑うと、俺たちに勝負の日程を伝えてから去っていく。負けられない戦いがこうして始まる。かなり面白くなってきたな。色々な意味で。有里栖を横目で見ながら俺はそう思ったのだった。

 




当然まだまだ続きます。
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