ファンタジア・レコード外伝 ヴァルハラの戦士たち   作:明日田錬武

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第一話

 ヤルタ連邦国防軍所属。ヴァルキュリア級一番艦「ヴァルキュリア」

 そのブリッジへと通じる扉の前でアーク・ゲイナーは立っていた。

 齢は二十五歳。身長百八十センチのガッシリとした身体に黒色の軍服を身にまとい、短い銀髪はやや乱れていた。濃い黒色のサングラスをかけている。

 アークと扉の距離は三十センチもない。軽く手を伸ばせば開閉ボタンに手が届く。

 しかし、アークの腕は磔になったかのように動かない。

 少しして、扉が勝手に開き奥から一人の女性が現れる。

 肩程の長さの赤髪に、アークより頭二つ分ほど低い背丈。華奢そうな体格にアークと同じく黒い軍服を着ていた。ただ違うのは胸の階級章に星が三つ入っていたことだ。

 女性はドアの前に立っていたアークに少し驚いた表情を浮かべるも、すぐに固い表情になる。

「アーク・ゲイナー准尉だな」

「……はい」

 女性の問いかけにアークは答える。

「五分の遅刻だ。軍人は五分前行動が基本だろうが」

「……すみません」

 虚ろな表情で答えるアークを見て女性は舌打ちを一つ。

「まあいい、中に入れ。中佐がお待ちだ」

 女性は踵を返してブリッジの中へと入っていく。

 アークはほんの数秒だけ固まった後、観念したように続いてブリッジに入った。

 ブリッジの中には何人かのクルーがそれぞれの持ち場で作業をしていた。アークはそれらを眺めた後、先ほどの女性が厳しい顔付きでこちらを手招きしていることに気がつく。

 女性の横へと立つアーク。その前には一段高くなった座席があり、そこに一人の男性が座っていた。

 齢は六十位だろうか。アークよりほんの少しだけ低い身長で軍服の階級章には一本の線と二つの星が入っていた。

 男性が女性とアークへ顔を向ける。皺が入り始めた初老の顔つきだった。

 二人は男性へと敬礼をする。

「アーク・ゲイナー准尉。ラーミア・ヴォルフ技術大尉。着任しました」

「うむ」

 男性は女性、ラーミアを一瞥した後、アークへと視線を向けた。

「君、そのサングラスは何だね?」

 ラーミアがハッとした表情を浮かべ、アークへと顔を向ける。

「外せっ!」

 ラーミアの命令にアークはしばし黙り込んだ。周りの視線がアークへと集まる。

 やがて鈍重な動作でアークはサングラスを外した。

 すると周りのクルーたちがざわめきだす。

「オイオイあれって……」

「マジかよ、うわぁ」

 ポツポツと呟く声が聞こえ、視線がトゲのように突き刺さる。

 アークの瞳は紅く光っていた。

「アカメじゃん。なんでこんなとこにいんだよ」

「いくら御払い箱部隊だっていっても加減があるだろうよ……」

「静粛に」

 男性の一声でクルーたちは黙り込み、再び各々の仕事へと取りかかる。

「君は、アストレイだね?」

「……はい」

 アストレイ。三百年前の戦争が生んだ新たな人種。そして今起きている戦争の原因。

 アークを見たラーミアは二、三歩たたらを踏んで後退りした。

「そ、そんな。我が軍にアストレイがいるなど」

「ヴォルフ技術大尉。それは彼に失礼だと思わんかね」

「は! し、失礼しました」

 男性はため息をつくとアークへと声をかけた。

「しかし、私としても気にはなるのだよ。ゲイナー准尉」

 男性の目がアークへと向けられる。だが、そこには先程のクルーたちやラーミアから向けられたような敵意は一切無かった。

「失礼を承知で聞こう。君は何故、アヴァランチではなくヤルタを選んだのかね?」

「……母の教えです。国に尽くせば、我らアストレイもいつの日か同和できる時が来ると」

「そうか……」

 男性は静かに瞳を閉じた。

「自分からも一つ質問をよろしいでしょうか」

「何だね」

「自分はそもそも貴方のお名前を知りません」

 男性はそれを聞いて目をカッと開き、それから額を押さえて笑った。

「そうだそうだ、着任の処理中だったな。私としたことがうっかりしていたよ」

 ひとしきり笑った後、男性は呼吸を整えて再び話始めた。

「アーク・ゲイナー准尉。ラーミア・ヴォルフ技術大尉。よく来てくれた、両名の着任を歓迎する。ヤルタ連邦国防軍技術試験部隊『ヴァルハラ』へようこそ。私は指揮を勤めるダン・アレクサンダー中佐だ」

 ダンが敬礼をすると二人もそれにならって敬礼を返した。

「早速だが、二人には明日より技術試験をしてもらうことになる。今日はそれに備え待機を命じる」

「「はっ!」」

「よろしい、では下がってくれ」

 二人は指示に従ってブリッジをあとにする。

 ラーミアが先に退室し、その次にアークが扉の前に立ったその時だった。

「ゲイナー准尉」

 ダンの呼び掛けでアークが振り向く。

「気にするなよ。この世界に身を置くってことはこういうことでもある」

 そう言ってダンはクイッと親指を立てた。アークはそれに少し笑み浮かべながら敬礼を返し、ブリッジから出ていった。

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