ファンタジア・レコード外伝 ヴァルハラの戦士たち   作:明日田錬武

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第二話

 ヴァルキュリア級戦艦は俗に陸上戦艦と呼ばれるものだ。船体下部のクローラーで平地を進行し、未整地はEMスラスタによる低空ホバリングで走破する。このホバリングを実現するために船体は最小限にされ、その弊害として自衛火器をほとんど持っていない。

 敵に襲われればひとたまりもない。それがこのヴァルキュリアであった。

 アークはガタガタとクローラーの振動に揺れる自室で横たわっていた。備え付けの簡易ベッドはサイズと耐久性こそ優れていたものの、質感は金属板そのものであり寝心地は最悪だった。

 アークは顔を横に向け窓から外の景色を見た。深緑の木々が次々と前方から後方へと流れて行く。森の中を進んでいるようだ。やけに揺れるのはそのせいか。

 寝苦しい。気が張り詰める。昨日の着任以降、アークは一睡も出来ていない。

 原因は周りの視線によるものだった。紅い眼を隠すためブリッジを出てすぐにサングラスをかけたアークだったが、自身がアストレイであることはすぐに周知された。自室に着くまでにすれ違った乗組員はみな例外無くアークを怪訝な目で見、ブツブツと何かを呟いていた。

「アストレイというだけでこれか」

 アークは一人きりの部屋で小さく言う。ドアに目をやると今この瞬間にもその向こうから誰かが見ているのではないかという感覚に陥る。

 アストレイ。三百年前、人類は感染性マルスとの戦いに勝利した。だがその代償として身内にアストレイという人種を抱える羽目になった。

 簡単に言えばアストレイとは、感染性マルスの根元であるマルスウイルスに感染した者のことだ。厳密にはマルスウイルスに感染したものの、抗体のおかげで発症、変異しなかった者を指す。通常ならば、マルスウイルスに感染した生物はやがて感染性マルスへと変異してしまう。

 感染性マルスを駆逐した後も、人類にはマルスウイルスの恐怖が根強く残っている。故にアストレイは迫害されるのだ。研究の結果、アストレイ由来のマルスウイルスは生物を変異させる能力を失い、親子感染を除いて広まることもない。そう判明したあとも。

 母はどうしているだろうか。アークは想いをはせる。

 ヤルタ連邦とアヴァランチの戦争が始まってから、連邦領内のアストレイは次々と収容所に送られている。そして、送られた彼らはアストレイ特有の高い能力を酷使した作業を強いられていた。アークの母も五年前に収容所へと召集された。アストレイの生命力をもってすればそうそう死ぬことは無いだろうが、それでも心配だ。

 アークは天井へと手を伸ばし、虚空を握り締める。この手のひらは鉄の玉を握り潰すことも出来る。脚は走れば百メートルを十秒前後で駆けられる。腹は劇毒を喰らっても下ることはない。頭はゼロ距離でリニアハンドガンを撃たれても致命傷にならない。これらの能力は全てアストレイの特性、そして母から受け継いだ力。

 戦争を終わらせよう。そして、一人でも多くの同胞の目を覚まさせなければいけない。国への忠誠こそが、生き残る道だと気づかせるために。

 緊張感の中、アークが再び睡眠を試みようと目を閉じたその時。艦内放送が流れ始めた。

「本艦はまもなく目的地であるアルフテクス第五○七試験場へと到着する。技術試験員は午前八時にブリッジへと集合せよ。繰り返す、本艦はまもなく……」

 ついに来た。アークの出番だ。上体を起こし着崩れた軍服を直す。

 時間は午前七時四十五分。集合には早いが、つい昨日に時間の事で叱責されたばかりなので早く着く位が丁度いいだろう。

 身支度を終えたアークが自室を出ると、そこにはラーミアがいた。

「今度は時間に間に合うように動いているようだな」

「大尉はいつからそこへ?」

「十五分ほど前からだ」

 アークには分からなかった。なぜ自分の部屋の前にそんな時間から立っていたのか。

「なぜ、自分の部屋の前に?」

「お前がまたも時間に遅れるようなことがあれば、それは上官にあたる私の失態となるからだ」

「はぁ」

 アークは内心呆れた。自分の失態となるのがそんなに嫌なのか、と。実際問題として時間に遅れるのは良くないのだが。

「部屋から出てきたということは、準備は出来ているということだな?」

「はっ」

「……よろしい。行くぞ」

 そういってラーミアは廊下を歩きだしアークはそれについていった。

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