レーサーレプリカ(仮称)   作:Γケイジ

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X(ペケ)女

「カウント始めるよ!5!4!3!・・・」

今、私の為に大切な人が戦ってくれている。

下賎で愚かなモノ、ずっとそう言っていたモノで下賎で愚かな戦いを。

二台が合図共に勢い良く飛び出す。自分も急いでヘルメットを被り

彼が譲ってくれたGSXR125をかっ飛ばす。

Dリングのつけ外しもいつの間にか無意識に出来る様になっていた。

このバイクは小柄で小回りセパハンの割に悪くない。

それでも男顔負けのとんでもない鋭角なターンからか細くもはっきりと表象する単気筒の破裂音が闇夜にこだまする。

 

「お父さん、どうか二人を守って下さい・・・。」

誰にも聞こえない、ヘルメットの中での叫びはきっと届かない。

だから死んだ、私のお父さんは。

 

何がきっかけだっけ?

何となく気になって、似ているバイク、似ている雰囲気。

何処かに消えて行ってしまう気がしてこのバイクを力任せに押し倒したっけ。

校長室に呼び出されて担任にすっごい怒られて。停学になるかなって思ったっけ。

 

でも普段構ってくれない彼が私が話すまでずっと待っていてくれて。

結局なんでか彼が頭を下げて私の事かばってくれて、

肝心のバイクはウィンカーが折れただけで職員室のガムテープでくっつけて帰って

行ったよね。その後ろ姿見た時かな?

 

あの後教習所に通い始めて上手く行かなくて良いトコロのお嬢様が全身ケガだらけでみっともないって少しずつみんなが離れて行って。

嫌だった、みんなから笑われたりからかわれる経験は無かった。

地元では誰もが頭の上がらない大地主の娘だからその力に恐れて

誰もそうしなかっただけ。

 

大体の事はそつなくこなせた。でもバイクは全然ダメダメで

ほんの少ししか記憶にない我が父は凄かったんだって何度も思い直して涙が出て・・・。

 

思い出よりもずっと速く風と景色が流れる。

僅か125ccのエンジンが彼女を「その」領域まで押し上げる。

ようやっとカーブミラーに残光が見える、エボVで間違いない。

でもすぐに消える。音は聞こえるのに届きやしない。

 

教習所が休みの日は彼と彼のお父さんがバイク貸してくれて

いっぱい練習したなぁ。教習車のCB400じゃなくて

レア物らしいXJR1300教習車とかいう狂った様に重たくて

到底人間が扱える様なモノに思えなかったな。

モトクロス場でもバイク借りて練習して、泥んこになって遊んで

女の子らしくないって、男に媚びてるってクラスの女子に言われたね。

男子には無理だとか無茶だとかバカだとかそんなことばっかり。

でも君は日が暮れても雨が降ってもずっと付き合ってくれた。

 

「速いっ!こっちはもう目一杯攻め込んでいるのに追い付けない!」

当り前じゃない、私の見込んだ男だもの。

私が追い付ける様なヘボだったら惚れてなんかいないじゃない。

自問自答をひたすら繰り返す。

見たい、見届けたい。ゴールで待っていれば良いのかもしれない。

でもそうじゃなくて、後ろからずっと追いかけていたいの。

 

途中にある待避所を通過する。後、半分。

彼の何時もツルんでいた友達が見えた。崩れ落ちているそんな風に見えた。

嫌な予感が臓物を射貫く。だが矢は余りに鋭い。

400cc4気筒の甲高い雄叫びが鼓膜を震わせる。

 

「知りたかったら行くしかないだろ。でもそうしなくたって良い。それはお前が決めることだから。それに普通じゃない、異常者の世界なんだからナ。」

 

免許を取ってそれでも乗るのが怖くて、お父さんみたいに

死んじゃうんじゃないかって何時も考えていて。

そんな時彼はまるでお父さんみたいに、手を取るように連れて行ってくれたね。

 

「はっきり言って才能っていうのはある。俺達と同じ歳で世界のレース走ってるヤツとかも居るしナ。でも、ある程度の所までは場数を踏んで勉強すれば行ける。

鉄砲玉みたいに走らなくたって身体が勝手に覚えるコトってスゲーあるからサ、やっぱり走るしかないんだよナ。」

 

彼は本当に走るのが好きだった。私より好きなのかもしれない。

私の事なんて見えてなくて面倒くさいから合わせてくれているだけなのかもしれない。

 

確かに自分のお父さんにダブって見えるトコロが有るのかもしれない。

でも私は彼の事が好き、愛している。

どうしようもないバイクバカだけどそんな彼が好き。

お母さんもきっとそうだったのかな・・・。

 

ヘルメットの中、少しだけニヤける私が居た。

「あの時の言質は取ってるんだからね、逃がさないんだから!」

オーバー1万RPMの絶叫と4G63ターボの爆音が峠を支配する。

終わりが近い・・・。

 

「私の生きて帰ってきて」という願いは何時の間にか「勝って!」に

変わっていた。お父さん、私やっぱり貴方の娘みたい、スピードの事を

嫌いになんてなれない。それがどれだけ危険で、愚かなことだとしても。この人と、ずっと一緒に生きていくから見ててね?お父さん、お母さん。

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