姉妹校である京都高との交流会が目前に迫っている。
「おい、黒崎。お前もジュース買ってこい」
「特級パシんのかよ。あんたに手心って言葉はねーのか真希センパイ」
「手心加えてるからパシってんだ。いけいけ」
現在、交流会に向けて「しごき」なるミニイベントが開かれている。
ここで経験豊富な高専二年生が一年である伏黒と釘崎を揉んでいるらしい。
ちょうどいいからと俺も実戦形式として術式ありの訓練に参加したのだが、なかなかこれが曲者だった。
肉体ありで完現術のみ、五条に「くれぐれも熱線は吐かないようにね!」と言われたので飛び道具もなしにしたのだが、手加減の難しいこと。
うっかり完現術版月牙を出してしまわないよう常に気を張っていなければならなかった。
というか誰が熱線吐くってんだ、あの失礼な白髪野郎め。
まだ昨日の手合わせで口から黒虚閃を出したの擦ってんのかよ。
実は昨日五条とまあ手合わせをしたのだが、「互いに死なないこと」だけをルールにした結果、結構白熱した試合になったのだ。
術式を用いて瞬間移動しまくる五条は隙を見ては「赫」で俺を消し飛ばそうとするし、高機動の俺を設置型「蒼」で罠に嵌めて機動力を殺そうとしてきた。
それに対して、俺は王虚の閃光の要素を込めた月牙天衝を乱れ撃ちして応戦。
豪雨の如き面制圧を仕掛けたのだが。
五条は六眼で弾幕の呪力の薄いところを狙って体を滑り込ませ、見事突破してきた。
所々空間が歪曲して月牙天衝を喰らったのか、細かい傷だらけになった五条が壮絶な顔でニッと笑い。
お返しとばかりに茈をお見舞いされたので、とっさに聖域礼賛を発動してそれを防いだ、なんて一幕もあった。
もうその時の五条の嬉しそうなことよ。
そろそろこの男のことを剣八とニアリーイコールで考え始めている自分がいるのだが、誰か理解してくれないだろうか。
とと、話を戻そう。
一年と二年の交流の話だ。
集まったメンツ唯一の特級としての手合わせは、俺の手加減を考え直すいい機会となった。
皆、俺の空気に宿る魂を蹴っての三次元駆動にはやはり追いつけなかったらしく。
ブリンガーライトが煌めくたび、その素早さに翻弄され、頭を小突かれて倒れ込んだ喋るパンダが「流石特級…!」と漏らしていた。
禪院という伏黒と同じ名家出身の二年の真希センパイはフィジカルギフテッドという異能らしい。
しかし、この程度の肉体強化なら俺も肉体ありでも霊圧だけで十分対処が可能だった。
肉弾戦で無事競り勝ち、「嘘だろ、バケモンかよ」の一言をいただいた。
また、狗巻の発する「動くな」には驚かされた。
一気に体が重くなったのもそうだが、発動した瞬間、彼我のあまりの霊圧差からか狗巻が血を吐いたのだ。
その時は急いで彼を例の女医さんの元へ連れて行き、以後訓練の間は術式禁止となったのであった。
俺も真希センパイにパシられ、校内唯一の自販機のあるコーナーへと急ぐ。
屋根のある休憩所では、先に行ってきた伏黒、釘崎のペアがジュースを持って自販機の前にたむろしていた。
「あ、来たんだ」と釘崎が意外そうな顔で漏らした。
仕方ないだろ。俺もパシられたんだから。
こんなに買ってどうするのか、缶ジュースの一部を持たされた俺はゲンナリと手に感じる冷た〜いの感触に顔を顰めた。
釘崎がはぁ、と息をついて外を見る。
「しっかし、それにしてもあんたお化けすぎでしょ。先輩3人相手に無双って」
「いや、正直肉体ありだしヒヤッとする場面もあったんだぜ?特に真希センパイは速ェし強ェ」
「あー、私も参加すればよかった」
にやっと釘崎がイタズラげな笑みを浮かべる。
芻霊呪法はガード不能なところが厄介だ。
霊圧で静血装の要領で体内を固めれば多少はマシになるのだろうが、やはり柔らかいところを直接狙われるのは面倒だ。
俺はうげ、という顔をしてぱたぱたと手を振った
「やめてくれよ……共鳴りなんて食らったら霊体ならともかく肉体は無事じゃすまねぇよ」
「そういう意味では黒崎の術式の唯一の弱点は置いてきた肉体を狙われることだな。遠隔地だと防ぎようが無いし、抵抗もできない」
お菓子を両手いっぱいに持った伏黒が頷いた。
確かに。俺が死神化して外に出ている間は肉体は無防備だ。
普段は結界のある高専内の自室に置いてあるが、何かの拍子に遠隔攻撃等を喰らうと非常に厄介だ。
とはいえ、肉体が死んだところで普通に死神になるだけなのでこれと言った問題は無いのだが……。
やはり気持ちの問題として、肉体での生は守りたいところである。
と、そこでふと、背後に霊圧を二つ感じて振り返る。
俺の様子に気がついたのか、伏黒と釘崎も同様に視線を向ければ。
そこには見覚えのない大男が1人、女が1人の二人組が立っていた。
大男が重々しく口を開く。
「こいつらが噂の東京校の一年……で、そこのオレンジ髪が新しい特級の黒崎一護か」
「そうね。もしかして、宿儺の器とかいう汚らわしい人外も、実は特級任務にかこつけてそこの一年が処分したんじゃない?」
にや、と悪意に満ちた憶測をもう片方の女の方が口にする。
正直言って気分は良くない。
何か一言言ってやろうかとも思ったが、それ以上にキレている同級生2人に任せて俺は沈黙を貫いた。
まぁ、なんにせよ安い挑発だ。
実際問題、口止めされてはいるものの虎杖は生きているし、結局弱者が吠えたところでなんの意味もない。
俺が特になんの反応も見せなかったことに、女の方は鼻白んだようだった。
大男がそれを無視して前に出る。
「宿儺などどうでもいい。そんなことより、俺はこの黒崎とやらが特級たり得るかを確かめたいだけだ」
「俺が?」
「黒崎。お前に聞こう。どんな女がタイプだ?」
大男は実に迫力のある狂気的な笑みを浮かべ、バリバリと服を破って臨戦態勢に入った。
あっけに取られる伏黒と釘崎が言葉を失っている。
俺もどんな話の流れなのかとポカンとしていたが、まぁなんだ。
ひとまずそういう惚れた腫れたの話の前に言っておかねばならぬことがある。
「答えろ」
「いや、俺彼女いるから。そういうのはちょっと。あえて答えれば彼女がタイプってことになるけど」
「!?!?」
予想外のことを言われたように、目を見開いて大男は硬直した。
・彼女
無論だが織姫である。能力は特になし。
遠距離とはいえ瞬歩で一瞬なので任務の合間合間に会いに行っている。
・五条との手合わせ
怪獣大決戦。戦闘の余波で私有地の山が禿げ上がった。
ゴジョセンは全身ボロボロなのに大大大満足笑顔を決めていた。