神奈川県川崎市で、高校生の変死体が見つかったらしい。
変死体の頭部が奇妙に変形して死んでいることから呪霊による関与が疑われ、七海一級呪術師と虎杖が調査に向かった。
そこにいたのは術式によって歪められた「生きた人間」。
凄惨極まる非道の業のそれだった。
「で、俺はその追加応援。実は前におんなじような奴と戦ったことがあったから、自分から志願したんだけどな」
「黒崎が?……あれ、人間だったんだよな?」
体を高専に置き、そのまま瞬歩で神奈川まで来てみれば現在、ビルの一室にいた。
ここは打ち合わせのために補助監督が借りてた事務室だ。
虎杖がガタガタのパイプ椅子に座ったまま机に突っ伏し、俺に問いかけてくる。
どうも虎杖もあの改造人間と戦ったらしい。
俺が改造人間と戦ったのは先月のことだ。
突如襲われたので斬月で思いっきりぶった斬ったのだが、それがびっくり生きた人間だったということで最初は少々俺も凹んだ。
しかしああなってしまえば治す術はなく、生きて望まぬ罪を生むことの方が残酷と知れば話は変わる。
まさに虚のあり方だ。
そう願ったわけでもないのに家族を襲い、人々を襲う元人間。
それを救わずして何が死神と言えるだろうか。
「ああ。俺の斬月で殺して、看取った。そいつはもう、望まないまま3人も一般人を殺してたんだ」
「………そうか」
「尸魂界(あの世)はいいところじゃねぇけどさ。凶行を止めてやるぐらいは、してやろうって思ったんだ」
黙りこむ虎杖をそのままに、七海一級呪術師がつかつかと革靴の音を響かせて歩み寄ってくる。
「黒崎君はもうすでに犯人の居場所はわかっているんですよね」
「おう。街を流れる下水道からドス黒い霊圧を感じるからな。これ以上被害が増える前に仕留めておきたいところだ」
「そうですね。そうできるなら1番手っ取り早い」
メガネをぐいっと上げて七海が頷く。
やや躊躇った様子を見せるのは俺たちがまだ高校生であるが故か。
俺は万一のため追加で言っておこうと口を開く。
この場において年齢による遠慮は不要。最後に生きて立っていることこそ重要なのだから。
「あと、前に俺が戦った時の感じから言って、大元はたぶん特級呪霊だ。だから俺がメインで叩く。2人は援護を頼む」
「……わかりました。道中の露払いぐらいは任せてください」
「黒崎も負けんなよ!」
「誰に言ってんだ。それよかうっかり市街地を破壊しないよう祈っててくれ」
俺の本音だったのだが、「お……おう……」と引き気味のセリフをいただいてしまった。
こんな街中で虚閃なんて撃ったら最悪街中が火の海だからな。
ゴジラが本気で冗談じゃなくなってしまうのでいけない。
はぁ、と大きなため息をついた七海だったが、そのあと「帳にある程度の防御性を持たせます。本来の用途ではないので期待はしないでください」といってくれた。
たぶん月牙の一発も持たないだろうけど、無いより全然ありがたい限りである。
「サイズも大きいので一般人でもハンマーなどを使えば割れる程度のものですから。本当に、攻撃範囲の基準程度に考えてください」
「了解」
そんなわけで、俺たちの神奈川における呪霊退治が始まった。
ぴちゃり、と地下下水道の水が跳ねる音。
悪臭。わずかな有毒ガス。
そんな居心地がいいとは言えない場所で、真人は悪辣極まる顔でニヤリと笑った。
目の前には噂の特級術師、黒崎一護とオマケ2人。
うち1人は宿儺の器だ。
殺さずうまく追い詰めてやれば宿儺へいい影響を残せるかも知れない。
……が、メインはあくまで黒崎一護。
あまり欲張っても失敗するだけなので、今回は無視して適当に遊んでやればいいか。
と、そのように真人は考えていた。
出刃包丁のような奇妙な形をした大刀を肩に担ぎ、黒崎一護がこちらを睨みつける。
「テメーがこの改造人間の出所だな。クソ気色悪いことしやがって。センスねーんじゃねーの?」
「……ふぅん。そんなお荷物抱えてよく吠えるじゃん。ワンワンッて、かわい子ぶりっこかな?」
手の中で改造人間たちをわざとらしく弄ぶと、黒崎はゲンナリとした様子を見せた。
乗ってこないらしい。どうも、あまり改造人間について怒りを抱いていないようだ。
「もしかして他人事だから興味ない?薄情だねー!君、思ったよりずっと人非人なんだ!」
「他人事?……違うな。弱い奴が吠えても気にならないだけだ」
ぴくり、と真人の指が動く。
黒崎が大刀を下ろし、僅かに持ち上げた瞬間。
姿がかき消えた。
「ッ!?」
「防いだか、いい勘じゃねーか」
咄嗟に体の前に出した右手が切り落とされている。
ドバドバと遠慮なく吹き出す血と痛み。
魂ごと斬られているらしく、焼けるように痛い。痛い。痛い。
余裕ぶっこいているのか、黒崎は未だ刀を肩に担いだまま真人の手の届く位置にいる。
ぎらりと瞳を凶悪に光らせ、残った左腕で黒崎の胴体を鷲掴みにする。
正の呪力で手が焼ける。だがそちらに関しては魂には影響がないので無視を決め込む。
無為転変。
正しく発動したはずのそれは、平然としたまま胴体を一薙ぎされて不発に終わった。
上体だけの体で這いつくばり、息を荒らげて黒崎を見る。
「アガ、ォ……が…っ…!」
「あー、それ、完現術と似たようなアレなのか。生物にも効く完現術みたいな。でも俺と一般人じゃ霊子強度が違ぇよ。効くわけねぇから」
今、一瞬黒崎の魂に触れて分かった。
魂の格が違う。存在規模が違う。
真人がやろうとしたことは、園芸用スコップ一本でニューヨークを解体しようとしたに等しい。
逃げなければ。
もう手遅れに近いけれど、何とか逃げ切らなければ。
口から吐き出した改造人間の数十体を一度に放出する。
黒崎の後ろの雑魚2人がギョッとして拳を構えた。
そして、改造人間たちは揃って散り散りに走り出し、2人を無視して一斉に地上を目指す。
「っやば!」
「黒崎君!奴らは地上で一般人を狙うつもりです!こちらで対処するので貴方はこの呪霊を、」
次の瞬間。
改造人間全員が切り伏せられていた。
全くその場から動いたように見えなかった黒崎が、その残滓たる返り血だけを刀に付着させて佇んでいる。
「じゃあな」
「っ、……!」
恐怖に引き攣る真人の瞳に、斬月の輪郭がくっきりと映る。
死に物狂いで体の形を変え、せめて一矢報いんとめちゃくちゃに凶器をふるう。
しかしそれも全て無駄。
奴の異常に固い表皮に阻まれて何の意味もなさなかった。
その動きの陰に隠れて魂のほんの一部を下水道に潜り込ませて。
哀れに、惨めに。
真人は逃げ延びたのであった。
羂索「チャート崩壊と思ったけど首の皮一枚でセーフ!!」
真人「おそとこわい」
一護「だから霊圧探査は苦手なんだよ!あんな小っさな霊圧分かんねーよ!!」
順平「出番が……消えた……」