五条と七海は、高専の一室でしばしの休息を楽しんでいた。
ゆったりとしたソファに大きめのTV。命は軽いが金だけはある高専の特権だ。
もっとも、そんな中にあったとして五条と同室では休まるものも休まらない、と七海は考えていたが。
グデグデにソファに体を預けたまま、五条が口を開いた。
「どうだった、一護は」
「言葉を選ばずに言えば、とんでもない化け物ですね。同じ人間とは到底思えません」
忌憚のない意見だった。
七海から見て、黒崎一護特級呪術師は、階級に恥じぬ化け物じみた術師であった。
その滲み出す呪力だけで相手の攻撃すら無効化する、想定するのも馬鹿らしいほど莫大な呪力量。
次元違いの身体強化。
特級呪霊を子供のように翻弄する基礎戦闘力。
五条を糞ギミックボスだとするなら、黒崎は単純なHPや攻撃力だけでそれに伍する、ただただ強いシンプルな怪物だ。
ゴーグル状のメガネをくいっと掛け直し、七海は口をつぐんだ。
そんなの、子供に言うべき言葉ではない。だがそれは抗いようがない事実であり、大人としての情けなさに直結する真実だった。
「ところで、悠仁に発破かけておきたいんだけどあのゴジラを見て折れてないよね?」
「思うところはありそうでしたが、まだまだ前を見据えて立っていましたよ」
「そっか。うん。悠仁もいいね」
あれだけの強さを見ておきながら、虎杖はそれに追いつけ追い越せと修行漬けの日々を送っている。
若い力だ。現実に疲れた大人にはない、強さとしなやかさを感じる。
五条が嬉しそうにうんうんと頷いた。
「また昨日手合わせしたんですよね、黒崎君と」
「そうだよ?最近の日課。いやぁ、僕も色々インスパイアされちゃってさぁ。この歳になって成長は若人だけの特権じゃないんだって気付かされた感じ」
「そうですか」
偶然、任務の帰りにその手合わせを見る機会があったのだが。
七海の目から見ても、それは怪獣大決戦であった。
空間を捻じ曲げるほどの力がこもった呪力の刃を、空を埋め尽くすほどに降らせる黒崎。
無下限すらも突破するそれを、さらに術式を改良して鏡合わせにする事で入れ子人形のように剥がされた無下限を纏い直して耐え抜く五条。
五条は茈をさらに進化させたのか、無限により光速すら超えかねない速力で以て時間と重力とを捻じ曲げる一撃を放ち。
黒崎はそれを天使の輪と仮面とを出現させ、大海の如き桁外れの呪力で無理矢理に防いだ。
「あの、『真の斬月』とやらの攻撃、七海は見た?なんだっけ、三界を固定するに等しい力?よくわかんないけど、僕の新技の無下限万華鏡を突破してくるなんて凄いよね」
「術式として世界に対する干渉力があるんでしょうね。そこまでの出力、五条さんを相手にする時ぐらいしか必要性が見出せませんが」
「インフレだねー!僕ワクワクしっぱなしだよ」
五条は五条で、あの怪物の出力についていく本物の化け物である。
あんな怪獣映画でしか見たことのないコンクリが蒸発するような熱線の乱舞を己が身一つで防いでいくのだから。
どかっとソファにだらしなく横になって、五条は頬杖をついたまま大笑いした。
誰が見ても楽しそうと分かる盛り上がりようだ。
「ですが、あまり伊地知補助監督を困らせないように。大規模破壊は控えてください」
「気をつけまーす」
全然気をつける気のない返事に、七海は平然とした顔の裏で小さくため息をついた。
さて。
京都校との交流会もいよいよ本番である。
交流会前後では多少の一悶着があった。
俺の知らないうちに五条に嵌められたのか、虎杖が生存ドッキリとやらをやらかして滑り散らかして可哀想なことになっていた。
それに俺も「知ってたんなら教えなさいよ!!」と釘崎に締め上げられて散々であった。
まあ、そっちについては「五条に口止めされてたんだよ!」と言えば納得してくれたが。
交流会開始前のブリーフィングで、俺たちは現在チーム待機部屋にいた。
「作戦、どうする?」
「予定通りで構わねぇだろ。どうせやることは決まってんだ」
パンダの疑問に答えたのは真希であった。
今回の俺たちの作戦は実にシンプルだ。
俺が開始早々肉体を脱ぎ捨て、全員が俺の肉体を守っている間に俺が上空から呪霊を狙撃する。
一発で片がつくシンプルイズベストな方策だ。
呪霊の霊圧探査と遠距離狙撃が可能な俺だからこその作戦だと思われる。
会場が意外と広いから若干不安なのだが、まぁたぶんこの程度なら問題はなかろう。
「俺の肉体は頼んだ。なるべくはやくケリを付けるから」
「おう、任せとけ!」
虎杖の威勢のいい返事に、俺は我知らず笑みが溢れた。
パンダがぐっと拳を握り、次いでポリポリと頭をかく。
「あとは東堂がどう出てくるか、だな」
「めちゃくちゃ黒崎をロックオンしてたからな。ぜってー一目散に黒崎のところにくるだろ、ありゃ」
パンダの言に同意したのは真希で、さらに狗巻も「しゃけ、しゃけ」と言ってそれを後押しした。
俺は可能な限り早く呪霊を討伐し、それに注力することを頼まれている。
その間肉体は完全に無防備で、他のメンツに防御を頼らざるを得ない。
そこに東堂が現れると、最悪全滅。
そのまま俺の肉体が人質に取られ、行動を制限されかねない。
「大丈夫。あんたっていう最高の格上に散々揉まれたんだから。格上相手の勝負にはみんな慣れてるわよ」
「……そうだな。基礎力が上の相手に負けないで立ち続ける力はだいぶ成長した」
伏黒がしみじみと言う。
確かに俺、何度も手加減をミスって式神を破壊しそうになったからな……。
ともかく。
全員が全員、何らかの形で成長しているのは間違いない。
いよいよ本番が始まる。
「勝つぞ!」
「おう!」
全員で力を合わせ、交流会が今始まる。
・無下限万華鏡
すっくんの世界斬対策にもなる無下限の発展版。
馬鹿みたいに呪力を消費する。
・真の斬月
死神、完現術、滅却師の三つの力をごちゃ混ぜにするだけの形態。
プチ霊王。
特殊能力とかは無いが通常攻撃が全体必殺技になる。