スタートと同時に俺は死神化し、肉体を仲間に預けて上空に登った。
感覚を研ぎ澄ませれば、小さな呪霊が十二体放たれていることが確認できた。
ボス呪霊は一体だけのはずだが……正直、どれも似たような霊圧なのでどれがボス呪霊なのか判然としない。
「ま、全部倒せばいいか。細かいのもポイントになるって話だったし」
そう独りごちて、俺は大聖弓(ザンクトボーゲン)を空に具現化した。
つがえるは神聖滅矢を十二本。
万が一誤って京都校のメンツに矢を当てるといけないので、念のため指差し確認。
目標よし。弓の手加減よし。霊圧の込め具合よし。
「よし。光の雨(リヒトレーゲン)!」
弱体化に弱体化を重ねた光の雨を発動すれば、二級呪霊程度容易に祓える程度の霊子の矢が降り注ぐ。
一発目着弾。呪霊の霊圧が消える。
二発目から八発目も着弾。一匹だけ消えていないのは上手く避けられたかららしい。こいつがボス呪霊だろうか。
九発目から十二発目は全て呪霊を祓えたようだ。
残りは一匹だけだ。
と、そこで地上で小さな霊圧の衝突があった。
東堂とか言う大男と東京校メンツが戦っているようだ。
俺も早く仕留めて行かなければ、と思ったところで。
こちら寄りの中間地点に大きな霊圧がポッと出現するのを感じた。
かなりの大きさだ。この間の火山頭ぐらいはあるんじゃなかろうか。
明らかにこの交流試合で出現していい領域を超えている。
しばし迷った後、遠隔地で見ているであろう五条に伝えることを優先することに決めた。
俺1人でも十分に祓えるが、やはり働くようになってからはホウレンソウを心掛けるようにと七海に常々言われるようになったからな。
強くても1人で突っ走らない。
なるほど、至言である。
「縛道苦手なんだよな…あー。───『黒白の網 二十二の橋梁 六十六の冠帯 足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列 大円に満ちて天を挺れ』」
縛道の七十七 天挺空羅。
幼少期からかっこよさに憧れたからというだけの理由で鬼道は練習していたのだが、まぁ黒崎一護にその辺の才能があるはずもなく。
一応この十年である程度はものになったが、やはり実践で使えるとは言い難いものになっている。
ぶっつけ本番の天挺空羅は無事五条につながり、「うん?」という訝しげな声を拾い上げた。
「わりぃ、緊急事態だ。聞こえるか?」
『っっっ!?!?!?お、音量、待って、一護、音割れ、耳の鼓膜裂ける!』
どうも霊圧の調整をミスって凄まじい爆音で繋がってしまったようだ。
まぁ俺の実力で無事に繋がったんだし、この程度は誤差ということで納得して欲しいところ。
「特級呪霊が会場に出た。このメンツとかち合えば間違いなく全滅する!」
『!……君に対処可能なレベルなんだよね?』
「おう。俺なら問題なく祓えるはずだ。一応そっちにも伝えておこうと思ってな」
『ありがと。助かるよ。周囲の人員は避難させとくから、一護は遠慮なくやっちゃって』
「了解」
『あとこんな便利な通信技使えたんだね。呪力を結んで声を届けるなんて異次元レベルに器用な技使えて、どうして呪力操作がそんなんなの?』
「うっせ。仕様だよ仕様」
それだけ言って天挺空羅を切れば、特級呪霊の方も動き出す気配を感じた。
一匹残っていたボス呪霊らしきものも、その特級に祓われたのか気配が消える。
まず地上に戻り、皆の様子を確認する。
この短い期間で皆満身創痍。どうも混戦になったようで全員が全員ごちゃ混ぜになって戦っていた。
俺は声を張り上げて皆に要件だけ伝えられるよう叫ぶ。
「聞いてくれ!交流試合のフィールドに特級呪霊が出現した!皆退却して五条と合流しろ!」
「!!!」
息を呑む声に、思わず絶句する数名。
東堂と戦っていたらしく、顔から全身をボコボコにされた虎杖が勢いよく跳ね上がり、「まじか!」と目を見開いた。
細目の男……加茂憲紀と言ったか。
加茂が京都校を代表して俺の前に立つ。
「それは確かか?」
「ああ。さっき呪力を確認した。……あと、知らねぇ人間の呪力が二つ、こっちに近づいて来てる。どういう意図にせよ緊急事態には変わらねぇよ」
「そうか。特級たる君がいうなら間違いないのだろう。退却しつつ事を報告しなければ」
「一応俺が五条へは伝えておいたから問題ないとは思うけど、そうだな。ここに留まるのは悪手だろうぜ」
何が起きているのか定かでは無いが、ひとまず特級だけはそのままにしておけば不味いことになる。
俺は「身体、悪いけど頼んだ」と虎杖に任せて斬月を抜く。
速攻で終わらせる。
一歩踏み込む。
景色が流れる。
音を置き去りに瞬歩で距離を縮めれは、森をかき分けた先にいたのは大木を擬人化したかのような不思議な呪霊であった。
「!……xxxxxxxxxx、xxxx」
「あぁ?なんだこりゃ。異世界転生モノの自動翻訳機能みてーなの」
音としては全く意味不明なのに、中身だけ理解できる不思議な声だ。
どうも呪霊に似つかわしくなく穏やかな感じで、呪霊というより森の精霊のように見える。
と、そこで空がじゅくじゅくと黒色に塗りつぶされていくのが目に入った。
誰かが帳を張ったらしい。
誰が張ったのかはよく分からないが、まぁ無視でいいか。
「悪ぃが祓わせてもらう」
「xxxx、xxxxxxxxxx」
「俺が生命流転の具現?あー、そう言うのはよく分からん。少なくとも俺は人間贔屓だ」
「………xxx」
何か哲学的なことを言われたが、呪霊と地球の未来について論じるつもりはないので黙殺する。
俺は三界が無事であること、そして身近な人が穏やかに過ごせることさえクリアできればそれでいい。
ずず、と地面に潜って素早く撤退しようとする植物呪霊が、俺への牽制に杭のような木を放つ。
出会って早々撤退とは不思議な呪霊だ。
何が目的なのか……それとも、そもそも俺と会話すること自体が目的だったのか。
俺は放たれた杭を無視し、ありったけの霊圧を込めて、斬月に月牙を装填した。
「じゃあな。月牙──天衝」
「!」
杭が俺の腹に突き刺さる……わけもなく、霊圧に阻まれて足元へと落ちる。
そのまま斬月を振り下ろせば、当社比でも大いに太い月牙が地面を抉り取りながら射出された。
霊圧だけで物質すら圧殺する密度の月牙だ。そのまま植物呪霊は月牙に飲まれ、見えなくなった。
なお、それくらいで月牙が止まるはずもなく。
そのままずんずん直線上に森を削り取り大地を抉り取り、帳をぞり、と削り取ってそのまま市街地へ……。
「おわぁぁぁああああああ待て待て待てやばいそれはヤバいって!!!」
瞬歩でなんとか月牙の前に回り込み、相殺したのであった。
・東京校vs京都校
大混戦。
一護が帰ってくる前に全員戦闘不能にして肉体を奪取するのが目的な京都。
一護が帰ってくるまで遅延耐久戦を仕掛けるタワーディフェンス東京。
と、呪霊を総無視して別ゲーやってた模様。