呪霊による襲撃事件を終え、その被害の全容が明らかになった。
まず、俺が植物呪霊と戦っていたのと同時刻に忌庫という呪物の保管庫が襲撃されたらしい。
下手人は魂を変形させる例の特級呪霊。
どうやら俺は仕留め損なってしまったらしい。
次に、二名の呪詛師が侵入し、生徒と交戦したようだ。
もっとも、想定より早く五条が合流したため、片方は死亡。もう片方は這々の体で撤退したようだが。
五条から逃げ切れるとは悪運の強い奴である。
これらから判断できるのは、呪霊と呪詛師が徒党を組んで何事か企んでいるということだ。
俺と五条がいるとはいえ、今回の帳のように通信を遮断する結界を張った上で同時多発的にことを仕掛けられては厄介極まりない。
そこで、だ。
「術式に依らない新しい技術体系!特級呪術師である一護の開発した高等呪術『鬼道』の講座だよー!!」
どんどんぱふぱふー、と1人で場を盛り上げる五条に、皆揃ってゲンナリとした顔をしている。
場所は東京校の校舎の一室。
そこに治療もそこそこに野球を終えた東京校・京都校の生徒が集まっていた。
ちなみに、五条の隣で壇上に立つのは俺である。
なんとも気恥ずかしいが、俺の鬼道が皆を救う一助になれたなら伝授を躊躇う理由はない。
するりと挙手をしたのは加茂だ。
「はい、京都校の加茂君」
「鬼道…とかいう秘伝の技術を知る機会があるのは素直に嬉しいが、門外不出の縛りは無いのですか?」
「一応この場にいるメンツだけの技術に留めるよう縛りは結ばせてもらうけど、この技術は基本的に一護が開発したものだからね。特に制限等は無いよ」
「そうか、ならこちらに否やはない」
頷いて加茂がパイプ椅子に座り直す。
次に声を上げたのは伏黒だ。
「鬼道というのは見たことがありませんが、どのような術なんですか。というか、そもそも俺らが習得できるようなモノなんです?」
「それを今から試そう、みたいな感じかな。少なくとも僕は習得できたけどね」
「六眼なしの唯人でも習得可能な技術か、俺らで試そうってことですね。わかりました」
あとは質問しようという人間はいないようだった。
ただ、皆好奇心旺盛にその技術の詳細が明かされるのを待っている。
五条がカラカラとホワイトボードを脇に退け、俺に液体墨の入ったボトルを渡してくる。
俺はそれを受け取って、蓋を開けて壇上の床に置いた。
誤って蹴っ飛ばさないように注意せねば。
「じゃ、まずは一護のお手本から」
そう言って五条がすすすっと部屋の隅へと寄ったので、大きく息を吸って緊張を解きほぐす。
これで失敗したら赤っ恥だ。
この時のために一日みっちり練習したが、さて、どの程度のものか。
床に墨液でもって円を描き、その術式に霊圧を込めていく。
「───南の心臓 北の瞳 西の指先 東の踵 風持ちて集い 雨払いて散れ」
掴趾追雀。
対象は誰でもよかったが、ひとまず伏黒とする。
霊圧をはらんで淡く光る円陣内部が、その座標を指し示す。
同時に術者へと感覚的にもその探索対象の位置を知らせてくる。
五条がマイクを取って横で解説を入れた。
「分かりづらいかもだけど、これ、凄い技術でね。対象の呪力を自動探索するプログラムなんだけど、遮断系の帳や領域展開を隔てても相手の位置を把握できる優れものなんだ」
ざわり、と気配が揺れる。
隙が大きいため戦闘で使えるようなものではないが、逃げ出した呪霊の探索や混戦中にはぐれた仲間と合流するのに非常に有用だ。
「特に、帳で電波を遮断する奴がいるみたいだからね。その対策って感じ」
「件の呪詛師カ」
「そ。次に教える天挺空羅はちょっと難しいから習得できるかは微妙だけど。組み合わせて使うと実に強力だ」
俺としては自前の霊圧探査があるからとくに困ったりはしないのだが、掴趾追雀はその俺と同じ感覚を限定的にだが再現する。
対象とした相手の呪力の大きさを感覚的に把握できるから、戦況の把握や安否確認にも使えるようだ。
また、繋がり具合から相手が領域の中にいるか、それとも通常空間にいるかも判別できるとのこと。
俺はそんなふうに使ったこと一度もないけどな……。
この間五条に「あれと同じような技、色々編み出してるんでしょ。見せてよ」とか言われてホイホイ見せたのだが。
一度見てすぐに「うん。なるほど……器用だねー、どうしてここまでしっかりした技術を作れるのに呪力操作がゴミなんだか」とかいわれてしまった。
その上で掴趾追雀を俺より綺麗に再現するというおまけ付き。
仕方ねーだろ適性ないんだから!!ゴミ言うなし!
はぁとかため息ついてんじゃねー!!!
「多分かなり難しいけど、習得すると色々役立つかも?って感じだから皆頑張ってね!」
「しゃけ。おかか。おかか」
「さっぱりわからん。呪力にめちゃくちゃ複雑なプログラムを仕込んでたのは分かったけど。釘崎はわかった?」
「パンダ先輩に分からないなら私にわかるわけないでしょ。つか見取り稽古とかいつの時代の話よ。やり方をもっと詳細に教えなさいよ」
などと現場はざわついている。
野球で皆いい感じに親睦が深まったのか、そこそこにはまったりとした雰囲気だ。
「じゃあ僕から掴趾追雀の簡便なプログラム見取り図を書くねー。よいしょ、と。まずこの四陣のつくりについてだけど」
端に寄せてあったホワイトボードを取り出し、五条がプログラム構成を書き加えていく。
へー、そんな感じになってたんだこの術、なんて思うが口には出さない。
ツッコミの嵐になることが目に見えているからだ。
かなり熱心にノートへと書き写していく三輪に、じっと俺の発動しっぱなしの術を見つめたまま動かないメカ丸。
なんとも三者三様だ。
そんなふうにして本日。
誰1人術の発動に成功したものが出ずに、午前はすぎてゆくのだった。
・掴趾追雀
呪力により再現が可能な鬼道。
五十番代なので人間の寿命では相当会得が難しいが、一応再現可能な技術。
練習も無駄ではなく、緻密な呪力操作の習得訓練にはなる(擁護論)