呪術高専で使っているというテキストをペラリとめくりながら、俺は頬杖をついて机に向かっている。
あれから、肉体を取りに戻ってすぐに目的地へと直行することになった。
俺がずるずると肉体に戻る姿を見て、五条悟と名乗った銀髪の男はへぇと感声をあげた。
「君、生きた人間なんだ」
「悪りぃかよ」
「いや、話しやすくて良かったと思ってね。もし本当に土地神案件ならおじいちゃん達をどう説得しようか迷うところだったから」
話の内容はイマイチ分からないが、興味深そうな視線は努めて無視をする。
五条は東京都立呪術高等専門学校という学校で高校生を相手に先生をやっているらしいが……。
都立高校が呪術とかやってんのかよ、と思わなくも無い。確かここ宗教系の私立高校じゃなかっただろうか。
まさか宗教にかこつけた霊的超能力学園だったとは、事実は小説より奇なりを地で行く場所である。
そう言えば、鬼道はたしか高等呪術といって人間の使うものとはレベルが違う、みたいな話があったような無かったような。
なら人間の使う呪術がこれか?とも思うがどうもしっくりこない。
先ほど受けた技の威力から鑑みて並の死神よりも強いだろうこの先生が、ドン・観音寺程度の存在であるはずがないからだ。
俺は「はぁ……」とため息をついて教科書を開いたまま机に突っ伏した。
世界観がどうにも噛み合わない。
彼らの使っている力が霊力とは若干異なるのは肌感覚でわかるが、だからといって呪力とか言う新設定をすぐに受け入れられるほど自分は頭が柔らかくもない。
負の感情なんて陰気臭いもんで戦わなくちゃならないのは何とも世知辛いものだ、と思うくらいには現実逃避している。
と、そこで部屋に戻ってきたのは補助監督と呼ばれるスーツ姿の男だった。
この場所は元居た高校の裏山から3区程度離れた場所にある高専の敷地内だ。
空座街から割と近いところにあり、ここまでは完現術(フルブリング)を使って空を瞬歩の如く飛んできたのだ。
五条も同じくあの不可解な瞬間移動を使ってここまできたわけだが、やはり大っぴらに瞬歩を使って移動できる環境は大変ありがたい。
公共交通機関の出費で貧しい高校生の財布が圧迫されないからな。
今、当の五条は上と掛け合ってるとのことだ。
謎の術式を持った新人を発掘したから組み込みたいとか何とか、そういう話をしているとのこと。
補助監督とか言う男───伊地知という名前らしい───は、机に突っ伏した俺に近寄ってきて恐る恐る尋ねてきた。
「それで、貴方は結局どういう術式なのか分かりましたか?開示するにせよしないにせよ、ご自身で自身の術式が何かをわかっていないのは問題がありますからね」
「んー、まず術式ってのがわかんねー」
「というと?」
お堅い見た目に反して、伊地知という男は愛嬌のある仕草で首を傾げた。
術式。呪術。わからないことだらけだ。
俺が当然にできると思ってたことが「術式」という特殊技能として扱えるとあらば、何がどこまで術式なのかすらわからない。
「あー、例えば斬月…俺の刀だけど。これを出すことは俺にとって当然できることで、能力じゃない」
「……」
伊地知は無言で先を促した。
とはいえ、斬魄刀とは本来ただ1人の刀匠が作り出し授与されるものだ。
俺、すなわち黒崎一護の場合は少し特殊で、母親に取り憑いた寄生型虚が子に受け継がれ、体内で変化したものだったか。
「俺にとっての能力は、斬月に、あー、呪力?を食わせて刃に変換、射出することだ。刀を出すのも呪力体になるのも当然できることで、俺の能力じゃねー」
「呪力を刃に変換するだけというなら、類似するところだと積刃呪法がありますね。ですがまず肉体から抜け出て呪力体になること自体が非常に特殊な事例ですから」
「らしいな。わけわかんねー。とすると俺の能力は何なんだよって話だよ」
霊体、すなわち呪力体になることが能力なのだとしたら。
霊子を固めて空を歩くことも、斬月を取り出すことも、始解も卍解も虚化も完現術も滅却師の力も全部俺の能力ということになる。
ただでさえ闇鍋チャンイチとかって馬鹿にされる黒崎一護なんだから、そんなもの片手では挙げきれないチャンポン状態だ。
ちなみにだが、転生してからずっと練習自体は欠かしていないので、今挙げた力は全て実用可能だ。
肉体ありでも反動の少ない完現術系統の力は取り回しがよくありがたいものとなっている。
シルバークレイで作った死神代行戦闘許可証をぐるりと回して、俺は手慰みに完現術を発動させた。
ブリンガーライトがチカリと光り、無意味に代行証が浮遊する。
これはあまりに尸魂界の気配が無いので手慰みに作った偽造代行証だ。
虚しいだけなので捨てようと何度も思ったが、いまの今まで捨てられずにいる。
「それは?」と伊地知が代行証を覗き込んで聞いてきた。
「中学ンとき作った手作りアクセ。ダセーって言うなよ。そんなん自分が一番わかってんだから」
「言いませんよ。見事ですね。造形の才能があるっていうのは羨ましいものです」
本心からなのだろう。彼の声色は優しく穏やかだ。
何となく気恥ずかしくなって、代行証を手のひらで隠した。
と、そこでバァン!!とけたたましく教室の扉が開かれた。
「ただいまぁー!お待たせ、一護君。上の許可もぎ取ってきたよ!」
「え、あのお堅い上層部を折れさせたんですか?」
驚いた声を出したのは伊地知であった。
その狼狽え具合に、それがどれほど異例なことかが察せられる。
「あまりに前例がなさすぎるからね。始末するのは危険になったらでいいじゃないって論法で攻めた」
「おおい、俺始末されんのかよ。危険って、つまりそっちの組織のお偉いさんの予想より俺が強かったらって意味だろ」
「まぁね。でもダイジョーブ。どうせ強いなら始末なんてできないんだし。誰よりも強くなればOKってわけ」
「んな無茶な……」
ガバガバな頭蛮族理論だった。十一番隊かよ。
五条はビシッと指でこちらを指し示し、ニヤリとイタズラげに笑う。
「ってわけで、追々僕と戦闘実習するから予定空けといてね」
「どんくらいできるか見るなら初対面の時やったじゃねぇか」
「あれは最低限動けるか確認しただけだからね。君の難解極まりない術式を全然みれてないし」
「そういうもんか」
今思えば初対面にとりあえず殺し合いって、ほんと芯まで頭蛮族かよこの人は。
何となく呆れた気持ちになりながらとにかく頷けば、五条はウキウキと肩を揺らして向かいの席へと座る。
「じゃあ、あとは呪術高専への編入だね!ようこそ呪術の世界へ!」
「へ?」
別に了承も何もしていないが、そんなわけで話を聞きにきただけのつもりの俺は、気づけば転校することになっていた。
いや別に構わないけど、構わないけどこの何も説明しないで進んでいくノリばっかり原作BLEACHなのはどういうことなのだろうか。
誰か何か解説してくれよ。