捕らえた軍人には、増え続ける避難民の誘導や物資の運搬を手伝ってもらうことになった。
捕らえた部隊責任者と直接交渉したのだが、一応快く聞いてくれた。
なにせプレイヤーとしてカウントされてしまった軍人達は何を騙されたのか、コロニーからはもう出ることができない。
初めから結界内にいて取り残されてしまった一般人ならともかく、自分から入ってきた以上、彼らはプレイヤーだ。
プレイヤーである以上結界に弾かれ、なんらかの手段を見つけるまで外には出られない。
まぁ、俺の場合無理やり霊圧で一時的に穴を開けて突破できなくもないが。
それは置いておくとして。
そんな極限状態だ。
流石に災害地で人を拉致する任務なんかを続行するより、捕虜として正義を働きたいのが心情というものだろう。
特に所属は米軍とのことで、俺たちの仲間になればこの任務の失敗も「人道支援だった」と言い訳できる。
多少安全面が改善し、避難民にも希望の芽が出始めた頃。
俺は五条から突如かかってきた天挺空羅に、驚きつつも応答していた。
つか天挺空羅使えるんだな……さすが最強の名をほしいままにしていた男。
「五条、羂索とかいうやつを仕留めたってのは本当か」
「そうだよ。何やら中国ロシアインドと大御所どころと悪巧みしてたからね。会談中に突撃して始末したんだけど」
五条家は呪術界の重鎮だ。
どうも動きがきな臭い加茂家の様子を探ったら、傀儡化されていた一家の様子に唖然としたそうだ。
それで急いで動向を探れば、海外と密会していたのだとか。
そこを瞬時に強襲できるのも流石は五条といったところだ。
「……けど結界は解除されてねーぞ。まさか別に共同管理者みたいなのが設定されてんのか?」
「たぶんね。誰かは不明。一番可能性が高いのは盗まれた君の肉体に入ってる誰かさんってとこかな」
つまり両面宿儺のことを言っているのだろう。
意味ありげに笑う五条の様子は実に楽しそうだ。
俺の肉体を得た宿儺がどれほどのものなのか楽しみにしている、といったところか。
まったく頭十一番隊はこれだから始末に負えない。
「ところで一護、君一人で世界の電力を遠い未来に亘って十分に賄えるってマジ?」
「いやいやいや、知るわけねーだろんなこと!呪力発電所なんて概念考えもしなかったわ!」
「まぁ一護の呪力ならそうなるよね」
納得した感じでうんうん頷いているようだが、普段のいじりからかなんとなく貶されている感じがしてしまう今日この頃。
というか、どうやって呪力を電力に変換するんだ?
とりあえずタービン回せばいいのか?
五条は俺の様子にひとしきり笑ってから、「じゃあそっちは頼んだよ」と口を開いた
「とりあえず引き続き一般人の避難を頼んだから、僕は君の肉体の方を追っていくよ」
「おう。頼んだ、俺の体を殺すんじゃねーぞ」
「善処はする」
「おぉい!?」
くすくすと笑って通話が切れる。
するとふと、視界が暗くなった。
影の領域(シャッテン・ベライヒ)だ。
斬月のおっさんことユーハバッハが俺に話したいことがあるのだろう。
影の中でユーハバッハが佇んでいる。その隣には白一護ことホワイトもいる。
ホワイトが俺をジロリと見た。
「なんだおっさん。流石に昼間からダメ出しは勘弁してほしーんだけどよ」
「そちらは今晩みっちり言いたいことがある。ホワイトと話をするので予定を空けておけ。だが、今はそれはいい」
ユーハバッハが一呼吸おいて俺を鋭く見つめてくる。
というか、ちょっとげんなりする話を聞いてしまった。また今晩も黒崎一護講座があるのか……また幾つダメ出しを喰らうのやら。
「お前が潜在能力から完全に力を引き出したことで、私も力を取り戻した話は前にしたな」
「ああ。他人の欠落を埋めることを引き換えに魂を奪うアレだろ?」
俺が答えれば、若きユーハバッハは満足げにゆっくりと頷いた。
「そうだ。聖文字(シュリフト)。魂を与え奪う能力。そろそろ自覚してもらいたいのだが、これはお前の力だ」
「いや、ユーハバッハの力なんだからおっさんの力だろ」
「その私がお前の一部だと言っている」
ユーハバッハがため息をつく。
そして後ろのホワイトと顔を見合わせて「ダメだこりゃ」「一護ならもう少しはな」などとこそこそ話し合っている。
うっせーぞソコ!聞こえてんだよ!!
「お前の力が使われている。肉体に巣食う悪魔にな」
「へ?」
「感じないか、一護。自身が力をわけ与えた魂のかけらの脈動を。お前の中に増していく力を」
「いや、正直わからん」
はぁ、と斬月のおっさんは肩を落とした。それをホワイトがポンポンと慰めている。
仕方ないだろホントに分かんないんだから!!
「分かる努力をしろ。そんな有様ではいずれ周囲の人間に無差別に聖文字(シュリフト)を与えかねん」
「うぅ……わかった。早急に努力する」
それだけ言って、ふっと影の領域(シャッテン・ベライヒ)が解除されていく。
どうやら忠告してくれたようだ。
ああ見えて意外と面倒見のいい人たちなので、俺も助けられてばかりである。
とはいえ、黒崎一護格付けチェック(毎日開催)だけはなんとかして欲しいのだが。
「どうした、黒崎」
伏黒がぼんやりする俺を不思議そうに見て声をかけてくる。
俺はパタパタと手を振った。
「いや。なんでもない。ちょっと俺に新たな術式が生えたかもしんねー。聖文字(シュリフト)っつーんだけど」
「それがなんでもないわけないだろ」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、伏黒がもっともなことを言った。
真白い椅子に座る滅却師の王、ユーハバッハは、肉体の袂にて厳かに口を開いた。
「お前は理解しておらんようだな。これは縛りなどではない。そんなチンケな契約ではないのだ」
横に立つのはホワイト。
死神の魂を煮詰めて虚のカタチに仕立てた最高傑作。
「テメーの魂はすでに王のモンだ。燃料如きがでしゃばってんじゃねぇよ」
「ぬかせ、痴れ者が。俺が去ねと言ったのだ。それが聞けないのなら踏み潰すまでのこと」
呪いの王、両面宿儺はこの場において挑戦者。
宿儺は肉体に巣食うこの両名にこの一ヶ月苦しめられてきたが、漸くこの肉体の袂まで辿り着くことができた。
これであとはこいつらを捌いてしまえば、この肉体は完全に己のものとなる。
そのような心持ちで宿儺は両手を開くように構えを取る。
ユーハバッハが重々しく目を細めて右手を上げた。
「この身体を玩弄するのは罷りならん。これ以上は、私自らが誅を下すまで」
「やってみろ、老いぼれ。頭が高いぞ」
翼の意匠の施された大剣を現出させ、ユーハバッハはゆっくりと真白い椅子より立ち上がった。
羂索「生憎、私はしぶとくてね」