人生における長年の疑問、俺の能力とは一体何なのか。
それらを探るべく、我々は呪術高専の奥地へと向かった。
などと内心ふざけながら、今日も今日とて高専の事務室に通う日々である。
今は事務手続き中だが、もうあと二週間もすれば年度が変わる。
そこで来年度の一年生に紛れての入学ということが現在決まっている。
今現在俺は高校一年生なので、初っ端留年は気が重い。
しかし尸魂界の時間感覚と比べたら一年なんて誤差以外の何物でもないと、なんとか気を取り直す。
なんでも、今年の新入生はたったの3人で、その3人の先生として五条が就くらしい。
それを聞いて「スリーマンセルカカシ先生付きかよ」という感想が真っ先に出た。
たぶんうち1人はかつて厄災を腹に封印とかされてて、1人は名家の出身で、1人は紅一点なんだ。
そんなバカみたいなことを考えながら、少し楽しみになってくる自分も否定しない。
それまでにいくつか高専から渡された任務をこなすことになるが、五条からは「君なら楽勝でしょ!」と軽く流されて詳しいことは聞かされずじまいだった。
何とも適当な先生だが、来週頭にその彼との手合わせの予定が組んである。
刀を合わせれば相手の心は見えてくる。そこで彼の本心を聞ければそれでいいだろう。
まぁ、なんにせよ。
ふざけるぐらいがちょうどいい。
今までずっと孤独でずっと1人、不明な歯車の違いに悩まされながら過ごしてきたのだから。
石田雨竜は見た目や名前こそ同じだったが、滅却師ではなかった。
神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)を見せてみても、「黒崎、君、すごいな…!?特殊能力というやつか?」とただただ驚愕するだけで、何ら特別な力は持たないようだった。
父親である黒崎一心は何も知らないを貫いていた。
原作からして知らないふりをしていたので確かなことは言えない。
しかし、一心は俺の力について「そうだったのか。苦労させて悪かったな」と謝罪するだけで詳しいことは不明のままだった。
それが今、15年越しにようやっと判明するのだ。
楽しくなっても仕方あるまい。
黒崎一護のようにクールを気取ってはいるものの、やはり性根の底から平常心を貫くのは偽物には荷が重い。
本日の任務は群馬県榛名山、
伊地知さんに送ってもらって車で目的地へ向かう道中、詳しい呪霊の情報を聞いている。
どうも最近、そこで山道を通る車が相次いで呪霊に襲われているのだという。
伊地知さんは「繰り返しになりますが」と言い置いて、車を運転しながら資料を捲る俺にチラリと視線を向けた。
「該当呪霊は推定一級。初任務には重たいものになります。これはかなりの例外的な任務割り当てで、平たく言えば『死んでくれ』に近しい内容のものです」
「初っ端からなんつー挨拶だよ。たしか四級から始まって、一級の次が特級、だったか。正直どれがどれだかあんましわかんねぇんだよな」
「貴方が今まで戦って一番強かった呪霊はどんなものでしたか?」
そう聞かれて、俺は今までの戦闘経験を頭で回想した。
自分の力を確かめるため全国津々浦々、瞬歩で飛び回ったが……結構色々な呪霊を相手にしてきた自信がある。
呪霊の捜索のために広域の霊圧の探索も上手くなったし、良いことづくめだ。
「あー、なんか結界みたいなのを張って、なんだっけ。領域展開?をするやつ。そいつのうち1匹が空間全体をめちゃくちゃに揺らしてくるタイプで戦いづらかったな」
恐らくは地震をモチーフにしている虚、じゃない、呪霊だったのだろう。
能力がほぼグラグラの実で、俺の持ち味である純粋なスピードを殺されたのは非常に厄介だった。
卍解に加えて軽く滅却師の力も使って乗り切ったのは初めてのことだった。
大聖弓(ザンクト・ボーゲン)を空に出現させ、そこからの物量攻撃で決着をつけたのだが、具体的にいうと月牙天衝を見渡す限り視界がなくなるほど降らせて圧殺した感じになる。
やはりチャンイチの売りはその化け物みたいな霊圧に任せた物量攻撃。間違いない。
伊地知さんは俺の話を聞いてしばらく沈黙した後、絞り出すように声を漏らした。
「それは間違いなく特級ですね。安心してください、おそらくそんな五条さん案件の化け物などよりは弱いので」
「そうなのか。初戦で負けってのは格好つかないからビビってたけど、それなら大丈夫そうだな」
その戦でだって虚化してないし、真の斬月も抜いていない。
なお、滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)もできなくもないが、正直頭に光輪が浮かぶだけで特に意味はない。
なにせユーハバッハの力である聖文字(シュリフト)が無いので、特に特殊能力が強化されたりはしないからだ。
あえていうなら聖隷(スクラヴェライ)で大気中の霊子を強制隷属させることができるようになるが…いまいち良い利用方法が思いついていないのが現状だ。
というか、滅却師の話をすると急にフリガナばっかで鬱陶しいな。
車が路肩に寄って、緩やかに停車される。
どうやら目的地に着いたらしい。
「ここになります。ご武運を」
そう言ってぺこりと頭を下げたので、俺は少しだけ笑って「行ってくる」と言って車を降りた。
霊圧の探索に引っかかるのは山頂付近だ。
あそこからノコノコと道にやって来る車を見張っているのだろう。
瞬歩で一息に山頂まで空を蹴って駆け上り、月を背に地面を見下ろす。
化け物はすぐに俺の姿に気がついたのだろう。
一等高い木の上にずるりと登り上がり、ぽっかりと空いた穴のような口から呻き声を漏らした。
「ウォンゥオンォンォン…ウォン」
「車のエンジン音?そんなので鳴く呪霊もいるんだな」
車をモチーフにしたそれは凄まじいロケットスタートで空中に立つ俺へと掴みかかってきた。
速力としては素晴らしい。山の中では果たして小回りが利いたかは不明だが、もし小刻みに動けるとしたら多少は苦戦させられていただろう。
入りと抜きが無い動きは予測が付けづらく、避けるのも難しいはずだ。
だが、天鎖斬月の速力に比べれば月とスッポンだし、速さだけでは話にならない。
斬月で車の化け物の金属質な手を受け止め、そのまま霊圧を込めていく。
「───月牙天衝」
至近距離から霊圧の斬撃を喰らった化け物はつるりとそこから二つに裂け、そのまま塵となって地面に落下していったのだった。
「ん。一般死神なら死ぬが、隊長格なら楽勝って感じの塩梅か?あー、よくわかんねー」
あの世界も大概ライブ感で強さが決まるので、正直どの程度の強さなのかさっぱり分からない。
今回の敵は一級とのことだが、特級とは大虚(メノスグランデ)ぐらいをイメージすれば良いだろうか。
ギリアンからヴァストローテまで強さが様々あるところも、特級はメノスに似ている。
山を降りて「終わった。帰ろうぜ?」と言ったら「えぇ!?まだ帳も張り終えてませんよ!?もう倒しちゃったんですか!?」と慌てられてしまった。
帳は確か目撃者が来ないようにするための結界のようなもので、空間凍結に似ているシステムだったか。
次からは帳を張り終えるのを待つか、きちんと自分で張ってくださいね、と注意を受けて頭をかく。
原作の黒崎一護同様、鬼道は苦手だ。特に繊細な霊圧操作が必要なものは。
俺は何となくしょぼくれながら、「練習……もっかいするか…」とこぼして助手席のドアを開けたのであった。
・神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)
戦術の幅が広がるため練習していた滅却師の技。
主に群体タイプの呪霊対策に、空に弓を出して地上へ面制圧攻撃するのが基本の使い方になっている。