「プラン変更だ。はは、これだから世界は楽しいね!」
暗い結界内にて羂索が嗤う。
肉体は若くしなやかな高校生、黒崎一護のもの。
羂索が黒崎一護の体へと侵入を果たせたのは、真人の術式、無為転変のおかげだった。
黒崎一護を見本とし、呪力体として魂を肉体より切り離して逃走。
そのまま機を伺って黒崎一護の肉体の隅に張り付いていたのだ。
両面宿儺がやられたのはある種、想定内だ。
こと魂という分野において黒崎一護は化け物中の化け物。
ただ目の前で息をするだけでも周到な準備を要する。
その結果、面白いものも見れた。
「聖文字(シュリフト)……私の理想をこんなに簡単に叶える存在が無から湧き出るなんて。私が千年頑張ったのがバカみたいじゃないか」
そう言いつつ、堪えきれない笑いに羂索はくつくつと背を曲げる。
今、手中にあるこの身体はまさに世界を支える柱に等しい。
あらゆる力、あらゆる可能性が渦巻いている。
たかが人間の一千年の歴史など容易く吹き飛ばしてしまうほど。
うまく体の操作と魂とのリンクを切らなければ、羂索とて肉体に飲まれて消えていたことだろう。
術式に張り付く式神のようなものが少々うるさいが、あの厄介な契約は無為転変によって拒んでいる。
早々追い出されることはないだろう。
これから向かうは死滅回游の結界の根本、四箇所の浄界だ。
この体を手に入れた以上、もはや天元も死滅回游も不要。
結界を破棄してリソースを回収し、全世界に力の破片をばら撒く。
そうして。
世界は新たな可能性を創出するのだ。
「浄界?」
俺は疑問符をつけて首を傾げた。
これまでで。
百点を消費して、賭けではあったが結界の出入りは自由となった。
それによって物資搬入が可能になり、わけもわからずプレイヤー宣言してしまった避難民や米軍の人たちの生活も一気に楽になった。
どうも、外では政治的大混乱が勃発しているらしい。
唆されて呪術師狩りに勤しんだ大国だったが、それに呪術界が激怒。
術師の派遣を取りやめる声明を出したそうだ。
数は少なくとも確かに呪霊被害は海外でも存在しており、特級の出現も実際確認されている。
また、大国の動きが顕になって、呪霊自体の認知度も高まってしまっていた。
その結果、畏れの増した状況では呪霊も発生しやすいという悪循環。
すなわち、世界は呪霊被害に怯える暗黒時代が到来したのだ。
そんな中での大国と呪術界の軋轢に、涙を飲むのは一般人ばかりなり。
まったく、嫌な世の中になったモノだ。
死滅回游の方はといえば、依然として膠着状態。
天元様の方も一度特級呪霊に襲われたものの七海一級術師等の護衛もあり無事だそうだ。
ただ、その後すぐに全国にある浄界の一つに侵入者が現れたらしい。
結界の核が攻撃されて、一つ目に関しては既に破られたとのこと。
該当地域では帳が張れなくなっており、かなり深刻な状況だ。
「恐らく、順番的に次は皇居を中心とした浄界を狙ってくるだろう」
そう言って、天元様はむっつりと黙り込んだ。
真白い空間の中、五条が軽く伸びをして挑戦的に微笑んでいる。
「つまり、僕らが結界を守ればいいってことね」
「そうだ。……恐らく、下手人は死滅回游を無理やり終わらせようとしている」
言いたくないことを言うように、天元様が口を開く。
「どういうこと?」と先ほど途中から合流した九十九由基なる特級術師が問いかけた。
初めて会った瞬間から「ちょっと、後で時間が欲しいんだけど」と言われており、なんとなく狼狽える今現在である。
「死滅回游は浄界をベースに作られている。だから、浄界を壊せば死滅回遊も終わる。……だが」
天元様が言葉を切った。
「目的がわからない。あの子が計画を大きく変更したことだけは確かだが」
「……」
「少しだけいいかな」
九十九が深刻な顔をして口を挟んだ。
チラリと俺を見る視線は鋭く、居心地が悪い。
「黒崎君はあの羂索とか言う奴に体を盗まれたんだよね」
「ああ。けどたぶんもう中に入れられた宿儺の指は俺が吸収して」
「違う。たぶん、それは身体を狙う前準備。宿儺を尖兵代わりにしたんだ」
何らかの方法で聖文字の術式を知った下手人は、今までのプランを破棄して新たな計画を遂行することに決めた。
「羂索の目的は全人類の呪力の適応。なら、黒崎君の肉体を通して術式である聖文字を使う方が計画としては全然手っ取り早い。死滅回游だの天元様との同化だのと遠回りするより、シンプルで楽だしね」
「………それはこっちも望むとこだけど、順序ってもんがある。一気にやられたらこっちの計画が崩れるよ」
顔を顰めたのは五条だ。
五条も似たようなことは考えていたのだろう。
天元様がそれに同意して頷いた。
「…全人類が超能力者になるに等しい。法整備も何もなく、ある日突然そんなことになったら大混乱が起きる。たくさんの死者も出るだろう」
「つまり、結局は下手人を叩いて俺の体を取り戻せばいいと。そう言うことでOKか?」
「ザッツライト!あー、あのゴキブリよりしぶとい野郎め。僕がこんなに標的を見逃したの初めてかも」
五条が上機嫌の中に確かな憤怒を混ぜて言った。
相当腹に据えかねているらしい。
俺も肉体を取られて織姫との北九州旅行がパァになったからな。
その恨み晴らさでおくべきかよ。
「ひとまず次の皇居結界に急ぐとしよう」
「応!」
特級術師3人による呪詛師狩りが、始まろうとしていた。
・現在の羂索の部屋入り口
範馬刃牙の自宅並に【敷金払え】等の落書きや貼り紙がされている。
羂索「朝日が眩しい!今日もいい日になりそうだね!」