「やぁ、遅かったじゃないか」
皇居は血に塗れて死体だらけ。
上級下級問わず呪霊が渦を巻き、まさにこの場は魑魅魍魎の棲家であった。
護衛にあたっていた数百の皇宮護衛官ほか警備隊の者達が全て殺し尽くされたのだ。
その血潮、失われた命の数は計り知れない。
その中央に、死体の山を椅子代わりにする男が一人。
見た目は俺、黒崎一護そのものだ。
しかしその実、中身は悪辣たる別人が入っている。
ぎり、と惨状に歯噛みすれば、前に出た五条が挑発的に嗤ってみせた。
「まさか僕達三人を相手に生きてられると思ってるわけじゃないよな?」
「殺すのかい?教え子の体を?」
五条は一拍、言葉に詰まった。
だからこそその言葉の続きは俺が受け持つのが相応しい。
「俺が殺す。身体は惜しいけど、ここまでし腐った野郎を放っておくなんて選択肢は無ぇからな」
「……そう本人も言ってるわけだし、私たちが手心加える道理は無いね。覚悟しな」
沈黙。静寂。
そして死体の山に立ち上がる男の薄ら笑い。
まず九十九が飛び出した。
恐ろしく強化された身体能力でもって、仮想の質量が付与された腕を振り抜く。
「っ、なるほど。概念的質量を扱う術式か。優秀な術式だ。そして珍しい!」
ギリギリで避けるものの、九十九の直線上にあった塀は粉々に崩れ落ちた。
五条と頷き合い、俺と五条で2人を挟むように立つ。
これは打ち合わせ通りの行動だ。
奴の逃亡を防ぎ、ここで確実に仕留めるための策。
前口上は俺、繊細な門の顕現は五条が担当する。
「軍相八寸退くに能わず 青き閂 黒き閂 白き閂 赤き閂 相贖いて大海に沈む」
唱えて印を組めば、それに続いて五条が組み上げられた結界の後を引き継ぐ。
羂索が思わずといった様子で息を呑んだ。
「竜尾の城門 虎咬の城門 亀鎧の城門 鳳翼の城門……これ即ち」
「「四獣塞門」」
魂も逃げられぬ絶対の断崖。
ヴァストローデすら捕えることが可能な究極の一である。
初めは俺一人で展開しようと考えていたのだが、それに待ったをかけたのは五条だった。
流石に霊圧操作が死ぬほど緻密で、まだ聖別の馴染み切っていない俺では維持だけで動けなくなる。
それでは戦力がもったいない、ということらしい。
宿儺の呪力操作は確かに魂の袂にあるものの、たぶん俺の場合だと吸収した力を噛み砕いて完全に己のものにするには九日間ほど必要になると思われる。
つまり時間不足。
と、いうわけで五条と共同で結界を張り、維持を五条に任せることになったわけだ。
「なんでこんなバカみたいに緻密な呪力操作を必要とする技を思い付くの?人類には再現不可能じゃん。アホかな?」なんて散々バカにされたものの、早々に五条はこれを習得。
お前も人外じゃんと煽り返す一幕があったりなかったり。
完成品は「私でも突破できない空前絶後の大結界術」と天元様に太鼓判を押された最強のそれだ。
流石の羂索も「……ここまでの結界術が使えるなんてね」と焦ったような笑いを見せた。
星の怒り(ボンバイエ)の一撃を避けた羂索は、呪力で体を強化して円を描くように走る。
蹴り飛ばされた式神のガルダが四獣塞門に当たり、小揺るぎもせずガルダを跳ね返した。
「私のボンバイエで突破できない強度の結界だ。お前、ここで死ぬよ」
「で、その結界の維持は僕がするとして」
「───俺も戦闘に参加できるってわけだ。逃げられると思うなよ」
三人で言い放ち、斬月を抜いて構えをとる。
「ははっ」と心底楽しそうに羂索が笑った。
「まいったな。自分を殺すのに躊躇ないのかよ」
「そう言う割には楽しそうじゃねぇか」
「……そうだね。楽しい。未知と可能性に満ち溢れているここが、千年で初めての光景が楽しくて仕方ない」
「ちっ」
剣を合わせなくてもわかる。こいつは本心から楽しんでいる。
その結果、死んだって構わないとすら思っている。
「卍解、天鎖斬月」
四獣塞門が砕けない程度の出力に留めるため、虚化も完聖体も使えない。
だがそれで十分だ。
この男の中には弾けそうなほどの霊圧があるが、それをほとんど動かせないのが側から見ていて十分に分かったからだ。
俺の顔で子供のように無邪気に羂索が舌を出す。
「気付いたかい?そうさ、これは君の呪力だ。無為転変を利用してここまで掠め取ったんだが……まさか、本気で底なしとは思わなかった」
「肉体と魂のつながりを通して黒崎君の呪力を搾取し、弱体化を狙ったのか!」
距離をとった九十九が心配そうにこちらへと注意を向ける。
残念。その程度の量を奪われたとて、俺の霊圧の総量からすれば誤差の範疇に過ぎない。
「でも用意周到だね。君の魂への下賜と簒奪の力、もう対策が打ってあったんだ」
「そりゃ、使われりゃ一番厄介な力は先に封じておくのが筋だろ」
「ごもっとも。あーあ、どうしようかな」
どうやら羂索も九十九達に聖文字の付与を狙っていたらしい。
それを見越して、聖文字の強制対策を兼ねて二人にはすでに俺が聖文字を渡してある。
もっとも、この戦いの後は二人から聖文字だけ回収する予定だが。
聖文字G「GRAVITY」を獲得した九十九は、概念上の重力の影響を自在に操る力を得た。
使い慣れなさすぎてぶっつけ本番の戦闘では使わないだろう、とは言っていたが。
五条は……まあいいか。
BLEACH原作かよと思わず突っ込みたくなる力だった、とだけ。
笑みを拭い去り無表情で羂索が片手を上げる。
「来い」
巨大な象のような呪霊が空間を割いて出現し、四獣塞門を叩く。
一瞬ビリリと揺れたが、四獣塞門は微動だにしなかった。
その後ろから大質量のガルダを喰らって、象の呪霊は上半身を弾けさせて消えていった。
羂索がバク転して余波を避けながら口を開く。
「障害を取り除く術式なんだけどな。そんなことってある?」
「俺がありったけ呪力を込めて、それを五条が制御してるんだ。破れるわけねーだろ」
結界の外で五条がダブルピースをしている。真面目にやれ。
んー、と羂索が腕を組んでから一つ頷く。
「なら仕方ない。やりたくはなかったんだけど」
羂索が両の腕を広げた
服の裾からバラバラと落とすのは、真人もやっていた改造人間の小型版。
一人一人からまだ生きた霊圧を感じて、俺は奥歯をグッと噛んだ。
「ああ、これが例の」と九十九が顔を顰める。
「君の中に入って、私は数段飛びに魂の理解を深めた。あの世、この世、魂が心を失い堕ちる現象」
領域展開 胎蔵遍野。
素早く九十九が領域展延を展開する。
肌がピリピリする感覚はあるが、俺にとってはそれだけだ。
「ノーガードかよ。分かってはいたけど本当に化け物だ」と羂索が楽しそうに笑う。
ただし。
奴の本当の狙いは俺たちの行動を制限しつつ、改造人間達へと一斉に無為転変を適用することだったらしい。
グネグネと魂が混じり合い、しかし反発せずに大きなひとつの塊となって膨れ上がっていく。
「数多の人間の魂を混ぜ合わせ、大きな一つの悪霊とする。きっとたどり着いたであろう人の魂の可能性の一つだ」
そこには、大虚(メノスグランデ)「ギリアン」が、茫洋とその巨体を露わにしていた。
一護「ギリアンとか今更祓うのに一秒も要らねー」
ホワイト「プークス。周回遅れ乙」
羂索「戦力じゃなくて!!!これは成果発表なの!!(ぷんすこ)」
宿儺「おい小僧、こっそり皇居へ行くぞ」
虎杖「いいけど観光?伏黒達にどら焼き買って帰るか」
宿儺「なんでもいいから急げ!」