虎杖はたたっと軽い調子で小走りに、東京の街を走っていた。
宿儺が急かすので多少急いで、しかし本気というわけでもなく。
一人抜け出してきたから、要件を終わらせたらさっさと帰ろう。
伏黒が怒るかもしれないから手土産も添えて、皇居というならどら焼きとかがいいかもしれない。
はてさて。
宿儺の案内で皇居へと到着すれば、まるで静まり返り、人っ子一人いない静けさであった。
管理事務所の中を覗いてももぬけの殻で、なんとなく不気味である。
虎杖は何かイベントや重要な催しでも開いているのかもしれない、と少し不安になった。
「これ、入っちゃダメなやつじゃね?」
「いい、警備員がいないということは奴が事を起こしているということだ」
「!奴って、呪詛師でも出たのか?こんな街の真ん中で!?ヤバいだろそれ!」
「急げ小僧」
「おう!」
虎杖は、宿儺のことは悪い奴だとは思っていたが、話の通じない奴だとは思ってはいなかった。
同じような天使の中の人も優しいし、理性的だ。
千年前に何があったかは知らないが、意外といい奴なのかも……なんて思ったりもしていたのだ。
皇居の中央、本丸地区の庭園では、巨大な結界が戦闘フィールドとして展開していた。
中では白熱する熱線が乱舞している。
その間を高速で空を飛ぶ刃状の呪力が飛び交い、熱線を切り落とす。
終末の如き惨状の中、見知らぬ女の人が式神を連れて地を駆ける。
敵はどうやら、結界の中を身を屈めるように小さくなっている巨大なのっぽのカオナシみたいな奴らしい。
のっぽ仮面がビームの主だったらしく、口を開ければ幾重ものビームが散乱した。
だが次の瞬間、黒崎に頭蓋を破壊され、そのまま倒れながら消えていく。
敵らしいもう一人の黒崎……どうやら肉体を乗っ取っている呪詛師のようだが。
そいつは子供のように笑って、代わりと言わんばかりに呪霊を何体も放った。
五条先生の姿も見えるが、どうやら結界の維持をしているらしく、動く気配はないようだ。
黒崎の飛ぶ斬撃が一級呪霊数体ごと敵の体を貫く。
黒幕は体を切り裂かれ、血を吐いて地面へと崩れ落ちた。
反転術式を使っているようだが、下半身を丸ごと切り落とされたような状況では間に合わない。
敵が何事か呟いて目を閉じた。ピクリ、と宿儺の瞳が瞬いたのを感じる。
結界が解除されていく。決着だろう。
「いけ、小僧。黒崎一護の肉体のところまで」
「え、でも先生達に見つかったら怒られるじゃん。正直もう敵もやられてるし、帰ろうぜ」
宿儺は鋭く舌打ちした。
そして一言、決定的な言葉を放つ。
「契闊」
瞬間、意識が暗転した。
虎杖が何故か割り込んできて、半分になってしまった俺の体を取っていった件。
「あっちゃー」と五条が舌を出して顔を顰めてる。
俺の体人気すぎるだろ。じゃなく、どうも虎杖の様子が変だ。
「虎杖……じゃねーな。お前、宿儺か」
「……」
宿儺は何も答えず、無言で己の指を引きちぎった。
そしてそれを瀕死の羂索の口に突っ込んだ。
というか、反転術式が使えるからって自分で自分の指を捥ぐやつがあるか?
ずるり、と俺の肉体の下半身が再生していく。
そういう状況でもないのに、やった!俺の体が復活した!と思わず少しばかり喜んでしまう。
もう少し傷を浅くするつもりだったのに、スパッと切り落としてしまって後悔していたのだ。
瞬間。
九十九と、未だ状況がわかっていない虎杖が全身を切り刻まれてふらりと倒れ込む。
瞬歩で素早く二人を回収し、回道で修復を行う。
幸い傷はそこまで深くなく、瞬時に傷跡が残ることもなく完治した。
呆然とする虎杖を地面に降ろし、俺は斬月を再度構える。
「虎杖!ちょっと離れてろ!ここは危険だ」
「っ、あの野郎……!分かった。悪い…」
やや弱った様子の小声で虎杖は返事をした。
きっと虎杖は宿儺に何か唆されてここへ来たのだろう。
ここのところずっと宿儺も大人しかったので、根が優しい虎杖が聞いてしまっても仕方ない。
悪辣に笑って、宿儺が両手を広げた。
俺の体でそんな邪悪な顔をすんじゃねぇよ。
「第二ラウンド、というやつだ」
「指8本程度の不完全体で僕らに勝てるとでも思ってんの?」
五条が塀から降りて首をコキコキと鳴らした。
若干面白そうな様子で笑んでいるあたり、先ほどの結界維持役は不完全燃焼だったと見える。
「逃げる心配のない奴に結界は要らないよね。つまり、僕も参加させてよって話だけど」
「ああ。何考えてるか知らねーけど、あいつはここで潰そう」
「よし来た」
九十九が口からペッと血を吐き出して顔を顰める。
宿儺は憎々しげにこちらを見て、重そうに体を引き摺る。
「お前達の戦いは見ていた。ずっと。俺に弱者としての立場を押し付けてくる忌々しい奴等め」
「へー、身の程をわきまえてるじゃん。ならそのまま弱者として死ねば?」
「俺は強者だ。お前たちを下し、強者としての自由を、孤独を取り戻す」
五条が相手を煽るように嘲笑う。
その場の全員が構えて、場に緊張が満ち満ちる。
「身の程を弁えろよ、雑魚」
「ほざけ、五条悟」
・裏梅
黒崎への受肉の件で羂索と仲違いし、激戦の末敗走。
それ以降単独で行動しています。
今は宿儺復活の気配を感じ取り、急いで皇居に向かう途中です。
宿儺「裏梅?優秀な料理人だが、今更この場にいても数にはならんな」
裏梅「」(白目)(呼吸困難)