黒崎一護なオリ主と五条悟   作:ラムセス_

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面接試験

 

 おっさんが可愛いを製造する場に居合わせたのは初めてかもしれない。

 

 ここは東京都立呪術高等専門学校、校長室。

 織姫の手芸のような絶妙に気の抜けたキャラクターたちが山と積まれるそこに恐る恐る入室し、俺は立ち尽くしていた。

 

 俺は目の前で人形を作る厳つい男にできるだけ丁寧にギクシャクと一礼した。

 これは一応形だけでも行われる入試の面接試験だ。

 試験だと言われるとやはり緊張するもので、書店で面接試験の対策書をぱらぱらと覗き見する程度には俺も気合を入れている。

 

 俺の姿を視界に入れた男は、そのなんともヤクザめいた風貌で唇を引き結んでいる。

 

「ども、ハジメマシテ。黒崎一護です」

「君が例の、あのバカ肝煎りの新入生というわけか」

「……どういう噂が先行してんのかわかんねーけど、あの適当白髪先生の言うことだから8割冗談だと思いますけどね」

「違いない」

 

 しばし考えてから、男はため息をついて頭を抱えた。

 どうもこの校長先生も五条には苦労させられていそうだ。

 

 フェルト手芸用のニードルを近くの机に置いてから、男はサングラス越しにまっすぐに俺を見た。

 

 全然いいのだがニードルフェルトとかするのかこのオッサン。

 織姫と石田が一時期2人してチャッピーらしきナマモノを作ってたので知ってるが、それが術式と何か関係があるのだろうか。

 呪術って奥が深い。などと考える今日この頃。

 

 ごほん、と男が咳払いした。

 

「ところで。なぜ君は呪霊を狩っている?誰からも何も言われなどしていなかったというのに。わざわざ七面倒なボランティアをする理由は何だ?」

「あんな化け物いたら危険だし狩るだろ、フツー」

「それが命懸けでも?放っておけば誰かが傷付いたかも知れないが、それだけだ。君には関係のないことだろう。命を賭ける理由は何だ?」

 

 何を問われているかわからなくて、俺はわずかに首を捻った。

 なぜ命を賭けるかだって?そんなの、俺が黒崎一護であるからに決まっている。

 

 周囲のために身を張れない存在は黒崎一護ではない。

 黒崎一護であるのならば目に映る人たちを出来る限り助けるために奔走するはずだ。

 それで命を落としたとして仕方がない。

 それは所詮俺では黒崎一護たり得なかったというだけの話だ。

 

 俺は何とも言葉にしがたくて頭をガシガシとかいてから視線を横にずらした。

 

「なんつーか、俺のアイデンティティなんで。こういう時他の誰よりも先に動いて、惨めにボロボロになっても最後まで立ってるのが、黒崎一護ってやつなんですよ」

 

 終わりだ……とか絨毯とか色々豆腐メンタル疑惑はあったけど。

 ジャンプ漫画王道主人公としてこれだけは譲れない、信念のようなものである。

 

 俺は黒崎一護。

 輝ける主人公であるならば、それ相応の振る舞いというものが求められる。

 

 力強く胸を張れば、しばし目の前の男は沈黙したようだった。

 

「それが実践出来るほど現実は甘くない……と言いたいところだが。事実、君はそれを成し遂げ続けている。無償で、無給で、この10年間ずっと」

「………」

 

 もうそんな調べまでついてるのか、と俺はやや不意を突かれて狼狽えた。

 俺が呪霊退治を始めたのは5歳の時。

 母親の黒崎真咲が事故で急死したと同時に、にょっきりと生えてくるように力に目覚めた。

 

 それから今まで、俺はただひたすらジャンプ黄金期の主人公、黒崎一護たらんと努力を続けている。

 

「これまではこれまでっすよ。どうせ学校終わってからの短い時間しか呪霊退治なんてできなかったし、そこまで大袈裟に言うほどでもないっすから」

「だが、統計データを見れば君の学区を中心に、十年前から呪霊発生率もその被害数も激減していることを読み取ることができる。これは君が極めて精力的に働いていたと読み取っていいだろう」

「まぁ、身近な人の命がかかってるんで」

 

 学校から帰宅してすぐに宿題を済ませ、翌朝まで虚退治というルーチンにも慣れたものだ。

 成績と両立するために効率的に勉強する工夫もした。

 将来開業医を継ぐためにも、成績には敏感であらねばならぬ。

 

 男は机の上に山と積まれた書類から数枚をぺろりと取って、上から下まで視線でなぞった。

 そこに書かれているのが何かはこの位置からは読み取れない。

 しかし、それが黒崎一護という人間の調査資料であると言うことは話の流れから十分に読み取れた。

 

「君が対峙した呪霊の中には、特級もわずかにだが含まれていたことはわかっている。それがどういうことだか分かるか」

「い、いや……」

「数限りない命が救われたということだ。立ち向かい死んでいくはずだった術者も、無惨に無力に殺されるはずの非術者も」

 

 もしこちらで祓うことになれば、億の金が動き国内に数人しかいない術者による命懸けの攻防が必要になる。

 

 そう言って男は息をついた。

 

 特級というと、地震呪霊の他はどれのことだ…?

 見渡す限り山火事を起こしてきた奴だろうか。それとも単純にバカでかいのっぽの巨人だろうか。

 うーんと悩んでから俺は思考を切った。

 そんなものより報酬の件だ。億の金が動くってなんのことだ。

 

 億……と具体的な金額で言われると、金欠学生として若干惜しい気がしないでもないが、煩悩煩悩と頭の中の浅ましい考えを振り払う。

 こちとら金のために虚退治してるんじゃないんで。

 でも億あれば欲しかった靴も服も買えるし、漫画も買いたい放題だし、あー羨ましい……っとと、いかんいかん。

 

 男が資料を机に戻し、こちらを見る。

 

「命懸けだったはずだ。誰にも何にも報われることなく。たった1人で戦って。それでもなお君は先ほどのアイデンティティとやらを貫いた」

「褒めすぎっすよ。結果的にそうなっただけで、これからもそう出来るとは限らねーし」

 

 孤独であったことは確かだ。

 尸魂界の気配は微塵も感じられないし、幾晩空を眺めてみても、地区担当の死神の姿すら見えなかった。

 じわりとした焦燥感に悩まされた日もある。

 

 でも。

 

「今はわかってくれる人たちがいる。五条センセーもだし、あんたら呪術高専の人もいるんだろう?」

「そうだな。……ようこそ、呪術高専へ。君のこれまでの奮闘に敬意を表して、歓迎しよう」

 

 男がこちらへと手を差し出す。

 それが、新たなる門出を寿いでいるかのようで、自然と笑顔が溢れ出す。

 

 差し出された手を俺はやや躊躇ってから、静かにとった。

 

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