3人目は果たして、やはりというべきか女子だった。
伏黒も元は禪院とかいう名家の出身らしいし、いよいよもってトンチキ忍術バトルが始まる気がしないでも無い。
3人目である彼女は、自らの名前を釘崎野薔薇と名乗った。
釘崎は俺たち3人の姿を上から下までジロリと睨め付け、むっと唇を引き結んだ。
「俺は黒崎一護。3区隣の空座町で10年くらい呪霊退治やってた。よろしくな」
「へぇー、まぁまぁってところね」
そして俺の顔をじっと見つめた後、うむと一つ鷹揚に頷いて見せた。
お気に召したらしい。
どうでもいいが、めちゃくちゃ値踏みされている件。
何をどう評価されたかは知らないが、見たところ女としてのプライドはありそうだ。
芋臭い男に囲まれるのはゴメンだという事なのだろう。
論外扱いされたジト目の虎杖に「まぁ、気にすんなよ」とだけ言って肩を叩いておく。
どうせ俺らの仕事的に呪霊と戦ってズタボロになるんだから多少の顔面の違いなんて誤差だよ誤差。
つか、虎杖も伏黒も結構顔整ってる方だと思うのだが、何がいけなかったのだろうか。
はてさて。事は本題に移る。
やはりというべきか、今日もニコニコ呪霊退治ということで六本木付近に向かうことになるのであった。
東京観光と聞いてワクワクが止まらなかった虎杖と釘崎が喚いている。
「嘘つきー!」「裏切り者!!」と悲鳴がこだまするが、霊圧からしてわかっていた事だろうに。
俺は目の前のビルから発せられる陰鬱な霊圧に顔を顰めた。
「原宿いた時から気になってはいたけどよ、ここらへん呪霊多過ぎねぇか?ここ、呪力からして3匹ってとこだろ」
「いや、どちらかといえば君のいた空座町の呪霊が少な過ぎるんだよ。君が狩り尽くしてたからだとは思うけど」
「呪霊の数までわかるわけ?そういう術式?」
へぇー、と興味深そうに釘崎が話しかけてくる。
わずかに目を見開いたのは伏黒で、どうもこの手の詳細な霊圧探索は呪力には存在しない仕様らしい。
少しだけ迷ってから、俺は霊絡を具現化させた。
ばらばらと札のような紙紐が空中に幾重にも揺れている。
一本手にとってそれを釘崎に見せてやれば、疑問符を浮かべながらそれをまじまじと触ったようだった。
それをひょい、と五条がそれを覗き込んでくる。
「たとえばこの霊絡は釘崎のだろ。で、こっちは伏黒の。で、……虎杖悠仁のは2本あるな。どっちかは両面宿儺のか」
「なるほど。大気中に漂う呪力を性質ごとに圧縮して紐みたいに具現化してるんだ。君、そんだけ繊細なことできるんだったらもう少し呪力操作なんとかならない?」
「ならねーよ!ならねーから苦労してんだよ!」
「便利ですね。索敵に関してこれだけ優位に立てる能力も少ない」
わいわいと霊絡を手にとってあーだこーだ話し合っている五条と伏黒を尻目に、野薔薇が自分の霊絡を持ったままうんうんと唸っている。
そしてハッと何かに気がついたのか、顔を上げてつかつかと俺に近寄ってきた。
「……ん?これ呪霊の呪力が具現化してるってことなのよね?ってことは、ちょっと呪霊のレイラク、だったかを貸してくれる?」
「いいけど、何に使うんだ?」
「いいから見てなさいって」
呪霊の霊絡を何故か要求して、ん!と手を差し出してくる。
特に拒否する理由もないので目の前のビルに隠れる三つの呪霊の霊絡を渡せば、釘崎はよしっ!と頷いた。
一部始終を見ていた五条が、あー、なるほど。と1人納得したように腕を組んだ。
そして釘とトンカチを懐から取り出して、霊圧を込めてゆく。
「芻霊呪法 共鳴り!」
お、と気の抜けた声を五条が上げて、目隠しをずり上げてビルの方を眺めている。
釘崎の霊圧が霊絡を通して急激な勢いで本体たる呪霊へと流れ込んでいく。
ピリッとした感触が一瞬。
次の瞬間、3本の霊絡は主の消失に伴いぱらりと粉と散って消えていった。
軽く釘崎と一緒にハイタッチをする。よく分からないがWe Win!ということなのだろう。
諸君、我々の勝利である!
五条がパチパチと拍手して、少し困ったように眉をハの字に下げた。
「お見事!っていうか元々は実力を見ようと思って連れてきたはずなんだけどね。まぁ無法っぽいコンボ技を発見できたからいっか」
「黒崎、あの霊絡ってのはどの程度までの距離なら出せる?」
「あー、詳しく測ったことはねーけど、同じ町内ぐらいの距離なら問題なく。半径500メートルってとこか?単なる呪力探知ならもっと広くできるけどな」
「十分以上か。玉犬に頼らず視覚的に探索ができるのは強いな」
「ちょっと、私はどうなのよ!?私の活躍を讃えなさいよ!」
ワイガヤしながら念の為ビルの中を探索すれば、子供が1人涙を流してしゃくりあげながら隠れているのが発見された。
どうも遊びで忍び込んだところを呪いに囚われていたらしい。
凶刃が及ぶ前に助けられて何よりである。
五条が最後の部屋を確認した後俺の方へ向き直り、面白そうに問いかけてくる。
「ついでに聞きたいんだけど、この街には呪霊が多いってさっき言ってたよね。もしかして、ここ以外にも呪霊を感知してたりする?」
「ああ。無視できるぐらい小せぇのも含めると15匹ってとこか」
小さいのは人に害も与えないだろうから良いが、虚園(ウェコムンド)かよという密度のそれである。
それだけ人の恨み辛みが募るのが都会の街という事なのだろう。
「窓泣かせの性能だね。うん、ちょうど良いから巡って順番に処理していこうか。ついでに、改めて野薔薇と悠仁がどれだけ動けるのかの確認もしてね」
「わざわざ東京まで来て呪い退治なんてアガらないけど…いいわ。終わったらザギンでシースーだから覚えておいて!」
「それよりビフテキだって!」
見解の相違で釘崎と虎杖が揉めているが、それはそれ。
俺たちは次なる目標へと向かうため、徒歩にての移動が決定した。
結局本日倒したのは計10匹。
一時釘崎が賢しらな呪霊に追い詰められる場面もあったが。
無事脅威となりそうな呪霊は全て討伐。
4級にも満たない雑魚蝿頭については今回は無視して、その後銀座の回らない高級寿司屋にて舌鼓を打ったのであった。
・霊圧探査
苦手だったが、10年で鍛えて一応使い物になるようになった。