バトルスピリッツ 勇者と魔女   作:バナナ 

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#01「噂の魔女」

バトルスピリッツ。

 

それは、カードとコアが織りなす、奇跡のカードゲーム。それにまつわる物語は、これまで数多くの伝説を残していった。

 

そしてここに今、2人の少女による、新たな物語が幕を開ける。

 

 

******

 

 

バトスピが盛んな日本の大都市、界放市。その中にあるジークフリード区と呼ばれる区域。

 

活気溢れる明るい街で有名だが、反面、そこは一歩踏み外せば路地裏と言う名の無法地帯が広がっている。

 

 

「強すぎる……!?」

 

 

静寂な闇が訪れる夜間。

 

路地裏でバトル用端末、Bパッドを展開し、バトルを行う2人のカードバトラー。

 

その内の1人、オレンジ色のバンダナと長鼻、ちょび髭が特徴的な、如何にも悪人面の男性が、対面しているもう1人のバトラーの強さに戦慄していた。

 

闇夜に紛れていて顔がよく見えないが、声色や華奢な体格から、そのカードバトラーは、精々中学生程度の少女なのだが、交わしたほんの僅かなターンで、己の戦略がなにひとつとして通じないことと、力の差があまりにもかけ離れていること、そして負けることを悟っていた。

 

 

「まさかオマエ、噂の魔女!?」

「何だよ、この程度でお手上げ?」

 

 

声や性格などのイメージは遠くかけ離れているが、他を寄せ付けない圧倒的な実力から、男性は目の前の少女が、最近街中で噂になっているカードバトラー「魔女」なのではないかと勘繰る。

 

 

「なら、アンタが子供達から巻き上げたカードをとっとと回収するとしますか」

 

 

少女がそう告げると、彼女の目の前に、2つの角のシルエットを持つスピリットが現れ、手に持つビームライフルの銃口を男性へと向ける。

 

 

「ヒィッ……!?」

「さぁ、ラストターンの時間です」

 

 

目の前のスピリットと少女の強さに、今度は恐怖を覚える長鼻でバンダナの男性。

 

瞬間、照射音だけが暗闇の街に響き渡る。バトルの結果は、もはや説明するまでもない。

 

 

 

******

 

 

 

「ここが、春神探偵事務所」

 

 

朝。小鳥がまだ囀り合い、鳩が呑気な声で鳴き続けるこの時間帯。

 

中学生程度か、青く長い髪を持ち、よく言えば凛とした、悪く言えば固い表情を持つ少女が、界放市ジークフリード区にある、とある雑居ビルを前にして、そう呟いた。どうやら彼女は、その雑居ビルの2階に構えている探偵事務所、『春神探偵事務所』に用があるみたいだ。

 

 

「……」

 

 

ひょっとして正体はアンドロイドなのではないかと勘違いしたくなる程に、無表情且つ同じフォームで階段を登っていく青髪の少女。

 

そして2階の探偵事務所に辿り着くと、息つく間もなくドアの横にあるインターホンを鳴らす。

 

 

「はい」

 

 

そう言いつつ、気怠そうにドアを開けたのは、高身長で褐色肌の青年。やや濁った白髪のツンツン頭が特徴的だ。

 

声の割に、スーツを乱す事なく着用している事から、彼がこの事務所の探偵なのだと、青髪の少女は確信する。

 

 

「あの、依頼に」

「おお、お客さんか。どうぞどうぞ、少し狭いけど」

「お邪魔します」

 

 

快く招き入れられる。青髪の少女は、男性に事務所の一室に案内され、そこにあるソファに腰を下ろした。

 

 

「落ち着いてて、シックなお部屋ですね」

「だろ。ここオレの家でさ、探偵事務所になる前からずっとこんな感じにしてるんだよな」

「そうなんですね」

 

 

それ以外にも天井で回っているシーリングファン、上品な香りのするアロマ。確かにとても良い部屋だ。

 

如何にもできる探偵事務所のような雰囲気をこれでもかと醸し出している。

 

 

「それで依頼内容なんですけど、春神さん」

 

 

雑談は早々に切り上げ、早速本題に入ろうとする少女であったが……

 

 

「あ、悪りぃ。オレは違うんだ」

「え」

「ちょっと待っててくれ、直ぐに叩き起こして来る」

 

 

男性はそう告げると、向かい側の扉をノックする。その扉には『ヨッカさん禁制!!』と、丸みを帯びた字で書かれた張り紙が貼られるている。おそらく『ヨッカさん』とは、今いる男性の名だろう。

 

 

「おいライ、起きろ」

「ん……もうちょい寝かせて。後3時間」

「盛る時間が長ぇ。バカ、仕事だ。お客さんが来てるぞ」

「え、マジ!?」

 

 

するとその部屋から何かが大暴れするような音が聞こえて来た。先程の声の主が大急ぎで身だしなみを整えているのだろう。

 

そして、十数秒待たぬ内に、声の主は姿を見せる。

 

 

「どうもどうも〜〜!!……お待たせしました、当事務所の探偵にして、看板娘の春神ライが参上しましたよ〜〜!!」

「……!?」

 

 

青髪の少女は驚く。無理もない、扉から凄まじい勢いで現れたのは、自分と同じくらいの年齢の少女だったのだから。

 

サイドテールに纏めている、やや黄色がかった短めな白髪。それと同じくらい白い肌に加え、さらにヤンキーみたいなスカジャンを羽織った、元気が有り余り過ぎている少女。

 

その名も『春神ライ』……

 

彼女が現れた途端、この部屋が醸し出していた探偵っぽい雰囲気は全て消え去った。

 

 

「おはようヨッカさん。今日も清々しい朝だぜい」

「よく言うぜ。ほら、この子が依頼主だ」

「おぉめっちゃ可愛い子じゃん!!」

 

 

ライは依頼主である青髪の少女を視認すると、その目をギラギラと輝かせ、急接近する。

 

 

「マジでお人形さんみたいだ!!……私、春神ライ。よろしく〜〜!!…名前は?」

「あ、申し遅れました、水乃ツバサと申します」

「ツバサちゃんか〜〜…顔は可愛いのに、名前はカッコいいね!!」

「あの、貴女がここの探偵なんですか?」

「そうだよ」

「じゃあこの方は?」

「この人はただの居候」

「居候はオマエの方だろ」

 

 

青髪の少女の名は『水乃ツバサ』……

 

ライはそんな彼女の白くて暖かい手を握る。

 

 

「でさ、ツバサちゃん、年齢は?」

「今年で13です」

「私の方が1つ上!!…私お姉ちゃんじゃん!!」

「いや、だからと言って私の姉になるのはよくわかりません。それにツバサちゃんはやめてください。ツバサで結構です」

「お、おお……」

 

 

テンションが上がった勢いで喋ったライが悪いのだが、辛辣とまではいかないにしても、やたら冷たく感じる言い方で言葉を放つツバサに一蹴され、ライは勢いを失う。

 

 

「私のことはライ。もしくはライお姉ちゃんって呼んでもOKだよ!!」

「そんな事より、私の依頼を聞いてくれませんか、ライさん」

「お、おお」

 

 

また一蹴される。

 

だがすぐさま気を取り直し、ライはヨッカと共に、依頼主であるツバサの依頼内容を聞く事にした。

 

 

「さぁ気を取り直して本題本題。ツバサの依頼内容は?」

 

 

反対側のソファに腰掛けたライが、ツバサに訊いた。

 

彼女はようやく、その依頼内容を口にする。

 

 

「魔女を、探して欲しいんです」

「!!」

 

 

彼女が口にした依頼内容に、ライとヨッカは互いに目を丸め、顔を合わせる。

 

 

「マジかよ。魔女なら……」

「黙らっしゃい!!」

「ぐぉぉぉぉぉ!?!」

 

 

何かをツバサに告げようとしたヨッカに対し、ライは彼のつま先を全力で踏みつける。ヨッカはあまりの激痛に悶絶し、床に転がる。

 

 

「な、なんですか」

「あぁごめんごめん、気にしないで。この人偶に変なの」

「……」

 

 

直後に「貴女よりかはずっとまともに見えますが?」と言い返そうとしたが、話が逸れそうなので、ツバサは敢えてノーリアクション。

 

 

「魔女ってアレでしょ。ここ最近ジークフリード区で悪を成敗してるカッコいいカードバトラー的な。カッコいい女的な」

「やたらとカッコいいを強調して来るのはよくわかりませんが、そうです」

「なんで探して欲しいの?」

「弟子にしてもらうためです」

「え、弟子ィィィ!?」

 

 

魔女探しの依頼。ツバサのその理由に、ライはまた目を丸くする。

 

 

「魔女に弟子入り志願って。まさか、自分も魔女になるつもり?」

「魔女になるつもりも名乗るつもりも一切ありません。ただ強くなりたいだけです。強くなって、倒したい敵が、私にはいますから」

「倒したい……敵?」

 

 

ツバサの「敵」と言う発言が、どこか引っ掛かるライ。

 

バトルスピリッツで誰かを倒したいなら、普通は「相手」と呼称するはずだからだ。それに彼女の険しい表情からは、強い憎しみも感じ取れる。

 

 

「まいっか!!……よし、探そう、魔女!!」

 

 

だが細かい事を気にしないのが春神ライ。わざわざここまで足を運んで来てくれた可愛い依頼主のため、ここは潔く依頼を引き受ける。

 

 

「ッ……ありがとうございます」

 

 

本当にいるかどうかもわからない、街で噂の魔女を探す依頼。そんな依頼を快く引き受けてくれたライに、ツバサは深々と頭を下げる。

 

 

「あぁそう言うお辞儀とかお礼とかいいから、早く行こう!!」

「おい、ライ」

「うわちょちょい、何だよヨッカさん」

 

 

復活したヨッカが、ライの首根っこを掴み上げ、部屋の端へ移動させる。

 

 

「何だよはこっちのセリフだ。噂の魔女は……」

「わかってるわかってる。私に良い考えがあるから、任せとけって」

「良い考えもクソもないだろ」

「女の子にクソとか言うな!!」

 

 

ツバサには聞こえない程度の小声で話す2人。どうやら「魔女」について、何か知っているらしい。

 

 

「あの、何かありましたか?」

「あぁごめんごめん、気にしないで、そんじゃ行こっか!!」

「ちょっと、手、離してください」

 

 

ライはツバサの手を取り、嵐のような勢いで事務所を飛び出していく。

 

扉が閉まる音が聞こえて来ると、残ったヨッカは、どう見ても張り切り過ぎて空回りしているライに対し「大丈夫かアイツ」と、心配の旨を呟いた。

 

 

******

 

 

噂の魔女を捜索するため、活気溢れるジークフリード区の市街地を歩きはじめてから、僅か数分の出来事だ。

 

 

「ライちゃん。この間はうちのミケを探してくれて、ありがとうね」

「いえいえ、どういたしまして。得意なんですよ、猫探し!!」

 

 

主婦だろうか、それらしい格好をした女性がライに声を掛けた。どうやら彼女は、以前猫探しか何かで春神探偵事務所に依頼をしていた様子。

 

 

「これはお礼のお菓子。ヨッカさんと一緒に食べてね」

「マジすか!!…うわ、美味そう!!…ありがとうございます!!」

 

 

女性が懐から買い物袋から取り出したのは、お土産屋などにありそうな、チョコ菓子の入った箱。美味しい物に目がないライは、遠慮なくそれを貰い受ける。

 

そして、また別の所で………

 

 

「ライおねえちゃんだ!!」

「おねえちゃんだ!!」

「ライだ!!」

「おぉおぉ、みんな、元気にしてたか?…うんうん、私が恋しかったろう、そうだろう」

 

 

小学校低学年程か、それくらいの少年少女が2人ずつ。皆ライに懐いているのか、その内女の子1人は彼女に抱きつく程だ。

 

 

「ぼくのカード、とりかえしてくれてありがとう!!」

 

 

男の子の内の1人が、純粋極まりない声色で、ライにそう感謝を告げる。

 

 

「気にすんな。強くなれよ、少年!!」

「うん!!」

 

 

この様子をそばで眺めていたツバサは「今度は、カードを取り返す依頼だったのでしょうか」と、内心で思った。

 

そして、またまた別の所で………

 

 

「おうライじゃねぇか、元気そうだな」

「親方〜〜…おひさです!!」

 

 

建設中のビルの工事現場。多くの重機や人が動き続ける中、1人の作業員がライに声を掛けた。筋肉を爆発させたかのようなゴツい肉体と、ライに「親方」と呼ばれている事から、おそらく現場リーダー、もしくはもっと上の地位にいる者なのだと推測できる。

 

 

「忙しそうだね、私手伝おうか?」

「いいよいいよ、その時はちゃんと依頼してやるからよ」

「OK任せて。ヨッカさんも連れてくよ」

「そりゃ頼もしい、じゃあまたな」

「あ、そうそう。最近噂の魔女。何かわかったら私に教えてね」

 

 

2人のやりとりから、工事現場の助っ人の依頼も引き受けていた事を知ったツバサは「コレってもう探偵の仕事じゃなくないですか?」と、内心でツッコミを入れた。

 

 

 

******

 

 

 

「ひぃ疲れた。噂の魔女、まさかこんだけ探しても、バトルが強くて可愛くて顔が良い事しかわかんないなんて」

「可愛くて顔が良いは意味が重複してませんか?…後、そんな事言った人は1人もいませんでしたよ」

「はいそこ、マジレス禁止〜」

 

 

昼過ぎ。朝から探し続けて疲れが溜まって来た2人は、公園のベンチでしばしの休息を取っていた。

 

 

「……いろんな事を引き受けてるんですね。何でですか、探偵なのに」

 

 

ツバサがライに訊いた。

 

 

「何でって、そりゃ依頼に来るお客さんのためでしょうが」

「いや、そう言う事じゃなくて」

「何をやるにしても、人助けは気持ちがいいもんだよ。後小遣いも増えるし」

「……絶対後者が目当てですよね」

「あっはは、バレたか」

 

 

直後、ライはベンチから立ち上がり、履いているミニスカートのズボンから財布を取り出す。

 

 

「ちょっくら自販機で飲み物買って来るよ。何か飲みたいのある?」

「……じゃあ『いろはす』で」

「もうちょっと高いヤツでもいいんだよ?」

「いえ、水好きなので」

 

 

そう言うツバサに対し、ライは「そっか、名前に水入ってるもんね」と、笑みを浮かべながら意味不明な事を言い放ち、50メートル程先にある自販機へと歩き出した。

 

 

「……」

 

 

1人ポツンとベンチに座るツバサ。およそ数十秒限定の話だが、ライが居なくなれば、とても静かで、のどかだ。

 

 

「早く魔女を見つけて、強くならないと。今より、もっと……!!」

 

 

膝に置いてる拳を固く握るツバサ。やはり何か強くなりたいと言う願いの中に、大きな理由があるのだろうか………

 

 

「おいおい、聞いたかよ」

「ホンマに!?」

「いや、まだ何も言ってないけど。このジークフリード区の裏路地で、噂の魔女を見た奴がいるんだと」

「ッ……!!」

 

 

突然反対側のベンチに座って来た、男性2人組の口から「魔女」と言う言葉が出て来るなり、ツバサは思わず耳を傾ける。

 

 

「ホンマに?……じゃあ裏路地に行けば、あの魔女に会えるって事ですかい?」

 

 

深緑色のバンダナを着用した肥満体の男性が、相方らしき別の男性に訊いた。

 

 

「多分な。噂では裏路地の廃工場に身を置いてるらしい」

 

 

オレンジのバンダナと、長鼻が特徴的な男性がそう言い返した。

 

 

「へぇ。ほな、今から行きまひょ、ホンマに!!」

「行くかバカ、怖えよ」

「……裏路地の、廃工場」

 

 

場所が特定できるや否や、その情報が確定なのかもわからないまま、もっと言えば自販機に向かったライを置いてけぼりにしながら、ツバサはベンチから飛び出し、大急ぎでジークフリード区の裏路地、その中にある廃工場へと向かうのであった。

 

ベンチに座った、男の2人組が、ニヤリと笑みを浮かべるのも知らずに………

 

 

******

 

 

ここは、界放市ジークフリード区にある裏路地。そこにある今はもう使われていない廃工場。

 

ツバサが聞いた話によれば、ここに噂の魔女が居るそうだ。

 

 

「……ここか」

 

 

如何にも怪しげな雰囲気を纏うこの建物。だがツバサは魔女に会うため、扉の前に置かれた空っぽのドラム缶をどかし、臆する事なく中へと突き進む。

 

 

「こんな所に客人だなんて、珍しいね」

「!!」

 

 

廃工場の中には、奥にあるガラクタへ腰を下ろし、足を組みながらキセルでタバコを吸っている若く美しい女性が1人。

 

その服装は黒いドレスに三角帽子。魔女が好んで着用しそうな衣装だ。

 

それを見て、ツバサは確信した。彼女こそ、噂の魔女であると。

 

 

「貴女が、魔女ですか?」

 

 

流れる冷や汗に気づきもせず、単刀直入に訊いた。

 

魔女らしき人物は、ツバサの固い表情を見るなり、口角を上げ、立ち上がる。

 

 

「フフ、如何にも。我こそが魔女、名はクロユキ」

「ッ……やはり、貴女が」

 

 

やはり女性が噂の魔女の正体。ツバサは遂に念願であった魔女と対面する事ができたのだ。

 

 

「ところで、何故オマエのような小娘がたった1人でこんな場所まで来たんだい?」

 

 

噂の魔女、クロユキが、ツバサに訊いた。

 

 

「……私を、弟子にしてください」

「……はい?」

「貴女はバトルが滅法強いとお聞きしました、お願いします。倒さないといけない敵がいるんです」

 

 

ツバサの意外な理由に、クロユキの目は思わず点になる。

 

この場合、最近噂になっている美しい魔女を一目見たかった。と言うのが、大抵の人々の考え方。クロユキ自身もそう思っている。

 

しかし、目の前にいる黒髪ロングの少女が告げた理由は、まさかの弟子入り志願するため。驚くのも無理はないだろう。

 

 

「弟子に……オホホ、オーッホッホッホ!!」

 

 

最初こそ、面を食らったような表情を見せていたクロユキであったが、次第にその表情は笑みへと変わり、やがては大笑いへと変貌する。

 

 

「面白いわね。久し振りに大笑いしちゃった。いいわ、弟子にしてあげる」

「本当ですか!?」

「えぇ。ただし、私にバトルの素質を見せなさい」

「!」

 

 

そう言い放ちながら、クロユキは懐から、バトル用端末『Bパッド』を左腕に装着し、展開させる。

 

この世界において、その行為はバトルの合図に等しい。

 

 

「素質無しと判断したら、弟子は取らない。後、デッキのカードもここに置いて行って貰うわ」

「え、デッキを!?」

 

 

クロユキの意外な要求。ツバサは驚き、半歩後ずさる。

 

バトルはわかる。素質を見たいのもわかる。しかしデッキを、ひいてはカードを取り上げるのはよくわからない。

 

 

「スリリングなバトルにしないと、人はその本領を発揮しないからね。私は信用したいんだよ、オマエのバトルを」

「……」

「どうしたの?…バトルで強くなりたいんじゃなくって?」

「……わかりました。そのバトル、受けて立ちます」

「オホホ、よろしい」

 

 

そのバトルを承諾するツバサ。クロユキと一定の距離を取ると、彼女も懐からBパッドを取り出し、左腕に装着、展開。さらにそこへデッキを装填してバトルの準備を整える。それを見届けたクロユキも、己のBパッドへデッキを装填。

 

後はお決まりのコール1つで、バトルを開始できる。

 

 

「そう言えば、名前、聞いてなかったわね」

「ツバサ。水乃ツバサです」

「へぇ、良い名前ね。それじゃあ始めましょうか」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

噂の魔女クロユキと、水乃ツバサによる、弟子入りとデッキを賭けたバトルスピリッツが、界放市ジークフリード区の裏路地にある廃工場にて、コールと共に開始される。

 

先攻はツバサだ。己の強さをアピールするべく、それを進める。

 

 

[ターン01]水乃ツバサ

 

 

「メインステップ、行きます」

 

 

ツバサは早速スピリットを召喚するべく、初期手札にある5枚の内1枚のカードを、Bパッドへ勢い良く叩きつける。

 

 

「翔け上がれ、自由の名を持つ勇者よ、契約スピリット、ライジングフリーダムガンダム、LV1で召喚!!」

 

 

ー【ライジングフリーダムガンダム】LV1(1S)BP3000

 

 

「契約スピリットですって!?」

 

 

颯爽とツバサの眼前に姿を見せるのは、白と青を基準とした鋼鉄の身体を持ち、機翼を羽ばたかせる機械兵。

 

名をライジングフリーダムガンダム。この世界では所謂『モビルスピリット』と呼ばれる存在の1体にして、カード自身が意思を持ち、使用者を選ぶ奇怪なカード『契約スピリット』の1種。

 

言われるまでもなく、超が付く程の激レアカードだ。

 

 

「まさか、こんな小娘が契約スピリットを」

「驚きましたか?…私はこれでターンエンドです」

手札:4

場:【ライジングフリーダムガンダム】LV1

バースト:【無】

 

 

 

……最初っからこんな大物が転がって来るだなんて、嬉しいねぇ。

 

 

 

ツバサの契約スピリット、ライジングフリーダムガンダムの登場に驚かされたクロユキだったが、すぐさま切り替え、美味しそうだと言わんばかりに唇を舐めながら、内心でそう呟く。

 

 

[ターン02]クロユキ

 

 

「メインステップ。契約スピリットの所有者なら、手加減する理由はないわね」

 

 

そう告げると、彼女は5枚ある手札の内、1枚を引き抜き、そっと己のBパッドへと置く。

 

 

「ディランザ・ソルを、LV2で召喚」

 

 

ー【ディランザ・ソル】LV2(2)BP4000

 

 

「黄属性のモビルスピリット、魔女らしいですね」

 

 

クロユキが召喚したのは、これまたモビルスピリット。黒い装甲と1つ目が特徴的なディランザ・ソルだ。

 

このスピリットの属性は『黄』………

 

バトルスピリッツにおいて黄属性はマジックカードと言うカードの扱いに長けている事でお馴染み。確かに魔女らしいスピリットと言えるだろう。

 

 

「召喚時効果、デッキから4枚のカードをオープンし、その中にある対象カードを手札に加える。私は『ダリルバルデVSミカエリス』を手札に加え、残りをトラッシュへ破棄するわ」

 

 

ディランザ・ソルの持つ効果は、デッキには欠かせない、所謂サーチ。

 

4ターン後の未来からカードを1枚選び取る。

 

 

「アタックはしないわ。これでターンエンド」

手札:5

場:【ディランザ・ソル】LV2

バースト:【無】

 

 

「え、アタックはしないんですか。ディランザ・ソラは、ライジングよりもBPが上なのに」

「大丈夫よ。さぁ小娘、早く私にオマエの力を見せてみなさい」

 

 

クロユキはツバサに対しそう告げているが、本心ではツバサの実力よりも、契約スピリットのライジングの力に興味を持っている。

 

バトルは一周し、再びツバサのターン。言われた通り、実力を見せるべく、ターンシークエンスを進める。

 

 

[ターン03]水乃ツバサ

 

 

「メインステップ。ゲルググを召喚」

 

 

ー【ゲルググメナース[一般機]LV1(1)BP2000

 

 

ツバサは、ライジングと同じく白属性で、群青色の装甲に身を包んだ1つ目のモビルスピリット、ゲルググメナースを召喚。

 

 

「アタックステップ。行きますよライジング、アタックです」

 

 

このバトル、初めてのアタックを仕掛けたのはツバサ。ライジングが機翼を広げ、背部のスラスターで飛翔する。

 

目指す先は当然クロユキの持つ、5つのライフバリア。

 

 

「アタック時効果、カウント+2し、その後ライジングのBP以下のスピリット1体をデッキ下に送ります」

「ッ……カードを手札かデッキに戻す、バウンス効果」

「カウントが増えた事で、ライジングのOCも達成。よって効果の対象はBP9000以下のスピリット、ディランザ・ソル!!」

 

 

ライジングは、手に持つビームライフルを、ディランザ・ソルに向けて照射。直撃したディランザ・ソルはたちまち粒子化し、この場から姿を消してしまう。

 

 

「よし…!」

「でも、ただじゃあ転ばないよ。ディランザのもう1つの効果を発揮、このスピリットが相手によってフィールドを離れた時、トラッシュにある「グエル」を手札に戻す。私はトラッシュにあるグエルCEOを1枚手札へ」

 

 

ディランザ・ソルの持つ第二の効果は、トラッシュのカードを回収する効果。それにより、クロユキは先程の召喚時効果で破棄されたカード1枚を、己の手札へと加えた。

 

しかし、それで手札は増えても、ライジングの本命のアタックを止められるわけではなくて。

 

 

「無駄です。ライジングの本命のアタック!!」

「ライフで受けるわ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉クロユキ

 

 

ライジングは、ビームの刃が側面に展開されたシールドを、クロユキの目の前に展開されている五重に重なったライフバリアへ向けて、ブーメランのように投げつけ、それを1つ斬り裂く。

 

 

「続けてゲルググでアタック。そしてこの瞬間、ライジングのLV2効果を発揮。ターンに一度、他のコンパススピリットが疲労した時、自身を回復させる」

「ッ……契約スピリットが自力で回復した」

 

 

ゲルググがビームライフルを構えて戦闘態勢に入ると、先程攻撃を行い、疲労状態となって横で片膝をついていたライジングが再び立ち上がる。

 

 

「ゲルググ、お願いします」

「くっ……ライフで受けるよ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉クロユキ

 

 

ゲルググは、標準を合わせ、ビームライフルでクロユキのライフバリアを狙い撃ち。狙撃されたライフバリア1つはガラス細工のように砕け散った。

 

 

「回復したライジングで再度アタック、効果でカウント+2」

「……それもライフだよ」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉クロユキ

 

 

再びシールドを投げつけるライジング。クロユキのライフバリアはまたしても砕け散り、あっという間に残りライフは、半数以下の2となってしまう。

 

 

「ターンエンド。見ましたか、これがライジングとコンパススピリットの連携です!!」

手札:4

場:【ライジングフリーダムガンダム】LV2

【ゲルググメナース[一般機]】LV1

バースト:【無】

カウント:【4】

 

 

僅か第3ターン目にして始まった、ツバサの猛攻。

 

彼女は、フィールドとライフの差で圧倒的な優位に立ち、そのターンをエンド。次は逆に不利な状況に立たされてしまったクロユキのターン。

 

しかし、彼女は冷や汗ひとつ見せず、余裕のある表情でそれを淡々と進めて行く。

 

 

[ターン04]クロユキ

 

 

「メインステップ、赤属性のマジック、双翼乱舞。デッキから2枚のカードをドロー」

 

 

クロユキがターンの開始早々に使用したのは、スピリットカードではなく、場に残らず、使い切りとなるマジックカード。

 

その効果により、デッキから2枚のカードを新たにドローした。

 

 

「私はこれでターンエンド」

手札:8

バースト:【無】

 

 

「え、それだけですか?」

「えぇ、それだけよ」

 

 

しかし、クロユキはたったそれだけの行動でターンをエンド。

 

バトルスピリッツとは、基本的にスピリットと言う存在あってこそのゲーム。それがいなければ攻撃も防御も不可能となり、必ず不利に陥る。

 

つまり、スピリットを召喚せずにターンを譲るのは、最序盤の展開でない限り、ほぼ自殺行為に等しいのだ。

 

 

「噂の魔女、まさかこの程度の実力なのですか?」

「さぁ、どうでしょう」

「……」

 

 

手札を増やすばかりのクロユキに、ツバサは彼女の実力に対して疑念を抱きながらも、巡って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン05]水乃ツバサ

 

 

「メインステップ、ライジングからコアを確保し、パイロットブレイヴ、キラ・ヤマトを召喚、そのままライジングと合体!!」

 

 

ー【ライジングフリーダムガンダム+キラ・ヤマト[C.E.75]】LV1(1)BP13000

 

 

ツバサが召喚し、ライジングのカードに重ねたのは、モビルスピリットを極限まで強化できる、ブレイヴ、パイロットブレイヴ。

 

場のライジングの外見は何ひとつ変化はないが、それは強力な力を有する、合体スピリットとなる。

 

 

「キラの召喚時効果、私のデッキを上から4枚オープン、その中にあるコンパス1枚を手札に加える」

 

 

パイロットブレイヴ、キラの召喚時効果を発揮させるツバサ。そのオープンされたカードの中には、系統にコンパスを持つカード「ゲルググメナース[一般機]」と「世界平和監視機構コンパス」のカードが確認できて………

 

 

「ゲルググを手札へ、さらにオープンされた『世界平和監視機構コンパス』の効果を発揮。コンパスの効果によってオープンされたこのカードは手札へ加えられます」

「へぇ、マジックカードを効果で手札に」

 

 

効果に効果を重ね、一気に2枚の手札を増やすツバサ。しかも内1枚は強力な白属性の防御マジック。

 

クロユキはそれを見るなり、右手の人差し指に嵌め込んでいる指輪を横に捻る。

 

 

「今加えた、2枚目のゲルググを召喚」

 

 

ー【ゲルググメナース[一般機]】LV1(1)BP2000

 

 

ツバサは自身のフィールドに2体目となるゲルググを召喚。クロユキとの戦力差をさらに広げる。

 

 

「アタックステップ。ライジングでアタックします。効果でカウント+2。合体によりダブルシンボル、一撃で2つのライフを破壊します!!」

 

 

メインステップを終え、アタックステップへと突入。ツバサは、クロユキの残り2つのライフを破壊すべく、ライジングへアタックの指示を送る。

 

ライジングは、トドメだと言わんばかりに、ビームライフルの銃口をクロユキへと向けるが……

 

 

「フラッシュマジック、ブリザードウォールLT」

「!」

「効果により、このターンの間、私のライフは、オマエのスピリットのアタックでは1つしか減らせない。ライジングのアタックは、もちろんライフで受けるわ」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉クロユキ

 

 

銃口から放たれたビームを妨げたのは、猛吹雪の防壁。ビームは貫通こそしたものの、クロユキに与えたダメージは僅か1のみ。

 

しかも猛吹雪はその後肥大化して行き、完璧な防壁となってツバサ達の前に立ちはだかる。

 

これを解除するためには、ツバサが一度ターンエンドするしか方法がなくて。

 

 

「……貴女も白属性の防御マジックを、ですが、次のターンで必ず決めます。これでターンエンドです」

手札:6

場:【ライジングフリーダムガンダム+キラ・ヤマト[C.E.75]】LV2

【ゲルググメナース[一般機]】LV1

【ゲルググメナース[一般機]】LV1

バースト:【無】

カウント:【6】

 

 

ブリザードウォールLTに阻まれ、致し方なくそのターンをエンドとするツバサ。

 

しかし、彼女の優勢には変わりない。このまま何もなければ、ライジングを始めとしたコンパススピリットの軍勢で押し切る事になるだろう。

 

ただし、あくまで何もなければの話ではあるが………

 

 

「もう勝った気でいるのかい?……愉快だねぇ」

「?」

「残念、オマエは不合格だよ。大人しくそのデッキ、契約スピリットを置いて消えな」

「え」

 

 

突然勝利宣言をされ、困惑するツバサ。

 

それもそのはず。フィールドのスピリットの数、ライフの差。どれを取っても自分が圧倒的に優先だからだ。

 

ここから負けるわけがない。ツバサはそう思いながらも、クロユキにターンが巡って来る。

 

 

[ターン06]クロユキ

 

 

「メインステップ、先ずはデスルターを3体連続召喚」

 

 

ー【デスルター】LV1(1)BP1000

 

ー【デスルター】LV1(1)BP1000

 

ー【デスルター】LV1(1)BP1000

 

 

勝利宣言の直後、クロユキが溜め込んだ手札から召喚したのは、1つ目の小型モビルスピリット。0コストのデスルター。

 

それが3体も彼女のフィールドに姿を見せる。

 

 

「さらにパイロットブレイヴ、グエル・ジェタークCEOを召喚」

 

 

ー【グエル・ジェターク[CEO]]】LV1(0)BP1000

 

 

フィールドには何も出現しないが、クロユキもパイロットブレイヴを召喚。そして、その効果を発揮させて。

 

 

「グエルCEOの効果。ターンに一度、手札にあるダリルバルデ1体をノーコスト召喚できる」

「!」

「LV3で現れなさい、我が眷族、ダリルバルデ。そしてグエルCEOと合体よ」

 

 

ー【ダリルバルデVSミカエリス+グエル・ジェターク[CEO]】LV3(3)BP20000

 

 

立て続けにクロユキのフィールドへ現れたのは、深紅の装甲を持つ、巨大な1つ目のモビルスピリット。

 

その名もダリルバルデ。おそらく、クロユキのデッキの切り札であろう。

 

 

「アタックステップ。さぁ、やあっておしまい、ダリルバルデでアタック」

 

 

ここに来て、ようやく己の本気を曝け出すクロユキ。彼女のアタックの指示を聞くなり、ダリルバルデは手に持つビームジャベリンを構える。

 

 

「アタック時効果、このスピリットのBP分、相手スピリット2体のBPをマイナスし、0になれば破壊。2体のゲルググはあの世行きさ」

「なッ…ライジング!!」

 

 

ダリルバルデは、頭部に備え付けられたバルカン砲を連射。2体のゲルググは、それを避けれずに被弾。爆散に追い込まれてしまう。

 

 

「その後デッキから2枚ドロー。さらにダリルバルデはこのターン、グエルCEOの効果によりダブルシンボルになっている、一撃で2つライフを破壊するわ」

「ッ……ライフで受けます」

 

 

ダリルバルデのビームジャベリンによる刺突が、ツバサのライフバリアを襲う。一気に2つが砕け散り、残りは3つとなる。その数は、クロユキのフィールドにいるデスルターと同じであり………

 

 

「さぁお行き。デスルター1体でアタック」

「私のライフは残り3つ。このままじゃ、マズイ」

 

 

クロユキの怒涛の反撃の刹那。ツバサは、己が1ターンキルで敗北する寸前である事を察する。

 

 

「ならここで、フラッシュマジック『世界平和監視機構コンパス』を使用します」

「……」

「これにより、このターンの間、私のライフは1しか減少しない」

 

 

それに気がついたツバサが咄嗟にBパッドへと叩きつけたカードは、前のターンに効果で回収した白の防御マジック。

 

これでこのターンは耐え凌ぐ事ができる。

次のターンと言う名の希望を掴む事ができる。

 

そう、彼女は思っていた………

 

 

「え……反応が、ない?」

「フフ」

「な、なんで。ちゃんと効果の使用を宣言したのに。お願いですマジックよ、効果を発揮してください……!!」

 

 

思わず自分のBパッドの異常を疑った。無理もない、使用を宣言して叩きつけたマジックカードが、Bパッドに一切反応しないのだ。

 

これでは、このターンを凌ぐ事はできない。

 

 

「どうした、デスルターのアタックは終わっていないぞ?」

「ッ……ラ、ライフで受けます」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉水乃ツバサ

 

 

マジックカードが一切反応せず、困惑しかできないまま、デスルターの持つビームライフルから放たれるビーム攻撃が命中。またライフバリアが1つ砕け散ってしまう。

 

 

「Bパッドが故障!?……いや、そんな事はありえない」

 

 

そうだ。そんな事は先ずありえない。

 

Bパッドは激しく苛烈なバトルを行った時を想定し、かなり頑丈に作られているのだ。仮に雑に扱っていたにしても、ちょっとやそっとで故障してしまう程やわではない。

 

なら何故だ。ツバサの頭の中は、ただそれだけが過り続けた。

 

 

「トドメよ。私の魔法の前に消え去りなさい、残ったデスルター2体でアタック」

「!!」

 

 

止まらぬ。

 

止められぬ。

 

2体のデスルターの持つビームライフルから放たれるビーム攻撃。マジックカードがBパッドに反応しない今、ツバサにそれを回避する手段はなくて……

 

 

〈ライフ2➡︎1➡︎0〉水乃ツバサ

 

 

「う、うぁぁぁあ!!!」

 

 

あっという間に。

 

怒涛の集中砲火は、ツバサの残ったライフバリアを跡形もなく粉砕。激しいバトルダメージにより、ツバサ本人も軽く吹き飛ばされてしまう。

 

彼女のBパッドからは「ピー……」と言う甲高い機械音が流れ出し、敗北と、クロユキの勝利を告げた。

 

 

「フフ。私の勝ち。残念だが、弟子入りは無し。デッキのカードは全て置いて行って貰うよ」

「……」

 

 

バトルがクロユキの勝利に終わり、残っていた全てのスピリット達がこの場から消滅して行く中、クロユキが倒れるツバサにそう告げた。

 

ツバサは震える足を奮い立たせ、立ち上がる。

 

 

「待ってください。今のバトル、納得できません……!!」

「はぁ?…何言ってんだい。バトルは結果が全て。オマエが負けて、私が勝った。納得できないもクソもないんだよ」

「そう言う話じゃありません。今のバトル、私はマジックカードが使えなかった。Bパッドが故障なんて、ありえない」

「フフ」

 

 

バトルの結果に対して反論して来たツバサに対し、クロユキは鼻で笑う。

 

 

「仮にそれが本当だったとして。オマエが負けた事実は消えるのかい?」

「!」

「何度も言わせるんじゃないよ。オマエは負けたんだ、この私に。今から全てを失うんだよ。オマエ達、出ておいで」

 

 

クロユキが虚空に向かってそう言い放つと、どこからともなく、男2人組が姿を見せる。

 

1人は小太りしていている男。もう1人は細身で猫背で鼻の長い男。

 

ツバサは、その2人組に見覚えがあり………

 

 

「あ、貴方達は、あの時の……!?」

「はて、何の事かな、お嬢さん」

「オデら、別に嘘の魔女の噂流して、引っかかった奴をカモにしてるわけじゃないで。ホンマに」

「バカ、全部言うな。クロユキ様とオレらがグルなのがバレるだろ」

 

 

公園のベンチで噂の魔女について話していた2人組であった。

 

彼らがが全て話した通り、クロユキと彼らはグル。2人組が噂を流し、それを聞きつけ、魔女を一目見ようとクロユキに近づいて来た者達から、カードなどの金目の物を奪っていたのだ。

 

 

「このスカポン。いいから、さっさとこの小娘からカードを奪うんだよ。見ただろ?…契約カードだよ契約カード、コレは儲かるわよ」

「へ〜い」

「わかったでクロユキ様」

 

 

クロユキの命令に従い、2人組は、逃げられないように、ツバサの両手を掴む。

 

 

「ちょっと、離してください……!」

「グヘヘ、悪いなお嬢さん。悪いようにはしねぇからよ」

「ホンマに」

 

 

2人組の手を振り解こうと必死に抵抗するツバサだが、少女1人の腕力など、大人の男2人にとっては些細な抵抗に過ぎない。直ぐに抑えられる。

 

 

「魔女と言うのは、嘘だったのか!!」

 

 

余裕綽々とキセルでタバコを吸い始めるクロユキに、身体を抑えられながらも、ツバサがそう声を荒げ、訊いた。

 

 

「嘘も何も、勝手に勘違いしたのはそっちじゃないか。しかしまぁ、あながち嘘を教えたわけじゃないかもしれないねぇ」

「!?」

「私はその内、このジークフリード区だけでなく、界放市全区域にその悪名を轟かせる。私、クロユキこそが真の魔女だと言う認識になるのは、そう遠くない未来かもねぇ。フフ、フハハハ!!」

「ふざけるな!!…そんな事、私が許さない。必ずオマエを倒す!!」

 

 

強気にそう言い返すツバサだが、この状況だ。恐怖で手足と口元が僅かに震えていた。

 

 

「説得力がないぞ小娘。今私に負けたオマエに何ができる。おいオマエ達、この小娘が二度と私に逆らえないよう、じっくり痛みつけておきな」

「はい、時期魔女の仰せのままに」

「ホンマに」

 

 

再びクロユキの命令を受け、2人組がツバサを痛みつけようと、彼女に向けて拳を振るおうとした、その時だった。

 

 

「ぐへぇ!?」

「ホンマに!?」

 

 

水の入ったペットボトル2つが、豪速球の如く勢いで2人組の頭にそれぞれ命中したのは。

 

 

「ッ……いろはす」

「何者だい、どこから」

 

 

頭部の痛みで悶絶する2人組。拘束の解かれたツバサは一瞬の内にクロユキ達から距離を置く。

 

その間に、ツバサの視界に入って来たのは、さっき投げられたであろう『いろはす』のペットボトル。それを見るなり、ツバサは内心で「もしかして」と呟き………

 

 

「何者だい。と言われたら、答えてあげるが世の情け………は、悪役のセリフだな。んん、どうしよう。私こう言う時にカッコいいセリフ出て来ないな」

「ライさん」

 

 

ツバサが思った通り、春神ライが助けに来ていた。ペットボトルを豪速球で、しかも2本同時に投げたのは、もはや超人級の凄技である。

 

 

「おぉツバサ。よかった無事で。勝手にどっか行っちゃうから心配したよ」

「何でここがわかったんですか」

「襟見てみ」

「襟……あ。これって、発信機……!?」

「そゆこと。事務所出る時にね」

 

 

勝手な行動を取ったツバサを叱る事もせず、ライは優しい笑顔を彼女に向ける。

 

ライが真っ直ぐこの路地裏にある廃工場に来れたのは、こっそりツバサの服の襟に付けていた、小型の発信機のお陰であった。

 

 

「なんだい、小娘がまた1人」

「クロユキ様。アレはアイツの仲間だ。まさかここまで追いかけて来るなんて」

「ホンマに!」

「仲間。へぇ、じゃあアイツもレアカードを持ってるかもしれないって事かい」

 

 

頭部の痛みが引き、立ち上がった2人組が、クロユキにライの存在がいた事を教える。

 

ライがツバサの仲間だと知るや否や、クロユキはまるで獲物を狩るハンターのような眼差しをライへと向ける。

 

 

「すみませんライさん。私の軽はずみな行動がこんな結果に。今はとにかく逃げましょう」

 

 

ツバサがライに謝りながらそう提案する。

 

 

「逃げるぅぅ〜!?…可愛い依頼人が危険な目に遭って、私は今頭に来てんだ。そんな選択肢ないね、ないない」

 

 

しかし、ライはそれを拒否。それどころか懐から取り出したBパッドを左腕に装着し、展開。さらにはデッキまでそこに装填し、バトルする気満々である。

 

 

「つーわけで。今からツバサを傷つけたアイツらを、ぶっ飛ばして来まあす」

「ちょっと待ってください、貴女の実力じゃ」

「ふふ、大丈夫だよ。私負けないから」

「……」

 

 

春神ライは、とてもではないがバトルが強い人には見えない。バトルをしても返り討ちに遭うだけ。それがツバサの感想、率直な意見。

 

だがライは、そんなツバサの意見に反して、クロユキの前に堂々と立ちはだかる。

 

 

「やいやい、そこの悪党3人組。よくもツバサを酷い目に遭わせてくれたな。今度はこの私が相手だ!!」

 

 

クロユキらに対して、ライがそう言い放って来た。

 

クロユキにとって、ツバサとライはネギを背負って来たカモ同然。そのバトルも、断らないわけがない。

 

 

「いいだろう小娘、相手になってやる。ただし、オマエが負けたらオマエのカードも私の物だ」

「いいよ」

「え、そんな簡単に」

 

 

容易く己のデッキを賭けるライ。この場合、余程腕に自信があるのか、はたまた単純に頭が悪いだけなのかの二択であるが、少なくとも現段階だと、誰もが後者の認識である。

 

 

「決まりだな。オマエが勝ったら好きにするがいい」

「その言葉、忘れんなよ?」

 

 

一触即発。互いに展開したBパッドを向け合い、装填されたデッキから初手4枚をドローし、バトルの準備を行う。

 

 

「クロユキ様、そんな小娘けちょんけちょんにしてください!!」

「ホンマに!!」

「ライさん……」

「心配すんなツバサ。そこで待ってろ。今ぶっ飛ばすから」

 

 

ゲートオープン、界放!!

 

 

2人組とツバサが見守る中、裏路地にある廃工場にて、春神ライと偽物の魔女クロユキによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は春神ライだ。ツバサの仇を討つべく、そのターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]春神ライ

 

 

「メインステップ、黄のネクサス、ミオリネ・レンブランをLV2で配置」

 

 

ー【ミオリネ・レンブラン】LV2(1S)

 

 

「ほぉ、オマエも黄属性の使い手かい、気が合うね」

「趣味悪そうなオバさんと気が合うのは、ちょっと嫌だぞっと」

「誰がオバさんだい、この小娘!!」

 

 

ライが初手に配置したのは、黄属性のネクサスカード。フィールドには何も出現しないタイプのようだ。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【ミオリネ・レンブラン】LV2

バースト:【無】

 

 

ネクサスの配置のみでそのターンをエンドとするライ。次はクロユキのターンだ。

 

 

[ターン02]クロユキ

 

 

「メインステップ、ディランザ・ソルをLV2で召喚」

 

 

ー【ディランザ・ソル】LV2(2)BP4000

 

 

クロユキは、ツバサとのバトルと同様に、1つ目で黒々とした装甲を持つディランザ・ソルを召喚。

 

当然、その召喚時効果も発揮させる。

 

 

「召喚時効果。デッキ上から4枚オープンし、その中にある『ダリルバルデVSミカエリス』のカードを手札に加え、残りを破棄。ターンエンド」

手札:5

場:【ディランザ・ソル】LV2

バースト:【無】

 

 

クロユキは、前のバトルと全く同じ展開で最初のターンをエンドとする。

 

 

「フフ、小娘よ。オマエがこれから見る事になるのは、誰よりも気高く、思慮深い、魔女のバトルスピリッツ。しかとその身で受け止めるがいい」

「魔女ぉ?…アンタが?」

「違いますライさん、彼女はニセモノ。魔女の噂に乗じて人を騙し、カードを奪い取る、ただの悪党です」

 

 

自ら『魔女』を名乗るクロユキに、過敏に反応を示すライ。

 

バトルは一周し、次はそんなライの二度目のターンが幕を開ける。

 

 

[ターン03]春神ライ

 

 

「メインステップ。なるほど、自分を『魔女』だと名乗り、ツバサをここまで誘き寄せてたって事か。そうかそうか」

「ライさん……?」

 

 

メインステップ開始早々。腕を組み、1人勝手に納得するライ。

 

それと同時に彼女は「やっぱり徹底的に叩きのめさないとね」とも内心で思っていて。

 

 

「1つ、教えてやるよニセモノ」

「?」

「魔女の使うカードは黄属性のモビルスピリット」

 

 

人差し指を立て、そう宣言すると、ライは1枚のカードを手札から引き抜く。

 

 

「ただし、その中でも特別な、契約スピリットだ」

 

 

そして、彼女はそのカードを己のBパッドへと強く叩きつけ、我が相棒の名を呼ぶ。

 

 

「召喚。契約スピリット、ガンダム・エアリアル!!」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル】LV1(1)BP2000

 

 

フィールドに出現するのは、風に包まれた球体。それを振り払い、中より全体的に柔和な印象を受ける白いモビルスピリット、春神ライの相棒、契約スピリットのエアリアルが姿を見せる。

 

その登場と共に、ライ以外の誰もが唖然としていた。無理もない、さっきまでの口振り、まるで己が魔女であると言わんばかりの………

 

 

「小娘、まさか、オマエが!?」

「どうも初めましてニセモノ。魔女、カッコ本物でぇす」

「ライさんが、本物の魔女……!?」

 

 

界放市ジークフリード区で噂になっていた魔女。その正体こそ、春神ライであった。その真実に、誰もが度肝を抜かれる。

 

それもそのはず、気高く思慮深い印象のあった噂の魔女が、まさかこんな華奢で幼い、天真爛漫な少女だと、誰が想像できたか。

 

 

「さぁ、バトスピタイムの始まりだ」

 

 

これより、魔女の異名を持つ春神ライと、その相棒エアリアルの、まだ誰も知らない真の力が発揮される。

 







次回……

#02「エアリアル」


******



《キャラクタープロフィール》

【春神はるかみライ】
性別:女
年齢:14
身長:154cm
誕生日:7月1日
使用デッキ:【エアリアル】
概要:「勇者と魔女」の主人公。「王者の鉄華」のヒロイン。春神探偵事務所を営んでいる天真爛漫な少女。天才的なバトルセンスを持ち、いつしかその強さは『魔女』と呼ばれ、一人歩きする程。


******

バトルスピリッツ 王者の鉄華(https://syosetu.org/novel/250009/)の外伝となる今作。
内容的に本編を必読する必要はありませんが、一応時系列的には、王者の鉄華の第1章(65話)と第2章(66話)の間となります。

レインボーガッチャードがバトスピにいらっしゃるまでの間、王者の鉄華は休載することになりました(詳しくは活動報告に記載)
なので、しばらくはこちらの外伝を連載いたします。少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです!!
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