バトルスピリッツ 勇者と魔女   作:バナナ 

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#06「始まりの夜」

 

 

 

夜。満天の星空が堪能できる、春神探偵事務所の屋上。水乃ツバサは、長い髪が傷むのも全く意に介さず、コンクリートの床で寝そべりながらそれを眺めていた。

 

 

「ライは強い。いったいどうやってあれ程の強さを……」

 

 

考えていたのは、先日のライとカンクロウのバトル。引いてはそこで見せつけられた、努力などでは到底到達できないと思える程の、ライのバトルスピリッツ。

 

強さを眺望するツバサにとっては、これ程までに欲しているモノはなくて。

 

 

「なれるのでしょうか。ライと同等の強さを持つカードバトラーに………いや、ならなくては。アイツを、お師匠を殺した、アイツを倒すために………」

 

 

ふと、ツバサは過去を想起する。

 

それと同時に心に灯されたのは、燃えたぎる怒りと憎しみの炎。

 

 

******

 

 

今からおよそ半年前。

 

界放市ジークフリード区から遠く離れたとある地域。見渡す限り森、山、田園などしか見られない程の田舎町。

 

山の山頂。一際目立つ小さな寺。そこの近辺に存在する洞穴にて、当時の水乃ツバサはいた。

 

その眼前には、6、7mはある翼を持つモビルスピリットの像が聳え立っていて………

 

 

「また、ここに来たのですか、ツバサ」

「お師匠」

 

 

ツバサのそばに来たのは、外見が如何にも「お寺の和尚さん」と言った風貌の男性。

 

ツバサからは「お師匠」と呼ばれているが、赤ん坊の頃に親に捨てられ、孤児となった彼女を引き取った父親代わりでもある。

 

 

「はい。勇者ライジングを見たくて」

 

 

ツバサは目を輝かせながら、モビルスピリットの巨像を指差す。どうやら、彼女の言う「勇者ライジング」とは、これのことらしい。

 

 

「伝説のスピリット『勇者ライジング』……確か、この像の中に、そのカードが入っているんですよね?」

 

 

ツバサがお師匠に訊いた。お師匠は目を瞑り、優しい笑みを浮かべながら、その質問に答える。

 

 

「えぇ、その通りです。人がまだ人とも呼ばれなかった時代。『鬼』と言う脅威から人々を守護したとされる伝説のスピリット、勇者ライジング。今は私達の一族が、代々この地でお眠りになる彼をお守りしているのですよ。いつか新たな資格者が現れる、その日まで」

「なんか、こう、勇者にしか引き抜けない伝説の剣みたいで、カッコいいです」

「ははは、カードを剣に喩えるとは、独特な発想ですね」

 

 

ツバサは女の子だが、勇者などのカッコいい存在に憧れを抱いているのか、勇者ライジングを、ありがちなRPG等の勇者の武器に喩える。

 

 

「お師匠。勇者ライジングのカードを一目見ることってできるんですか?…できるなら、私見てみたいんです、勇者ライジングのカードを!」

「なりません。勇者ライジングのカードは、選ばれし者が訪れるまで、見せてはならない。そう言う掟なのです」

「えぇ……ダメなんですか?」

「ダメです」

「そんなぁ」

 

 

勇者ライジングのカードを見ることができず、ガッカリした表情を見せるツバサ。お師匠は、そんな彼女の頭の上に、ポンッと手を添える。

 

 

「大丈夫。選ばれし者は必ず現れます。いつかきっと、勇者ライジングを見れますよ」

「!」

「さ、帰りましょう。今日は肉じゃがを作ってみました」

「私が好きなやつ!!……ありがとうございます、お師匠!!」

 

 

赤ん坊の頃からツバサを育てて来たお師匠。彼女のご機嫌取りなど、容易いようだ。

 

血の繋がりはなくとも、固い絆で結ばれた2人。暖かな空気を覆いながら、勇者ライジングの祠を後にする。

 

 

******

 

 

「勇者ライジング。何故貴方は姿をお見せにならない。既に選ばれし者は、貴方の目の前にいると言うのに………」

 

 

ミミズクの鳴き声が聞こえて来る夜。ツバサが寝静まった後。お師匠は1人、今一度勇者ライジングの祠へ足を運んでいた。

 

意味深な独り言。後々のことを考えると、これはツバサのことを指しているのだろうか。

 

 

「その『選ばれし者』ってのは、ひょっとして、このオレのことか?」

「!!」

 

 

突如、これまでの平穏を崩壊させるような、鋭い男性の声。

 

お師匠が後ろを振り向くと、そこには橙色のテンパの青年が1人。雰囲気と顔つきからして、只者ではないことを察する。

 

 

「……この辺の方ではありませんね。どちら様でしょうか」

「観光客。お土産に、その勇者ライジングを持って帰ろうと思ってな」

 

 

単刀直入。観光客だとあからさまな嘘をつく青年は、勇者ライジングの像を指差しながら、お師匠にそう告げる。

 

当然ながら、勇者ライジングを代々見守って来た者達の家系であるお師匠が、それを許すわけなくて。

 

 

「知ってんだぜ。その中にはカードが入ってんだろ?…しかも飛び切りに強い奴」

「お生憎ですが、どのような立場の方であろうとも、選ばれし者でなければ、勇者ライジングをお渡しすることはできません」

「んな堅ぇこと言うなよ、お寺の和尚さんよぉ」

 

 

直後、テンパの男性は、懐からBパッドを取り出す。お師匠は、流れ的にバトルで勇者ライジングを賭けようと申し出るのだと考えたが………

 

 

「コイツが、どうなってもいいのか?」

「な……ツバサ!?」

 

 

見せつけて来たのは、Bパッド越しに映る就寝中のツバサの姿。

 

その瞬間、お師匠の仏のような表情が崩れ去る。

 

 

「これはいったいどう言う……」

「アンタの寺に監視カメラと爆弾を仕込ませてもらった」

「なに!?」

「こっちの要望に応じねぇと、寺をこのメスガキごと爆破させる」

「なんと卑劣な……!!」

 

 

テンパの青年が持ち掛けて来たのは、勇者ライジングとツバサ。両方を天秤に掛けろと言う、恐ろしく非人道的なモノ。

 

これには流石のお師匠も腹を立て、憤慨のあまり歯軋りする。

 

 

「さぁどっちを取る。カードか、メスガキか」

「………」

 

 

お師匠は、懐から徐に己のBパッドを取り出す。バトルの構えだ。

 

聖職者故に、彼は自分から敵を倒すために動かない。

 

しかし、この状況は違う。勇者ライジングとツバサ。その双方を捨てきれないお師匠は、心を鬼にして、目の前の卑劣な男へと勝負を仕掛ける。

 

 

「私はどちらも取る。少々手荒な手段になりますがね」

「ゲゲゲ……物騒な坊主だ」

 

 

それに応じたのか、テンパの青年は妙な笑い声を上げながら、ツバサの映像が映し出されているBパッドをバトルモードにし、それを腕に装着。バトルの準備を完了させる。

 

 

「まぁいいぜ、やってやんよ」

「私が勝ったら、お寺の爆弾を取り外し、速やかにここを去っていただきます」

「あぁ、だが忘れるなよ。バトルで負けた時、オマエは全てを失うぜ」

「負けません。愛と使命故に」

「さぁ、祭りの始まりだ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

勇者ライジングの像が聳え立つ祠の中、それを賭けたお師匠とテンパの青年によるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はお師匠だ。ツバサと勇者ライジングを守るべく、そのターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]お師匠

 

 

「無法者に送れは取りません。メインステップ。ミラージュとして、仮面ライダー旧2号をセット。そのセット時効果でコア1つをトラッシュに追加します」

「へぇ。緑のライダーデッキか。珍しいもん使うじゃねぇか」

 

 

お師匠の初動はミラージュだ。その効果により、ボイドからコアの恵みが齎される。

 

 

「ターンエンド。私にカードと言う名の剣を抜かせたこと、後悔しなさい」

手札:4

バースト:【無】

ミラージュ:【50th 仮面ライダー旧2号】

 

 

「カードを剣に喩えんのかよ。面白い奴。おい坊主。今からテメェをぶちのめす、このオレの名は『蛇澤マツリ』……しかと、その胸に深く刻んでおくんだな」

 

 

そう告げると、蛇澤は己の最初のターンをスタートして行く。

 

 

[ターン02]蛇澤マツリ

 

 

「メインステップ、アタックステップともに何もしない。ターンエンドだ」

手札:5

バースト:【無】

 

 

「な!?」

 

 

勢いのままに、手札からカードを展開して行くモノだと思われていた蛇澤のターン。

 

しかし、彼が取った戦術はまさかのドローゴー。なにもせずにターンを終えたのだ。

 

そうしなければならなかった理由としては、手札事故か、あるいは………

 

 

「大口を叩いて手札事故ですか。天より罰が下ったのですね」

「おいおい勘違いすんじゃねぇぞ。オレはわざとターンエンドにしてあげたんだよ」

「は?」

「オレが追い求めているのは、楽しい楽しいバトルスピリッツだ。それは互いの実力が拮抗していないと成し得ない。だが、オレとオマエとじゃ実力に差があり過ぎる。だから互いの実力のバランスを取るために、オレはこのバトル、『メインステップは何もしない』と決めたのさ」

「ッ……!?」

 

 

意味が不明過ぎて、お師匠は言葉すら出て来なくなった。

 

バトルスピリッツにおいて、メインステップを行わずに勝て、とは、「喧嘩で手と足を使わずに勝て」と言っているのと同義。スピリットの召喚はおろか、バーストやミラージュのセットも不可能となるため、基本的には、先ずそのバトルで勝つことはできない。

 

こんな提案を仕掛けて来るのは、余程の馬鹿か、神がかった実力を持っている者のみ。側から見る分には、お師匠を嘗めているようにしか見えない。

 

 

「ゲゲゲ……Bチューブのゲームの縛りプレイ動画をやってるみたいだ。心が踊るぜ」

「ここまで私を侮辱するとは。ならばお望み通り、容赦なく倒させていただきます」

 

 

バトルは1周回り、次は真剣にバトルスピリッツを行うお師匠のターンだ。

 

 

[ターン03]お師匠

 

 

「メインステップ。仮面ライダーZXを召喚」

 

 

ー【50th 仮面ライダーZX】LV1(3)BP3000

 

 

「召喚時効果、1つコアブーストし、LVを2に上げます」

 

 

お師匠が呼び出したスピリットは、赤い仮面のライダースピリット、ZX。

 

その効果により、またお師匠のBパッドにコアが齎される。

 

しかし、その瞬間、蛇澤は口角を上げて………

 

 

「おいおい、なにさっきから自分だけコアブーストしてやがんだ。コアの数は互いに平等じゃねぇとなぁ。相手がコアブーストした時、手札から龍面鬼ビランバの効果を発揮」

「!?」

「自身をノーコスト召喚する。LV3で来な」

 

 

ー【龍面鬼ビランバ】LV3(5)BP18000

 

 

凍てつく闇の瘴気が、鬼を誘う。

 

蛇澤のフィールドに出現したのは、龍の面を被る、邪悪な黒い鬼。

 

 

「私のメインステップ中に、手札からスピリットを召喚した!?」

「それだけじゃねぇ。ビランバはこの効果で召喚した時、相手スピリットのコアを、コアブーストした倍の数分、ボイドに戻す」

「なに!?」

「ZXから2つのコアを、ボイドへ消し飛ばせ」

 

 

ビランバは掌より闇の瘴気を放出。ZXはそれを受け、体内に眠るコア2つを失ってしまう。

 

 

「な、なんというカードだ。コアブーストしたつもりが、逆に減らされるとは」

「ゲゲゲ……インチキはダメってこったな」

「どの口が。私はこれでターンエンドです」

手札:4

場:【50th 仮面ライダーZX】LV1

バースト:【無】

ミラージュ:【50th 仮面ライダー旧2号】

 

 

突然出現したビランバに対抗できるスピリットを従えていないため、お師匠はアタックを行わずにこのターンをエンド。

 

次は、メインステップを行わない蛇澤のターンだ。

 

 

[ターン04]蛇澤マツリ

 

 

「メインステップ。何も行わずにアタックステップだ。ビランバでアタックする」

 

 

宣言通りメインステップはスキップし、アタックステップへと直行する蛇澤。

 

ビランバがお師匠のライフバリアへ向かって浮遊する。

 

 

「ライフで受けます」

 

 

ZXのBPがビランバより劣るため、お師匠はこのアタックをライフで受ける宣言。

 

だが………

 

 

〈ライフ5➡︎4〉お師匠

 

 

「ぐっ……ぐぁぁあ!?!」

 

 

ビランバがお師匠のライフバリア1つを両手で押し潰すと、それ相応のダメージが、直接彼の肉体へと襲い掛かる。Bパッドで召喚されるスピリットは、全て映像であり、実際に痛みを伴うことは先ずありえないというのに。

 

蛇澤は、苦しむお師匠の姿を見て、また口角を上げた。

 

 

「な、何をした」

「おい、その目は飾りか?……よく見てみろ、オレのビランバは、本物だぜ」

「……!」

 

 

蛇澤にそう言われ、ビランバをもう一度よく見てみる。最近のBパッドの映像技術が発展し過ぎて気づけなかったが、その存在感から、確かな質量を感じ取って………

 

 

「まさか、スピリットが実体化しているのか。しかし、どうして」

「特別なBパッドを拾っただけさ。ターンエンド」

手札:5

場:【龍面鬼ビランバ】LV3

バースト:【無】

 

 

何故かスピリットを実体化できるBパッドを所有している蛇澤。お師匠に1点のダメージ以上に大きな傷を負わせ、そのターンをエンドとする。

 

 

[ターン05]お師匠

 

 

「たとえ貴方のスピリットが実体化していようと、私は負けません。ツバサのために、私は勝ちます。メインステップ。仮面ライダー1号を召喚」

 

 

ー【50th 仮面ライダー1号】LV1(1)BP5000

 

 

ツバサのために恐怖を抑え込んだお師匠が召喚したのは、赤いマフラーを靡かせる、緑の仮面のライダースピリット、1号。

 

それはその名の通り、ライダースピリットの原点たる効果を有しており………

 

 

「召喚時効果【集結】を発揮。ミラージュの旧2号の効果と合わせ、私のデッキ上を3枚オープン、その中にある昭和ライダースピリットを好きなだけ召喚します」

 

 

お師匠のデッキからカードがオープンされ、彼はその中にある1枚のカードを手に取る。

 

 

「勝負に出ます。仮面ライダー2号をLV1で召喚!!」

 

 

ー【50th 仮面ライダー2号】LV1(1)BP6000

 

 

1号の効果によって呼び出されたのは、それと全く同じ姿をした2号。緑属性に多い強力な効果をいくつも有している、1号の相棒だ。

 

 

「2号の召喚時効果。自身に3つのコアブースト。【集結】で召喚していた時、相手スピリットを重疲労させます」

「……」

 

 

コアブーストしてLVアップするとともに、2号の強烈なライダーパンチが、蛇澤のビランバに炸裂。ビランバは次の行動までに二度の回復を必要とする、重疲労状態へと陥る。

 

 

「2枚目のビランバもないですか。ならばこのバトル、私の勝ちだ。アタックステップ、ZXでアタック。効果でコアブースト」

 

 

攻撃へと転ずるお師匠。手始めにZXでアタックを行う。

 

今の蛇澤のフィールドは、重疲労状態のビランバのみ。当然、これをブロックできない。

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉蛇澤マツリ

 

 

「まだです。この瞬間、2号の効果を発揮。私のスピリットがライフを減らした時、追加でもう1つのライフを破壊します」

「!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉蛇澤マツリ

 

 

攻撃に2号も加わる。蛇澤のライフバリアは、その2体のライダーパンチにより2つ砕かれ、残り3つとなる。

 

お師匠には、まだ攻撃可能なスピリットが2体残っていることから、蛇澤は、2号の効果と合わせて、自分がこのターン、フルアタックを通して仕舞えば敗北することを瞬時に悟る。

 

 

「へぇ。それでオレのライフを全て破壊できるってか」

「その通りです。約束は守っていただきますよ。2号で追撃」

 

 

二度目の攻撃。お師匠は2号でアタックの宣言。

 

このアタックが通れば、蛇澤のライフを1にまで追い詰めることができる。

 

 

「あぁ。オレは約束を守る男だぜ。今から負けるオマエの約束は守ってやらないがな」

「!?」

「フラッシュ、手札から霧竜ミストヴルムの効果を発揮。他2枚の手札を破棄し、コイツをノーコストで召喚する」

 

 

ー【霧竜ミストヴルム】LV1(1)BP1000

 

 

しかし、それはあくまで通ればの話。

 

蛇澤が呼び出したのは、2枚の手札を犠牲にすることで、アタックステップ中での召喚を可能にする稀有なスピリット、ミストヴルム。

 

それ自体は、今にも吹き飛とんでしまいそうな霧の身体で脆弱だが、この局面はブロックさえできて仕舞えばなんでもよくて。

 

 

「ミストヴルムで2号のアタックをブロック」

 

 

2号のライダーキックは、ミストヴルムに直撃する間もなく、その風圧だけでミストヴルムを消し飛ばす。

 

手札を大きく損ないこそしたが、蛇澤はこれで1ターンキルを阻止。このターン中の敗北は回避した。

 

 

「くっ……ですが、私の優勢には変わりありません。次のターンで」

「そう言う発言はフラグになるから、やめといた方がいいぜ。コスト3以下の紫のスピリットが破壊されたことにより、手札からこのカード、ベルゼブモンの効果を発揮」

「ッ……このタイミングで、またスピリット効果を!?」

 

 

だが蛇澤は、それだけに非ず、手札からさらなるスピリット効果を発揮。

 

そのカードは、彼が最も信頼を置く僕であり……

 

 

「孤高なる魔王よ、正義と悪をも超越し、この世に調和を齎せ!!……紫の究極体デジタルスピリット、ベルゼブモンをLV2で召喚!!」

 

 

ー【ベルゼブモン】LV2(3)BP11000

 

 

禍々しいオーラと共にフィールドへ降り立ったのは、黒いレザージャケットに、二丁の拳銃を装備した、どこか退廃的な魔物。

 

その名はベルゼブモン。孤高の魔王の名を持つ、究極体のデジタルスピリットだ。

 

 

「なんと言う強い邪気。終始絶えなかった余裕はコレのせいだったのか」

「ベルゼブモンの召喚アタック時効果。スピリットのコア2個をリザーブに置く。1号を消滅させろ」

「!!」

 

 

登場するなり、ベルゼブモンは二丁の拳銃を1号に向け、弾幕を浴びせる。

 

それによって体内のコアが弾かれたことで、1号は消滅してしまう。

 

 

「消滅に成功後1枚ドロー。さらにさっきミストヴルムの効果でトラッシュに叩き落とした紫ブレイヴ、ベヒーモスは、ベルゼブモンが召喚された時、トラッシュからノーコスト召喚できる。直接合体」

 

 

ー【ベルゼブモン+ベヒーモス】LV2(3)BP17000

 

 

「こ、今度はトラッシュから効果の誘発。この男、いったい何種類の誘発カードをデッキに入れているのだ」

 

 

ベルゼブモンの召喚アタック時の発揮と共に誘発していたベヒーモスがここで処理。黒鉄のバイクマシーンが出現し、ベルゼブモンがそれに跨る。

 

 

「もうテメェのスピリットにアタックできる奴はいない。強制的にオレのターンだ」

「……ターンエンド」

手札:4

場:【50th 仮面ライダー2号】LV2

【50th 仮面ライダーZX】LV1

バースト:【無】

ミラージュ:【50th 仮面ライダー旧2号】

 

 

複数の誘発カードによって、戦況を覆されてしまったが、次のターンに望みを託し、お師匠はターンエンドの宣言。

 

しかし、彼の胸中では、既に己と蛇澤との実力差を理解してしまっており………

 

 

[ターン06]蛇澤マツリ

 

 

「メインステップは当然すっ飛ばして、アタックステップに行くぜ。ベルゼブモンでアタック。その効果でZXのコアを2個リザーブに置き消滅、1枚ドローだ」

 

 

今回もアタックステップへ直行。ベルゼブモンは、今度はZXへ銃口を向け、1号と同様に弾幕を浴びせて消滅させる。 

 

さらにこの局面で、バトルを終わらせるべく、蛇澤は1枚のカードを手札から切る。

 

 

「合体によりダブルシンボル。さらにフラッシュマジック、ここでまさかのストームアタックだ」

「な……紫のデッキで、私と同じ緑のカード!?」

「色なんて関係ねぇ。強ければいいんだよ、強けりゃあな!!……効果でベルゼブモンを回復」

 

 

試合の勝敗を大きく左右する場面で、蛇澤が使用したのは、己のデッキとは色が一切噛み合わない緑のカード。

 

その効果により、ベルゼブモンは回復し、このターン中、二度目の攻撃権利を獲得した。

 

 

「ら、ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉お師匠

 

 

「ぐぁぁあ!?!」

 

 

ベルゼブモンの拳銃より放たれる弾幕が、お師匠を襲う。

 

彼は思った。目の前の男にバトルを挑むべきではなかった。大人しくプライドなど捨て去り、勇者ライジングを手渡せばよかったと。

 

だがもう後悔しても遅い。今からお師匠は全てを失うのだ。勇者ライジングも、ツバサも。

 

 

「終わりだ。死に晒せや」

 

 

蛇澤がそう告げると、ベルゼブモンは専用のバイクマシーン、ベヒーモスを操縦し、騒音を撒き散らしながら爆走。

 

その目指す先は、お師匠の残ったライフバリアであり………

 

 

「……ツバサ、私は」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉お師匠

 

 

「ぐ、ぐぁぁぁぁあ!?!」

 

 

残ったライフバリアを全て轢き、粉砕するベルゼブモン。お師匠は、実体化したスピリットが与える衝撃によって吹き飛ばされ、岩壁に頭を強打。流血した血が、顔を伝う。

 

これにより、勝者は蛇澤マツリだ。メインステップを行わないと言う凄まじいハンデを背負いながら、己の実力を示して見せた。

 

 

「つまんねぇバトルだったぜ。もう1ターンくらい粘れると思ったんだがな」

「くっ……」

「そんじゃ、約束通り勇者ライジングはいただいていくぜ。ついでにメスガキは、ボカンだ」

「や、やめ」

 

 

突如、近くから信じられない程に大きな爆発音が鼓膜を覆った。

 

寺の方だ。爆発させたのだ、蛇澤マツリが。中にツバサがいると言うにもかかわらず、なんの戸惑いもなく。

 

 

「ツバサァァァァァァァァア!!!!」

 

 

男に対する怒りよりも早く、ツバサの身を案じるお師匠。傷だらけの身体を無理矢理叩き起こすと、一目散に寺の方へと走り出した。

 

1人残された蛇澤は、ニタニタと笑みを浮かべながら、勇者ライジングの像へと視線を移し………

 

 

「ゲゲゲ。これで邪魔者は消えた。ベルゼブモン、この像の中に本体のカードが眠っているはずだ。破壊して取り出せ」

 

 

慈悲の欠片もなく、ベルゼブモンの銃口が、今度は勇者ライジングの像へと向けられる。

 

 

******

 

 

ここは、ツバサとお師匠が暮らして来た寺。12年もの間、2人で平穏に暮らして来た大事な場所だ。

 

だが、かつての平穏さは消失。真っ赤な業火が滾り、木でできた床や壁がただひたすらに壊れ行く悲痛な音のみが聞こえて来る地獄と化していた。

 

 

「お師匠、お師匠ォォォ!!!」

 

 

ツバサは、何故こうなってしまったのかも理解し得ないまま、この寺に居たはずのお師匠を探し回っていた。

 

叫ぶたびに喉が焼けるような痛々しい思いをしていたが、それ以上に姿を眩ましたお師匠が心配だった。

 

 

「どこへ行ってしまったんだ、こんな時に」

「ツバサ!!」

「!」

 

 

慌ただしい様子でお師匠がツバサの前に現れる。ツバサは安堵の表情を浮かべるが、明らかに火ではつけられない傷に違和感を感じて。

 

 

「お師匠、どこへ行ってたんですか、それにそのお身体」

「話は後です。今はここから逃げましょう……ッ、危ない!!!」

「!?」

 

 

突如、焼き切れた天井が屋根と共に落下。それに気づいたお師匠は、咄嗟にツバサを押し倒すが、2人は完全に分断されてしまう。

 

 

「お、お師匠!!……無事ですか、お師匠!!」

「私のことは大丈夫。貴女は早くお逃げなさい」

「イヤです。お師匠を置いて行けない!!…一緒に逃げましょう!!」

 

 

燃え盛る火炎の中、壁越しでしか話せなくなった2人。

 

共に脱出しようと呼び掛けるツバサだが、お師匠は落石物に脛から下を挟まれて身動きができなくなってしまっており………

 

 

「貴女は、選ばれし者だ」

「!?」

 

 

加熱で酸素が薄くなって行き、意識が朦朧として行く中、最後の力を振り絞り、お師匠はツバサに話し始める。

 

 

「12年前、森の麓で赤子だった貴女を拾い、育てると決めた日。勇者ライジングの像が、まるで晴れ渡った空のような色に、光輝いたのです」

「……」

「その時私は確信しました。ツバサ、貴女こそが勇者ライジングに選ばれし者なのだと」

 

 

あの日、晴天の化身のような輝き、ツバサに抱いた将来の期待をお師匠は決して忘れない。

 

 

「なんで急にそんな、遺言のように……やめてください!!…どうでもいいから早く逃げましょうよ、ねぇ!!」

 

 

しかし、その程度のこと、今のツバサにとってはどうでもいい。

 

お師匠と共にまた平和に暮らしたい気持ちでいっぱいだ。その感情は、やがてツバサに涙を齎す。

 

 

「また会えます。お天道様が私達を見ている限り」

「イヤだ、イヤだ、イヤだ………お師匠ォォォォォォ!!!」

 

 

ツバサの嘆きを包み込むように、業火はさらに激しさを増し、容赦なく2人に襲い掛かった。

 

 

******

 

 

あれから、どれだけの時間が流れたのだろうか。業火はすっかり消沈し、寺だった物はただの木炭の塊と化していた。

 

 

「………ッ」

 

 

知らぬ間に気を失っていたツバサ。何故か屋外で、砂利の味を感じながら目覚める。

 

 

「私は、いったい。これは、ライジングフリーダムガンダム?……ライジング。まさか、勇者ライジングのカード!?」

 

 

その手に握られていたのは、白属性のモビルスピリットカード『ライジングフリーダムガンダム』………

 

ツバサは、このカードこそ、『勇者ライジング』の正体であることと、それのなんらかの力によって、自分が無事だったことを察する。

 

 

「貴方が私を守ってくれたのですね。ありがとうございます。お師匠が仰ってた、私が選ばれし者だと言うのは、本当だったのか。はッ……お師匠は!?」

 

 

朧気だった記憶が蘇る。燃え盛り、迫り来る業火の中で聞こえて来た、お師匠の遺言のような言葉を。

 

 

「お師匠!!」

 

 

お師匠の無事を確認するため、ツバサは木炭の塊へと駆け出そうと立ち上がる。

 

しかし、この状況で彼が生存している可能性は、限りなく0に等しくて。

 

 

「無駄だぜ。あの火力だ。どうせ骨ごと灰になってらぁ」

「!!」

 

 

そんな無謀なツバサを言葉で静止させたのは、蛇澤マツリだった。この時の2人はほぼ初対面。蛇澤がツバサの部屋に監視カメラを仕込んだ際に顔を見た程度だ。

 

 

「誰だオマエ!!…お師匠が死んだような事言うな!!」

 

 

蛇澤の発言で激情に駆られ、ツバサは珍しく敬語ではなくタメ口になる。

 

 

「ゲゲゲ。オレがこの寺を爆破させた張本人だと言ったら、どうする?」

「ッ……!!」

 

 

蛇澤がそう告げた直後、ツバサは怒りのあまり、ライジングのカードを置き去りにし、蛇澤の胸ぐらを掴みかかる。

 

 

「なんだよ。やんのか?」

「オマエがお師匠を、オマエがァァァァ!!!…返せ。返せぇぇぇぇえ!!!」

 

 

ただガムシャラに、怒りをぶつけるツバサ。地に落ちる涙、泣きじゃくる彼女の顔を見ながら、蛇澤はそれを嘲笑う。

 

 

「ゲゲゲ。離せやガキ。何勝手にオレのせいにしてんだ。爆破させたのはオレだが、爆破したのは、アイツがオレにバトルスピリッツで負けたからだ」

「はぁ!?」

「バトルスピリッツで負けた者は全てを失う。この地球の常識だろ?…まぁアイツは自分の命を投げ打ってそれを覆したようだが」

「そんな理由で、ふざけるなァァァァ!!」

 

 

蛇澤が口を開き、独自の考えを口にするたび、ツバサの怒りは募って行く。

 

 

「ァァァァァァァァ!!」

「ゲゲゲ」

「ぐぁっ!?」

 

 

昂り続けた結果、生まれて初めて人を拳で殴ろうとするも、逆に蛇澤に首根っこをチョップされ、倒される。

 

 

「狙ってた勇者ライジングは契約カード。オレはそいつに選ばれなかった。だがオマエは、勇者ライジングに選ばれたんだろ?…なら、いつかそいつで強くなって、オレのとこに復讐しに来いや。精々、オレを楽しませろよ」

「……」

「わざわざこんな辺境に来た意味がなくなるからな。オレの名は蛇澤マツリだ。その胸にしかと刻んでおけ」

 

 

再び意識が遠のいて行く中で、ツバサは蛇澤のその最後の発言を己の胸に刻んでいた。

 

そして誓った。「必ずこの男に復讐して見せる」と。

 

界放市に「魔女」と呼ばれるカードバトラーがいると聞いたのは、その後の話だ。

 

 

******

 

 

「………」

 

 

時は戻り、現在。最初こそ、蛇澤に対する復讐心で頭をいっぱいにしていたツバサであったが、亡きお師匠のことを思い出し、静かに涙していた。

 

 

「ツバサ、いる?」

「ライ」

「え、えええ、何、どしたどした、なんかあった!?」

 

 

ツバサが寝転んでいた屋上に姿を見せたのは、春神ライ。涙を流すツバサを見て慌てふためく。

 

 

「いえ。何も。ただちょっと目にゴミが入ってしまって。そんなことより、どうかされたんですか?」

 

 

ツバサが目を擦り、涙を拭いながら、ライに訊いた。

 

 

「あぁいや、今日からヨッカさんが出張でしばらく留守だから、今宵は派手に鍋パでもすっかぁと思ってだね」

「なら、具材を用意しないとですね。私買って来ます」

「え。んーーそのつもりで来たっちゃ来たんだけど、うーーーん」

「別に私は大丈夫ですよ。行って来ます」

 

 

ツバサは、何事もなかったかのように、具材の買い出しへと出かけた。

 

彼女が気丈に振る舞っていることは、ライにはよくわかる。辛いことがあった時に、他者に相談せず、自分だけで解決しようとする人物を、誰よりも知っているからだ。

 

 

******

 

 

「ライはホント、鍋パーティーだのたこ焼きパーティーだの、パーティーが好きですね。正直、深夜に鍋やたこ焼きは健康的に良くないのですが」

 

 

深夜の帰り道。コンビニで買い漁った商品を左手で持ちながら、ツバサがそう呟いた。

 

言葉だけならば、苦言を呈しているように聞こえるが、その表情は、とても和やかで。

 

 

「日々、ライにお手合わせしていただいたからか、ようやく、貴方を使いこなせるだけの実力がついた気がします。ライジング」

 

 

懐から右手で取り出したカードは、己の相棒「ライジングフリーダムガンダム」………

 

これまでの思い出を胸に、ツバサはライジングに語り掛ける。

 

 

「いつか必ず私達で勝ちましょう。あの蛇澤マツリに」

「誰に勝つって?」

「ッ……!!」

 

 

その声を耳に入れた瞬間、ツバサの和やかだった表情は、途端に鋭い剣幕を見せる。

 

無理もない。彼女がこの忌々しい不気味な声を忘れるわけがないのだから。

 

 

「蛇澤、マツリ……!!」

 

 

蛇澤マツリ。

 

ツバサにとって因縁の相手が目の前に現れる。

 

 

「ゲゲゲ。よぉ、オマエも界放市に来てたとはな。早速オレに復讐、してみるか?」

 

 

ニタニタと嘲笑うような笑みを浮かべながら、「バトルをしろ」と言わんばかりに、己のデッキをツバサへと突きつける蛇澤。

 

彼に復讐を誓ったツバサにとっては、それを断る理由がなくて。

 

 





次回……

#07「勇者と魔王」

******
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